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ドコモはなぜ“3日間で1GB”の通信規制を撤廃できたのか

2015年01月07日 15時30分更新

 ドコモが昨年12月22日に、直近3日間で1GB以上データ通信を利用したXiスマートフォンユーザーに対し、混雑状況に応じて翌日の通信速度を低下させるという通信速度制限を撤廃していたことが明らかとなり、大きな話題となっている。

 この通信速度制限は、データ通信を多く利用するヘビーユーザーが通信回線を占有してしまい、他のユーザーが回線を利用しづらくなることを避けるために設けられていたもの。しかしながら、従来は直近の3日間で1GB以上、つまり1日当たり約333MB以上のデータ通信を3日連続で行なうスマートフォンユーザーはそれほど多い訳ではなく、規制の影響を受ける人も少なかった。

 だが、そうした状況も高速なLTEネットワークの普及、そして動画サービスの利用がよりカジュアルになったことで、急速に変化しつつある。

 参考例として、楽天ブロードバンドのウェブサイトに掲載されている通信量の目安を見てみると、スマートフォンでの動画視聴は300MBあたり約142分、つまり2時間半弱と記されており、1日に視聴し切れないほどの時間という訳ではない。しかも、スマートフォンを積極利用する若い世代であるほど、モバイル端末でYouTubeやニコニコ動画、さらにはツイキャスなどのライブ配信サービスを頻繁に利用する傾向が強い。

 それゆえ(動画の画質や内容にもよるだろうが)、WiFi環境のないユーザーが毎日、テレビ代わりに動画を長時間視聴していたり、ライブ配信を長時間実施したりしていれば、3日間で1GBの制限に達してしまうことも考えられる。

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↑通信量の目安(楽天ブロードバンド)。動画は300MBで約142分視聴できると記述されている。

 そうしたことから、ヘビーユーザーを主体に“3日間で1GB”の通信制限に不満を抱く声は増加傾向にあったし、今回の制限撤廃を歓迎するユーザーの声も、ネット上では少なからず見られた。だが、制約が撤廃されればヘビーユーザーの利用が劇的に増えてネットワークへの負荷が高まり、回線品質が低下の懸念も高まるはず。にもかかわらず、ドコモが制約撤廃という決断を下したのには、昨年導入した新料金プラン“カケホーダイ&パケあえる”が大きく影響していると考えられる。

 新料金プランでは“カケホーダイ”が注目を集めたが、ビジネス上最も大きなポイントとなっているのはパケット定額サービスの変化だ。従来のパケット定額サービスは、あらかじめ7GBという多めの高速通信容量を確保して、通信量の超過を抑える“準定額制”だった。それに対して“カケホーダイ&パケあえる”では、通信容量に応じて複数のプランを設けつつ、標準の通信容量は抑えめに設定し、超過分の容量は料金を支払って追加してもらう、実質的な“従量制”へと移行しているのだ。

 定額制や準定額制の仕組みの場合、ユーザーが支払う料金、ひいては回線の許容量を超えてデータ通信を使用し、回線を占有してしまう可能性がある。そのためキャリアは使いすぎを厳しく監視して、規制をかける必要があった。だが従量制であれば、ユーザーが高速回線を利用できるのは料金相応の容量に限られるし、基本プランの通信容量を余すことなく使い切ってくれたほうが、追加で容量を購入してくれる可能性が高まる。

 従量制への移行によって負荷への懸念が減り、通信量の増大が直接収入の増加につながるようになったことから、厳しい規制をかける必要がなくなったわけだ。

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↑ドコモの新料金プラン“カケホーダイ&パケあえる”は、パケット定額サービスが準定額制から従量制へと移行したのが最大のポイント。

 ちなみに今回、規制が撤廃されたのはXi、すなわちLTE回線のみで、FOMAは規制が残っている。その理由はLTEとW-CDMAという回線の違いもあるだろうが、やはりFOMAは新料金プランだけでなく、従来の料金プランとパケット定額サービスも継続して提供しているためと考えられる。

 auやソフトバンクが通信制限の撤廃に“追随していない”のも、FOMAと同じ要因が働いているためと考えられる。両キャリアともに、昨年ドコモと同様の新料金プランの提供を開始してはいるが、ドコモが旧料金プラン利用者に月々サポートを適用しないなど、新料金プランへの移行を積極的に進めているのに対して、auは当初より旧料金プランを当面維持すると表明。ソフトバンクも“ホワイトプラン”など旧来の料金プランの廃止を昨年の11月26日に無期延期すると発表するなど、新料金プランへの移行にはやや消極的だ。

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↑au、ソフトバンクともに新料金プランの提供を開始しているが、旧料金プランの継続を明確に表明するなど、移行には慎重な姿勢をとっている。

 それには、新料金プランへの急速な移行を進めたドコモが、その影響を大きく受けてARPUを大きく落とし、昨年10月には業績を下方修正したことが影響している。だが一方で、旧料金プランを維持し続けることは“準定額制”を維持し続けることを意味し、通信容量制限の撤廃、さらには通信料収入の拡大を難しくすることにもつながっている。

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↑ドコモは昨年、新料金プランへの急速な移行でARPUが大幅に減少し、業績の大幅な下方修正を迫られた。

 高速通信容量のコストパフォーマンスが高い旧料金プランを支持するユーザーから強い批判を集めるなど、昨年は新料金プランの生みの苦しみを味わったドコモ。だが新料金プランへの移行を率先して進めたからこそ、逆にヘビーユーザーを満足させる規制の撤廃へと踏み切ることができたといえる。規制の少ない回線の満足度を取るか、旧料金プランのお得さを取るか、ユーザーが選択を迫られることになりそうだ。

(1月8日6:30更新)通信速度規制に関する記述を修正しました。

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