「ゲーミングウェアラブルとトイでの境目がなくなりつつある、変化の時期にあります」と語るのはMoffの高萩代表。
米国の玩具産業協会(TIA)が発表した2015年7つの注目トレンドには、今どきの”水遊び”や『ジュラシックパーク』新作公開に向けた”恐竜”に加えて、”メイカームーブメント”や”スマートプレイ”、”テックトイ”といった言葉があった。今も昔も子どもはごっこ遊びが大好きだが、米国の最近のおもちゃではセンサーやネットワーク対応が当たり前に登場、中には人工知能まで搭載したものが出てきている。
ニューヨークで2月14日~17日に開催されたNewYork ToyFair 2015のテックトイエリアの会場風景を中心に、ウェアラブルトイ・Moffでおなじみの高萩昭範代表に最新状況を伺った。同イベントはバイヤー・メディア向けのトイ・ホビー業界の展示商談会だが、近年はウェアラブル機器にも注目が集まっており、ハードウェア関連製品が好きな人にも見逃せないイベントとなっている。冒頭の発言は高萩氏によるものだが、実際テックトイ分野のおもちゃを眺めてみると、ゲーム的な体験をリアルなおもちゃに落とし込んだものが多いことに気づくはずだ。
NewYork ToyFair 2015の会場はジェイコブ・ジャビット・センター。大きさは幕張メッセ3ホールぶんほどで、タイムズスクエアから歩ける距離にある。
「今回Moffはテックトイカテゴリに出展しました。CES同様に年々エリアが大きくなっており、申し込みからすぐに満杯になっていました」
「来場者はメディアかバイヤーが中心です。開催場所がニューヨークならではという点として大手メディアが集まりやすく、小さいイベントながら、実は全米ネットワークTV局が来ます。会場の規模のわりに米国内の大きなメディアがきてくれるので、効率よくプロモーションができるのがポイントです。Moffも、CNBC、NY1、CNET、Mashable、Yahoo Techなどの取材を受けました」
「ライセンサーも同様です。ディズニーなどキャラクター系の大手販売代理店や有名会社と話が進められます。日本から1個1個コンタクトをすると、『誰だお前は』から始まってしまうのでこちらも大変効率がいいのです。今回は、米国玩具協会の広報担当がテックトイカテゴリ要注目のスタートアップとして各メディアに紹介してくれたこともあり、事前に知ってくれていました」
Moff Bandは、加速度センサーとジャイロセンサーで動きを読み取り、ブルートゥース連携したアプリから動作に合わせた音を出すスマートトイ。アメリカ玩具協会が発表する”TOP TOY TRENDS OF 2015”の中の「TOP IN TECH」の一つとして選ばれた。「会場に来ていたCNBC(米国のニュース専門放送局)のキッズレポーターは、とある他の商品については『難しすぎてわからないから1つ星』といった辛口コメントもしていたのですが、Moff Bandについては最高の『Million Zillison Star(百万、無数の星)』と評価してくれました」
■100億円超のぶっ飛んだ資金調達をしたテックトイスタートアップ
続いて会場内の注目ブースを紹介。これらはいずれも、米国ではどのアップルショップにも置いてあるような定番のテックトイとなっている。
2013年に発売された”Anki Drive”(アンキドライブ)は、アプリからブルートゥースで操作を行うミニカーだが、既存製品との違いは人工知能を搭載している点。センサーによりコースや同時走行中の車両を検出しつつ走行し、操作者のクセやコースを学習する。ライバルを攻撃する武器を買い足すことで性能がパワーアップするなどの要素もとてもゲームっぽい。
新作となる”Anki Overdrive”では、専用のタイルを使って自分専用のコースが作れるようになった。これまでの3つの固定コースのみだったが、ジャンプ台など変化したコースを自分で組むことができる。
「Moffブースの裏側にあったアンキドライブのブースです。100億円ものぶっ飛んだ資金調達を達成し、米国でもかなりの注目株となっているテックトイスタートアップのAnkiは新製品『オーバードライブ』を発表していました。米国四大メジャー局もがんがん取材に来ます」
”Sphero”(スフィロ)は、30メートルまで離れたデバイスとブルートゥース接続して操作可能なロボティックボール。自動で転がったり、輝いたりするボール型のテックトイ。水上でのプレイも可能。
iOS、Android、Windowsに対応し、35本以上のさまざまな専用アプリが楽しめる。スマホやタブレットの画面を通して行うARやマルチプレイができるが、こちらもゲームに近い。
「こちらも大きいブース。スフィロのCEO、ポール(・バーベリアン)はMoffブースにも来てくれましたが、自然とどのメーカーのチップがいいか等の話が多くなります。完全なハードウェアガイ。(ハードウェアへの)愛があふれています」
「会話の中で自然とチップメーカー、工場、原価予想の話となってしまったりするハードウェアに対する愛に溢れている」人のことを高萩代表が勝手にハードウェアガイと呼んでいる。
「スフィロのポールもPebbleのエリック(エリック・ミジコフスキー。スマートウォッチでも注目を集めるPebbleの創業者)も自然と部品に何を使っているかの話になったことがあります。IoT系スタートアップのなかでも、俺ハード好き感が強い。日本だと(Cerevoの)岩佐さん。どこの国にも岩佐さんがいます」
続いては、クリップで繋ぐだけで通電するものならなんでもゲームのキーにしてしまうおもちゃの"メイキーメイキー"。バナナでピアノを弾いたり、粘土ボードでマリオをプレイしたり。
本来、操作性のためにパッド上にまとまったゲームコントロール用のキーに対する真逆のアプローチなおもちゃ。操作だけを外部にもっていくこと自体が遊びになってしまっている。なお、ソフトウェア部分をアプリに持っていく流行りのテックトイのなかで、ゲーム側に寄っている一例。
「製作者が後でメールをくれて『日本でローカライズしたい』と相談を受けました。興味を持った人はぜひ連絡を」
iPadと連動する知育アプリの"Tiggly"(ティグリー)。専用の型とアプリを組み合わせて、遊ばせることができる。
「実はテックトイは教育に特化したものが多いです。ティグリーはハーバードビジネススクールのMBAとコロンビア大学教育心理学の教授のスタートアップ。教育心理学に基づいていた作りこみが特徴だそうです」
「会場内に唯一国でブースをもっていたのが中国です。製造受託で国を挙げて行っています。逆に日本のトイ系メディアの方には、展示している日本人を見たのは初めてだとびっくりされました」
また会場では、クラウドファンディングのスカウトも多かったとのこと。昨年のSXSW(サウスバイサウスウェスト)やCESでは、Indigogoの担当者しか見かけなかったようだが、ニューヨーク会場ではキックスターターのスカウトマンも来ていた。「Agic・Ring・Moffのことを知っており、『日本については大変興味をもっている。日本のスタートアップもぜひ使ってくれよ』と言っていました」
■来るか? テックトイの新しい流れ
テックトイを中心に見てきたが、米国でもおもちゃのトレンドはまだまだキャラクター商品が主流となっている。おもちゃ業界自体、そもそも伝統的な流れが残っている歴史の長い業界だ。ただ、高萩代表によれば「(米国のおもちゃ業界も)キャラクターものだけでない新しい流れを作りたいと思っています。また子供のトイにも、メイカームーブメントが押し寄せてきている。3Dプリンターのおもちゃのようなものまである」という。
実際に米国では、アンキやスフィロなどが数十億円以上の規模での資金調達をしている。「日本から見ればバブルのように見えますが、そもそも約2兆円4000億円規模という北米玩具市場での桁が違いすぎる状況があります。おもちゃといっても、個人の趣味の延長といったレベルではなく、海外に向ければ一気に拡大する分野の1つ。ビジネスの面でも普遍的なものにできる分野と思っています」
ハードの制約を超えてアプリゲームは世界的に広がったが、このプラットホームの広がりを特定のハードウェアとしてアプリと結びつけるおもちゃが登場し始めている。
日本でのおもちゃ市場は完全にキャラクター中心だが、米国テックトイ分野に現れ始めている”おもちゃのIoT化”で世界的にも遊び方が変わる日がくるかもしれない。ハードウェア1つで流れが変わるような、トイでもゲームにもくくれない新しい市場に期待したい。
画像提供:Moff
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