FUJITSU ACCELERATOR×BiNDup対談
自社だけでは決してできない新たな事業を生むために必要なオープンイノベーションの在り方とは
企業におけるオープンイノベーションは、新たなテクノロジーの導入、ブランディング、そして企業文化の変革などの成果をもたらしつつある。大企業とスタートアップの協業をはじめ、企業の枠を超えた取り組みを、いかに事業拡大や創出といった具体的な成果につなげていくべきなのか。
早期からスタートアップとの連携を支援し、さまざまな分野で実績が出ている富士通のスタートアップ協業推進プログラム「FUJITSU ACCELERATOR」の浮田博文氏と松尾圭祐氏、また、企業のウェブ戦略やコンサルティングに携わるデジタルステージ 熊崎隆人氏が、企業のオープンイノベーションの現在と未来について語る。(以下、文中敬称略)
大企業の中でオープンイノベーションを「仕組み化」した富士通。スタートアップ企業と協業する際のポイントとは。
── 従来型のクローズドイノベーション(自前主義)から、オープンイノベーションへの意識がどのように変わっていったのか、教えてください。
浮田:富士通はクローズドイノベーションにより開発された商品が多く占めていましたが、よりスピーディに商品を開発・リリースするために、2015年から「FUJITSU ACCELERATOR」という富士通グループ内での支援チームを作り、スタートアップとのオープンイノベーションの強化に取り組みました。社外から広くアイデアや技術を募り、自分たちだけではできなかった革新的なプロダクトやサービスを開発することを目指しています。
プログラムの成果としては、機械学習による工場での異常検知、無線通信技術、自動運転の配車サービス、機械翻訳、広告効率化などで富士通の事業部門との協業が成立しています。また、SIビジネスではスタートアップのプロダクトを組み込んでお客様に提供する事例もあります。
オープンイノベーションの取り組みは、「どのように社内で仕組み化をしていくのか」が大切ですので、試行錯誤しながら取り組んでいるところです。
浮田博文(うきた ひろふみ)
富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR代表 富士通のクラウドビジネスの立ち上げメンバーとして日本を含む世界8拠点への展開を実現。2015年のFUJITSU ACCELERATOR立ち上げ時から、事業部門の立場から国内外のスタートアップとの協業検討を担当。2019年4月からFUJITSU ACCELERATORの代表就任。
── 具体的には、どのような取り組みを進めているのでしょうか?
浮田:富士通グループ全体では100を超える事業部や関連会社があり、FUJITSU ACCELERATOR第8期では、そのうち25の事業責任者が参画しています。プログラム募集前には、各部門の事業計画を理解し、事業責任者に「何が課題か」「どのようなテクノロジーやソリューションが欠けているのか」をヒアリングし、募集テーマをリスト化します。それを一般公開し、スタートアップからのアイデアを募集しています。
松尾圭祐(まつお けいすけ)
富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR事業開発担当 サーバーのマーケティング業務を担当し国内トップシェア獲得に貢献。その後、商品戦略の企画部門に異動を通じて、スタートアップ協業を推進する「FUJITSU ACCELERATOR」の立ち上げに参画し、現在ではスタートアップとの協業による新規事業開発を担当。
松尾:各部門とスタートアップ企業で、お互いのやりたいことを理解し、タッグを組めるかどうか、タッグを組むとしたらどのように進めていくのかを調整することが、われわれの大きな役割のひとつです。
プログラムでは、3ヵ月間の協業検討期間を経て、成果披露の場であるイベント(Demo Day)を開催しています。これまで5年間、8期のプログラムを運営し、事業部門とスタートアップが具体的に検討したアイデアが120件以上、その中で商品化や実証実験にいたったものが70件以上あります。
── 取り組みに対するご意見をお聞かせください。
熊崎:私は主にITの分野でコンサルティングなどに携わって20年以上になりますが、まずオープンイノベーションがITの進化の中心になってきた感覚があります。
熊崎隆人(くまざき たかひと)
株式会社デジタルステージ 代表取締役社長 大学在学中にデザインとコンサルティングを主業務とするCRYPTOMERIA, incを設立。2007年より株式会社デジタルステージの取締役を兼任し現在は代表取締役。CMSとしてBiNDupを提供しながら企業のサイト戦略に携わる。並行して、経営、マーケティング、テクノロジーの分野で、経済産業省、東証一部上場企業、地方自治体、スタートアップ等、顧問を歴任。事業経験、コンサルティングのノウハウを生かし、未来に誇れるプロジェクトのために活動している。
GAFAを中心としたクラウドサービスのプラットフォーマーは、AI(人工知能)の活用を含めて、自分たちのテクノロジーをオープンに提供し、優秀な企業や開発者とエコシステムを作っています。私たちデジタルステージが、世界の最先端の技術を自社の独自性を加えながら蓄積できているのは、まさにオープンな環境があるからこそ。このような流れは不可逆だと考えます。
大企業とスタートアップ企業の二者間で考えると、従来のクローズドな開発では、どうしても委託・受託関係になることが多かったですね。最近では、二者間ではなく数十社で大きなプロジェクトに取り組むケースも増えてきました。たとえば、社会インフラ系の企業が新興国に進出しようと思っても、高いレベルの安心安全を、そのままの高コストで担保していくような日本国内のやり方では落とし込めません。柔軟な発想でアイデアを出し、具体的な施策をスピーディーに実施していくには、プロジェクトに参画する企業を、まさにオープンに募っていく必要があります。
このような際、大企業のオープンイノベーションの難しさは、「どこかに自前主義が残ること」です。新しいサービスを生み出すときに、「この部分は自社製品を使ってもらいたい」という条件や制約が付いたり。最近では、比較検討の上で、自社製品よりも他社製品のほうがよければそちらを使う、といった「選択の自由」が確保されたプロジェクトも多くなっていると感じます。
浮田:私たちのようなオープンイノベーションの専任チームがある理由のひとつが、どうしても生じてしまう自前主義的な要望を調整するためです。たとえば、第三者的な立場から、そのプロジェクトでは自社製品と他の製品のどちらがマッチするかを判断し、アドバイスをしています。
熊崎さんがおっしゃった「委託・受託関係」というキーワードは非常に重要です。承認、購買契約、セキュリティーなどの面で、まだまだ古い商慣習が残っています。FUJITSU ACCELERATORのロゴは「F」と「_(アンダースコア、下線符号)」を白抜きで組み合わせたものです。スタートアップ企業との関係も、上から目線や委託・受託ではなく、イコールパートナーとして付き合いたいという気持ちを込めています。
熊崎:各部門は自分たちの利益が最優先になります。FUJITSU ACCELERATORという独立したチームが存在することで、もちろん利害調整などは行ないながらだと思いますが、公平にジャッジをするという点で、とてもポジティブで重要な役割を果たしていると感じました。
オープンソーシングではなく、オープンイノベーション。互いの文化を尊重しながら、事業継続の壁を超えていく。
── 富士通とスタートアップで、イノベーションに対する考え方の違いはありますか?
松尾:富士通は、安定稼働の品質を重視する一方で、スタートアップは、早期マーケット占有のスピード性を重視するのが相違点です。それを踏まえて、世の中の不便をスピーディーに安心・安全に解消することが、大企業とスタートアップ協業によるイノベーションだと考えています。
熊崎:イノベーションそれ自体を目的にするとうまく行かないといわれています。「結果的にイノベーションになった」というのが、本来のあり方だろうと。世の中の不便を解消したい、社会を変えたいというマインドが、結果としてイノベーションを生み出すということです。
浮田:FUJITSU ACCELERATORでは、「協業」に特化しているという特徴があります。メンタリングなどは一切やっておらず、事業部門の責任者とスタートアップを結びつけ、スピーディーに物事を決めていきます。コーディネーターやファシリテーターの役割です。
熊崎:デジタルステージでは、約20万人が利用する「BiNDup」というCMSを提供しています。
大手企業と一緒にプロジェクトを進める際、セキュリティーなどさまざまな面で勉強になることが多いですね。柔軟なアイデアやユーザーとの距離の近さは、スタートアップ企業ならではのよい点。ただ、多角的な視点や継続性という部分で、大手企業の経験から学ぶことで、一皮も二皮もむけるというか、事業が洗練されていくと思います。
BiNDupも、大手企業はもちろん、政府機関のウェブサイトの構築に利用してもらう中で、製品としてのセキュリティーやアクセシビリティの強化につながりました。
また、以前に産学連携の取り組みとして、デザイナーを志す学生が作品を作り、それだけに留まらずホームページで作品を宣伝する際にBiNDupを使って企業にプレゼンテーションを行なった事例があります。大企業はこれまで、業界で名の通ったデザイナーやコピーライターにクリエイティブをまかせていましたが、オープンイノベーションの発想を取り入れ、フラットな立場から生まれたアイデアを活かせる時代になっています。
BiNDup法人事例
HTMLなどの知識が要らず、自社でのサイト運用を可能にする「BiNDup」は、大手企業だけでなく、プロダクトやサービスを素早く発信したいというユーザーからも支持されている。実際にBiNDupで作成された秀逸なホームページを紹介する。
フィットネスクラブの例:B・B・V ola
https://www.bodybyvital.jp/
アパレル大手のベイクルーズグループが運営する、渋⾕・新宿・⾚坂に展開するフィットネスクラブ。イメージカラーであるオレンジに白を組み合わせ、シンプルながらはつらつとしたデザインになっている。プログラムや各店舗の情報も充実。操作性もよく、高いユーザー体験を提供しているサイトである。
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