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障がい者にもスマホの恩恵を!視覚障がい者向けスマートフォン勉強会を取材

2014年12月13日 16時15分更新

 11月29日、株式会社ネクストが視覚障碍者向けのスマートフォン勉強会を開催した。iOSの“アクセシビリティ”機能を使い、スマートフォンの基本的な操作を学ぼうという企画だ。OSの標準機能ながら、普段なかなか意識することのないアクセシビリティ機能とその現状についてレポートしよう。

Accessibility
勉強会には8人が参加。スマートフォンを触ったことがないという人から、すでにiPhoneを持っているが、あまり活用できておらず、どこまでできるのか可能性を知りたいという方まで、レベルも目的もさまざまだ。

 世の中には視覚や聴覚、四肢の不自由など、さまざまなハンディキャップを抱える人々がいる。こうしたユーザーのために、パソコンやスマートフォンのOSには、マウスを使わない操作や画面上のテキストの読み上げ、表示の拡大など、ユーザーが抱える問題をサポートし、操作しやすくする“アクセシビリティ”機能が用意されている。しかし、対応アプリが多いとは言いがたい状況だ。

Accessibility
会場ではVoiceOverが設定済みのiPhoneが一人一台ずつ用意され、参加者二人にひとりずつスタッフがサポートにつく。こうした手厚い体制のもと、講師の指示に従ってボタンの位置からひとつずつ丁寧に確認して進められていった。

 今回勉強会を開催した株式会社ネクストは、不動産・住宅情報サイト「HOME'S」の運営が本業だが、社内に実用化や収益にとらわれず、新しい発想や技術で開発する“リッテルラボラトリー”を設立している。同ラボの活動内容は、週アスPLUSでもOculus Rift関連の話題でしばしば登場するので、ご存知の方もいらっしゃるだろう。今年4月、同ラボの活動成果として、iOSのアクセシビリティ機能のひとつ『VoiceOver』に完全対応した賃貸物件検索アプリ『HOME'S アクセシビリティ対応版』がリリースされた。

Accessibility
全国の賃貸情報検索に対応した株式会社ネクストの『HOMES アクセシビリティ対応版』。参加者の間からはかなり使いやすいという評価の声が聞かれた。

 同アプリの開発には、東京都盲人福祉協会と日本盲人会連合の協力があり、その縁もあって今回、視覚障碍者向けのスマートフォン勉強会の開催が決まったという。

Accessibility
VoiceOverでの操作に一部対応している『乗換案内』だが、間違えて触れると画面が切り替わってしまう広告が表示されているなど、アクセシビリティ対応としては不適切なところもある。

 今回のスマートフォン勉強会は、『HOME'S アクセシビリティ対応版』を開発したネクスト・リッテルラボラトリーの池田氏を中心に、社内有志のプロジェクトで企画したものだ。スタッフは部署こそ違うが、全員がネクストの社員で構成され、この日のために仕事の合間をぬって資料の作成や、リハーサルを繰り返してきたという。

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撮影した写真に何が写っているかを教えてくれる『TapTapSee』。写真の判別は人力らしい。勉強会参加者からは「色がわかるのはうれしい」という声が聞かれた。

 休憩を挟みつつ、約3時間半にわたって行われた勉強会では、1.iPhoneのハードウェアの確認と基本的な操作の確認、2.Siriを使った電話のかけかた、3.電話番号の登録方法、4.アクセシビリティ対応アプリの紹介、という内容で勧められた。通常のスマートフォンの初心者向けの使い方入門と似た構成だ。

 スマートフォンにはほとんど初めて触るという方もいらっしゃることから、最初のうちはダブルタップやスワイプといった操作がおぼつかない場面も見られたが、20分もすると皆さんどんどん操作に慣れて、的確に操作できるようになっていた。最終的にはiOSの音声アシスタント「Siri」を使って会場近くのレストランを検索したり、アプリを使って路線検索するなど、ひととおりの操作を体験することができた。

 ここで、実際に1で参加者の皆さんが体験していた内容を紹介しよう。iPhoneをお持ちの方は「VoiceOver」をオンにしてみてほしい。

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『設定』の“アクセシビリティ”→“VoiceOver”をオンにする。オフにするまでは、通常のタップ操作は1本指でのダブルタップになるので注意しよう。

 続いて、VoiceOverの設定画面から操作練習専用の画面を表示してみよう。1本指、2本指、3本指でのタップ、ダブルタップ、上下左右へのスワイプに、それぞれ機能が割り当てられている。ひととおり体験したら、目をつぶって操作していただきたい。普段自分がどれだけ視覚情報に頼って操作しているのかが痛感できるだろう。

Accessibility
操作練習画面では操作するたびにその操作がどんな役割を示すものか教えてくれる。もっとも、最初にどうしろ、という指示が読み上げられないと、ユーザーには何をすればいいかわからないと思うのだが……。

同じ操作でも指の本数で「タッチ」と「タップ」が混同したり、「アクティベート」や「ローター設定」など、聞きなれない単語が頻出するなどわかりにくい点は大いに改善の余地ありだ。

●VoiceOver使用時の操作

  1本指 2本指 3本指
タッチ 項目の選択 読み上げの一時停止/再開 表示中のページ番号や行の読み上げ
ダブル
タップ
選択項目の
アクティベート
アクションを
開始/停止
読み上げの
オン/オフ
トリプルタップ 選択項目の
ダブルタップ
項目セレクタ スクリーンカーテンのオン/オフ

フリック
次の項目に移動 - 1ページ左に
スクロール

フリック
前の項目に移動 - 1ページ右に
スクロール

フリック
ローター設定を使用して前の項目に移動 上からページ読み上げ 1ページ下に
スクロール

フリック
ローター設定を使用して次の項目に移動 選択した項目からページを読み上げ 1ページ上に
スクロール

 アクセシビリティ対応のアプリは、こうした特殊な操作体系をサポートし、インターフェースの各要素がそれらの操作を妨げないよう、設計段階から最適化していく必要がある。Appleもアクセシビリティ対応用の開発者向け情報を公開しているのだが、完全対応をうたうアプリはまだまだ少ないのが現状だ。

 ちなみにAndroidにも、画面拡大機能やテキスト読み上げの「TalkBack」、ブライユ点字ディスプレイとの連動機能「BraileBack」といったアクセシビリティ機能が用意されているが、サポートするアプリの数はやはり多くないようだ。

 勉強会終了後、参加者の一人、大川さんに取材。大川さんは図書館に勤務されており、最近は“DAISY”規格の電子書籍をスマートフォンで楽しみたいという利用者からの問い合わせを受けることが多いという。今回の勉強会では実機を使って体験できたことを高く評価され、今後もこうしたイベントの機会があれば積極的に参加してみたいとのことだった。

 同じく勉強会の参加者で、『ホームズ アクセシビリティ対応版』の開発にも協力した日本盲人連合会の小川さんは、現状の課題として、視覚障がい者でもアクセシビリティ機能があればスマートフォンから電話をかけたりメールを使えることを知らない人がまだまだ多いことを指摘。また、企業や自治体などがハンディキャッパー向けの資料を提供している場合でも、それを必要としている人がリソースにたどり着けないという現状があるという。

 勉強会を開催したネクストでは、今回の反応を踏まえ、今後も何らかのかたちで勉強会などを開催していきたいという意向を示すとともに、アプリ開発者サイドへアクセシビリティ対応を呼びかけていきたいとしている。

 本記事をお読みいただいた方の中で、周囲に視覚障がいがいらっしゃれば、ぜひアクセシビリティ機能を紹介してほしい。また、また、スマートフォンアプリ開発者の方々には、ご自身のアプリにアクセシビリティ対応の余地がないか、ぜひ考慮していただきたい。最適化は楽な作業ではないだろうが、きっとその努力が、あなたの技術を必要としている人に喜ばれるはずだ。

■関連サイト
ネクスト

『HOME'S(ホームズ) アクセシビリティ対応版』
バージョン:1.0.0
価格:無料
(バージョンと価格は記事作成時のものです)
(c)Next

AppStore アプリをダウンロード

『TapTapSee - 視覚障害者向け画像認識カメラ』
バージョン:3.0.1
価格:無料
(バージョンと価格は記事作成時のものです)
(c)Image Searcher

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