Tetris Lamp |
David |
「勃興期が好きなんです。ぼくがゲーム会社に入ったのも、新しいものをどんどん生みだせる開拓しがいのあるタイミング。個人や少人数で作ったものがプロの作品と勝負できた。当時は『ゲーム業界』という言葉すらなかった。『ぷよぷよ』をつくったのもちょうどそういう時期でした。」
そう語るのは、かつてコンパイルに所属し、『魔導物語』や『ぷよぷよ』といったタイトルを生み出したゲームクリエイター/ライターの米光一成氏。たまたま参加した勉強会でお伺いした同氏のお話。マッドマックス批評や出版社のアプリ=電子書籍説などいろいろな話題があったが、個人的にはゲームに関する部分が面白かった。せっかくなので、一部をみなさんにもお伝えしたい。
新人ライターは「プチ専門」をもつべき
米光氏はゲームデザイナーだけではなく、現在は宣伝会議「編集ライター養成講座 上級コース」の専任講師や、エキサイトでのレビューコーナー『エキレビ』を受け持つなどライターとしての顔ももつ。
お話を聞いた当日は、編集者やライターの育成を行っている立場から講談。ライター・編集者育成にあたって何が必要かと問われ、わかりやすく生徒のスキルを上げるきっかけとして、「プチ専門を持つべき」だと説いていた。
「プチ専門」とは何か。それは、世の中の一般に専門家がいるとされるジャンルを避けて特定のジャンルへ特化する、いわばニッチな攻め方だ。
文章を書く仕事であるライターという職業上、得意なジャンルははっきりしていたほうがいい。ただし、人気の分野はすでに多くのベテランや書き手がいる。
そこで、まずは1つのプチ専門を決めて自分なりに掘り下げていくことで、得意な分野を作られるのだという(例えば、米光氏はコックリさん同好研究調査会の会長を務めている。ただし会員は米光氏一人だけ)。個人的な興味があって、専門家がいないジャンルであればなんでもよい。
実際の指導でも、生徒さんは書きたいテーマがあると習熟が早いようだ。自分の得意なテーマで原稿が書けるようになれば、そこにとどまりつづける必要はない。もともとの場所で読まれるテクニックが身につけば、自然と扱うジャンルが広がっていくという。
あまりにニッチすぎるテーマでは、マッチングさせるべき読者がいなくなってしまうのでは? という問いには「無理にマッチングさせなくていいんじゃないかな。10人読者がいればいい」と語る。
「詳しくなってくると隣接するジャンルもくっついてくる。たとえば、こっくりさんを調べていくとコミュニケーションの問題や、学校の問題と絡んでくる。近いネタが話題になっているときに結び付けられます。実際、キュッとしぼったテーマを持つ専門家になれたあとは、扱う分野が広がっていく人を多く見てきました」
「こっくりさん研究同好調査会は、こっくりさんを研究して同好して調査する会の報告の記録である」米光氏が立ち上げた報告記録サイト。 |
テトリス0.7になってしまうのはイヤだった
得意分野ははっきりさせたほうがやりやすい。同様の「プチ専門」はゲーム開発にも言えるのか。『魔導物語』や『ぷよぷよ』は、どのようなアプローチで攻めてみたのかを尋ねてみた。
「ピュアにものをつくる人は、すでにあるものじゃなくてフレッシュなものをつくりたいと思う。ニッチを狙うわけじゃない」と米光氏。
「実際『ぷよぷよ』は、『テトリス』が出たあとのタイトルです。落ちゲーをつくってくれという社内的な要請から生まれたものでした。ただし、そのまま進めてテトリス0.7になってしまうのはイヤだった」
そこで米光氏は、テトリスに関連する要素を全て洗い出し、”テトリスの好きな部分”をキーワードとして書き出しマッピングしてみたのだという。そのなかで「テトリスの特徴」を決定づける1つのキーワードとして出たのが、「ソリッド」という言葉だった。
「固いものが落ちてくるイメージ、数学的なブロックのパターン、列が一直線で消える点など、そのような部分こそテトリス好きが感じる最もコアな部分だととらえました」
この一番の核であるソリッドを捨てよう。反対にしてやろう。やわらかいもの、ゆるいあり方をキーワードに組み立て直すと、オセロのようにすべてがパタパタとひっくり返った。
「同じ落ちゲーと呼ばれるジャンルにはなりますが、それまでのものとは一線を画す作りとなりました。連鎖の際の愉快な声やゆるいキャラクターデザインだけではありません。システム面でもブロックがまっすぐ並ぶと消えるのではなく、ぷよぷよは途中でぐねぐね曲がってもよかった。人と対戦するというのも、ソリッドじゃなくてソフトなイメージです」
2015年はぷよぷよ24(ぷよ)周年のアニバーサリーイヤーだったりもする。昨年には、テトリスとの共演が話題になった『ぷよぷよ テトリス』というタイトルも。 |
今再び個人が作るモノの可能性が取りざたされている
現状のスマホを中心とするゲームの状況についても聞いてみた。例えばすでにスマホゲームの主流となっている『パズルアンドドラゴンズ』や、最近の『ねこあつめ』のヒットなどは、どのように映っているのか。
米光氏は「『パズドラ』はゲームとしてすごく好き」だと語った。
リリースされた当時、スマートフォンのゲームは、今のように「ゲームらしいゲーム」(米光氏)があまりなかった。
「パズドラはある種家庭用ゲーム機のおもしろさを持っています。しかも、タッチパネルでちゃんと遊ぶように作られたシステムになっている。家庭用ゲーム機の操作体系を強引にタッチパネルに変換したようなシロモノじゃない。これが売れてくれると、昔からのゲーム業界の人がスマホでも作りはじめるんじゃないかと思いました」
ただし、パズドラなどのヒット作が生まれたあとでの現状には残念なところもあるようだ。売れた結果、注目が集まり、さらにはさまざま人が集まってくる。ゲームに対して愛のない人もいる。だがそのなかでも面白いものが出る可能性に米光氏は期待を寄せている。
「スマートフォンで個人がゲーム作れる流れも大きくなっています。(勃興期のように)もう一度個人でゲームが出せる時代になっているので、面白いゲームが今後いろいろ出てきますよ。スマホゲームはもちろん、PCで作ってPCで販売するようなすそ野の広がりにも期待しています」
そういえば話題になっている『ねこあつめ』も、開発者の人が空いた時間で作っていたことを思い出した。興味がある人はぜひ関連記事をご一読あれ |
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