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IoTで日本企業が勝つ方法 圧倒的に足りないのはスピードだった:CES Unveiled Tokyo

2015年02月19日 12時30分更新

CES Unveiled Tokyo 2015 Qrio西條氏、Cerevo岩佐氏

 International CESの運営団体、CEA主催によるCES Unveiled Tokyoが2月18日、東京・六本木で初開催された。そのカンファレンスのなかで、日本のIoTとモノづくりの現状をスタートアップ側の視点から討論する『スタートアップ パネル ディスカッション』は興味深かった。

 登壇したのは、CES2015にてスノーボードのビンディングをスマート化したフィットネスギア『XON SNOW−1』でTop Tech of CES2015 部門別アワードを受賞したセレボの岩佐琢磨氏と、ベンチャーキャピタルWiLの共同創業者の西條晋一氏。西條氏はソニーとのジョイントベンチャーによるスマートロック開発が話題のQrio社のCEOでもある。
 モデレーターは日経新聞の論説委員兼編集委員 関口和一氏が務めた。

CES Unveiled Tokyo 2015 Qrio西條氏、Cerevo岩佐氏

今年のCESは大企業に革新的なものがあまりなく、おとなしかった。一方、ベンチャーは存在感をあらわしていたという印象です。いまの日本の家電産業のグローバルにおける評価をどう見てますか?

岩佐
「日本のメディア(報道側)は、今後の家電産業はどうなるんだ?みたいな、ちょっとネガティブな、比較的右肩下がりなコメントが多いんですが、それって日本だけじゃないと個人的には思っています。
日本の大企業に元気がなかったという記事をよく見るけれど、そうではなくて「大企業さん」に元気がない。50インチのテレビのあとに60インチを出しましたとか、1000ルーメンのあとに1500ルーメンを出しました、というようなシリアルなイノベーションは沢山並ぶ一方で、こんな発想なかった!というようなものが全体的に少なかった。

主催者側もスタートアップのブースを盛り上げていたということも相まって、各国のスタートアップや起業10年以内の企業の勢いが全体的にあったという印象はあります。」

西條
「控え室でも、サンズという会場の小さなブースのほうがよっぽど面白かったよね、と岩佐さんと話していた。滞在期間4日間のうち、丸2日間くらいはサンズのなかを歩いていたというような状況だった。
特に(Qrioで手がけている)IoTについては、スマートホームなどのアプリケーションサイド、サービス全体、ビジネスモデル全体でサービスを考えているので、そういう視点で学べるブースがいくつかあったのは、非常に収穫だったなと思っています。」

岩佐
「今回面白い試みをして、過去2年でキックスターターとIndiegogoで一定以上の金額を集めたスタートアップをリスト化して、(彼らの)CES2015の出展ブースを全部回ってもらったんです。それは非常に面白かった。
クラウドファンディングが世界のハードウェアスタートアップシーンを盛り上げて、結果的にCES2015が盛り上がったというのはあると思う。Indiegogoやキックスターターで見たことのあるようなところは、だいたいブースを持っていましたからね」

――これから20年間の変革は、モノとか装置とか、ハードウェアとソフトウェアが結びついた大変革が起きるんじゃないか、そういう変化をとらまえられるのは大企業よりもベンチャーなんじゃないでしょうか?

岩佐
「IoTの時代が来たから、ヒュージカンパニーじゃなくスタートアップカンパニーだという論調では、僕は実は違うかなと思っていて。
大企業がリスクテークしづらいというのは、すべての企業が一緒だと思います。
スタートアップがそういう業界に入れば入るほど、イノベーションを起こすのはリスクテークがしやすいスタートアップになるというのは構造上しょうがないと思うんです。

IoTの時代になって、Bluetoothのモジュールひとつとっても、大企業の製品の中身を見ると(スタートアップと)同じものが使われている、そんな時代になっている。クアルコムのチップを買ってくるだけで、すべての機能が実装できる。だから格安スマホが簡単につくれるようになってきてスタートアップがどんどんのびてきたというのがあるんじゃないか」

西條
「ハードウェアが安くなってつくりやすくなってきた。コストが下がってきたというのはあります。(日本と海外の違いを挙げると)北米だとNest(スマートサーモスタット)やDropcam(IoTホームカメラ)といった製品が出てきて、Googleに買収されたりといった事実があります。

また、WebだとAmazonのHomeカテゴリを見ると、ホームオートメーションのカテゴリが何年も前からできている一方、日本のECサイトにはそれはない。
リアルの店舗に行っても、Lowe'sやホームデポとかBestBuyに行くと、小さいながらもIoT製品の展示がある。ところが日本の場合、一番大きいビックカメラの有楽町店に行っても、ヤマダ電機に行っても、どこにも置いていないという状況がある。

タイムマシン経営という点で、IoTで日本は遅れています。投資家・事業家という立場から見ると、ハードルが下がったのに大手もそんなにやってないし、起業家もそんなにない。日本においてはチャンスなのになぜ誰もやってないんだろう?と。
IoTの会社を10社あげろといわれたら、セレボは絶対に挙がってくる会社ですけど、ほかは思いつかない。それくらいギャップがあります。」

――当初はソフトウェアやサービスが主体なので、なかなかシリコンバレーやアメリカには勝てなかった。ところが、IoTの時代となるとモノと結びついてくる。日本にはモノづくりがあるので、日本企業には大きなチャンスではないかと期待していたんですけれども、(今年の)CESを見る限り、日本の企業は極めて鈍いという印象を受けて帰国しました。なぜ日本からセレボみたいな会社がもっと出てこないのでしょうか?

CES Unveiled Tokyo 2015 Qrio西條氏、Cerevo岩佐氏
左がWiLの西條氏、右がCerevoの岩佐氏。

岩佐
「もう1年くらい待ってほしいですね。いま僕らの周りでは、"ハードウェアスタートアップをやってみたい"という人がすごく増えていて、投資側の資金もちゃんとまわるようになってきました。僕が最初にベンチャーキャピタルから資金調達したのは2008年のリーマンショックのころ。あのころ、ハードウェアスタートアップをやろうと言うと、お前バカかと言われました。成功するわけがない、投資なんかしない、と。

 それに比べていま、投資家からハードウェアスタートアップで良い投資先ない?とか聞かれるほどになった。ここ1〜2年くらいの話だと思う。

 僕はFrom Japanというのはすごく意味があると思っています。それは愛国心ではなく、有利だから。From Japan、to Japanというのは意味がないけど、From Japan to the worldというのはすごくシンプルだなと。
日本はおそらく世界で一番、ハードウェアの「組み込み設計」「回路設計」「メカニカルデザイン」「ID」という設計の4要素のエンジニアが多い国。
アッセンブリ=ネジをしめる人なら、中国がたくさんいますし、インターネットサービスならシリコンバレー、アメリカにたくさんいます。

でも(設計の4要素は)家電のキモ。そこの人材層が多い国でハードウェアスタートアップをやれば、最初から勝てる人材を雇って、勝ちに行ける。
そのことに、もうみんな気づいてると思うので、あとはもう1−2年、時間が解決するのかなと。そう思いながら、自分自信は旗を振って、ハードウェアスタートアップをやろうよと言う話をしています。
3年前より2年前のほうが、2年前より1年前のほうが、日本発でCESなどのグローバルショーにもっていた日本のスタートアップの社数は確実に増えていますから」

――日本の電機業界、IT業界で見ると、成功しているのは楽天だったりの、どちらかというとサービスモデル。これらはアメリカ本土にロールモデル、成功モデルがあって、それを日本に持ってくるといったビジネスモデルですから、日本から出て行こうというと、必ずアメリカに本家があるのでなかなか出ていけない。
ところがハードウェアベンチャーは、ニッチかもしれないけどそこをうまく攻めればグローバルな展開ができるから、そういう意味では日本にとってはチャンスだと思うんですけれども、プレイヤーが少ない。その点はベンチャーキャピタリストの視点からどうでしょう?

西條
「プレーヤー自体は少ないんですけど、徐々にでてきているのは事実。2つモデルがあって、1つはいわゆるクパチーノモデルと呼んでるんですが、本国で設計し、台湾や中国などで製造するモデル。もう1つは、大企業とくんでやる。私が代表をしているQrioは、ソニーとのジョイベンですので、ソニーの国内工場でつくるし、国内で設計しています。
実は私は以前、スマホで使うクレジットカードリーダーの『Coiney』で中国と仕事をしたことがあるんですが、結構大変でした。
一方、ソニーとやってるスマートロックのプロジェクトは、昨年5月にこういうコトをやろうという話を始めて、夏にプロトタイプ、いま量産設計で、5月にもう発売。ものすごいスピードで速くやれている。いろいろなやり方はあるんですけど大企業の力を借りるのはありだと思います。」

――日本には人材もある、お金もある、マーケットもある。なのに、なぜプレーヤーが出てこないのか。大企業組織だからなのか、制度なのか。ベンチャーキャピタルも増えてると思いますし、いろいろな条件が揃ってきていると思いますが、何が足らないのでしょう?

西條
「まず、ベンチャーと大企業にものすごい壁があります。日本の場合、あまり転職をしないので、人材交流が少ないんです。だから、大企業に話をもっていこうにも、誰がウィンドーパーソンなのかわからないという状況があります。」

――岩佐さんは元々パナソニックの人だったわけですが、なぜ辞めて、ベンチャーをやろうとしたんですか。

岩佐
「僕が大きな会社を離れてスタートアップをつくったのはシンプルで、さっき話したように、2Kの次に4Kをつくる、60インチの次に70インチをつくるというのが性に合わなかった。もちろん、それはそれですごく重要なイノベーションです。70インチをつくるのは難しいし、80インチをつくるのはもっと難しい。4Kの先に8Kをつくるのはもっと大変ですから、それを卑下するわけではなくて。単に、好き嫌い、趣味の話です。

テクノロジーでいうと、あれだけメディアでたくさん取材していただいた、我々の『XON SNOW−1』というスノーボードのバインディングは、中に入っているテクノロジーはすごくシンプルです。体重計のセンサーとBluetooh、ベンディング(曲げ)センサーが入っているだけ。でもイノベーションですよ、と。
0 to 1か、came to 100かみたいな話をよくするんですけれど、僕は0 to 1が好きだったので、スタートアップを始めました。

うちの会社が面白いのは、元メーカー出身者がたくさんいるので、どこからでもメーカーさんに話をしにいけるところです。たとえば元ソニーのメンバーが何人かいるので、元上司を紹介してよ、ができますし、彼らの文化もよくわかっています。
(西條さんの)WiLがソニーさんとQrioをやったように、実は僕らもパナソニックさんと、CESのサンズ会場に小さなブースをつくって『Listnr』という製品を展示したんですけれども、そういったコラボも徐々に生まれてきています。

ただ、そうはいっても(プレーヤーが)出てこないというのはその通りで、出てきたら面白いよ、楽しいよというのを言っていくしかないと思っていて。人の意識が変わるのには時間がかかりますから」

――私もいろいろな産業や業界の人たちのアドバイザーもしているんですが、日本は理科系男子型のスタイルが競争力を損なっていると。優秀なんですけど、非常にまじめ。より速く、より薄くというのを(言われるがままに)やっている。世の中のトレンドが大きく変わっているのもかかわず。

日本はある意味ではデザイン力もあるし、製造力も国内に持っている。良いか悪いかはともかくとして。そういうマッチングをアメリカと中国ではなくて、日本の中でやっていくこともできるんじゃないか、と。その意味での、今後日本が成功する成長モデルについてはどうお考えですか?

西條
「日本はIoTにかぎらずベンチャーキャピタルの資金が余っています。特にシードアーリーのVCは余っています。必要なのは起業家がもっとでてくること。
そのためにはムードと成功事例が非常に重要だと思っています。(投資先のゲーム会社)gumiの國光さんのように明るくてビジョナリーな人が増えてくると良いなと。大企業とやる成功事例は自分たち(Qrio)でやって、IoTや製造の経験はなくてもできるんだよ、という成功事例をつくっていきたい。
大企業側も、いままでは中で研究開発してたけど、ベンチャー企業と組むことで、大きな成果が出れば、取り組んでみようとなるはずです。

Qrioの取り組みを始めたとき、なぜ日本からGo Proがでなかったか考えました。
ものすごいテクノロジーがのっているというより、アクションカメラという分野に集中して、プロダクトをつくって、YouTubeなどを活用したマーケティング手法がユニークでした。
(同じものを)日本の会社でできなかったかというと、モノは少なくともつくれたけれど、マーケティングやスピード感は、組織的な何かでできなかったかもしれない。」

CES Unveiled Tokyo 2015 Qrio西條氏、Cerevo岩佐氏
西條氏が手がけるソニーとのジョイントベンチャー、Qrioのスマートロック。クラウドファンディングMakuakeでは、原稿執筆時点で当初目標金額の1235%にあたる1853万7750円の出資を集めている。5月から順次出荷開始予定。

岩佐
「必要なのは、徹底的にスピードだと思います。大企業もスピード、スタートアップもスピード。ハードウェアの世界はすごくフラットで、スピードスピードスピードでやってかなきゃいけない。でも、なぜか日本の人たちは遅い。
西條さんは先ほど国内の例で大手メーカーは速いとおっしゃっていましたが、一点は正しいけど一点は違うと思います。
中国は確かに苦労します。ただ、彼らははじめるまではすごく速い。PayPalで振り込んで確認できたらすぐにスタートする。一方、日本ははじめるまでに半年検討したりする。

こんなことをいうと怒られるかもしれないですが、スポーツカムコーダーの話は、2年間検討してるうちにGo Proがあんなに大きくなっちゃったという話だと思っています。

僕としては、スタートアップから見た視点ですが、日本のメーカーさんはもっと部品メーカーよりになってほしいと思う。スタートアップの得意分野は、もっと一緒ににやってほしいなと。
工場もいま危機的で非常に厳しい状態にあると思いますが、ただコンポーネントは素晴らしい。たとえばGo Proだって、結局AmbarellaのSoCに、ソニーのCMOSでしょう。少なくともそのコンポーネントであれだけ素晴らしい商品が出ているわけです。マーケティングも、もちろん素晴らしかったわけですけど。

僕らは最近Designed in Japan、Developed in Japanと言うんですけど、デザイン・設計は全部日本でやる。最後のネジを締めるのはアジアで良い。日本の非常に優秀なコンポーネントをたくさん採用させていただいて、それをいち早くほしい。”お願いします”といったら2〜3時間でください、というようなスピード感で連携ができないか。日本の企業で力を合わせて、アジアの力を使ってつくれば、それはメイドインジャパンなんですよ。アッセンブルドインチャイナかもしれませんが。」

――アップルの例をとると実際の製造は中国でやっています。(コンポーネントが強かったとしても)製品の付加価値の相当の部分をアップルがもってしまっている。これがブランドだと思うんですが、コンポーネントだけでブランドの構築はできるのですか?

岩佐
「クアルコムさんやインテルさんはコンポーネントしかつくっていませんけれど、世界を代表するような素晴らしいブランドです。なにも製品開発をやめようという話ではなくて、IoTのようなライトウェイトでスタートできるものは、コンポーネント提供してもらいスタートアップの力をうまく使っていただいて一緒に成功する。一方でプロ向けなどはブランドをうまく使って住み分けができるんじゃないか。
もちろん、これはスタートアップ視点のポジショントークではあるんですけれど、そういう考え方を僕は持っています」

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