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いずれはSIMフリーPCも?VAIOブランドのスマートフォンが意味するところ

2014年12月25日 21時30分更新

 ソニー株式会社からスピンアウトし、日本産業パートナーズ株式会社(JIP)出資の企業としてスタートしたVAIO株式会社は、12月25日にプレスリリースを発表し、日本通信株式会社(以下日本通信)とモバイル機器に関して協業することを発表した。その発表に関しては既に別記事になっている通りなので、ここではその協業がどのような意味を持っているのかを考えていきたい。

VAIO 日本通信

 VAIOから発表されたのは、両社が協業していくこと、来年の1月にVAIOブランドのスマートフォンを日本市場に投入するプロジェクトを既に進めていることの2つで、1月にもVAIOのロゴがついたスマートフォンが投入される可能性が高くなった。

●VAIOブランドのスマートフォンと日本通信との提携の意味

 今年の7月に新会社としてスタートしたVAIO株式会社は、ソニーのPC部門がJIPに事業譲渡する形でスタートしたPCメーカーで、VAIO ProやVAIO FitなどのユニークなノートPCを販売するメーカーとして注目を集めている。

 そもそもソニーがVAIOの事業譲渡を決めた背景には、ここ数年のPC事業での慢性的な赤字体質があり、それを今後解消するのは不可能だという判断があったからだ。ソニーのPC事業は、主なターゲットがコンシューマーで、世界的にコンシューマー向けPCが減速する中で黒字化は難しいという判断が下されたのだ。そこで、新生VAIOは、ターゲットとなる市場をまずは日本市場に絞り、コンシューマーだけでなく、ビジネス向けもターゲットとし、新しい形のPCメーカーになるとして7月から事業を開始している。

 そうした中で、今回新たに日本通信との協業により、スマートフォン事業に乗り出すことが明らかになった。VAIOから発表されたプレスリリースによれば、“来月にもVAIOブランドのスマートフォンを日本市場に投入するプロジェクトを既に進めています”(VAIO社が発表したプレスリリースより抜粋)とあり、1月にVAIOブランドがついたスマートフォンが日本通信との協業で発表される予定だ。

 筆者が最初におっと感じたのは新製品が“VAIOブランド”という点だ。というのも、言うまでもなくVAIO社に譲渡される前のVAIOブランドはソニーの所有であり、それがスマートフォンにつけられるとすれば、数ヵ月前まではVAIOブランドの所有者だったソニーのスマートフォン/タブレットのブランドである“Xperia”と競合することになる。

 それだけでなく、VAIO社の総代理店は、ソニーの子会社であるソニーマーケティング株式会社(SMOJ)だ。VAIOの製品はSMOJが運営するソニーストアにてオンラインで販売されており、そこでは当然ソニー Xperiaブランドのスマートフォンやタブレット(実際にはWiFi版だが)も販売されているので、販売上も競合してしまうことになる。

 実際、VAIOに近い関係者は、ブランドが譲渡された際の条件として“VAIOブランドはWindows PCにという制限がついている”と証言する関係者も少なくなかった。要するにこうした事態(ソニーのブランドでなくなったVAIOがソニー製品と競合すること)を防ぐためにブランド譲渡の条件の中にそうした制約が入っていてもおかしくないはずだ。それなのにVAIOブランドでということは、そこが何らかの形でクリアーになったということだろう。

 その上で日本通信と協業というのは、Xperiaと競合してしまう以上、現在の総代理店であるSMOJが運営するソニーストアでは販売できないので、日本通信がその販売網を利用して販売するということだと理解するとわかりやすいだろう。

●VAIOスマートフォンの鍵となるのは、安曇野にある研究開発施設のノウハウが生かせるかどうか

 では、そのVAIOが販売するスマートフォンはどのような製品になるのだろうか? 今回VAIOはどのような商品になるかは明らかにしていないが、VAIOがスタートしてからまだ半年程度しか経過していないことを考えても、スマートフォンを1からVAIOが設計し製造するというは時間的に不可能だ。ある程度は、有りモノ(基板、ケース、電池など)を組み合わせてその中でも魅力ある製品にするというアプローチが取られるのが一般的だと思う。現在スマートフォンは、PCと同じように台湾や中国のODMメーカー、EMSメーカーがある程度のベースを持っており、そこにメーカー自社のデザインやスペックを落とし込むという形で生産されることが増えており、そうした形で製品を短期間で出すということは不可能ではない。

 では、VAIOらしさをどこで出すかという点だが、鍵になるのはVAIOが安曇野にもっている研究、開発拠点をどのように使うか次第だと思う。VAIOは歴代ノートPCとしては尖ったデザインを採用しており、そのデザイナーの優秀さはよく知られている。また、電波検査、耐久検査、音響検査など、製品のクオリティーを上げるための施設も整っており、PCのそれはそのままスマートフォンにも利用できるはずだ。そうした施設をうまく活用することができれば、ODMなりEMSなどで生産する製品であっても、単なる海外ODMメーカーのノンブランド品にブランドをつけただけの製品とは一味違う製品が作れるはずだ。

 もちろん将来的にはVAIOの強みである高密度実装基板技術、熱設計技術などをうまく活用した魅力的なスマートフォンやタブレットを安曇野設計、製造で出荷するということも不可能ではないと思う。それもこれも、日本通信と共同開発したスマートフォンが成功するか否かにかかっていると言うことができるのではないだろうか。

●将来的には“SIMフリーPC”にもチャレンジしてほしい

 ただ、PCユーザーとしては、日本通信との協業が、スマートフォンだけでなく、SIMフリーのLTEモデムを内蔵した“SIMフリーPC”へとつながっていくことを期待したいところだ。

 実はVAIOは、ソニー時代からも含めてワイヤレスWANと呼ばれるデータ通信モジュールをノートPCに実装するのに熱心だった。昨年のソニーVAIO時代にリリースされたVAIO Duo 13は、モデルによっては標準で、CTOではオプションでKDDIのLTEフラット for PCのプランが選べるLTEモデムを選択することができた。それだけでなく、かつてのVAIO P(当初はVAIO type P)でも、WiMAXないしは3Gモデム(NTTドコモ)が選べるようになっており、店頭モデルとして販売されていた例もあった。

 しかし、これらはいずれもKDDI、NTTドコモ向けにSIMロックされており、ユーザーが自由に回線を選ぶという状況にはなかった。というのも、PCメーカーとしては、回線部分の動作は通信キャリア側の動作検証に依存しなければ販売することが難しいという事情もあっただろうし、ソニー時代にはソニーモバイルが携帯電話を通信キャリアに納入する立場でもあり、その面でも遠慮があったと考えることができるだろう。

 だが、今やソニーから独立したことで、そのしがらみはもうなくなったはずだ。現在PCメーカーの中にも、MVNOのSIMカードで使うことを前提に、SIMフリーのWANモジュール入りPCを出荷するところもでてきている(Lenovoなど)。日本通信と提携したことで、今後は日本通信のSIMをSIMスロットに入れて出荷するという形でWANモジュールを内蔵するということができるようになるはずだ。実際、ソニーVAIOの時代には、VAIO type Pで日本通信とそうした協業を行なっていた(ただしドコモロックはかかっていた)のだから、それが復活すると考えればその展開は充分ありだろう。この提携が“SIMフリーPC”が欲しいというユーザーにもメリットがあることを願ってこの記事のまとめとしたい。

(2014年12月25日23時54分修正:記事初出時、“VAIO Pでも~LTEモデム”とありましたが誤りでした。正しくは3Gモデムです。お詫びして訂正いたします。)
 

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