開放型のETHER |
デンマークのAlluxityやカナダのResonessence Labsといったオーディオメーカーの国内代理店としても知られるエミライがこのほど新たに米MrSpeakersのヘッドフォンETHERシリーズの「ETHER」および「ETHER C」を取り扱うことになった。
MrSpeakersは、2013年4月に創業したばかりのオーディオメーカー。創業者はPlatinum Audio speakersでおよそ30年スピーカー技師を務めたダン・クラーク氏だ。今回「秋のヘッドホン祭2015」にエミライが出展するのに際し、ダン氏が来日して話を聞かせてくれた。
創業のきっかけは「離婚の危機」だった
スピーカー技師だったダン氏がなぜヘッドフォンの製造メーカーを立ち上げたのかというエピソードは、実にユニーク。スピーカー技師時代に配偶者と共同の作業場を持っていたダン氏は、作業時に開放型のヘッドフォンを使用していたという。ところが、開放型ヘッドフォン特有の音漏れを嫌った妻に「このままそのヘッドフォンを使うなら離婚する」と言われてしまったとのこと。
そこでダン氏は数々の密閉型ヘッドフォンを試し、フォステクスの「T50RP」のサウンドを気に入った。「T50RPのようなサウンドを自分の持っている技術で作ろうとみると、どうなるだろう?」という探究心が沸き起こったことが、MrSpeaker創業のきっかけになったようだ。
密閉型のETHER C |
「本当の平面」を実現する振動板の秘密
今回エミライが取り扱うのは開放型の「ETHER」と、密閉型の「ETHER C」。もっとも大きな特徴は同社が「V-Planar振動板」と呼ぶ特殊な振動板を採用したドライバーだ。一般的な平面ドライバーは完全に平面であり、かつエッジ部が固定されていることが多い。このため、駆動させると中心が上下するかたちでたわみ、結果的に音に歪みが発生することになる。
この歪みをなくそうと思案したダン氏は、「ローレット加工(素材に細かい凹凸を刻みつける加工)」に目をつけた。ローレット加工を基にし、Eminent Technologyの創業者 ブルース・シグペン氏と共にMsSpeakers製ドライバー用に共同開発したのが「V-Planarローレット加工」だ。
V-Planarローレット加工により意図的に微細なシワ状のものを刻みつけた振動板は、アコーディオンのひだが伸び縮みするかのように駆動する。「ひだが伸び縮みするかのように」と書くと、曲線を描いて中央がたわむかたちで駆動しそうにも思えるが、「平面を維持したまま」、高い追従性と深いストロークを実現するのだという(なぜそう動くのか、また具体的な加工方法やシワの構造については、当然ながら社外秘とのこと)。
ETHERとETHER Cはいわば兄弟機で、ドライバーや基本的な構造、サイズ(30.5×22.9×15.3cm)、インピーダンス(23Ω)などは共通。ヘッドバンドには形状記憶合金としても知られるニッケルチタン合金、ヘッドバンドとイヤーパッドにはラムレザーを採用するなど、素材にもこだわった。ETHER Cはカーボンファイバー製のハウジングを採用し、密閉型にあわせたサウンドチューニングをほどこしたのが特徴だ。価格はいずれも26万8272円。
またダン氏は謎に包まれているMrSpeakersについてもすこしだけ話してくれた。「社員数や規模などは基本的に非公開」だが、「現時点でおよそ50台の3Dプリンターが稼働しており、12月にも工場の規模は2倍になる」という。そして、「ETHERとETHER Cの注文状況が好調なため、現在日勤帯のみ稼働している工場は、近い将来に24時間体制での稼働が求められそうだ」とのこと。ダン氏のコメントからも、現在勢いに乗りつつあることが予測でき、MsSpeakersは今後さらなる注目が期待されるオーディオメーカーと言えそうだ。
バンドやパッドにはラムレザーを使用。アームは形状記憶合金として知られるニッケルチタン製。質感は高い |
■関連サイト
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります