2014年10月31日に行なわれた、第4回 Tech Institute オープンセミナー「ガンホーの舞台裏を知りたくないか? ~驚異的なヒットを支える開発・運用とサポート技術~」の内容をWeb記事用に編集したものです。
まず始めに、「ガンホーの舞台裏を知りたくないか? ~驚異的なヒットを支える開発・運用とサポート技術~」ということですが、技術というよりかは心意気でやっていますといった部分が多くなると思います。
僕は1974年10月1日生まれで40歳。社長の森下は1973年生まれで41歳ですけれども、僕が小学校3年生、森下が4年生のときにファミリーコンピューターが発売されました。ファミコン世代ど真ん中で、ファミコンが出たときに子供達の遊びが一変したのを経験しています。それまでは野山を駆け巡ったり、野球をやったり、外で遊ぶことが多かったのですが、ファミコンが発売された瞬間、今まで仲良くなかった友達でも、ファミコンを持っているというだけで家に遊びに行って、ずっと遊ぶといったような世代です。ですので、ファミコン世代というのがキーワードになってくるかと思います。
僕は、もともとダイヤモンド社という経済系の出版社にいました。ゲーム会社の中でダイヤモンド社の出身などは聞いたことがなく、社内でも珍しい経歴です。新規事業開発室という、その名のとおり事業開発、主にゲーム周辺の事業が多いのですが、そこと、セミナーやメディアさんとお話をさせていただくような、いわゆる事業広報というものを担当しています。
マーケットがまだないところへ舵を切るという選択
簡単にガンホーの紹介をしますと、2002年に現在の商号になって、オンラインゲームのサービスを開始しました。最初は、韓国のグラヴィティという会社が作った『ラグナロクオンライン』の日本での運営権を受ける形でスタートして、これは記録的なヒットとなりました。スクウェア・エニックスさんが『ファイナルファンタジーXI』をスタートさせたのと同時期ですが、まだ日本でオンラインゲームがあまり遊ばれていないという、マーケットがない中でチャレンジをして、結果的にヒットを生んだという所から始まりました。
非常にヒットしたおかげで、2005年にはヘラクレス(現JASDAQ)に上場しました。当時はPCのオンラインゲームというイメージが強かったですが、実は2005年ごろから家庭用ゲーム機向けソフトの事業もやっています。『ルナ』などの名作があるゲームアーツという会社を傘下に入れて、もう完全に一緒になっているような形です。そうやって、家庭用ゲーム機とPCのオンラインゲームの両方を作ってきましたが、2010年ごろからスマートフォン用のゲーム開発を始めました。当時はまだマーケットがなかった時代で、特に国内のゲーム会社はスマートフォン用をガッチリと作るところはありませんでした。
このとき、日本で何が起こっていたかというと、フィーチャーフォンのゲーム、モバゲーさんやグリーさんのソーシャルゲームが非常にヒットしていまして、ものすごく大きなマーケットになっていました。我々は家庭用ゲーム機のソフトも作っていたから、「フィーチャーフォンのブラウザーゲームは、僕らの作りたいゲームじゃないな」と思い、まだマーケットがなかったスマートフォン用のゲーム開発へと舵を切ったわけです。
現在、『ケリ姫スイーツ』という900万ダウンロードのメジャータイトルがありますが、2011年にその前身である『ケリ姫クエスト』というサービスを開始しました。こちらは250万ダウンロードくらいあって、2011年としてはダウンロード数でみれば、大ヒットとなり、1作目からヒットを出せました。翌2012年の2月には『パズル&ドラゴンズ』(パズドラ)がサービスを開始し、リリースから3日で売上ランキング1位の大ヒットとなりました。『ケリ姫クエスト』、そのあとに『パズドラ』という形で、1本目、2本目ともにヒットに恵まれて、スマートフォンのゲームが順調に滑り出したというわけです。
2013年には3DS版の『パズドラZ』です。『パズドラ』をそのまま移植するのではなく、完全にゼロベースで、新たにストーリーを加えるなど3DSに特化するように作ったところ、累計出荷本数が150万本という大ヒットとなりました。スマートフォン用のゲームから3DS版のソフトという意味では例がないです。こんなように、今もいろいろと作っているところです。
結論! ガンホーの作るゲームの特長とは?
ここで、いきなり結論を言ってしまいましょう。ガンホーのゲームの最大の特長をひと言で表わすと、ユーザーに安心して長く楽しんでもらえるゲームになるよう、非常に気を付けているということです。『パズドラ』はリリースしてから2年8カ月、『ラグナロクオンライン』に関してはもう12年経ちますが、『ラグナロクオンライン』は未だにユーザー数も多い大きなコンテンツです。
長く楽しんでもらえるゲーム作りとは何か? 我々が考えているのは「コンテンツとサービスの一体化」です。今では家庭用ゲーム機でもオンラインでバージョンアップができますけれど、基本的には買い切りが多かった中で、オンラインの強みを活かすサービスを提供することが大切です。出したら終わりではなく、常にいろいろなイベントを発生させたり、ユーザーさんの状況に応じてさまざまなサービスを提供したりしていく。初期の開発とその後の運営が本当に一体化となって、初めて長く楽しんでもらえるものが作っていけるのではないかと思っています。
もうひとつ大事なのが、ユーザーとの共同作業です。これは当たり前のことだと思いますが、「長く楽しんでもらうサービスを一生懸命提供します」といっても、こちらの独りよがりのサービスだとなかなか受け入れてもらえません。常にユーザーさんの動向を見ながら、いろいろな意見をうまく取り入れながらやっています。『パズドラ』も自分たちで考えた企画が半分、ユーザーさんが半分くらいの割合だと思っていただいていいです。それくらいユーザーさんの意見を反映しています。
繰り返しになりますが、『ラグナロクオンライン』は2002年のリリース以降、10年以上に渡って売上に貢献しています。2013年のPCオンライン事業全体の売上が60億円ですので、非常に貢献しているコンテンツです。家庭用ゲームで発売から10年間も売れ続けるタイトルはなかなかないですよね。我々のゲームは継続的に遊んでもらえているので、限界値としての売上規模が見えてくるところが大きいです。逆にいうと『ラグナロクオンライン』がなかったら、『パズドラ』もこの世に生まれていなかったですね。そういった部分で、ゲーム会社にしては珍しくロングテール型のビジネスを行なっています。
日本のスマホ2台に1台は入っている大ヒット作『パズドラ』
『パズドラ』ですが、日本国内で3100万ダウンロードとなりました。この数字にはタブレットやiPod touchなども含まれていますが、これがどれくらいの数字かというと、現在スマートフォンの契約数が6200万台というデータなので、ほぼ半分に近い数字です。2台に1台という割合の端末に入っているため、「パズドラのユーザー分布ってどうなっていますか?」と聞かれても、スマートフォンのユーザー分布とほぼ一緒という感じですね。ただ、男性の学生さんの割合が高いということはわかっています。
ヒットしたおかげで、中学校が社会科見学でガンホーに来られることが多くなりました。中学生の多くがスマートフォンを持っているということに驚いたのですが、「どのくらい『パズドラ』をダウンロードしているの?」と尋ねると、「男子は全員ダウンロードしているんだ」という返事でした。ありがたい話ですが、中学生がスマートフォンを学校に持ち込んでどうなのかと、正直、気が重い。と、このような大きなコンテンツとなっています。
App annieという会社が独自で調べているランキングデータなので、AppleやGoogleの公式なデータではないですが、2013年のApp StoreとGoogle Playの売上でガンホーが1位となっています。2位が『キャンディークラッシュ』、3位と4位が『クラッシュ・オブ・クラン』、そういったタイトルの中で1位を取りました。これは、ほぼ日本の売上だけで取ったと思っていただいて構いません。それくらいスマートフォンのゲーム市場では日本が大きいです。日本の特徴は、ミドルコア層向けのゲームが流行っていて、結構、課金をさせるようなゲームデザインが多いこともあって世界での売上に貢献していますが、その中で1位を取ることができました。
パブリッシャー別でも、LINEさんやグリーさん、DeNAさんがいる中でも売上ランキング1位です。ガンホーの場合は『パズドラ』の依存度がかなり高く、売上の大きいポジションを占めています。最初はApp Storeで売上1位を出して、Android版はリリースが半年くらい遅れましたが、リリースして3日で1位を取って、それからずっとマーケットのトップにいるという感じです。最近『モンスターストライク』さんがかなりランキングをにぎわせているので1位と2位が逆転することもありますが、2年半以上という異例の長さでトップにいます。
この売り上げ規模ですが、2013年は『パズドラ』で1485億円という数字です。2013年のスマートフォンのアプリマーケット市場が約3000億円というデータがありまして、ほぼ半分を占めているという、かなり歴史的というか、なかなか類を見ないような成長をしました。
そして、3DSにも『パズドラZ』を出しましたが、我々はスマートフォンだけで『パズドラ』を広めていこうとは、まったく考えていません。3DS版に関しても、最初に『パズドラ』を企画したタイミングから出そうという話をしていました。これは先ほどの、長く楽しんでもらえるもうひとつの理由です。『パズドラ』はいろいろなライセンスを提供していますし、スマートフォン以外にも3DSとか、アーケードゲーム、約100種あるグッズアミューズメントなど、ブランド自体を浸透させていきたいという思いがありました。
3DSで出した理由はシンプルです。スマートフォンのアプリと比べ、家庭用ゲームは流通が絡む関係で利益率が低くなりがちです。ただ、スマートフォンを持っていない小学生や小さいお子様に『パズドラ』の世界観やゲームのルールを知ってもらい、生涯顧客戦略のような形で『パズドラ』を覚えてもらうためにやっています。
パズドラの話ばかりでしたが、他のアプリも非常に成功しておりまして、パズドラも含めて合計4700万を超えるくらいのダウンロード数になっています。ひとつの目安として、ダウンロードは100万を超えてくるとヒットという捉ええ方をしていますが、ほとんどのタイトルが100万を超えの人気となっています。特に『ケリ姫スイーツ』は900万ダウンロードという大きな数字になっていまして、各アプリとも軒並み好調です。よく『パズドラ』一本足打法と言われますが、仮に『パズドラ』をガンホーが持っていなかったとしても、ヒット作をたくさん持っているゲーム会社と言えるのではないでしょうか。
リリースの期限を決めずに、出来たら出すという事業計画
会社の概要や『パズドラ』から本題に戻りますけれど、我々は四半期に1度くらいのペースでしかアプリを出していなくて、かなりリリースする本数が少ないですね。佳作でクオリティ重視とはいいますが、作品数を絞って出すという考え方でやっています。
さらに特徴的なのは、普通の上場企業だと、当たり前の話ですが事業計画を作ります。でも我々の事業計画はですね、新規タイトルの売上を織り込まない形でやっています。すべての売上を0円として、開発費だけを計上しています。それは、やはりゲーム自体を事業計画に織り込むのがバカバカしいというか、「このジャンルでこういうゲームだったらマーケット的にいくらくらい行くんじゃない?」といったお金を先に持ってくると、ゲームの企画に影響が出るのではないかという考えがあります。作るときのお金は完全に無視して、ひたすら企画に集中してやるというのがガンホーの特徴的な部分です。
事業計画というと、たとえば第1四半期にAというタイトルを出しましょう、第2四半期にBを出しましょう、このようにすると思いますが、我々は時間の概念を一切プロットしていません。開発中のタイトルが何本かありますが、できた順に出すという、ある意味すごく乱暴な戦略です。半年間もゲームが出なかったのに、同じ時期に出てしまうといったことがありますが、もともとそういった計画でやっています。これも締め切りの問題で、ケツを決めてやると締め切りに間に合わせようと開発してしまうので、企画の邪魔になるのではないか?という社長の考え方があるためです。締め切りのことは考えずに、ひたすら作って100パーセントだと思ったときに出す、というやり方です。
さらに、全タイトルの製造ラインにCEOの森下がフルコミットしています。森下は社長以外にエグゼクティブプロデューサーという肩書もありますが、これはゲーム業界だと名誉職だったりすることが多いです。ガンホーの場合は、紙ベースの企画書からプロトタイプ、開発、そしてテロップもやって、リリース判断までを全部フルコミットしているため、基本的に社長業そっちのけで開発を一生懸命やっているのが特徴です。そのため、森下が開発チームに上から物を言うというより、開発チームに企画屋として入っているので、現場の社員が直接社長と対話ができます。「森下さん、それは違いますよ」など、和やかな雰囲気で開発をしていますが、そういう意味ではシームレスな組織であり、組織組織していませんね。
開発本部という大きな部署がひとつあって、その中からプロジェクト単位で的確な人員をアサインしていきますが、そのアサインも森下がやっています。開発には220人ほどのメンバーがいますが、森下はその220人のスキルセットを覚えていて、プロジェクトごとに当てはめていく、そんなちょっと変わった作り方をしています。
北風と太陽のような運営方針とは?
今度は運営の話をします。一昨年のCEDECで『パズドラ』のプロデューサーである山本大介が「ポカポカ運営」という言葉を使っていますが、これは「北風と太陽」の童話になぞらえて、開発だけじゃなく、まず運営に力を入れていますという内容です。ゲームのデベロッパー側が、「ガンガン課金しろ」といった強い風を吹かすと、ユーザーは「絶対、意地でも課金しないぞ」となります。そうではなく、「課金しなくていいよ」とポカポカした雰囲気ならば、「こういう会社のゲームだったら長く続けられる」と思わせるような、そういう意味でポカポカ運営というキーワードを使い、サービスに力を入れています。
最近はカスタマーサポートを自社でやる会社が意外と少ないというか、やはりユーザー数が増えてくるとなかなか自社で回りません。我々はカスタマーサポートを自社でやって、そこからユーザーさんの意見をすぐに吸い出せる仕組みを作っています。良いゲームはユーザーさんが作り上げると思いますし、ゲームデベロッパーの独りよがりで作っていても、なかなか良いものはできません。やはりユーザーさんの意見を聞いてなんぼというか、ユーザーさんの意見ばかりでもダメですが、バランスよく耳を傾けることが大事だと思います。ユーザーさんが「こうなって欲しいな」と意見を出して、それを運営が応えるというキャッチボールですね。「やってくれた」ということで、末永く遊んでもらえるようになりますし、そういう意味で我々とユーザーさんが作り上げるということになりますね。
あと、これはよく驚かれるのですが、ポカポカ運営の最大の特徴はARPU(Average Revenue Per User:アープ)を下げる仕掛けをすることがあることです。ARPUは耳慣れない言葉かもしれませんが、月額の顧客単価のことで、ユーザーさんが平均的にゲームに費やしたお金です。ARPUを下げる仕掛けというのは、利益企業としていいのかという問題はありますが、『パズドラ』にはさまざまなイベントがあったり、コラボがあったり、新キャラクターの追加があったりしますが、そうするとユーザーさんが欲しがって一時的に顧客単価が上がってしまうことがあります。それを高い水準でずっと続けていくと、当たり前ですが、ユーザーさんのお財布の中身は有限ですから、いつか続かなくなり、「このままだとお金が持たないから、もういっそのことやめちゃおう」ということが起こります。我々はARPUの数字を逐一見て、高くなってきたら、「お金を使い過ぎているな」と判断して、あえて有料アイテムの魔法石を配ってユーザーさんに課金をさせないようにしています。また、イベントの回数自体を少し減らして、「まぁまぁ、ちょっとクールダウンしようよ」ということをやるので、なるべく課金額がなだらかになるように考えています。とにかく遊んでもらってなんぼで、お金はあとからついてくればいいという考え方なので、CEDECで発表したときは話題になりました。
ユーザーとの関係性を深めるいくつもの方法
先ほどの、ユーザーさんの意見を吸い上げていますという具体例を挙げましょう。カスタマーサポートですが、これは最初の『ラグナロクオンライン』からです。当時はオンラインゲームをやったことなく、初めてやるのが『ラグナロクオンライン』という人達がたくさんいました。そこでサポートを自社でやって、「ユーザーさんはここで止まっているんだな、じゃあちょっと改善しよう」とユーザーさんの意見を踏まえて調整をしていたので、カスタマーサポート自体を非常に重要視していました。また、最近は電話対応もやっています。一時期はメールのサポートだけにしていましたが、スマートフォンでは普段ゲームをやらない方も遊ぶ可能性が高いので、わからない部分をメールで伝えることができないのではと思ってやりました。実はスマートフォンのゲームで電話対応している会社は少ないのですが、そこはきちんとやっています。カスタマーサポートのリーダーに、毎日どれくらいのメールが来るのか聞いたところ、「3000通くらいは来ますかね」と言われました。大変ですけれど、さまざまな意見や提案があったり、ここがダメだという意見もあったりするので、カスタマーサポートは地味ですが、ゲームを良くしていくために有意義なものです。
また、『パズドラ』の公式Twitterは通称「ムラコ」と言われていますが、こちらは先日フォロワー数が125万人に達しました。どれくらい多いかというと、企業アカウントでは断トツにトップで、朝日新聞や日経新聞、NHKニュースの公式ツイッターよりも多いという、非常に多くのフォロワーがいます。カスタマーサポートにメールを送ることに抵抗があっても、ユーザーさんがTwitterでムラコや山本プロデューサーに直接意見を投げる場合もあるなど、『パズドラ』とTwitterの相性は非常に良かったです。
「ムラコ」と呼ばれる『パズドラ』公式Twitter. |
また、ニコニコ生放送とも親和性が高いです。ニコ生はトラフィックの多くを占めるほどゲーム実況がオーソドックスではありますが、『パズドラ』二周年の記念生放送のときは、なんと200万人以上が視聴するという、ニコ生史上でもなかなかないユーザー数が集まりました。ドワンゴさんもかなりびっくりされたそうで、「これより多いのはニコニコ超会議くらいしかないよ」と言われました。今でも『パズドラ』はニコ生全体で屈指の人気コンテンツとなっています。
『パズドラ』とニコ生の相性の話をもう少しすると、『パズドラ』というゲーム自体がすごくアクション性が高いので、魅せるプレイというものができます。スマートフォンのゲームを人に見せて、「おー」と感心してもらえるゲームは珍しいです。4秒間でいかにコンボを作るかといった、一流の人達が職人芸をしているような世界なので、生放送とか動画コンテンツとは本当に相性がいい。これも今までのゲームになかった要素で、人に見せて、見ている人も盛り上がるコンテンツって、なかなかないと思います。ユーザーさんがたくさん集まる場所があって、ユーザーさんからいろいろな感想が寄せられ、ユーザーさん同士盛り上がるような場所ができたというのがすごいですね。
そして、スマートフォンのゲーム会社ではあまり例がありませんが、リアルイベントにはかなり力を入れています。ガンホーフェスティバル2014というイベントをビックサイトでやりましたが、ガンホーだけのオンリーのイベントにも関わらず3万人以上という人数が集まり、1日ゲームの世界を楽しんでいただきました。ちなみに入場無料なので、本当に大赤字ですが、ユーザーさんに少しでも楽しんでもらうという気持ちでやりました。
2013年はビッグサイトで開催され、最大規模となった。 |
インターネットの世界もそうですが、どうしてもユーザーさんと接する機会がなくて、メールなどのデジタル上のやり取りになってしまいがちです。イベントはイベント会社さんももちろん使いますが、社員も総出でスタッフとして入ります。だからある社員は迷子の案内をしたり、僕なんかはずっと受付にいてブースの誘導をしたり、総出でやります。そうやって普段はパソコンの前に座って開発しているプログラマーや経理の人達が、ユーザーさんと直に触れ合うということがすごく大事だと思っています。ユーザーさんの顔が見られる非常に重要な機会ということで、非常に好評ですね。また来年もやる予定ですが、これは今後も続けていきたいですね。
あと、全国行脚は今年もしていまして、パズドラツアーinイオンモールというイベントでは、福岡、倉敷、堺北花田、浜松志都呂、つくば、盛岡、札幌苗穂と、全国7ヵ所を回りました。普段はなかなか東京に来られない方と、パズドラを通じて交流をするといったことをやっています。他にも次世代ワールドホビーフェアとかホールツアーなどもありますが、変わったところでは3年連続で浅草サンバカーニバルに社員総出で参加するといった取り組みをしています。これはどちらかというとプロモーションとか、ユーザーさんと触れ合うという目的よりかは、ゲーム開発はどうしても縦割り組織になってしまうので、横のラインと交流する機会、何かしらみんなで一緒にやることがあってもいいじゃないかということです。真夏の炎天下、アスファルトの照り返しで40度以上になった中、40分間サンバを踊り続けるという、そんな変な会社でございます。サンバはユーザーさんの意見を吸い上げるものではありませんが、ユーザーさんと近いところと接していて、それをスムーズに開発に反映するという取り組みをやっています。
2014年に行なわれた浅草サンバカーニバルの模様。 |
『パズドラ』ですが、どれくらいのペースでバージョンアップをしているかというと、データの追加は2週間に一度は行なっています。大幅なバージョンアップは1カ月に1回はしていて、これを2年数ヵ月ずっと繰り返しているので、バージョンアップの回数が多いコンテンツです。そういった中で常にユーザーさんの意見の入ったものを2週間ごとに追加していくという形でやっている。これこそがコンテンツとサービスの一体化だと思います。こういった部分をスムーズに進めるにあたって、非常に速い経営判断をしています。先ほどシームレスな組織だと話しましたが、社長がプロジェクトにフルコミットしていて、その場ですぐ決断をするぶん、ユーザーさんに対しても早く対処することができるわけです。
詫び石の配布で売上が下がらず、むしろ上がった!?
2012年5月、まだ『パズドラ』をリリースして3ヵ月目くらいでしたが、初めて大きな障害が起こりました。プロデューサーの山本からすぐに森下の携帯に電話が行きまして、「こういう障害が起こっていて、これは結構大きいです」と話をしました。森下がそのとき初めて、「有料アイテムである魔法石をもう配っちゃおうか」と、即配布が決定しましたが、これは非常に大きな判断です。
不具合のお詫びとしてプレゼントされる魔法石だが、詫び石の名称で定着。 |
当たり前ですが、普段は有料で売っているものを配ることは、即売上の低下につながる可能性がありますから、普通の企業判断だと経営会議にかけるような内容だと思います。森下はその場で、「この数分間で配ろう」と即配布が決定して、すぐにユーザーさんにお詫びとして魔法石を配りました。そのとき初めて無料配布をしたのですが、結果として売上が下がるどころか上がりました。「障害が起こってすみません」とすぐに魔法石を配ったことが、当時のユーザーさんには「よくやってくれた」と高く評価されたわけです。
配った魔法石は、その後、詫び石という名前で呼ばれて、Googleトレンドの上位になることもあるなど、定着するような言葉も作られました。どんなトラブルでもそうですが、できるだけ早く答えを出してユーザーさんをホッとさせることが大切です。すぐ解決しないことであれば、常にその経過を報告することにも気を配っていまして、そういった所か良い結果につながりました。
もうひとつ良かったことは、有料アイテムの利便性を知ってもらえたことではないかと思っています。当時は買わないと魔法石が便利なアイテムだということがわかりません。配られた魔法石を使ってみたら、「あ、これっていろんなことに使えるんだ」「今までクリアできなかったダンジョンも、コンティニューしたらできたよ」ということがあって、いわゆる課金体験を疑似的にさせたことが売上につながったのではないかと。これは本当に狙ってやったわけではなくて、結果オーライな話ですけれど、とにかく早く決断したことが一番良かったと思っています。
話は戻りますが、とにかく我々がやっていることは、本当に地道で普通のことなのですが、とにかくユーザーさんにいかに長く楽しんでもらうかということを、チーム全体、会社全体で考えています。また、ユーザーさんの意見を聞いていますというのは、当たり前のことですけれど、そういう意味ではゲームというより、どちらかというとウェブのコンテンツに近いかもしれませんが、そういった取り組みを常にやっております。
橋本裕之
ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社 新規事業開発室 室長。1974年神奈川県生まれ。ダイヤモンド社で編集者として、モバイルサイト情報誌の編集統括を務めたのち、 モバイル業界に関わるようになり、株式会社ドワンゴを経て、2005年6月に独立。事業譲渡などを経て、2012年から現職。 ガンホーでは、各新規事業の立ち上げおよび、メディアにいた経験を活かして、企業広報として、メディアの対応などを担当する。
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