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119人がリモート演奏、KDDI「音のVR」バーチャルコンサートはどうやって実現したのか

2020年06月09日 12時00分更新

 KDDIとKDDI総合研究所は2020年6月8日、新日本フィルハーモニー交響楽団と東京混声合唱団に所属するミュージシャンの演奏によるバーチャルコンサートを、iOS向けに配信されている「新音楽視聴体験 音のVR」アプリで配信することを発表した。

「音のVR」を活用したバーチャルコンサートの画面。新日本フィルハーモニー交響楽団、東京混声合唱団から119人が参加した演奏が楽しめるというだけでなく、音のVRの活用で好きなパートに近づいて音を楽しむなどのインタラクティブな体験も可能だ

 このコンサートでは、新日本フィルハーモニー交響楽団のフランチャイズホール「すみだトリフォニーホール」のステージをVR空間上に再現。新日本フィルハーモニー交響楽団から80名、東京混声合唱団から38名、ピアノ1名の計119人が自宅などからリモートで演奏する、合唱の定番曲「Believe」を楽しむことができる。

 またこの取り組みには、KDDI総合研究所が開発したインタラクティブ視聴技術「音のVR」を採用。演奏中の360度映像の見たい・聴きたい部分にピンチ操作で近づくことにより、好きなパートの部分だけをより大きな音で聞くことも可能であるなど、自分好みのスタイルで演奏を楽しめることも特徴となっている。

新型コロナ禍での新しい音楽のあり方を模索

 今回の企画を担当したKDDIの宮崎氏によると、この規格は新型コロナウイルスの感染拡大を受けコンサートの自粛が続く中、新しい音楽鑑賞の形を提案するべく企画されたものだという。

KDDI 渉外・コミュニケーション統括本部 コミュニケーション本部 デジタルマーケティング部 Web・プラットフォームG マネージャー 宮崎清志氏

 KDDIは2017年より音のVRを活用した取り組みを推し進めており、これまで「モーニング娘。」「アンジュルム」などアイドルグループのコンテンツ配信を実施してきた。そして2020年に入ってからは、商用サービスを開始した「5G」を活用した新しい体験の提供に力を入れていこうとしていたのだが、その矢先に新型コロナウイルスの感染拡大が発生してしまい、小中学校などでの卒業式が実施できなくなってしまったことから、3月に東京混声合唱団と音のVRを活用した卒業ソングの疑似体験を実施するに至ったのだそうだ。

KDDIは2017年より「音のVR」の技術開発を進めており、2018年にはハロー!プロジェクトと、「モーニング娘。」などを起用したコンテンツ制作を進めていた

 一方、新日本フィルハーモニー交響楽団は2020年3月に、メンバーがリモートで演奏した「パプリカ」をYouTubeに公開、普段クラシックを聴かない人からも注目されるなど大きな話題となった。これを機として、従来コンサートホールでの生演奏を重視するなど保守的な傾向が強かったクラシック界にも意識面で変化が起きてきてきたのだという。

 そうしたことから通信技術を活用して新型コロナウイルスの影響による課題を解決したいというKDDIの考えと、新しい表現に前向きにチャレンジしたいという東京混声合唱団、新日本フィルハーモニー交響楽団の意向が一致し、今回の企画が実現するに至ったのだそうだ。

 では一体、今回のコンテンツはどのようにして作り上げられたのだろうか。「音のVR」を開発しているKDDI総合研究所の堀内氏によると、参加した119人は個別でスマートフォンを用いて演奏や歌の映像を収録し、それをKDDI総合研究所の制作チームが合成し、サラウンド化してリアルなコンサートの雰囲気が味わえるVRコンテンツにまとめ上げたのだという。

KDDI総合研究所 イノベーションセンター マルチモーダルコミュニケーショングループ 研究マネージャーである堀内俊治氏

 堀内氏によると、それぞれの歌や演奏は基となるピアノの伴奏に合わせていることから、演奏自体のずれが生じることはなかったとのこと。しかしながら動画の撮影時間はみなバラバラなので、119人全員の演奏開始タイミングを合わせるのに非常に時間がかかったらしく、作業には2週間を要したとのことだ。

 また音響以外の部分に関しても、ピンチアウトしてもっとも“引いた”状態から視聴した場合、通常のVR映像と比べより広角の映像となるようにすることで、コンサートホールの広さを表現する、たくさんの人を自由な位置に配置できるようにするためアプリに改修を加えるなど、様々な工夫がなされているとのことだ。

「音のVR」で音楽に取り組む学生の支援も検討

 では今後、音のVRはどのような展開を予定しているのだろうか。宮崎氏がその1つとして挙げているのが、音楽活動をしている学生を支援する取り組みである。

 というのも現在、新型コロナウイルスの影響により、コンサートやコンクールなどが中止となって部活などで音楽をしている学生は発表の場が失われている状況だ。そこで宮崎氏は「プロの団体と共同で学生の思いをなんとか発信できないかと話し合っている」と話し、音のVRと通信技術を活用して学生が音楽を発信できる施策を展開していきたいとの考えを示している。

 またそもそも、音のVRは5G時代を見据えて開発が進められている技術でもある。それゆえ新型コロナウイルスの影響が落ち着いた後は、5Gのエリア整備の拡大に合わせて音のVRを体験してもらう取り組みを本格的に進めていきたいという。

 さらに今後はAndroidへの対応を進め、音楽だけでなくスポーツなどにコンテンツの幅を広げながら実験的な取り組みを続けてビジネス化の道も模索していきたいとのこと。実用化に向けた今後の取り組みが注目される企画だ。

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