↑Photokina2014のソニーブースの模様。 |
9月16日から21日まで独ケルンで開催された世界最大のカメラショー『Photokina2014』。ソニーブースでは多くのカメラ機器の製品が並ぶ中、“Sony Imaging Ambassador Gallery”として、写真作品の展示も行なわれていた。
大判のプリントが飾られた壁面を眺めながら階段を上がっていくと、そこには25インチの有機ELディスプレー(OLED)8台による作品展示スペースが広がっていた。
スライドショーに表示されている作品は大判プリントと同じ内容のものもあり、自ずと比較ができるようになっている。それらを見比べていく中で、まずシャドウ部の階調が違うことに気付いた。有機ELディスプレー(OLED)ではプリントで潰れてしまっている暗部の調子がしっかりと再現されているのだ。
↑Sony Imaging Ambassador Galleryの模様。 |
そもそも有機ELとは、有機Electro Luminescence(電気エネルギーを光へと変換するプロセス)のことであり、OLEDとはOrganic Light Emitting Display、つまり有機EL材料を発光源とするディスプレーを意味する。
ソニーでは2001年より商品開発がスタートし、2004年から民生用小型製品の量産が始まった。その後、民生用テレビ製品を経て、業務用大型製品へと方針転換が行なわれた。
現在、写真の世界では液晶ディスプレー(LCD)による編集調整作業が主流だが、有機ELディスプレーにはどのようなメリットがあるのか?
ソニー株式会社デバイスソリューション事業本部デバイス営業部門 赤木真氏に、Photokina会場で話をうかがった。
↑ソニー株式会社デバイスソリューション事業本部 赤木真氏。 |
液晶ディスプレーと有機ELディスプレーの違いはどのような点にありますか?
赤木氏「有機ELディスプレーの特徴としては、自発光デバイスとしてバックライトデバイスである液晶ディスプレーでは達成できない画質を実現していることにあります。具体的には自発光による漏れ光のない無限大のコントラスト、全階調領域でadobeRGBを超える高色域、広視野角、動画の応答速度の速さなどが特徴です。階調表現という点では、液晶はもちろん、ブラウン管(CRT)を超える完全な白から黒への階調を実現しています」
↑Photokina会場で使用されたソニーOLEDの特徴を表わす資料。 |
ソニーの有機ELディスプレーならではの独自技術とは何でしょうか?
赤木氏「ソニーの独自技術として、Micro Cavity構造を有し、RGB3色の有機EL層とRGBカラーフィルターを組合せた“Super Top Emission”構造を採用しています。この技術で、高色純度、白から黒まで安定した広色域再現、シャドウ部の高い再現性、広視野角、高い発光効率を実現しています。また、有機ELに特化したムラ補正回路や、焼付補正回路を搭載している制御技術も独自のものです。1画素ごとに輝度の変化を監視しており、リアルタイムに自動補正することで、輝度やホワイトバランスの維持だけでなく焼付問題も解決し、その結果として高寿命も実現しています」
動画の世界では有機ELディスプレーの普及はどれくらい進んでいますか?
「3年前から放送局や映画業界向けのマスターモニター、ピクチャーモニターとして商品化されていますが、液晶ディスプレーでは実現できなかった業界の基準を満たし、ブラウン管を超える次世代リファレンスモニターとして、すでに液晶ディスプレーから置き換わってきています」
写真の画像編集調整に用いるとしたら、どのようなアドバンテージがあるのでしょうか?
赤木氏「本当の黒が表現でき、低階調でも広色域が再現できることですね。色もコントラストも変わらない広い視野角も画像編集には良いと思います。1画素単位のセルフキャリブレーション機能で、これまで必要とされてきた性能を維持するためのキャリブレーションが基本的に不要だというのも魅力です。液晶ディスプレーではデータが欠落して確認できなかった暗部の色や、グレーの中の立体感までも忠実に再現・確認できるだけでなく、視野角及びキャリブレーションフリーによって編集作業における負担も軽減できます。また、写真家の方でも動画の編集をされる機会が増えていると思いますが、液晶ディスプレーに比べて動画応答速度が三桁も速い有機ELディスプレーは速い動きの追従性に優れ、より自然な見た目のイメージに近く、忠実に再現されるので動画編集品質も向上します」
今回Photokinaでギャラリーとして展示をされて、来場者に最もアピールしたかった点は?
赤木氏「デジタルカメラで撮影した写真を有機ELディスプレーで忠実に再現することで、作者の本来のイメージ通りに届けられる最適な手段であるということを伝えたかったのです。実際に展示をご覧いただいた多くのお客様からは、プリントより有機ELディスプレーのほうがキレイ、という感想をいただいています。これは、“有機ELディスプレーがキレイなのではなく、本来のキレイな写真データを忠実に再現できた”結果、色や奥行きの解像感、ボケのデティールまでも美しく感じられるのだ、と言うこともご来場者の方へご認識頂けました」
↑ソニーはオランダで開催したIBC2014では4Kの30インチ有機ELディスプレーを発表している。 |
今回の4Kの有機ELディスプレーを開発するにあたっては、どのような苦労がありましたか?
赤木氏「大きさが25インチから30インチになったとはいえ、フルHDから4倍以上にもなった画素密度を実現させた点ですね。現行のマスターモニター品質を維持しつつ、高密度になったRGBの有機EL層を正確に作り分けていく、ごまかしの効かない技術が必要とされます」
この4Kの30インチ有機ELディスプレーは、この秋11月19日~21日に幕張で行なわれるInter BEEにも展示され、来年春頃に発売される予定。価格は300万円前後と予想される。
安価な4K液晶ディスプレーが普及している中、かなり高額なモニターということになるが、業界標準ツールとなりえる最高のマスターモニターとしての美しさが期待できる。
実はソニーの有機ELの技術は業務用ディスプレーのみならず、我々の身近なところにも使われている。0.5型前後の小型の有機ELディスプレーはデジタルカメラの電子ビューファインダー(EVF)、ヘッドマウントディスプレー、電子双眼鏡などにも用いられている。
将来、グラフィックの世界でも有機ELディスプレーがリファレンスモニターとして認知され、撮影から編集調整、作品の発表まで一貫した有機ELデバイスによるワークフローが確立される日が来れば、作り手の表現が揺るぎないまま最終成果物へと昇華されるデジタル写真の本当の完成を見ることになるのではないだろうか。
それはすでに今まで撮影してきた写真データの表現しきれなかったデティールを取り戻すことでもあり、忠実な再現性という意味においてはあらゆる面でプリントを凌駕する写真が生まれることでもある。
■関連サイト
ソニー 放送・業務用モニター
-
294,840円
-
442,260円
-
275,600円
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります