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口コミメディアの実験場 米「バズフィード」ができるまで:仮想報道

仮想報道

電子版週刊アスキーにて好評連載中の「仮想報道」よりバックナンバーをピックアップしてお届けします。2014年に公開されたニューヨークタイムズの内部資料から、メディアのデジタル化についてお届けした前回はこちらから。※一部内容は連載当時のままです。

Vol.854 日本進出が近いアメリカの有力サイト「バズフィード」

(週刊アスキー2014/12/23号 No.1008より)

ネットのニュースサイト変革の旗手

 ニューヨークタイムズが、ネットの競合相手のメディア企業に取材してまとめたレポートを前回取りあげた。このレポートでも注目すべき企業のひとつとされていたのがバズフィードだ。

 このサイトもサイト創立者も、ニュースサイト変革の旗手ともいえる存在で、とてもおもしろい。

 バズフィードはソーシャル・ネットワークによって成り立っているようなメディアだ。月間1億5000万を超える利用者がいるそうだが、その半分がフェイスブックなどのソーシャルメディアからの流入だ。

 たとえばニューヨークタイムズのサイトはソーシャルメディアからの流入が20パーセントほど。朝日新聞のサイトなどは11パーセントしかない。朝日新聞と組んで日本進出をしたハフィントンポストもネット上で話題になって流入してくる利用者の多いサイトだが、それでも米国版サイトのソーシャルメディアからの流入は32パーセントにすぎない。バズフィードがいかにソーシャルからの流入が多いかわかる。

 検索からの流入は逆に少なくて、12パーセントほどしかいない。ニューヨークタイムズは23パーセント、朝日新聞は36パーセント、ハフィントンポストも30パーセント。メディアサイトは3割ぐらいが検索からの流入のことが多いと言われているが、バズフィードは少ない。「検索の時代」から「ソーシャルの時代」への移行を象徴しているようなサイトだ。

「もしそれが大事なニュースだったら、ニュースのほうが私を見つけてくれるよ」――とショッキングなことを学生が言ったとばかりにニューヨークタイムズが記事にしたのは2008年のことだった。ソーシャルメディアにアクセスしていれば、必要なニュースが自然に手に入る。そう思われだしてからずいぶん経つが、バズフィードはそうしたトレンドのうえにアクセスを伸ばしてきた。

 日本でも最近ネットのニュースサイトで「○○のための12の方法」とか「○○になった7つの理由」といった箇条書きの記事がよく見られる。「リスティクル」と呼ばれるこうした記事を流行らせたのもバズフィードだ。私自身は、こうした形式の記事をそれほどおもしろいとは思えないのだが、バズフィード成功のカギのひとつと見られている。

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バズフィードは社員をどんどん増やし、500人を超えるまでになっている。今年8月バズフィードは5000万ドルの投資を受けたが、資金を出したアンドリーセン・ホロウィッツは、バズフィードには8億5000万ドルの価値があると見積もったという。
バズフィードのサイト

ハフィントンポスト成功の立て役者

 バズフィードの創立者ジョナ・ペレッティは、じつはハフィントンポストの創立メンバーで、同サイト急成長の立て役者でもある。

 ハフィントンポストも、ネットの情報拡散機能をうまく使い、当初ライバルと目された右派のドラッジ・レポートなどをたちまち抜き、トップクラスのリベラル派ニュースサイトの地位を占めた。

 創立者はアリアナ・ハフィントンという女性で、設立当時50代半ばだった。ネット世代というわけでもないのにずいぶんネットに長たけた女性だなと思った。ジャーナリズム志向の強い人生を送ってきてITにとくに詳しいようでもなかったから、ちょっと不思議だった。ハフィントンポストがソーシャル機能を駆使して躍進できたのには、ペレッティの果たした役割が大きかったにちがいない。

 先にデスクトップのサイト利用者の数を書いたが、このサイトが力を注いでいるのはじつはモバイルだ。バズフィードの利用者の7割以上がモバイルだという。

 下段のデータサイト「シミュラーウェブ」によれば、バズフィードは、アメリカのニュース・アプリのなかで5位になっている(ハフィントンポストが35位、ニューヨークタイムズが12位)。アメリカだけではなくてイギリス7位、カナダ5位、非英語圏でもドイツ7位と、かなりの国で有力なニュース・アプリになっている。いずれのサイトも複数のアプリを出しているので単純な比較はできないが、バズフィードはニュース・アプリとしても大きなシェアを持っている。

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バズフィードは、ソーシャルメディアからの流入が49.64パーセントにもなっている。検索からの流入は12.42パーセントにすぎない(最近3か月のデスクトップのデータ)。
SimilarWebによるバズフィードへの流入の割合

難読症の子どもからネットの寵児へ

 創立者のペレッティは、バイラルとかバズと呼ばれるネットの口コミ機能の申し子のような人物だ。

 イタリア系で、父親は公選弁護人、母親は教師というからインテリ家族だったわけだが、子どものときには難読症だったらしい。トム・クルーズやスピルバーグもそうだが、難読症患者は文字を読むスピードが極端に遅い。しかし、病気と見られないことも多く、ペレッティの教師は彼のことを怠け者と見なしていたという。

 読むのが苦手なので、音声読み上げソフトが役に立つ。おそらくそのせいもあったのだろうが、ペレッティは、コンピューター好きだった。学生時代も夏休みなどは、コンピューターを直したり、教えたりしてお金を稼いだという。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で環境学を学んだあとも、ニューオリンズで子どもたちにコンピューターを教えた。

 20代半ばでMITのメディアラボに入り、教育と技術について研究した。そこで彼は、ネットのバイラルの威力を身をもって知ることになる。

 '90年代後半スポーツシューズ・メーカーのナイキは、中国やベトナムの発注先工場で子どもも含めた労働者を劣悪な環境のもとに働かせていると批判された。そのナイキは、シューズのカスタムメイドのサービスをしていた。ペレッティは、「搾取工場」とプリントしてくれるよう頼んだところ拒まれた。カスタマーサポートに文句を言ったりしたやり取りをメールに書いて友だち何人かに送ったところ、それが次々と転送されてあっという間に広がった。そして、メディアにまで取り上げられ始めた。

 ワイアード誌によれば、ビレッジ・ボイス、タイム、ガーディアン、スラッシュドット、サロンといったメジャーなメディアまで含まれていたという。オーストラリア、アジア、アフリカ、南米など世界各地からも1日500通ものメールが届くようになった。そればかりか、NBCのテレビショーに呼ばれ、ナイキの幹部と対談することになった。ペレッティはこうして一躍、有名人になった。これは2001年、まだフェイスブックもツイッターも生まれていないソーシャル前夜のことだ。

 ペレッティはその後、ニューヨークにあるニューテクノロジーやメディアアートのセンター「アイビーム」に移り、当時コロンビア大学教授だったダンカン・ワッツに会う。

 ワッツは、スモール・ワールド研究の第一人者だ。6人経由すると世界中の人に届くという研究などから始まったスモール・ワールド研究は口コミの威力を裏づけするもので、ネットの時代になってきわめて重要な分野になってきた。ペレッティはその第一人者のワッツと歳も近く、大いに刺激を受けたにちがいない。バイラルの洗礼を受け、その理論的背景などにも詳しくなり、彼はバイラルにますます関心を深めた。

 アリアナ・ハフィントンに会い、ハフィントンポストの立ち上げに加わる一方で、2006年にはバズフィード・ラボを設立する。これはバイラル研究のための組織だった。つまりバズフィードは、もともとバイラルの実践的研究のために生まれた。リスティクルなどもこうしたバイラル研究の成果なのだろう。

 2011年、AOLがハフィントンポストを買収したことによってペレッティに転機が訪れる。ハフィントンポストを離れ、バズフィードに専念することにした。ジャーナリストを雇い、調査報道なども手がける本格的なニュースメディアにバズフィードを転身させていくのだが、それについてはまた次回。

Afterword
ペレッティは、バズフィードのことを、人びとが情報をどのように共有し、広めていくかについて理解するためのプラットフォームと見ている。多くの利用者とは違ったふうに見ているかもしれないと言っている。彼にとっては、バズフィードはいまだにバイラルの実験場でもあるのだろう。

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●関連サイト
歌田明弘の『地球村の事件簿』

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