先日、行われたKDDIの春商戦向け新製品発表会で、注目を浴びたシャープ『AQUOS K』。“ガラケーっぽいスマホ”ということで、ギークの間でもかなり話題となった。
しかし、シャープの製品担当者によれば、AQUOS Kは“ガラケーっぽいスマホ”ではなく、あくまでスマホではなく“ガラケーの進化形”なのだという。
「いろんな見方があるのは承知していますが……。AQUOS Kはガラケーっぽいスマホではなく、ガラケーをスマートに生まれ変わらせた。スマホ時代のガラケーなんです」(シャープ 通信システム事業本部マーケティングセンター副所長 兼 プロモーション推進部長、河内厳氏)。
ここ数年、スマホユーザーが急速に増えてことで、ガラケーを愛しているユーザーが不利益を被り始めてきた。「テンキーの操作性が好きだからガラケーが手放せない」とガラケーを愛しているユーザーも周りにスマホユーザーが増え、LINEがコミュニケーションの中心になると、連絡を取り合うのにも困るシーンが出てくるのだ。
例えば、周りの友達がLINEでグループメッセージをやり取りしている中、ひとりだけケータイのメールでやりとりしないといけない。LINEはガラケーのブラウザでも利用できるが、スマホのようにリアルタイムのやり取りには不向きだ。
また、ケータイのメールに地図などのURLがリンクとして貼られていても、ガラケーだとクリックしてもちゃんと見られないという弊害もある。
AQUOS KはLINEアプリに対応している。そのため、LINEでのコミュニケーションもスマホと同様に行える。つまり、AQUOS Kは、LINEがとても使いやすいガラケーとも言えるのだ。
実は、2011年ごろシャープはAndroidを搭載した折りたたみやスライド式のガラケーっぽいデザインのスマホを投入していたことがある。
しかし、それらはタッチパネルを採用し、アプリの操作をするのにも画面を触る必要があるなど、とにかく“使いづらい”という印象でしかなかった。バッテリーも短く、完成度は低いと言わざるを得なかったのだ。
「あれはガラケーからスマホに移行してもらいたくて、作った商品だった。しかし、今回のAQUOS Kはスマホユーザーになって欲しいわけではない。フィーチャーフォンを快適に使い続けてください。フィーチャーフォンでいてくださいという位置づけ。フィーチャーフォンのなかでの選択肢といえる」(河内氏)
シャープとしては、“ガラケーユーザーが選ぶための新世代のガラケー”という位置づけでAQUOS Kを作ったのだ。
シャープがガラケーユーザーを徹底的に狙い撃ちしている背景にあるのは、ガラケーユーザーに対するアンケートやインタビュー調査での結果があった。
「いまのガラケーユーザーは、ガラケーに対して諦めてしまっている。カメラも良いものが欲しい、LINEも使いたいというので、仕方なくスマホに移行している。しかし、スマホは自分の使い方に合わないと悩んでいる。このかたちにこだわりのある人にとって、いまの時代は悩ましくなっている」(シャープ 通信システム事業本部グローバル商品企画センター戦略企画部部長 中田尋経氏)。
毎年、各キャリアからガラケーの新製品は出るものの、基本的なデザインは変わっておらず、カラーバリエーションが増えたとか、電話帳の件素が増えた程度の進化しかない。
「ガラケーを愛している人の買い換えの周期は7~8年にもなっている。どうせ買い換えするなら、進化点がないと買いたくないと我慢している。彼らはフィーチャーフォンを壊れたら同じ機種を選ぶほどこだわりをもってガラケーを使ってる」(シャープ 通信システム事業本部グローバル商品企画センター戦略企画部係長 西本望氏)
シャープの調査では、いまのガラケーユーザーは必ずしも“電話とメールしか使わないスマホに乗り遅れた人”というわけではないらしい。ネットに対するリテラシーも高く、とにかく“片手操作でケータイを使いたい”からスマホではなく、ガラケーを選んでいるとのことだ。
そこで、シャープでは、AQUOS Kを開発する上で、片手操作に徹底的にこだわった。
Androidをそのまま搭載してしまっては、操作性はガラケーと大きく変わってしまう。2011年の反省を生かし、「Androidのルールとフィーチャーフォンのルールが違うため、フィーチャーフォンユーザーが違和感使えるように、徹底的にUIを変えた」(西本氏)
例えば、ガラケーであれば、待ち受け画面からすぐに電話がかけられるが、Androidでは使いにくい。そこで操作性をガラケーっぽくするように改善。さらにガラケーユーザーであれば当たり前のように使っている「センターキーを押して0を押すとプロフィールが表示される」(懐かしい!)という機能もAQUOS Kではしっかりと対応している。
Androidではホームキーがないといけないが、AQUOS Kでは終話キーと統合。また“戻る”と“クリア”も統合するなど、ガラケーの操作性にとことんこだわったのだった。
とはいえ、単にガラケーを再現してしまっては意味がない。いまのガラケーユーザーは、ガラケーにも進化を求めている。そこでシャープは、音声認識で電話がかけられるようにもしている。また、ハードウェア的にもカメラは13メガピクセルのセンサーを搭載し、スマホと同等の画質を実現している。
通信規格はLTEであり、高速で通信ができるのが魅力だ。
テザリングにも対応し、ボタン一つでテザリング機能を起動できる。Wi-Fi対応のタブレットとAQUOS Kを持ち歩いて使うというのを想定している。
「コンパクトなAQUOS Kを胸ポケットから取り出し、写真を撮影。ボタンひとつでタブレットに転送して、タブレットからFacebookやTwitterにアップするといった使い方もできる」(中田氏)
AQUOS KではGoogle Playに対応していないため、FacebookやTwitterはブラウザベースのものしか使えない。だが、タブレットを併用すれば、AQUOS Kで撮影した画像をすぐにアップできるというわけだ。
すでにスマホを使いこなしているユーザーからすると「Google Playが使えないなんて!」と落胆してしまうかも知れない。読者であれば、この記事のようにapkファイルをインストールするといった荒技を使えるが、一般の人には難しい。
シャープとしては、このような反響は織り込み済みで「スマホユーザーがAQUOS Kを見ると、スマホの機能の一部しか利用できないため、物足りなさを感じるかも知れない。スマホユーザーから見れば『引き算』の商品であるが、一方でガラケーユーザーから見ると、すべて『足し算』。どちらから見るかが重要だと思う」(河内氏)という。
まさにガラケーユーザーから見れば、数年ぶりの“画期的なガラケー新製品”であり、買った瞬間に“ワクワク感を抱けるガラケー”になっているのだ。
ただし、ガラケーユーザーからすれば、AQUOS Kはスマホのブラウザを搭載しているため、Flashゲームが使えないという弱点がある。一般的にはFlashゲームはガラケーユーザーにいまだに愛されている印象もある。
この点についてもシャープでは調査をしており「確かにアンケートを取る前は心配していた。しかし、ガラケーユーザーにとってFlashゲームは“できたらいいよね”というレベルのものであり、他に代わりのゲームがあれば、そちらでも問題ないという認識だった」(中田氏)という。
AQUOS Kはテンキーでの操作が前提となるため、アプリも従来のものに多少、手を加える必要がある。
メーカーやキャリアではアプリ開発者向けに操作関連のガイドラインを公開する予定だ。このあたりはAQUOS Kユーザーがどれだけ増えるかで、対応アプリの増え方も変わってくるだろう。
シャープでは、今後、このプラットフォームをすべてのガラケーに搭載していくと表明しているだけに、さらなる拡大も期待できそうだ。
河内氏は「かつて日本のケータイはガラパゴスな進化をしていたため、ガラケーと言われていたが、この閉鎖的なガラパゴスの部分をAndroidでオープンにしていきたい。ケータイをもう一度、進化させ、ガラケー時代を終わりにさせたい」という。
また、中田氏も「フィーチャーフォンを求めている人の先を提供していき、使い続ける人のためにメーカーとしてしっかりやっていきたい」と意気込む。
AQUOS Kはこれまでとは全く異なる“ガラケーの世界”を作っていくことになりそうだ。
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