世界有数のスマホゲーム市場となっている日本。ですが、アジア圏でのアプリの売り上げも猛烈な勢いで伸びており、特に中国市場は注目を集めています。戦国時代となっているアジアのアプリ市場に詳しいアドイノベーションの石森博光代表による最新レポートをお届けします。
2014年通期で30億ドル(およそ3000億円)規模にまで到達し、アメリカの32億ドル(およそ3200億円)に追いつく勢いの中国アプリゲーム市場。
巨大な人口に対して、これからさらに成長するであろう中国市場に参入する日本のメーカーも増えてきていますが、必ずしも全てが成功しているとは限らず、多くは苦戦している現実があります。そこで今回は、中国でリリースしているいくつかの日本発のゲームアプリの事例を見ながら、今後中国で成功するアプリの傾向を読み解いていこうと思います。
なお、2010年にGooglePlayが本土から撤退し、プラットホーマー戦国時代と化しているAndroidは今回触れず、App Storeで提供されているiOS用アプリにのみフォーカスしています。
■扩散性百万亚瑟王
まずは、中国での成功例として必ずその名が挙がる『拡散性ミリオンアーサー』です。中国App Storeでの無料ダウンロードランキングも全体で4位、ゲームカテゴリーでは最高順位3位を記録しています。
ヒットの要因は優れたコンテンツはもちろん、パートナーを組んだ”盛大ゲームス”のパブリッシング力と、事前登録会員を140万人集めたマーケティング力が非常に大きいのではないでしょうか。
盛大ゲームスは中国最大手のオンラインゲームメーカー、盛大ネットワークのゲーム部門です。ミリオンアーサーの場合、中国版ローカライズや運営、プロモーションなど、ゲームに関わる全てを仕切っており、現在ではパブリッシングパートナーとして日本のゲームを続々と中国でリリースし、その地位を固めています。
日本のゲームアプリの中国でのリリースが2013年から一気に加速しましたが、まさにそのブームの火付け役となったミリオンアーサー。パートナー選びの重要さを痛感させる事例と言えるでしょう。
(編集部注)スマートフォンアプリでの『拡散性ミリオンアーサー』は3月30日をもってゲームサービスの停止が発表となっています。中国での動向については、確認できていません。
■航海王 启航
日本のみならず韓国や台湾、欧米や一部のラテン語圏でも旋風を巻き起こしている世界的人気作品の『ワンピース』ですが、本作は『ワンピース トレジャークルーズ』を中国向けに作り直した印象が強いオリジナルゲームです。中国App Storeでのトップセールスは最高11位を記録しており、中国へ進出した日本のゲームアプリのなかでは成功例の1つとして挙げられるでしょう。
運営はDeNAの子会社である現地法人の”上海纵游网络技术有限公司”が行っているようですが、人気の理由は単なるコンテンツの人気(IP)だけでなく、配信国に合わせたアプリの改修(カルチャライズ)や、DeNAが培ったノウハウに裏付けられた堅実な運営力にもあると感じます。
■实况俱乐部
2014 FIFAワールドカップの開催を控えた5月にリリースされたコナミの『ワールドサッカーコレクションS』。同時期リリースを含めた他のサッカーゲームを抑え、開催直前に中国App Storeのアプリ全体での無料ゲームランキングで1位、アプリ全体でも4位を獲得しています。また、リリースから10ヵ月ほど経過した現在でもコンスタントに100位前後を推移しており、非常に優秀なアプリといえます。
本作が中国で支持された理由として考えられるのは、圧倒的な開発力によるゲームのクオリティーとワールドカップシーズンのタイミングを逃さなかった点が挙げられますが、自社媒体を持ち、広範囲のマーケティング能力が自慢のパートナー”ネットイージー”をコナミが選んだ点が勝因と言えそうです。ネットイージーは米国ナスダック上場企業。パブリッシャーとしては、昨年度テンセントに次ぐ数のアプリをAppStoreトップセールスベスト100以内にランクインさせています。
■Love Live! 学园偶像祭
『ラブライブ!』は『拡散性ミリオンアーサー』でその名を馳せた盛大ゲームスがパブリッシングを担当し、昨年4月のアニメ第2期は中国の動画サイトで公式配信されるやいなや人気が爆発。しかし、AppStoreトップセールス最高順位は全体で21位、ゲームカテゴリーでは20位にとどまり、最近の売上ランキングは100位前後を推移しています。
本作に関していえば、失敗の最大原因はこれもまた選択したパートナーのようです。同じく盛大ゲームスがパブリッシングを担当したセガの『チェインクロニクル』と同時期にリリースされた本作ですが、実はレビュー工作によりAppStoreからリジェクトされそうになる騒動があり、さらに同時期には盛大ゲームスの創業者が自社株を売却したことに端を発した人材流出が発生したことも要因のひとつとされています。
■怪物弹珠
日本で大ヒット中の『モンスターストライク』は、中国の三大プラットホーマーとして知られ、中国ランキングTOP100の3割を占める圧倒的存在の”テンセント”をパートナーに選びましたが、日本での実績から考えると思わしくない結果かもしれません。
App Storeのアプリ全体での無料ゲームランキングで1位、アプリ全体でも2位を記録しましたが、トップセールス最高順位が22位、最近のセールスランキングは50位から300位台を推移しており、伸び悩み感は否めません。これといった要因は見当たらないのですが、しいて言えば“ぶつける連鎖”による爽快感が中国ユーザーに刺さっていない可能性や、“本家”に類似する内容のゲームがすでに存在し、ユーザーが分散している可能性が指摘できます。
テンセントと組んでの現状では決して成功とは呼べませんが、日本ではトップクラスの数字を叩き出し続けている力を持っているゲームだけに、これからどう巻き返しを図るのか、気になるところです。
以上、日本でも話題の5作品の状況を例に挙げてみましたが、中国市場向けのパブリッシング事業を行うローカル企業は今後ますます増加することが予想されます。日本で成功を収めているタイトルが中国でも好成績を収めるには、パートナーとして親身に取り組んでくれたうえで、設定したKPIを達成できる可能性が高いパブリッシャーを選ぶことが必要不可欠です。ローカライズ、運営、マーケティング等の総合的な提案を、現地情報も含め様々な角度から検討できる目利きが今後更に重要になってくると思われます。
※中国の市場規模に関しては、世界のモバイルゲーム市場調査会社SUPERDATAの「Mobile Games Brief Digital Games Market Brief: United States & China May, 2014」を参考
※各種ランキングデータはAppAnnieを参考
■著者経歴──石森博光(いしもりひろみつ)
アドイノベーション代表取締役。スマートフォン広告事業、アプリ分析ツール事業、パブリッシング事業を世界展開中。ビジョンは広告の新しい価値を生み出し、広く伝え、人を動かし、世の中を良くすること。
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