投資したい個人と、資金調達をしたい企業のマッチングサービス「Funds」
貸付ファンドを当たり前のサービスに 金融スタートアップの挑戦
企業とファンを結びつけるためにファンドを活用する例も
開始当初、金融商品として参加する企業はファンズ株主からの紹介で集まっていたが、2020年からは、金融機関との提携による貸付ファンドもスタートした。
「銀行が貸付ファンドを利用するというのは不思議かもしれませんが、たとえば企業から10億円借りたいが銀行としては8億円しか貸せない。それでは足りない2億円はFundsで調達するといった使い方ができるのです。また、M&Aなど早急に資金を用意する必要がある場合は、Fundsを企業が利用する際、初回は1ヵ月から1ヵ月半かかりますが、2回目以降は申し込みから3週間で資金をお渡しできます。銀行融資で資金調達するまでの短期に利用するといった使い方が可能です」(藤田氏)
短期で資金を用意するというと、審査が甘いのでは、と気になってしまうがどうなのか。
「一度、プラットフォームに載った企業であれば、案件を自動で審査する仕組みを現在構築中です。ただし、プラットフォームに載せること自体が適切なのかについては、社内の審査委員会で徹底的に審査します。もちろん、ファンドごとでの審査も行なっています」
ファンズの社内は、半数がテクノロジー関連業界、残り半分は銀行出身者、公認会計士など会計や金融に関する専門知識を持ったメンバーがそろっている。金融や会計の専門知識を持ったメンバーによって、企業審査は厳しくチェックする体制を整えた。
それでも企業にとっては、社債発行に必要な目論見書作成に比べればファンド作成は手間が少なくて済むというメリットがあると藤田氏は話す。
「Fundsは、きちんとした審査を受けた企業だけが利用できるという認識が広まれば、企業にとってお墨付きとなります。企業にとっては信頼度を得ることができ、資金調達もできる。投資をする方にとっては、定期預金に近いような、安心して投資できるものにしていきたいと思っています。国民的な資産運用サービスというところまで定着させたいのです」
安心して利用できるサービスとしてFundsが定着していけば、通常の投資とは異なるファンを作るための投資という活用もできるのではないかという。企業がコミュニティ作りにファンドを利用する方法だ。
「短期的な投資ではなく、長期的にその企業を応援するための投資です。株式とは異なりFundsには相場がありません。小口の、長期投資家が企業を支えていくための応援団として投資を行なうスタイルです」
2019年10月31日に発表された、「大阪王将の新規店舗を出資対象とする大阪王将ファンド#1」は、ファンを増やす投資のひとつのパターンだ。投資額が3万円以上の投資家は、一部の大阪王将店舗で、期間中は何度でも10%オフで食事をすることができる。
大阪王将を運営するイートアンド株式会社にとっては、投資家特別優待券によって、新規店舗が完成する前や開店当初から投資家とコミュニケーションによって、新規店舗が投資家にとって特別な場となることを目指している。
このファン作りにファンドを活用する発想は、Fundsというサービスを始める段階からあったものだという。「Fundsの名称には、ファンドの複数形という意味と共に、ファン作りという意味を込めていました」と藤田氏は話す。
スタートアップである前に金融業であること
取材を進める中で印象的だったのが、コンプライアンスやガバナンスに注力している姿勢だ。
「社内には口を酸っぱくして、『コンプライアンスファーストだ』と言っています。普通のスタートアップであれば、速さ、積極的な事業拡大が優先されることになりますが、我々はスタートアップである前に金融業を営んでいる企業です。そこにはしっかりとした自覚を持つべきだと考えます。普通にはないコストもかかりますし、成長に時間がかかるかもしれませんが、体制を整えた上で成長することが重要だと考えています」(藤田氏)
そこまで言い切るほどコンプライアンスにこだわるのは何故なのだろう。
「これまでのさまざまなケースを目の当たりにしたからだと思います。(金融系スタートアップには)行政処分を受けて市場から脱落する企業もありました。そんな思いを当社の社員にはさせたくない。応援してくれる株主を裏切りたくないという強い気持ちがあります。そんな気持ちがコンプライアンスファーストにこだわる原動力となっています」
2019年1月には、投資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)比較サイト「クラウドポート」を、金融メディア「ZUU online」を運営する株式会社ZUUへ事業譲渡している。
「ファンド販売を行なう側が比較サイトをやることはどうか? 自社で販売するファンドを優遇しているのではないか? といったあらぬ疑いをかけられたくはないため、事業譲渡しました。ファンド事業の展開は、当初から計画していたことではありましたが、第二種金融商品取引業として認可を受けるまでには相応の時間がかかります。当初の事業として比較サイト運営を行いました。実際に認可を受けた後、精査した結果、両方の事業を行うのは難しいという結論になりました」
改めて、Fundsに特化して事業展開を進めていく。3年で1000億円程度の貸付ファンド取り扱いをするという目標を掲げている。
「ある程度、規模が広がっていけば、貸付ファンドへの認知が高くなり、マスまで広がっていくと見ています。日本人はリスクを取らないと言われていましたが、仮想通貨があれだけ普及したのを見ると、リスクがあっても投資をしたいという意欲を持っている人は案外多いと感じました。年金の先行きに不安を感じている人も多いですし、貸付ファンドがマスマーケットで認知される可能性も十分にあると考えています」
しかし、それだけ貸付ファンドへの認知が広がれば、競合が増えていく可能性もある。競合が増えていくことへの懸念はないのだろうか。
「現在でも20社程度競合はあります。今後、貸付ファンドに参入する企業は当然増えると思いますが、新規参入はそんなに簡単ではありません。証券会社などの参入もあるかもしれませんが、ノウハウなどに関して1年から1年半は先行している自負もあります」
自らの手で資産運用をしていくと、企業の動向、さらには世の中の動きに敏感にならざるを得なくなってくる。藤田氏自身も多くの人を巻き込んで貸付ファンドを事業として展開するなかで、「サービス提供だけでなく、社会貢献ということも考えるようになりました。この事業は人生かけてやっていきます」と強い決意を明らかにしている。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります