1998年末、ジャック・マーの3回目の起業は、またもや失敗に終わった――アリババグループ創業前夜の話だ。
BtoB、BtoC、CtoCのオンライン・マーケットだけでなく、日中間最大の貿易サイト、検索、金融、クラウド事業、物流……まで手広く手がける。いまや“関係しない業界はない”とも言える中国の巨大インターネット企業が、アリババグループだ。
2014年9月、米国のニューヨーク証券取引所で上場を果たすまで、この企業の名を知る人は少なかったが、2314億ドル(約25兆円)という巨額でのIPO時の時価総額をきっかけに、“謎の怪物企業”に関する報道は増えている。
では、「アリババ」は今後何を狙っているのか、創業者ジャック・マー(現会長)とは何者なのか。創業からの来し方を見れば、その一端がつかめるかもしれない。
あまり語られることはないが、アリババの、そしてマーについて“創業前夜のエピソード”は事欠かない。だがそこには、「孫正義から資金を何億ドル獲得」といった華々しい話題とはちょっとニュアンスが異なるのだ。
●英語教員を辞め最初に立ち上げた翻訳会社では、経理の女の子に売上をごまかされ……
●花や贈答品が儲かるとわかれば、マー自ら商品が詰まった麻袋を担いで路上で販売し……
●英語ができることを見込まれ中国政府の外交員としてアメリカに派遣されたが、交渉相手が実は詐欺集団で、逆に協力要請をされ、それを拒否すると軟禁され……
「あれはハリウッド映画みたいな展開だったね。ぼくがアメリカでマフィアに追われるところなんかは特にそうだったよ。ぼくのトランクは今もハリウッドにあるよ」(ジャック・マー談)
現在の“怪物企業”や“アジアのセレブCEO”といったイメージからはほど遠い出来事に思える。だが、軟禁事件に巻き込まれたそのアメリカで、マーは“インターネット”との運命的な出会いを果たした。そこから二度のインターネット起業での失敗を経て、1999年、アリババグループの創業にいたったのだ。
そこから先は、「ベンチャー企業の成功物語」と読むこともできるが、一環してあるのは、「よりよいEコマースの生態系とプラットフォームを作り、中小企業の商売を助ける」という、マーの根本にある真摯な考えだろう。
中小企業を助けるために翻訳会社を立ち上げる、そして売上をごまかされる……といった経験も含め、マーはあらゆる失敗と、挫折・苦難を、「中小企業を助けるための電子商取引サービス」に集約させているように見える。
事業規模、事業領域、取り扱い金額といった指標からも十分にアリババの脅威と可能性は感じられるかもしれないが、アリババの本当の強さは、もっと別のところにあるのかもしれない。
マーはこうも言っている。
「ぼくたちアリババの使命は、世の中の商売をより簡単にすることです。ぼくたちがやろうとすることすべては、この目的を達成するためにあります。それを目指す以外のいかなることもぼくたちは行いません。よく人々がいぶかしげにぼくにこう訊ねてきます。“あなたは何を根拠にこういう決定を下すのですか”と。それに対してぼくはこう答えます。ぼくたちは自分たちの使命感に従ってそうするのですと。ぼくたちが新たに商品を発表するときに真っ先に考慮するのは、それが商売に役立つかということです」
ベンチャー企業としての知られざるアリババの姿に迫る、ジャック・マー初の公認本『Alibaba アリババの野望』は4月1日発売予定。
『Alibaba アリババの野望』
・著者 王利芬・李翔
・発行 株式会社KADOKAWA
・編集 角川書店
■関連サイト
KADOKAWA
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