株式会社IB(アイビー)は、保険の請求漏れをなくすことをミッションに2018年10月に設立したスタートアップ。個人向けの保険証券管理アプリ「保険簿」と、保険事業者向けの支援システム「保険簿for Business」を提供している。CEOの井藤 健太氏は、大学在学中の東日本大震災でのボランティアをきっかけに保険に興味を持ち、卒業後は生命保険会社、損害保険会社に就職し、営業実務を経験。そのなかで得た知識をもとに開発したのが「保険簿」アプリだ。日本の保険制度の抱える課題、請求漏れをなくすための同社の取り組みについて伺った。
個人や家族の加入保険情報をアプリで一元管理
日本人の9割以上がなんらかの保険に加入しているが、実際に保険請求されるケースは非常に少なく、この保険請求の課題に取り組んでいるのが株式会社IBだ。同社の試算によれば、保険の請求もれは、1年間に1.6兆円もの金額になるという。
CEOの井藤氏は、関西学院大学の在学中に東日本大震災の現地ボランティアに参加。そこで、多くの被災者が十分に保険請求できていないことを知ったのが、保険請求の課題に取り組むようになったきっかけだ。震災では、「紙の保険証券が火災や水害で紛失した」、「被保険者が死亡し、家族は保険に入っていることを知らなかった」といった理由から請求がなされなかったという。
生命保険や損害保険だけでなく、共済やクレジットカードなどにもいろいろな保険が付帯しているが、どの保険が何をカバーしているのか把握できている人は少ない。とくに災害や事故後の混乱した状況では、なかなか保険の手続きにまで手が回らないものだ。
個人のアカウントにすべての保険会社の情報が紐付けられていれば、保険の一元管理、さらには保険請求の自動化ができるのでは、という発想から開発されたのが「保険簿」アプリだ。
同社では、個人向けの無料アプリ「保険簿」と、事業者向けの「保険簿for Business」の2つのツールを提供している。「保険簿」は、スマホで保険証券を撮影するだけで、保険情報を自動的にデータ化し、加入保険の情報を見える化するアプリだ。海外の保険、傷害、簡易保険、団体信用生命保険などあらゆる保険をカバーし、アプリで一元管理できるようになる。
とくに便利なのが「請求診断」機能。病気やケガ、事故といった要件を選ぶと、加入保険の中から請求できそうな保険が一覧表示され、請求に気付ける仕組みだ。井藤さんによると、候補として出てきた保険については、すべて請求すべきものだそうだ。
また「保険簿」に登録した保険情報はQRコードで簡単に共有できる機能も付いている。病気やケガによる入院時など、保険請求が必要なときほど本人による請求は困難になる。夫婦間や離れて暮らす親と保険情報を共有しておくと万が一の際に安心だ。
保険会社が生き残るには、加入者との接点強化が必須
一方で、事業者向けの「保険簿for Business」は、顧客の「保険簿」と繋がるためのSaaS型ツールだ。顧客の「保険簿」と連携させると、他社との契約を含めたすべての加入保険の状況を参照して、チャット機能を使って請求の相談や重複する保険についてのアドバイスができる。2019年10月のリリースから約半年で約30社の保険代理店が導入し、顧客との接点強化に役立てているそうだ。
個人向けの「保険簿」は無料だが、代理店向けの「保険簿for Business」は有料で提供される。保険請求が増えるのは保険会社にとってデメリットのようにも思えるが、なぜ保険代理店は費用をかけてまで導入するのだろうか。
保険業界では長く顧客不在のノルマ主義が横行し、保険金の不払い事件が問題になっていた。古い業界体質にメスを入れるため、2016年に保険業法を改正、保険商品の販売ルールが厳格化された。かんぽ生命の不適切契約の事件もあったように、今後、顧客本意ではない保険事業者は淘汰されていく流れが業界にある。売りっぱなしで、請求はお客様任せ、という従来の営業スタイルでは通用しなくなり、保険会社は生き残りをかけて、請求勧奨に力を入れている。
IB社には、すでに複数の大手保険会社から協業の問い合わせがあり、PoCの計画が進んでいる。2年後を目標に、保険の自動請求までのワンストップ化を目指しているとのこと。
井藤氏が目指すのは、個人が保険加入後のあらゆることを「保険簿」で完結すること。今までは、保険請求の手続きは、複数の保険会社にそれぞれ書類を用意して申請しなくてはいけなかったのが、アプリでワンストップ化できると便利だ。とはいえ、アプリに保険情報を取り込むにしても、保険まわりの書類は膨大で、そもそも保険証券がどれかわかりづらい。そこで考えたのが、保険代理店に手伝ってもらうという戦略だ。保険代理店にとっては「保険簿」アプリの使い方をサポートすることで、顧客との接点を維持できる。加えて、請求の初動対応を減らせるので、コストの削減にもなる。IBは、今後も保険販売事業に参入する計画はなく、保険事業者と競合しない形で、すべての保険会社、保険代理店と協力していくそうだ。
井藤氏は、生命保険、損害保険会社での実務経験をもち、自他ともに認める保険マニアだ。その知識から、「保険簿」アプリ上では保険請求に役立つ知識を月に1回配信するほか、ブログ「保険サポーター」で保険加入者が知っておきたいコンテンツを配信している。わかりにくい保険の請求のコツが解説されているので、興味のある方は、読んでみてはいかがだろうか。
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