Radeonのミドルクラスは長らくPolaris世代のRX 480~590が守り続けてきたが、さすがにアーキテクチャーの古さが無視できなくなってきた。2020年1月21日深夜に販売が解禁された「Radeon RX 5600 XT」は、フルHDゲーマーとPolarisにとっては最高のリリーフとなる(であろう)ミドルクラスGPUである。
RX 5600 XTの基本的な情報やパフォーマンスについては、先日公開された前回の記事『「Radeon RX 5600 XT」はフルHDゲーマーのベストチョイスになり得るか?【前編】』で解説済みだが、今回は実ゲームベースでの実力テストとなる。
3DMarkのスコアーでは見えてこないRX 5600 XTの強み/弱みを明らかにしていくのが本稿のテーマだが、同時にRX 5600 XTの不可解な初値設定に対しても少し考えてみたい。ご存じの通りRX 5600 XTの国内流通価格が4万円〜4万7000円と、予想外に高額な設定(米国では280〜300ドル程度)となり、RX 5700カードを上回るという異常な布陣になっている。果たしてRX 5600 XTは国内ユーザーを納得させられるパフォーマンスを出せるのだろうか?
正式版ドライバーでさらに深く検証する
今回の検証環境は前編と基本的に同じだが、RX 5600 XTは販売解禁後に公開されたドライバー(Adrenalin 2020 Edition 20.1.3)で検証し直している。前回のベータ版ドライバーに比べ顕著なパフォーマンスアップが確認できたためだ。RX 5600 XT以外の環境に関しては、前編と変わっていない。
比較用のビデオカードはSapphire製のOCモデル「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」を使用し、レビュー開始時直後に配布された最新vBIOSに更新している(これも前編と同じ)。このvBIOSはメモリークロックが14Gbps、コアクロックもRX 5700に近い値にOCされたもの(Performance vBIOSと呼ぶ)と、メモリー12GbpsでRX 5600 XTリファレンスに近いOC設定のもの(Silent vBIOSと呼ぶ)の2つで構成され、スイッチを切り替えてドライバーを再度インストールすることで動作を切り替えることができる。このvBIOSは現在Sapphireのページでダウンロードできるバージョン1.01と全く同じものである(411EFMIU.O4Cと.X4E)。
さらに前編にない要素として、比較対象にRTX 2060も追加した。前述の通り本邦におけえる価格設定が予想外に高いものとなったため、実質的なライバルは当初AMDが主張していたGTX 1660 SUPERや1660Tiではなく、RTX 2060と見なすのが妥当だ。
【検証環境】 | |
---|---|
CPU | AMD「Ryzen 7 3800X」 (8コア/16スレッド、3.9~4.5GHz) |
マザーボード | GIGABYTE「X570 AORUS MASTER」 (BIOS F11) |
メモリー | G.Skill「F4-3200C16D-16GTZRX」×2 (DDR4-3200、8GB×4) |
ビデオカード | Sapphire「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」 (Radeon RX 5600 XT) AMD「Radeon RX 5700リファレンスカード」 ASUS「DUAL-RX5500XT-O8G-EVO」 (Radeon RX 5500 XT) AMD「Radeon RX Vega56リファレンスカード」 ASRock「Phantom Gaming X Radeon RX 590 8G OC」 (Radeon RX 590) NVIDIA「GeForce RTX 2060 Founders Edition」 ASUS「PH-GTX1660S-O6G」 (GeForce GTX 1660 SUPER) |
ストレージ | Western Digital「WDS100T2X0C」 (NVMe M.2 SSD、1TB) |
電源ユニット | Silverstone「ST85F-PT」 (850W、80Plus Platinum) |
CPUクーラー | Corsair「H115i」 (簡易水冷、280mm) |
OS | Windows10 Pro 64bit版 (November 2019 Update) |
パフォーマンスはRX 5700にかなり近い
では描画負荷の軽めのベンチマークから片付けていこう。最初に試すのは「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ」の公式ベンチマークだ。画質は“最高品質”とし、解像度はフルHD/WQHD/4Kの3通り(以下同様)となる。スコアーだけでは差異が掴みづらいため、レポートに表示される最低/平均fpsも合わせて吟味することにしよう。
Radeon系のトップはRX 5700なのは当然だが、Radeon系の2番手であるRX 5600 XTがRX 5700のすぐ後ろに迫っている点に注目。特にフルHD環境ではPerformance vBIOSではRX 5700の約5%落ち、Silent vBIOSでも約8%落ち程度に収まっている。ベータ版ドライバーを使用した前編では、はRX 5700とRX 5500 XTの中間に着地している印象があったが、正式版ドライバー&実ゲームの組み合わせでは、RX 5700にかなり近い立ち位置にあると言える。
ただし、WQHDになるとRX 5700に対し10〜20%下となる。RX 5600 XTはメモリーバス幅が192bitと狭められているため、高解像度環境には弱いといえる。しかし、RX 5600 XTの基本コンセプトはフルHDゲーミングを最高画質で楽しむためのGPUであるため、この結果は当然の帰結と言える。
続いては「Apex Legends」で試してみよう。画質はすべて最高設定とし、射撃練習場における一定のコースを移動する際のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。
ここでもフルHDにおいてはRX 5600 XTはRX 5700とほぼ同じような性能(144fpsキャップになるため)だが、WQHDではメモリーバス幅の太いRX 5700に差を付けられてしまう。しかし、HBM2を採用してメモリー帯域がはるかに太いVega56(409GB/sec)にRX 5600 XT(288GB/sec)が勝っている点を見ると、RDNA 1.0のアーキテクチャーの優秀さが下地にあり、その上でメモリーバス幅が効くという結論に到達できる。
ただし、ライバルに眼を向けると、実売価格で1万円近く安いRTX 2060の方が全般的に優秀なフレームレートを出せているため、RX 5600 XTはあまりコストパフォーマンス的にはよろしくない。
続いては「Rainbow Six Siege」で試す。画質は“最高”をベースにレンダースケールを100%に固定。ゲーム内ベンチマーク機能を利用して計測した。
このテストでは解像度が上がってもRX 5700との差(平均fpsに注目した時)はあまり開かない。おおよそ5%程度下に位置している。Vega56やRX 590のポジションを継承するGPUとしては著しいジャンプアップを果たしたGPUに仕上がっている。RTX 2060に対しては、解像度がフルHDの場合、Silent vBIOSならやや下、Performance vBIOS時ならやや上回るため、RX 5600 XTのライバルはGTX 16シリーズではなくRTX 2060と言うのが妥当だろう。RTX 2060がRX 5600 XT発売直前に値下げしたことが十分理解できる結果となった。
続いては「Call of Duty: Modern Warfare」で試す。画質は全て最高設定(もちろんDXRは使用しない)とし、シングルプレイヤー用ステージ“ピカデリー”における一定のコースをプレイした時のフレームレートを「CapFrameX」で測定した。
DXRに対応しているゲームだからGeForceが伸びるだろう……と思っていたが、RX 5700やRX 5600 XTが予想外に伸びた。フルHD環境ではRX 5600 XTはRTX 2060に対し最大10%弱上に位置している。フルHDで最高のゲーミング環境を欲しいという人にはなかなか魅力的な選択肢だ。60fpsプレイならRX 590でも十分達成できるが、それより上の体験をしたいならRX 5600 XTは優れた選択肢といえるかもしれないが、価格を考えると値下がりしたRX 5700が優秀というなんともコメントし難い結果になってしまった。
続いては「The Outer Worlds」で試してみた。画質は最高設定とし、最初に出会う宇宙船のあるエリアにおける一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。
GeForce系の方が良い結果を出しているが、RX 5600 XTとVega56の差も平均で15fps程度アップするなど、新アーキテクチャーの恩恵が大きいことが分かる。ただ今回のテスト環境では、Radeon環境だとパッと見分からないほどのスタッターが出る(一瞬だけフレームタイムが突然大きくなってすぐに戻る)ので、ゲームの熟成度の問題もあると感じられた。
重量級でも傾向はほぼ同じ
ここから先は重量級ゲームのパフォーマンスを中心に見ていこう。最初に試す「MONSTER HUNTER: WORLD」は、1月に解放された拡張パック(ICEBORNE)導入に伴い、グラフィックエンジンも大幅に刷新され、DirectX12とAMDのFidelityFXへの対応が実装された。今回のテストはDirectX12モードとし、画質は“最高”に設定。集会エリア内の一定のコースを移動した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測した。FidelityFXは画質“高”で固定されてしまうため使用していない。
手動計測なので誤差が大きめに出やすいベンチマークであることはお断りしておきたいが、今回の計測ではRX 5600 XTのPerformance vBIOSで非常に良い結果が出た。フルHDはもちろんWQHDでもほぼRX 5700相当のパフォーマンスが出ているが、Silent vBIOSだと明らかにフレームレートが下がる感じ。
MHWはRTX 20シリーズのみが対応するDLSSが利用できるなど、かなりGeForce寄りのゲームのような印象があったが、実際検証するとRX 5600 XTがGTX 1660 SUPERどころかRTX 2060を大きく上回る結果を出せている。価格相応といえばその通りだが、RDNA 1.0のポテンシャルの高さが十分感じられる結果となった。
続いては「Ghost Recon Breakpoint」で検証しよう。画質は“ウルトラ”とし、FidelityFXとHDRをオンにした。内蔵ベンチマーク機能を利用して計測したが、最低fpsが最初は落ち込むことが多いため3セット取って最小fpsの一番良い結果を比較している。
GeForce系は最低fpsが非常に低い。Radeonもこの程度になる事はあるが、今回のGeForce環境では何回回しても改善されなかった。ただ最低fpsが記録されるのはベンチマークを回し始めた直後であるため、データの読み込みのような処理が一気に押し寄せて重くなったという推測もできる。Radeon系の性能はこれまでのゲームと同傾向になっている。
続いて「Borderlands 3」で試した。APIはDirectX12、画質は“バッドアス”とし、ゲーム内ベンチマーク機能を使用した。最低fps(の下位1パーセント点)はログを分析して導き出した。
これもかなりの重量級ゲームゆえに60fpsのキープはRX 5700でも難しいことが分かるが、今回の計測環境ではRX 5700よりRX 5600 XTのPerformance vBIOS時が微妙に上回ってしまった。RX 5600 XTの方がより新しいドライバーを使っている影響が出たと考えられる。
最後にRDR2こと「Read Dead Redemption 2」を試した。精密度プリセットレベルを一番重い“画質優先”とし、垂直同期などのオプションを外したものとした。画質設定後半にある高度なグラフィックス設定については“固定”としている。
ここで、RX 5600 XTは4K解像度においてベンチが途中で落ちてしまったため結果は出ていないが、フルHDやWQHDに関してはこれまでのゲームと傾向は似ている。ただフルHDにおいてはVega56とほぼ同等〜やや下程度の結果が出ているため、メモリーバス幅を狭めたことがパフォーマンスに響いているようだ。
2種類のvBIOSの発熱に違いはあるか?
ゲームの検証はこの辺にして、最後にRX 5600 XTに用意された2種類のvBIOSについて、運用上どの程度の違いが出るかを調べてみた。「HWiNFO」を利用し、アイドル状態からMHWを起動、ソロでゲームを始め集会エリアで約30分放置した時のGPのクロックや温度等を追跡する。室温は約25℃、検証環境はオープンエア組みとなっている。
追跡を始めて30秒を回ったあたりでGPUのクロックが急激に上昇(ここからタイトル等の描画が開始)しているが、温度が頭打ちになるのはかなり時間が経過してからだ。Silent vBIOSでは4分過ぎ、Performance vBIOSでは7分くらいまで温度は上昇し、その後ほぼ横ばい、あるいは微増ペースになる。ファンノイズも極めて小さく、これはSapphireの技術力と7nmプロセスの優秀さの証左でもある。GPU温度に関してはPerformance vBIOS時は77℃前後まで上がるが、Silent vBIOSならばおおよそ10℃は低くなっている。
GPUのクロックに関しては2種類のvBIOSで差異は見られなかった。温度が低いSilent vBIOSの方がクロックが低そうだが、実際ところはPerforcmance vBIOSのゲームクロックより微妙に低い1730MHz付近で安定した。Silent vBIOSのゲームクロックは1460MHzなので、これはSilent vBIOSが想定外に“回っている”という印象だ。ただ計測ツールが正しく温度データを読み込めてない可能性や、温度データのポーリング間隔(1秒)が粗すぎるため等の原因も考えられるが、残念ながら現時点では判断しにくい。
そこでさらに同じタイミングで「GPU ASIC Power」の推移も計測してみた。NVIDIAのTGPに相当する消費電力がここに現れる。
このグラフから分かる通り、Silent vBIOSにするとGPU(+メモリー)の消費電力はPerformance vBIOS時に比べ劇的に下がることが確認できた。ゲーム画面』が映し出され操作可能になった約1分後から計測終了時までのGPU ASIC Powerを見ると、Silent vBIOS時は平均113Wなのに対し、Performance vBIOSでは平均122Wと、約10Wの差が出る。一見同じようなクロックでも、もっとマイクロなレベルの省電力機能によって処理(=消費電力)が抑制されていると考えられる。
まとめ:想定外のRTX 2060キラーだが、大人の事情で力が封印された状態
以上でRX 5600 XTの検証は終了だ。前回と違い正式版ドライバーで検証した結果、RX 5700にほぼ近い性能が出ただけでなく、シチュエーションによってはRTX 2060をもしのぐパフォーマンスを得られるGPUであることが分かった。ワットパフォーマンスも大幅に改善され、さらに今回試したSapphire製「PULSE Radeon RX 5600 XT 6GB」は冷却力も高いことが分かった。
しかし、これらのメリットを4万円以上という国内流通価格の高さが、すべて台無しにしてしまっているのは極めて残念だ。RX 5500 XTも割高感のある価格設定だったが、RX 5600 XTは上位モデル(RX 5700)と価格が一部逆転している点でおかしいと言わざるを得ない。GTX 1660Tiを超えるどころかRTX 2060と比肩、あるいはそれ以上の存在でありながら、RTX 2060の方が断然お買い得感のある価格設定になっているのは、いくら初値といえども納得がいかない(“大人の事情”という奴だろうが……)。今すぐRadeon、それも最新のミドルクラスGPUが欲しい人以外は、春先〜夏ボーナスくらいまで静観すべきではないだろうか。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう