■生活になじむロボットってなんだろう?
2014年10月の“CEATEC JAPAN 2014”で初公開されたコミュニケーション・ロボット『BOCCO(ボッコ)』。ネット接続用にWiFi機能、家庭内にあるセンサーとの通信用に近接無線機能を搭載。ネットを経由して、スマホ内のアプリと録音メッセージやテキストのやりとりが可能で、センサーから得た情報をスマホに通知できる。どこかほんわかした雰囲気のあるこのロボットの開発背景を生みの親、青木氏に訊いた。
週刊アスキー12/30号 No1009(12月16日発売)掲載の創刊1000号記念連続対談企画“インサイド・スタートアップ”、第10回は家庭内コミュニケーションロボ『BOCCO』などを開発するハードウェアベンチャー“ユカイ工学”の青木俊介CEOに、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。
↑コミュニケーション・ロボット『BOCCO』。2014年10月に初公開。2015年3月にはキックスターターで資金調達を行ない、5月に発売される予定。本体とセンサーとのセットで、価格は2万円程度となる見込み。
■人間とロボットがいっしょに暮らす時代が来るんだとホンダのロボット『P3』のテレビCMに感動
伊藤 2014年11月16日に開催した“週アスLIVE”で展示させていただいた『BOCCO』は、来場者に大人気でした。ありがとうございました。
青木 それはうれしいです。
伊藤 「子供にスマホは持たせたくない」という親から特に注目度が高かったように感じました。僕自身も子供がいるので、BOCCOの世界観はよく理解できるんです。小さな子供にとっては、親がかけてきた電話にこたえるというのはけっこう大変な作業ですよね。
青木 難しいですね。
伊藤 親の仕事の都合によっては、双方のタイミングを合わせるのも難しい。だから、留守電的に非同期でやりとりするというのは、経験的に納得できる仕組みだと感じます。BOCCOについてさらにお聞きする前に、青木さんがユカイ工学を設立された経緯をお聞きしたいです。
青木 僕は元々、2001年にチームラボという会社の立ち上げに参加して、そこでCTOを務めていました。ネットのサービスやソフトウェアを開発していたんですが、サーバー側の開発がメインなんですね。
伊藤 そうすると、仕事としては始終、PC画面に向かっているような感じですか。
青木 真っ黒いコンソール画面を一日中眺めているような生活です。それを続けているうちに「いくらがんばっても、ブラウザーの中のあれこれは変わるけれど、外には出られないじゃないか」という気持ちになってきてしまったんですね。
伊藤 そういうお話、この連載でも何度かお聞きしました。
青木 画面の外のモノが動いたほうがおもしろいんじゃないか、と。ただ、5年間ほどはモヤモヤしていたんです。
伊藤 転機は何でしたか?
青木 2005年ごろに、ロボット界隈が一瞬盛り上がったことがあったんです。ちょうど愛・地球博が開催されたころです。一般にはあまりブームとして認識されてはいないかもしれないですけど、ロボット競技大会の“ROBO-ONE”が注目されはじめたり、米DIY誌の『Make:』創刊も2005年なんですよね。
伊藤 へえー。ロボットに興味をもったのはそのときですか?
青木 元々、ロボットをつくるのは子供のころからの夢だったんです。ホンダが『ASIMO』の前につくった『P3』というプロトタイプ機があるんですけど、そのテレビCMに感動したのを覚えています。
伊藤 ありましたね。確か、ニューヨークが舞台のCMでした。
青木 なぜ感動したかというと、ロボットがただ動いているだけじゃなくて、その姿を見た子供たちが走って追いかけているんです。その世界観がとても感動的でした。「ああ、人間とロボットがいっしょに暮らす時代が本当に来るんだ」と。
伊藤 たしかにあのCMのインパクトは凄かったです。中に人が入ってるんじゃないか? みたいなスムーズな歩き方をよく覚えてます。
青木 チームラボを辞めたのは2006年でした。そのあと、中国の大学に入学して「どういうロボットをつくろうか」と考えていました。そのときに思い出したのが、子供のころは親に「ガンダムを観てはダメ」と言われていたことだったんです。
伊藤 そうなんですか!? では、ガンダムの影響は受けていないんですね。
青木 ないですね。むしろ、アラレちゃんとかドラえもんはオーケーだったので、そちらのほうが影響はありますね。
伊藤 生活のなかに溶け込んだロボットはオーケーなのかな。基準がよくわからない(笑)。
青木 そうですね(笑)。その影響なのか、一般的にはロボットというと二足歩行タイプで敵と戦うイメージがあるのに、僕がつくりたいのは「そういうものじゃないな」と感じていました。
伊藤 青木さんのロボット観が、ユカイ工学初のロボ『目玉おやじロボット』につながっていくと。最初から、あのカタチの製品を目指していたんですか?
↑妖怪を探す『目玉おやじロボット』。水木しげる記念館とのコラボ製品。ARを利用した“デジタル妖怪探し”というイベントで使われた。
青木 いや、最初はもっと『寄生獣』っぽい感じでした。“ウェアラブルなロボット”というコンセプトで、腕に装着しておくといろいろと教えてくれるロボットもおもしろいかな、というアイデアでした。それが2008年のことで、そのあと、水木しげる記念館の方が声をかけてくださって、2009年に“デジタル妖怪探し”というコラボイベントを開催することになったんですね。
伊藤 iPhoneのARアプリを利用したイベントで、目玉おやじが妖気に反応するもので、ARアプリを使って妖怪をみつけて捕獲するというアトラクション性の強い試みでしたね。そのあとは『ココナッチ』や『Necomimi』、『Pepperのマホウノツエ』など幅広い製品を開発されていますが、源泉にあるエネルギーはやっぱり「ロボットが好きだ」という想いなんでしょうか。
■今後、ロボットは内蔵のセンサーではなく家の中にあるセンサーを活用するようになる
青木 そうですね。“人と暮らせるロボットをつくる”ということを非常に意識しています。
伊藤 『Pepperのマホウノツエ』も、その意識が強いように感じました。Pepperというロボットに家庭内での役割を与えていますよね。
↑Pepper の音声認識や画像認識機能を利用して家電の操作を行なえる『Pepperのマホウノツエ』。
青木 Pepperに家の中でやらせることって、ほとんどないじゃないですか。発表会でのプレゼンでも利用シーンはあまり提示されていなくて、パーティーで写真を撮ることぐらいだったんですよね。でも、「いや、そんなに家でパーティーしないよ」っていう(笑)。
伊藤 たしかに~(笑)。Pepperはとてもおもしろいけど、実用面での開拓はこれからですもんね。オフィスに置いておくのであれば、注目度はとても高いし、ウケも良さそうですけれど。
青木 販売とか案内には向いていると思います。
伊藤 では、BOCCOに話題を移します。家の中でのBOCCOの役割は何なんでしょう?
青木 家の外にいても家族の様子を知らせてくれることですね。僕らはいま、SNSのタイムラインを眺めていて、友達がランチに何を食べたかを知ることができますよね。でもそれよりも、親としては自分の子供が何を食べたかのほうを知りたいと思うはずなんです。
伊藤 どうやるんですか?
青木 BOCCOがあれば、音声メッセージをやりとりしたり、センサーからの情報を得ることで、家族の様子がわかります。センサーの重要性は今後、ますます高まると僕は考えています。ロボットは内蔵のセンサーではなく、すでに家の中にあるセンサーを活用するようになる。なぜなら、そのほうが断然賢くなるからです。
伊藤 周囲にすでにあるセンサーからの情報をネットワークにつなぐ役割を果たすんですね。BOCCOは、3種類のセンサーに対応する予定でしたよね。
↑スマホアプリと音声でメッセージのやり取りができる。BOCCOに直接、録音してネットを通じて送信する。また、ドアの開閉センサーなどを別売する予定。子供の開閉を感知して、親のスマホに情報を送ることもできる。
青木 振動センサー、ドアに設置する開閉センサー、光センサーを予定しています。この3つのセンサーから情報が得られれば、「ああ、今日はうちの奥さんは機嫌が悪いな」とかわかります(笑)。
伊藤 わかりやすい。情景が目に浮かぶたとえです(笑)。
青木 照明が消えていたらみんな寝てしまったなとか、玄関のドアが開いたからお出かけしたのかなとか、家族の様子が想像できるのが重要だと思っています。
伊藤 自宅にウェブカメラをつければ似たこともできるけど、それは監視ですもんね。センサーで曖昧にわかるほうが心の距離が近い感覚。BOCCOのデザインも愛嬌があるというか。
青木 僕からデザイナーにお願いしたのは、ひとつはパッと見でロボット感があること。もうひとつはユラユラ揺れてほしいということで、これはものすごく重要なんですよ。
伊藤 確かに頭部がユラユラしますね。これは何ですか?
青木 単純に「人は揺れているものが好き」ということですよね。クルマのダッシュボード付近やオフィスのデスクに、首がユラユラするだけの人形を置いている人がいるじゃないですか。
伊藤 聞いていて思ったんですが、本誌の連載陣でもあるスマートドールをつくっているダニー・チューさんが、「ドールが座ったときに、膝から下がブラブラと揺れるための機構を組み込むのが重要なんです」と話していたのを思い出します。それと似た話なんですかね。
青木 ああ、けっこう近い気がしますね。
■完全なBtoCはそもそもハードルが高いスタートアップはBtoBから始めるべきです
伊藤 BOCCOの頭って実は2軸で前後左右に動くようになってますよね。ほかはどこも動かないのに。青木さんの強いこだわりを感じてしまいますね。ところで、ユカイ工学さんは手がけた製品数でいえば多いほうだと思うんです。普通、1製品世に出すだけでも大変なのに、コンシューマー向けだけじゃなくBtoB向けまでカバー範囲も広い。これでマネタイズしていくコツはなんでしょう?
青木 アドバイスになるかわかりませんが、完全なBtoCはそもそもハードルが高いので、スタートアップはBtoBから始めるべきというのは言えますね。
伊藤 この流れからみるとミもフタもない話だけど、ド正論ですね(苦笑)。
青木 そうかもしれませんが、ただ、BtoBは売る相手が決まっているので、手堅いですよね。ビジネスとして考えると、王道は“BtoBから始める”だと思います。マイクロソフトもそうですから。
伊藤 まずはそちらをしっかりやって、足場を固めるべきだと。
青木 相当難しいですよ。実際、世界的な大企業でもBtoCで利益を出すのはなかなかうまく行かないじゃないですか。
伊藤 冷静な意見ですね(笑)。
青木 ユカイ工学も会社として生き残るために、BtoBはかなりやっていますよ。公式サイトに載せていないプロダクトも実はたくさんつくっています。
伊藤 なるほど。では、最後にBOCCOの今後の展開をお聞きします。年明けにラスベガスで開催される“CES2015”への出展は初ですか?
青木 そうですね。JETRO(日本貿易振興機構)のブースで展示をさせてもらう形の参加を予定しています。CES向けに英語字幕入りのプロモーション動画も作成してありますよ。
↑2015年1月6日~9日に米国ラスベガスで開催される巨大家電ショウ、CES2015に初出展されるBOCCO。海外ではどんな反応で受け止められるのだろう?
伊藤 そのあとはキックスターターで募集開始の流れですよね。
青木 はい。3月に予定していて、5月には出荷を開始したいと考えています。
伊藤 僕も取材に行きますので、現地でお会いしましょう!
ユカイ工学株式会社 CEO
青木俊介
1978年生まれ。2001年、東京大学在学中にチームラボを設立し、取締役CTOに就任。2007年には取締役CTOとして、ピクシブのサービス立ち上げに参加。2011年、2007年に設立していたユカイ工学を株式会社化。
■関連サイト
ユカイ工学
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります