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LINNのDSシリーズが切り拓いた、ハイレゾ/ネットワーク再生時代

2020年08月10日 15時00分更新

CDからネットワーク再生へいち早く舵きりしたLINN

 いまではこうしたネットワーク再生に対応したホームオーディオが全盛だが、その嚆矢は「Klimax DS」から始まるLINNのDSシリーズだった。CD/SACDなどのディスク再生が中心だったハイエンドのオーディオの市場に、NASに保存したハイレゾファイルだけを再生できる300万円弱のプレーヤーを投入したのである。Klimax DSは、当時のピュアオーディオ界隈が、その受け入れに混乱したほど、“時代を超えた製品”だった。

 LINNは「LP12」というアナログプレーヤーをほぼ半世紀にわたって作り続けており、伝統的なピュアオーディオのメーカーとして認知されている。こうした画期的な機種を出したのを意外に思う向きもあるかもしれない。しかし、LINNの視点に立つとそれほど意外なことでもないのだ。

 ハイエンドオーディオではDAC側のクロックをCDトランスポート側に送って共有するマスタースレイブ方式がよく用いられるが、この方式の嚆矢はLINN初の単体DACである「NUMERIK」(ニューメリック)だった。こういったことからもLINNがデジタル分野の新技術に積極的なメーカーなのが分かる。

 また、DSシリーズが登場する背景には、LINN Productsの関連会社であり、音楽レーベルのLinn Recordsが、2006年頃からDRMフリー(著作権保護なし)のハイレゾ音源の制作と配信に乗り出したことも関係している。ハイレゾ音源を作っても再生できなければどうしようもない。

 また、LINNはマルチルーム再生にも積極的で、例えば、「KNEKT」(クネクト)というマルチルームのホームオーディオ「ネットワーク」システムをラインナップしていた。もっともこれはアナログ伝送によるもので、スタジオなどで使われるアナログバランス方式で信号減衰を防いで長い距離を引き回せるというものだ。これはLINNの機器間をつなぐための専用システムだったが、その考え方をTCP/IPやDLNAというオープンな世界に広げたのがDSシステムと言ってもいいように思う。

 つまり、Klimax DSだけを見ると、いきなり変異種が登場したように思うが、実のところはそれなりの背景があったと言えるのではないだろうか。

 いずれにせよ、LINNのDSシリーズが登場した結果、オーディオ業界は大きく変わった。実のところ、PCオーディオやハイレゾ再生などが一般化したのは、LINNのDSシリーズのような、ネットワークオーディオが出て、市場に認知されるようになったためである。ただし、オーディオファンのリスニングルームに、新たにルーターやNASといったネットワーク機器を導入し、再生環境を構築することはいまのように一般的ではなかった。

 そこで、ハイレゾ音源をダウンロードしたPCにUSB DACをつないで、そこからアンプなどにつないだり、ヘッドホンで再生するという方法が流行した背景がある。

 実際、ネットワークプレーヤーの嚆矢であるLINNの「KLIMAX DS」が発売されたのは2006年だが、USB DACがアシンクロナス転送などで隆盛となるのは2009年頃からである。PCにUSB DACを追加するだけのシンプルな“PCオーディオ”よりも、オーディオ機器自体にネットワーク再生機能を組み込んだ、DSの登場のほうが早かった点を見ても、DSがいかに時代に先んじていたかがわかる。

 LINNのDSシリーズは、すべてのPCオーディオの先駆けと言っても過言ではないし、さらに言うと、ハイレゾ時代を作り出したのも、大手メーカーではなくLinn Recordsと、LINNのDSシリーズの組み合わせだったと言えるだろう。

 つまり、オーディオの音源がCDという物理メディアのくびきから解放されて、今の形になる起爆剤になったのがLINNのDSシリーズだったわけだ。LINNのDSシリーズは、個性ある中堅メーカーが、自分のアイデンティティーを踏まえながらも、その強みを生かして時代を変えた好例と言えるだろう。

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