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「敵はつくらない」 さくらインターネット田中氏×元LINE森川氏の「草食系経営」の極意[PR]

2015年09月09日 06時00分更新

 ここのところ、一般のニュースメディアでもスタートアップ企業の躍進を取り上げることが増えてきた。未上場のプライベートカンパニーでありながら、10億ドル(ドル円換算=1240億円)以上の時価総額を持つ企業を"ユニコーン企業"と呼ぶが、2015年8月時点で113社ものユニコーン企業がある、なんていう報道もある。

 これほどの時価総額でなくても、有望株のスタートアップは世界中で次々に生まれている。その裏側には、スタートアップを資金や技術、有形無形の形で支援する人々がいる。彼らはどんなことを考えて支援をしているのか?

スタートアップ支援対談

 そこで今回、自身も若手経営者として活躍してこられたC Channel 森川亮社長と、学生起業から上場までを経験したさくらインターネット 田中邦裕社長にご登場願った。お二方とも、共通しているのはベンチャー支援をしてこられた経験だ。「ベンチャー支援でやるべきこと」そして「独特の経営論」までをほぼノーカットでお届けしましょう。

スタートアップ支援対談

さくらインターネット 田中邦裕代表取締役社長
 ITインフラ大手・さくらインターネットを'96年、高等専門学校在学中に創業。サーバーを一定期間で無償提供するなどスタートアップの支援を積極的に行なう。コミュニティーイベントにも積極的に参加し、起業家や開発者に豊富な経験を伝えている。

スタートアップ支援対談

C Channel 森川亮代表取締役社長
 LINE前社長として、メッセージングアプリ・LINEを世界的サービスに導く。現在、縦長動画コミュニティーサイト『C Channel』運営する傍ら、FiNCやマネーフォワード、トークノート、ネオキャリアなどの社外取締役、戦略顧問としてスタートアップ企業に参画するかたちで支援を行なう。

 今回は両氏にスタートアップ支援をテーマにしてざっくばらんに語り合っていただいた。支援の背景にある自身の体験や思想、支援先経営者との付き合い方、成功するスタートアップの経営者像など話題は多岐にわたり、最終的には自身の経営哲学にまで話が行き着いた。豊富な経験をもち、数多くのスタートアップ企業と付き合っている両氏の言葉からは、日本のスタートアップ業界の現在が見えてくる。

スタートアップが成功するための十分条件

――田中さんはスタートアップの支援に当たっては「ヒト・モノ・カネのうち、ヒトとモノを支援する」とよく発言してらっしゃいますよね。その背景にある考えはどういうものなんでしょう?

田中:よくビジネスコンテストの審査員をさせていただいているのですが、そこで必ず話すのは「ビジネスプランというのは成功のための必要条件であって、十分条件ではない」ということなんです。会社の理念とかビジネスプラン、フレームワークといった必要条件はたくさんあって、じつは資金(カネ)というのも必要条件でしかない。では何が十分条件なのかと言うと、ヒトだろうと思うのです。さまざまな必要条件を成し遂げようという“熱量”をもつヒトがいないと、成功にはたどり着けないんですね。

森川:なるほど。ヒトの支援というのは、具体的にはどういうことなんでしょう。自社の社員を派遣したりとか、そういったことですか?

田中:そうではなくて、スタートアップが必要とするヒトと“出会える場所”を用意するという感じでしょうか。イベントを開催して、コーチングやティーチングをできる人たちとの交流を図っていくといったことが中心ですね。この業務には私自身も積極的に関わりますし、社員が担当することも多いです。あとは“さくらクラブ”というユーザーが立ち上げたコミュニティーもあって、このコミュニティーの中からスタートアップのサポートをできる人たちに無償で動いていただいています。この人たちはそれほど主体的に関与するわけではないんですが、馬が合う人同士がよい具合に出会うと、スタートアップが抱えている問題が一気に解決することもあります。

スタートアップ支援対談
↑さくらクラブはさくらインターネットのユーザーが立ち上げた参加型コミュニティー。イベントはユーザーが自主的に行なっており、さくらインターネット自身も支援している。田中社長も参加した6月に行なわれた、鹿児島でのさくらクラブの様子。

森川:ヒトが大切だという確信は、何をきっかけにして得たんですか?

田中:私自身が創業から現在までに、いろんな人に出会えて本当によかったなということを強く感じているからですね。たとえば、小笠原治さん(株式会社ABBALab代表取締役、さくらインターネットの創業メンバー、2015年8月よりさくらインターネットへフェローとして再ジョイン)に出会ったのは、私が20歳で彼が26歳のとき。彼がベンチャーキャピタルを紹介してくれて、資金調達ができて、そのおかげで上場も果たし、その後も会社として成長できました。
 私自身は技術者ですし、そもそもそういう発想すらなかったんですね。ひとりだったら上場という方向には行かなかったかもしれない。行っていたとしても失敗していただろうなと。だから、出会いをもらえたのが最大の支援だったというふうに考えているんです。

支援する側が気を付けていることとは?

――森川さんは社外役員を引き受けるというかたちで、数多くのスタートアップを支援しておられます。支援先はさまざまに業態が異なりますが、共通項のようなものは何かあるんでしょうか

森川:LINEを辞めるにあたっては、教育や医療、地方再生など、日本の課題を解決するような仕事をしたいという思いがありました。ただ僕自身にはその実績がないし時間もかかりそうなので、まずはそういう課題と向き合っている人たちのお手伝いをできたらいいなと思って、支援をし始めたんです。まあ、いまはそうでない企業も引き受けすぎて、ちょっと広げ過ぎてしまったかなという感もありますけど。

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↑森川氏は2015年3月末にはトークノート、マネーフォワード、ネオキャリア、ヴォラーレの社外取締役など複数のスタートアップに参画した。写真はFiNCの戦略顧問就任時のもの、左からFiNC乗松文夫代表取締役副社長CFO 、森川亮戦略顧問、溝口勇児代表取締役社長 CEO。

田中:スタートアップに対しては、どういう姿勢で接しているんでしょう。何かポリシーのようなものはありますか?

森川:やっぱり“言い過ぎ”はダメですよね。じつは、最初は僕も経営に関していろいろと口を出していたんですよ。
 でもそうすると、相手が僕に依存するようになってしまったりして、あくまで僕は社外の人間であって、本来は経営者が自ら判断しないといけないのに、それをしなくなってしまうんです。だから、いまはなるべく選択肢をアドバイスするようにしています。なんらかのアクションに対するメリットとデメリットの両方を提示したりとか、客観性を提供するような感じですね。

田中:それはわかります。こちらの“思い”を入れ込み過ぎてもうまく行きませんね。

森川:それで相手の思いとぶつかってしまっても、本当に意味がないんですね。もちろん、僕がその会社の内部の人間だったら、それもアリなんですけど。だから、思いを抜きにして“材料”を用意するような役割を意識しています。言うなれば顧問に近いです。結局は、経営者がその材料を使って自分で判断しないとダメなんですよ。

田中:同感です。経営者の熱量というのは自分で生み出すものであって、他人から与えられるものではないですよね。誰かがヒトのつながりをつくってあげれば、熱量って勝手にどんどん上がっていくんです。

森川:おっしゃるとおり。逆に、そこで熱量が上がらない経営者はダメでしょう。そういう人は僕に対して「成功するための答えがあるに違いない」と期待するんだけど、答えなんていうものは自分で探して、自分でつくらないといけないんですよね。

田中:たしかに「こうすれば失敗する」というのは教えられても、「こうすれば成功する」というのは教えられないですね。成功するには自分で熱量を上げて、あきらめずにやり続けるしかないのだと思います。

社長があきらめない限り、基本的に会社は倒産しない

――さくらインターネットがスタートアップに対して支援するかどうかを決めるときは、どんなプロセスがあるのですか?

田中:じつは、私だけで判断することはあまりなくて、社員や私の周囲にいる人たちの意見を聞いて選んでいます。その人たちに「この会社はすごくよいんですよ!」と言わせるチカラを重視しているんですね。もちろん、私自身がファンになる会社もあります。みんながよいと思う会社をそれぞれ出して、みんなで決めている感じです。

森川:田中さん自身は、どういう会社がよい会社だと思われますか?

田中:まずは社長のモチベーションというか、熱量が高いことが重要です。それから最近よく思うのは、社長が寛容な人であることも大事だなということです。というのは、社員がクリエイティビティーを発揮できるような仕事の進め方をしていればよい人材が自然と集まって、結果として社内の熱量が高まります。先ほど言ったように成功のための必要条件は外からでも与えられるので、熱量という十分条件を自分たちでつくり出せるというのは非常に重要ですね。

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森川:「なぜこのビジネスをやりたいのか」というのを自分の言葉で語れるかどうかがいちばん大事ですよね。僕があまりよくないなと思うのは、起業コンテストでビジネスプランを出すけれど「自分ではやる気がないです」みたいなことを言う人(笑)。あれはよくない。

田中:ああ、わかります(笑)。ところで、森川さんに社外役員への就任を依頼してくる人たちの中には、断わっても何度も頼んでくるような人もいると思うんです。そういうある種の“しつこさ”みたいな資質は、経営者には必要でしょうか?

森川:僕の経験上、粘り強い人は、事業でもなんとかすることが多いのかなという気はしますね。

田中:私も、それは同じように感じています。というのも、社長があきらめると会社はつぶれるんですね。逆に、あきらめなければ倒産はしない。お金がなくても、社長が本当になんとかしようと動いていたら、誰かが貸してくれるじゃないですか。

森川:たしかに、そうですよね。

田中:さくらインターネットも、過去に何度か山場を乗り越えてきました。だから、社長に続ける気があれば会社はつぶれないというのは実感として強くあります。

 上場にしたって3回失敗していて、4回目でやっと成功したんですね。だから「上場するにはどうすればいいんでしょうか?」と相談されたときには「あきらめないことです」と答えるようにしています。

社外からは“家政婦の距離感”がちょうどよい

――森川さんにお聞きしたいのですが、LINEにおられたときの社内プロジェクトへの関わり方と、いまの社外役員としてのスタートアップへの関わり方では、距離感などに違いはあるのでしょうか?

森川:距離感には違いがありますね。会社を家族にたとえた場合、社外役員というのは家政婦さんのような役割だと思っています。夫婦がケンカをしていてもあまり積極的に仲裁に入ったり、どちらかに肩入れするわけにはいかない。一方で、LINE時代は父親とか祖父のような役割でした。息子が何かに取り組んでいたら、そっと手紙を書いて置いておいたり、ときには叱ったりもする。

田中:おお、なるほど。“家政婦の距離感”というのは、言い得て妙ですね。私も基本的に、支援先とは仲良くはしますが、ベッタリとしたお付き合いはしないですね。あと何かを相談されて答えるときは、どんなことに気を付けていますか?

森川:「これが正しい」という言い方はしないようにしています。先ほども話したように、あくまで判断の材料を用意するという意識です。でも、だからこそ、意志決定しない社長にはときどきイライラしてしまいますね。「何も決めないんだったら、聞かないでよ!」って。

田中:私も支援している社長さんには「遠慮はしないで、配慮は最大限してください」と言っています。遠慮をする社長さんは多いんですね。あとは、本当は答えが自分の中にあるのに選択できないでいる人には、その選択を促すこともあります。

森川:それ、わかります。恋愛相談みたいになったらダメ。「ボク、あの子を好きなんでしょうかね?」とか言われても(笑)。

田中:「好きなら付き合えばいいし、嫌いなんだったら別れたほうがいいよ」としか言えない(笑)。

森川:やっぱり内面というか、社内で決めるべきことを相談するのは社外役員ではないと思いますし、僕にできることは客観的なアドバイスだけなんですね。

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競合の戦意を喪失させる”草食系”経営術

田中:いまの話で改めて気づいたのですが、経営者にとっては決めるべき事柄を把握して、ちゃんと優先順位をつけられる能力はとても大切ですね。重要なことを放置していながら、たいして重要でないことに時間を割いている経営者ってけっこういるんですよ。

森川:「年末の忘年会をどうしよう?」とかね(笑)。

田中:あとは「競合他社に誹謗中傷されたからどうしよう?」とかも。「いや、気になるだろうけど、それっていますぐに対処することかな?」と言いたくなる。じつはいまさくらインターネットでは、全社員を巻き込んで「会社のブランドをこれからどうして行こうか」という話し合いをしていまして。その中で出た自社のイメージに対する意見が「敵がいない感じだよね」というものだったんです。私たちは「敵をつくらないで、いつのまにか相手の上を行く」という部分を大事にしているんです。

森川:敵と戦うのではなく、自分との戦いだったらいいと思うんですよね。他人と戦ってもムダなんです。

田中:たしかに、そうですね。私も、ビジネスで何か問題があるとしたら社外ではなく、社内にあるはずだと思うようにしています。他社がどう動くかなんて、自分でコントロールできないじゃないですか。ですから「他人と過去は変えられないんだから、あきらめよう」と社内でもよく言っています。

森川:戦いをしかけていい相手なんていないんです。だから、戦わずして上回る、あるいは相手の戦意の喪失を狙うべきだと思います。

田中:ああ、“戦意の喪失”は良いキーワードですね。さくらインターネットも、新サービスを開始するときにはものすごく安い料金で提供するんです。それこそ、競合がマネしたくなくなるレベルの値付けです。でも、技術の進歩によってコストは絶対に下がるだろうという確信があって、実際に5年くらい続けていると確実に儲かるようになるんですね。

森川:理にかなっていると思います。基本的にふつうは“儲からないこと”はやらないんです。だから、あえてそれをやるということは、戦わずして相手を上回ることにつながるでしょうね。

田中:短期的に見ると利益が減るから、株主には怒られたりもするんです。でも、サービス開始から3、4年経つと利益が出るようになって、結果的に株価も上がるということがあります。重要なのは、目先の損得にこだわることじゃなくて、お客様の満足度をしっかりと上げていくことですよね。それができれば、少なくともサービスの維持はできます。

森川:それをやられると、競合企業は戦意を喪失するでしょうね。それが“草食系”的なやり方の極意なんだと思います。

田中:なるほど。これまでお客様と社員の満足度を上げれば結果的に会社としても利益が出て、株主も含めたみんながハッピーになるという信念をもって経営してきましたが、今後も続けていこうと思います。今日は有意義な時間をありがとうございました。

森川:こちらこそ、ありがとうございました。

取材協力:さくらインターネット

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