みなさん、こんにちは。いまは週刊アスキーの吉田でございます。さて6月30日にアマゾンジャパンの会議室で、Cocos2d-xの開発元であるChukong Technologies Japanが主催するイベント「Cocos2d-x Talks #4」が開催されましたよ。今回のそのレポートをお届けします。
4回目となる「Cocos2d-x Talks」の会場は、東京・目黒にあるアマゾンジャパンの会議室。 |
Cocos2d-x最新情報
まずは「Cocos2d-x最新情報」としてChukong Technologies Japanの開発部でプロダクトマネージャーを務める野下氏が登壇しました。Cocos2d-xは現在、v3.7β0がリリースされていることや、日本語サイトをリニューアルしたことなどに触れました。
Chukong Technologies Japanで開発部プロダクトマネージャーを務める野下彰太氏。 |
Coco2d-xの3D機能についても紹介されました。1つが3D Physicsと呼ばれるAPIで、具体的には3D物理演算を利用できるライブラリが搭載され、モジュールやスプライト、地形などの3D化が可能になります。
Cocos-2d-x v3.7β0の3D機能。2dという名称から2Dゲーム開発環境と思われがちですが、最近のバージョンでは3D関連機能もどんどん強化されています。 |
しかも、Physics3D Testと呼ばれるテスト環境も用意されプログラミングした内容をプレビューできます。
Physics3D Testと呼ばれるテスト環境で、3D描画をチェックできます。 |
3D Navigation meshと呼ばれるAPIも搭載され、キャラクターが3D空間を移動するときの最適なパスを求められるようになります。こちらもNavigation Mesh Testと呼ばれるテスト環境が用意されています。
Navigation Mesh Testに、キャラクターや障害物を配置することでその動きをチェック可能です。 |
3つ目がMaterial systemで、オブジェクトに対してさまざまな効果を適用できます。
Material systemを利用することで、さまざまなエフェクトやメッシュを適用できます。 |
そのほか、Cocos2d-xのロードマップも紹介されました。現在は別の開発環境であるCocos2d-JSが、v3.7でCocos2d-xに統合されます。これにより、Cocos2d-xでは、従来のC++、Luaに加えてJavaScriptの計3つのプログラミング言語を扱えるようになります。また、JavaScriptに対応したことでCocos2d-xでウェブアプリの開発も容易になるようです。
Cocos2d-x v3.x系のロードマップ。v3.7ではCocos2d-JSが統合されることになります。 |
なお、野下氏が講演に使ったスライドはslideshareで公開されているので、詳細が知りたい人はチェックしてみてください。
ヒットするカジュアルゲームの作りかた
次に登壇したのは、「もやしびと」などの大ヒットゲームで有名な(株)GOODROIDでCTOを務める永石氏が登壇しました。
GOODROIDで取締役CTOを務める永石裕樹氏。 |
GOODROIDでは、ソースコードのバージョン管理に「GitHub」、開発管理に「Redmine」、βテスト配信に「EMlauncher」、CI環境に「Jenkins」を利用しているとのこと。CI環境とは、ソースコードに変更があった場合に自動的にチェックアウトとビルドを実行し、各種検証ツールで自動検証した結果をフィードバックしてくれるシステムです。
GOODROIDのアプリ開発では、各種管理ツールをフル活用しているそうです。 |
また、Cocos2d-xを利用しているアプリも紹介されました。具体的には、「ゆかいなエヅプト炎上」「サクサクメモリちゃん」「爽快フレッシュ!ちちねこぐらし」などがCocos2d-xで開発されています。
赤字がCocos2d-xで開発されているアプリ。 |
では同社の代表作である「もやしびと」はどうかというと、WebViewで開発されたそうです。ほとんどの部分がJavaScriptで動いているため、パフォーマンスの限界や端末依存という問題があるとのこと。端末によって描画処理などに差が出てしまうとゲームバランスが崩れかねないので、これは開発の悩みのタネですね。
大ヒット作「もやしびと」は実はWebViewで作られています。つまり、ウェブページと変わらない作りです。 |
前述のように「ゆかいなエヅプト炎上」はCocos2d-xで開発されており、具体的にはCoco2d-x v3.2とCocos Studioが使われているそうです。
「ゆかいなエヅプト炎上」はCocos2d-xで開発。 |
「サクサクメモリちゃん」もCoco2d-x v3.2で開発されましたが、App Storeではメモリー解放系のアプリはリジェクトになるようで、現在ではAndroid版のみの提供となっているとのこと。
一時は一世を風靡したメモリー解放系アプリは、App Storeでリジェクトされるそうです。GOODROIDの「サクサクメモリちゃん」のその1つ。 |
「爽快フレッシュ!ちちねこぐらし」は、バージョンが上がりはCoco2d-x v3.4での開発。こちらは「大人の事情」でAndroid版のみのリリースだそうです。
これぐらいならApp Storeの審査に通りそうな気もしますが、「爽快フレッシュ!ちちねこぐらし」はAndroid版のみの提供。 |
ここまでのアプリを見ると相当ユルイ会社のように見えますが、「SLUSH -閃きと直感の爽快パズル-」といった本格的なパズルゲームや、気分や場所を決めることで好きな曲をライブバージョンに変身させる「LIVE YOU」といった音楽アプリなどもリリースしています。
GOODROIDはカジュアルゲームだけでなく、パズル系や音楽系のゲームも開発しています。 |
SDK導入・多チャンネル対応を容易にするAnySDK
3人目の登壇者は、Chukong Technologies Japanでエンジニアリングディレクターを務める清水氏。中国で先行導入されている「Any SDK」の日本語版対応についての説明がありました。
Chukong Technologies Japanでエンジニアリングディレクターを務める清水友晶氏。 |
AnySDKは、複数のアプリストアへアプリを販売する際の手間を軽減してくれる環境です。正規のGoogle Playが存在せず、50サイトを超える多種多様なAndroidのアプリストアが乱立する中国では、アプリを配信するには各アプリストアのルールに沿ったプログラミングや設定が必要ですが、AnySDKはそれらの作業をすべて吸収してくれるのが特徴です。
中国では正規のGoogle Playがないため、大小50サイトを超える独自のアプリストアが乱立しています。これらのアプリストアでのアプリ配信を強力に支援するのがAnySDKです。 |
App Store、Google Playとも正規ストアがある日本では関係ないように思われますが、アマゾンが販売するKindle Fire HDなどのFire OS端末は「Amazon Androidアプリストア」からアプリをダウンロードするようになっていますね。そのほか、小規模ですが端末メーカー各社のアプリストアもあります。
AnySDKがない環境では、アプリストアごとのSDKを利用したり、登録したりといった作業が必要です。 |
AnySDKを利用すれば、開発したアプリを各アプリにストアに登録するだけでリリースが可能になります。 |
つまり、国内のAndroidマーケットでもAnySDKを利用することで、各アプリストアのルールなどを意識せずに複数のマーケットにアプリを同時配信できるわけです。
AnySDKを使わない場合は、ストアごとにアプリのビルドが必要です。 |
AnySDKを利用すればビルドは1回きりで、AnySDKが各アプリストアに適した状態でアプリを生成してくれます。 |
AnySDKを使ったペイメントチェックも可能です。 |
なお、清水氏が講演に使ったスライドはslideshareで公開されているので、詳細が知りたい人はチェックしてみてください。
AmazonでAndroidアプリをかんたん出品・マネタイズ
最後の登壇者は、アマゾンジャパンの野村氏と小林氏のお二人。Androidアプリ向けのAmazonアプリストアについての解説がありました。同ストアでは、Android端末および同社が販売しているFire OS搭載タブレット「Fireタブレット」シリーズ向けのAndroidアプリ開発・出品についての解説がありました。Fire OSとは、決済関係をAmazonのエコシステムで完結するようにカスタマイズされたAndroidですが、Fireタブレットシリーズは既存のAndroid用アプリをそのまま利用できます。
アマゾンジャパンのアプリストア事業部でシニア・デベロッパ・マーケティング・マネージャーを務める野村信輔氏。 |
アマゾンジャパンのアプリストア事業部でソリューションアーキテクトを務める小林剛士氏。 |
プレゼンでは、3月31日にサービスインした「Amazonモバイル広告」についての紹介がありました。要するに、AdMobやiAdなどと同じ、アプリ内広告システムですね。Amazonモバイル広告では、一般的なバナー(静的バナー)のほか、エクスパンド型リッチメディアバナー、インタースティシャル広告、モードレスインタースティシャル広告なども利用可能です。エクスパンド型リッチメディアバナーとは、動画などが組み込めるバナー広告のこと。インタースティシャル広告というのは、アプリの画面遷移の間などに挿入される広告のことです。いずれも、Fire OS端末向けのAmazonアプリストアだけでなく、Google Play、App Storeでも利用可能です。
3月31日にサービスインした「Amazonモバイル広告」。iOSやAndroidでも利用可能。 |
「Amazonコイン」のメリットについても紹介されました。Amazonコインというのは、Amazonアプリストア内の仮想通貨ですが、1ポイント=1円以上の還元率なのが特徴です。具体的には、アプリ内課金で必要な金額をAmazonコインに置き換えて販売した場合、通常は1万円のアプリ内課金アイテムをユーザーは10%引きの9000円で購入できるという仕組みです。開発者側の取り分は7割で変わらないのですが、ユーザーは現金払い(実際はクレジットカード払い)よりもアイテムを安く買えるので、アイテムの売り上げアップに寄与すると思われます。
「Amazonコイン」を利用することで、開発者は手取り額を変えずにアプリ内課金アイテムなどの値下げが可能です。 |
アマゾンのエコシステムについても触れられました。賛否あるかと思いますが、基本的に決済はアマゾン内に限られるので安全です。また、Amazonアプリストア向けに配信したアプリは、Fire OS以外を搭載するAndroid端末であっても「Amazon Apps」アプリをインストールすることで、アマゾンで決済を完結できるようになります。
Kindle Fire端末では、アプリはAndroidマーケット、電子書籍はKindleストアで購入できるようになっています。 |
Amazonアプリストアで販売されたアプリは、iOSのApp Store、AndroidのGoogle Storeよりも課金率とARPU(ユーザー1人あたりの月間売上額)が高いというデータも示されました。すべてのアプリで言えることではありませんが、通常のAndroidアプリを改変せずにAmazonアプリストアで配信できるのであれば、配信するデメリットはありませんね。
「サムライディフェンダー」というゲームの課金率とARPUは、Amazonアプリストアが最も高いそうです。 |
Amazonコインの部分で触れましたが、Amazonアプリマーケットで販売されるアプリは、通常のGoogle Playにあるアプリと同様に、アプリ内課金を利用可能です。Amazonアプリマーケットでのアプリ内課金が実装が容易だそうで、なんと5つのステップだけで完了するとのこと。こちらも開発ドキュメントが日本語化されているので、困ったときも安心ですね。また、前述のAnySDKを導入すれば、これらの手間すら必要ありません。
Amazonアプリマーケットでのアプリ内課金は5ステップで実装可能。 |
Amazonアプリマーケットで配布するアプリは、「GameCircle」と呼ばれるゲームデータのランキングシステムも使えます。iPhoneでいうところの「Game Center」のようなシステムで、ゲームデータの同期のほか、アチーブメント、リーダースコアの比較などが可能です。複数のKindle Fire端末でゲームの同期も可能で、一方の端末でプレイした内容を別の端末で引き続きプレイ可能です。
Kindle Fire端末では、ゲームデータのランキングシステムとして「GameCircle」も利用可能です。 |
なお、Amazonアプリストアにアプリを配信するには、アマゾンへの開発者登録が必要になります。こちらは、Amazon.comのアカウントを持っているならそのまま利用可能とのこと(Amazon.co.jpはNG)。もちろん、日本語での登録が可能です。このあたりは、iOSよりはハードルが低いですね。
アマゾンへの開発者登録ページはAmazon.comに用意されていますが、日本語を利用可能です。 |
スゴイと感じたのは、実機がなくてもアプリのテストをウェブサービス経由で簡単に実行できる仕組み。こちらはアカウント登録なしで利用できるので、Androidアプリの開発ツールの1つとして利用してもいいかもしれません。しかも、アプリのバイナリーファイルをサイトにドラッグ&ドロップするだけです。
アカウント登録なしで利用できるアマゾンのアプリテストサービス。 |
バイナリーファイル(APKファイル)をウェブサイトにドラッグ&ドロップするだけ。 |
最後にサマリーとしてAmazonアプリストアのメリットが紹介されました。大半のAndroidアプリをそのまま配信できる点や開発関連のサイトが日本語化されておりわかりやすい点、Amazonコインによる実質的な値引きが可能な点、開発者サポートが日本語かつ無料である点などが語られました。開発者にとってはだいぶ優しい環境なので、これからアプリを開発・販売したいと考えている開発者は、Amazonアプリストアをとっかかりにするのもアリですね。
なお、Chukong Technologies Japan主催の「Cocos2d-x Talks #5」の開催も決まっています。Cocos最新情報のほか、株式会社Nagisa井上氏による「これからのカジュアルゲームに必要な企画とマネタイズのポイント」、マッチロック株式会社後藤氏による「導入が増えている!? Cocos2d-x + BISHAMON で生み出す世界」、株式会社トランスリミット高場氏、川端氏による「Brain Dots開発秘話 – Cocos2d-x3.5の物理演算システムを活用したゲーム開発 -」など盛りだくさんの内容です。もちろん、イベント終了後には懇親会もありますよ。
日時:2015年7月23日(木)19:00〜22:00
定員:80 人
参加費:無料
会場:渋谷ヒカリエ 27階 LINE株式会社(東京都渋谷区渋谷2-21-1)
応募はこちらから。
■関連サイト
Chukong Technologies
GOODROID
Amazon Androidアプリストア
アマゾン アプリ 開発者ポータル - Amazon Developer Services
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