バイエル薬品株式会社(以下、バイエル)はデジタルテクノロジー企業とのコラボレーションの機会を創出し、革新的なデジタルヘルステクノロジーを支援するオープンイノベーションプログラム「G4A Tokyo Dealmaker 2020」の募集を行っている。バイエルの事業現場が抱える様々なビジネス上の課題やニーズをテーマに、各課題にアプローチできる革新的なソリューションを募集する。応募対象は日本国内の企業でG4A Tokyo特設サイトより受け付け、最終の募集締め切りは8月14日となっている。
G4A(ジーフォーエー)プログラムは2013年にグローバルプロジェクトとして始動し、33ヵ国で12000以上のメンバーが参加している。日本は2016年から毎年開催している。ライフサイエンスに関するテーマとして毎回異なる課題を提示し、革新的なソリューションを募集する。初回から4回目は、デジタルヘルスのイノベーターへ助成金を提供する形で支援していたが、5回目以降はバイエルとスタートアップ企業とのマッチングプログラム「G4A Tokyo Dealmaker」として実施している。企業とバイエルの持つそれぞれの強みをコラボレーションすることでヘルスケア業界の発展に貢献することを目指す。
募集課題は毎回変わるが、現場業務が抱える現状の課題をそのままテーマにしているのが特徴。事前審査を通過した企業は課題責任者と“Matching meeting”を行ない、合意に達した時点で覚え書きを交わし、11月に開催を予定している“Signing Day”で公表する。
バイエルはこれまで研究開発と製造をテーマにした2018年は12社と合意し、その中の患者負担を軽減するモバイルアプリのパイロットプログラムは現在ユーザーテストを行なっている。2019年は研究開発とラジオロジー(画像診断)で20社を越える応募があり、6社と合意した。ラジオロジーではAI(人工知能)活用ツールを開発する株式会社ハカルスと覚え書き交わし、ハカルスはバイエルがグローバルで運営するライフサイエンス領域のベンチャー企業を支援するインキュベーション施設の一つで神戸にある「CoLaborator Kobe」にも入居している。
7回目となる「G4A Tokyo Dealmaker 2020」では、オンコロジー領域、循環器・神領行き、研究開発(薬事)の3領域で、バイエル薬品が直面しているビジネス上の課題に対し、デジタル技術を使った解決方法を募集する。募集にあたりオンライン方式で説明会が実施され、担当者より募集内容が詳細に説明された。
1.オンコロジー(がん)領域
バイエルは肝細胞がん、大腸がん、前立腺がんなどに対して分子標的治療剤やアルファ線を使用したまったく新しい治療剤を2016年より提供している。一般的な放射線治療は外から放射線を当てる「放射線外照射」であるのに対し、バイエルの放射性医薬品は「RI(ラジオアイソトープ)内容療法」と呼ばれ、注射で体内に投与する。
治療決定は泌尿器科医が行ない、薬剤投与は放射線科医が行なうため、両者で治療方針が異なる場合がある。また、放射性医薬品は、設備や法的基準などから取り扱えない医療機関もあり、ほかの医療機関に患者を紹介する場合の連携が難しい。そこで前述したシーンに対し、医師同士が情報交換しながら意志疎通をスムーズに行えるソリューションを募集する。
担当するオンコロジー事業部 GUマーケティング プロダクトマネージャーの戸井田敦氏は「オンコロジー領域では遺伝子治療やホルモン投与など新しい治療方法が登場し、選択が複雑化し、医療機関によって使い方もバラバラな状態にある。放射線治療は外部照射とRIの明確な違いがないなどの課題もあり、それらをデジタルの力で解決したい」と言う。
2.循環器・腎領域
慢性腎臓病(CKD)の患者数は日本で約1330万人と8人に1人が発症する疾病で、心筋梗塞や脳卒中につながるためステージにあわせた適切な治療が必要となる。そこでCKDの診断と進行モニタリングに関するソリューションとして、「診断を簡便化する臨床指標」と「進行ステージをモニタリングする臨床指標」の確立をいずれか1つ、あるいは両方で募集する。
循環器領域事業部 腎臓・循環器・肺高血圧領域マーケティング ブランドマネージャーの有家麻美氏は「現在は主に3つの臨床指標があるがそれぞれ一長一短の課題がある。臨床指標にはいずれもリスクスコアなどの数理モデルなどを含むことが求められる。新しい指標を確立することで腎疾患の早期診断や治療、重症化予防し、医療費抑制にもつなげたい」と説明した。
3.研究開発(薬事)
新薬のグローバル開発においては国際共同治験が主流となっており、世界同時申請・承認を目指すため、各国の医療環境や薬事規制を考慮した最適な開発・薬事戦略を立案し、実行することが求められている。
課題としては「医薬品の規格および試験方法の比較」と「プレゼンテーション資料の構築効率化」の2つがある。デジタル技術を活用してさまざまな情報の集約、解析などのプロセスを効率化が求められ、研究開発本部 薬事 部長の大野真希子氏からは効率化の例として、過去に作成された大量のパワーポイント資料から必要な要素を検索し、自動で編集できる機能が挙げられた。
「グローバル開発では均一した品質が必須であり、国の公定書を使う場合は各国で異なるため試験方法も異なり、現状は一番厳しい基準にあわせている。知識と経験を積んだメンバーでなければ正確な対応が難しく、AIの学習機能を活用して時間短縮と正確な対応ができるようにしたい」と言う。
G4A Tokyo Dealmakerでは、デジタルヘルス分野に関わるさまざまな企業や専門家が交流する機会を提供しているが、今年はコロナ禍の影響もあり、11月に予定しているSigning Dayでのネットワーキングもどのように開催するかは状況にあわせて検討するとしている。デジタル分野と医療業界の融合が進む中で、具体的な課題に向けたソリューションを提案する企業からどれだけ応募が集まるのか。今後の発表にも注目していきたい。
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