コロナウィルスの流行でYouTubeが画質規制
前回、YouTubeで4K動画をアップロードしたドタバタ(第112回「 テレワークで動画4K化の“沼”にハマる……」 )を書きました。世界を見回してみると、さらに外出規制が厳しくなった欧州では、YouTubeのストリーミングの自主規制が始まっています。
これは、EUの制作執行機関である欧州委員会がネットワークの帯域確保を考慮して、動画をストリーミング配信している各企業に負荷軽減を要請。それに従い、YouTubeがEUでの動画再生を480p(標準画質)で立ち上がるよう変更をしたものです(Coronavirus disease 2019 (COVID-19) updates - YouTube Help)。なお、設定変更で高画質化は可能となっています(3月28日執筆時)。
外出できないので動画を見て過ごす……そんな人々が増えているのかもしれません。まあ、筆者の動画もネットワーク帯域のムダ使いといわれれば、その通りなわけですが……。
そんなことを反省して、新型コロナウイルスの解析に役立てる「Folding@home」(https://foldingathome.org)に参加しております。本記事のトップ画像がそれです。
これは、世界中のPCのCPUやGPUの余力を使い、タンパク質の分子動力学シミュレーションを実行するための分散コンピューティングプロジェクトです。新型コロナウイルスの解析が同プロジェクトに追加されたことで参加者は増加し、3月26日には演算処理能力が1EFLOPS(エクサフロップス、1,000,000,000,000,000,000回/秒)を超えたことを発表しています。
驚くべきことに、これは2019年時点でもっとも高速なスーパーコンピューター、IBMのSummit(200PFLOPS = 0.2EFLOPS)の5倍のスピードだそうです。
米NVIDIAもこのプロジェクトを応援中。電気料金はすこし増えそうですが、自宅待機中の筆者でも、社会に役立てるかもしれません。
さて、前回のYouTube4K動画騒動の続きです。
macOSのSafariでYouTubeの4K画質が選択できない!?
前回は、筆者が撮影した4K動画をYouTubeにかろうじてアップロードできたわけですが、いくら待ってもブラウザーに4K画質(2160p)が表示されないままです。
YouTubeにアップロードした動画は、別の動画コーデックへの変換に時間がかかる……と知ってはいました。しかし、いくら待っても、次の日になっても、最高画質はHD画質(1080p)のまま。
ところが、グーグルのChromeなら、2160pで観られるんですよね。この違いはなんでしょう……。不安になって調べてみると、H.265とV9、すなわち「コーデック」の複雑な事情であることがわかりました。
複雑な事情、コーデックとは?
コーデックとは、信号やデータを一定の規則にしたがって符号化したり、符号化されたデータを元の状態に復号したりするもの。よく知られるものとしては、音声や動画などのデータを圧縮したり、元の形に戻したりするソフトウェアやGPUの機能などで、一般的に「コーデック」といえば、このことを指します。
YouTubeの動画をSafariでの最高画質1080pで再生した場合、詳細統計情報を調べてみると、識別子の「avc1」から動画コーディックH.246が使われていることがわかります。
一方でグーグルのブラウザー、Chromeでの最高画質2160pで再生すると、識別子「vp09」から動画コーディックVP9が使われていることがわかります(ちなみに、1080pなど他の画質のVP9もYouTube側で用意されています)。
つまり、YouTubeは4K画質(2160p)の動画はVP9コーデックのみで配信し、Safariが採用するH.264コーデックはHD画質(1080p)までしか配信していないことになります。これが、筆者が常用しているSafariではYouTubeの4K動画が再生されない理由でした。
コーデックに関する議論は海外でも話題で、英語の掲示板では「(アップルが最新のmacOSで採用している)H.265の方が優秀!」「SafariはVP9も採用すべき」「いや、時代はAV1だよ!」なんて論争が巻き起こっております。筆者個人としては、Chromeは自分の4K動画のチェック用とし、しばらくは使い慣れたSafariを使っていくつもりです。
アップルはH.265の優秀さ(画像の美しさと圧縮率の高さ)を示すため、自社のストリーミングサービスApple TV+でオリジナルの4Kドラマや映画を配信を増やしています。
こうした状況はマジックと似ている気がしています。観客からは同じように見えたとしても、隠れた裏側の技術で競い合うのは、どの世界でも同じかもしれません。自分(自社)の技術のほうが優れていると考えることが、技術進歩につながるはず。
というわけで、前回に引き続き、(手前味噌ですが……)マジックの道具を作る作業の動画の第2弾をアップしました。我が家の別PCでウイルスの治療薬の解析(Folding@home)も鋭意稼働させますので、この騒動が落ち着いたときにでも、ご覧いただければ幸いです。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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