米・サンフランシスコで9月18日、19日に開催されたクアルコムの開発者向けイベント『Uplinq』の会場には、キーノートスピーチで発表された製品が展示されていた。
スマートグラス向けのAR(拡張現実)プラットフォームとして披露された“Vuforia for Digital Eyewear”のコーナーには、これに対応するサムスンの『Gear VR』や、エプソン『MOVERIO』、ODGの『R-7 GLASSES』が用意されており、実際に映像を楽しむことができた。
3種類のVuforia対応アイウェアをチェック
最初に試したのがサムスンのGear VR。これは、IFAで発表されたVR(ヴァーチャルリアリティ)ヘッドセット。VRの分野ではおなじみの『Oculus Rift(オキュラスリフト)』との協力で生まれた製品で、ヘッドセットに「GALAXY Note 4」をはめ込んで利用するものだ。
↑『GALAXY Note 4』を装着してVRを楽しめる『Gear VR』。 |
Gear VRは頭に装着して、画面に流れる映像を楽しむのが通常の使い方。ヘッドセットにはカバーを装着でき、外観からはGALAXY Note 4がはめ込まれているようには見えない。一方で、Vuforiaで作製されたアプリでは端末のカメラを活用するため、このカバーを外して利用する。カメラが周囲を映し出すため、Gear VRをかけていないときと同じような光景が目に飛び込んでくる(もちろん、肉眼で見るよりは解像感が低く、色もやや不自然だが)。
↑前面にスッポリと『GALAXY Note 4』をはめ込むしくみ。Vuforiaではカメラを利用するため、本体がむき出しになる。 |
↑写真で映像をお見せすることができないのが残念だが、カメラを通して周囲の映像が目の前に現れる。 |
これをかけた状態でマーカーに視線を移すとと、ARの映像が浮かび上がってくる。Uplinq会場のデモでは、本の中の恐竜が立体映像として飛び出す、床にラジコンのような車が現れて実際に操作できるといったコンテンツを体験できた。
↑利用中の様子。本から恐竜が飛び出してきた。この恐竜は、Bluetoothで接続したコントローラーで操作できる。 |
↑床に置かれたこのマーカーに目を落とすと、ラジコンカーが出現。コントローラーで自由に操作ができた。 |
Google Glassをはじめとするスマートグラスの多くは、メガネを通して肉眼で見ている風景に映像を重ねているが、Gear VRのVuforiaはいったんすべてをカメラで写してARの映像もそこに重ねる仕組み。そのため、目の前に広がる光景はやや不自然になるが、逆にARの映像を重ねたときの一体感が出る。視線を無理やり映像のほうに動かす必要がなく、あたかも目の前にあるかのように見えるのが他のスマートグラスでのARとの大きな違いだ。
先ほどの恐竜のデモでいうと、本当に本から飛び出してきたように見えるし、ラジコンも自然に操作できる。会場でGear VRをかけていた人のリアクションが軒並み大きかったのも、そのため。VRならではのARと言えるかもしれない。
次にかけてみたのが、エプソンのMOVERIO。OSにAndroidを採用したスマートグラスで、かけると目の前にスマホでおなじみのUIが広がる。すでに日本で発売済みの製品だが、ここにVuforia対応のアプリを載せたというのが今回のデモだ。エプソンのコーナーには、ポンプが置かれていた。この修理手順を、MOVERIOで見るというのがその内容。実際のポンプと映像が重なるため、どこをどのように動かせばいいのかが直感的にわかる。
↑エプソンのスマートグラス。OSにはAndroidを採用している。 |
↑こちらも写真だと分かりづらいが、目の前のポンプに重なるように修理手順の動画が流れている。 |
スマートグラス用のVuforiaを使ったもう1つのデモが、ODGの開発したR-7 GLASSES。こちらは、チップセットにSnapdragonを搭載しており、OSにはAndroidをカスタマイズした『ReticleOS』を採用する。先に紹介したMOVERIOは、システム部分とメガネ部分を切り離しているが、こちらはすべての要素をメガネの中に組み込んでいる。
↑ODGが開発した『R-7 GLASSES』。チップセットにはSnapdoragonを採用。 |
発売は来年を予定。GPS、Bluetooth 4.9、720pのディスプレーを搭載するなど、最近のスマホに近いスペックとなる。ただし、これより一段スペックを抑えた『R-6』が約5000ドル(約55万円)ということを考えると、価格もそれなりに跳ね上がりそうだ。
このODGのブースでは、箱を見ると中に入っているバイクが表示されたり、地図を見ると等高線が3Dで表示されたといったデモを見ることができた。
↑箱を見ると、中に入っている(と想定された)YAMAHAのバイクが出現。3D映像のため、映像は360度どの角度からでも見ることができた。 |
↑地図を見ると、山がせり出してくる。 |
3機種を試してみてわかったが、確かにスマートグラスとARは相性がいい。特にGear VRは、いったん周囲の光景をカメラで取り込んでいるぶん、ARと組み合わさった映像がリアル(逆に言うと全体的に作り物っぽさが出る)だった。VuforiaのSDKがリリースされたことでコンテンツの増加も期待でき、スマートグラスの分野に弾みがつきそうだ。
日本でVuforiaを活用するナレッジワークス
このVuforiaを早くから活用している日本の会社が『ナレッジワークス』。クアルコムのデベロッパープログラムにも選出されている2社のうちの1社だ。主に受託でAR機能を組み込んだアプリの開発を進めており、塗り絵をカメラで写すとそれが動き出す『だーぶ』や、ANAのキャンペーン用アプリ『ヒコーキかんさつ』などは比較的名が知られたアプリと言えるだろう。
↑実際に自分で色をつけた塗り絵が立体になり、画面の中を走り回る。 |
↑ANAのキャンペーンとして展開された『ヒコーキかんさつ』。本来、ARはマーカーを見失うとオブジェクトを表示できないが、このアプリは飛び続ける飛行機を追える。これもVuforiaの機能とのこと。 |
同社のARアプリは「8割から9割がVuforia」(ソリューション開発事業 システムエンジニア 鈴木貴志氏)で開発したもの。「無料で使えて、性能もいい」というのがVuforiaを選択した理由のひとつだという。
↑ARは通販との相性もいい。カタログを読み取り、即座に商品ページを表示できる。 |
鈴木氏との主な一問一答は次のとおり。ARアプリの現状や、ウェアラブル対応したVuforiaへの期待を聞いた。
↑ラウンドテーブルで報道陣からの質問に答える鈴木氏。 |
――ARを組み込むことによる効果は、実際どのくらいあるのか?
鈴木氏
たとえば、フォビア・インフォリーダー(というカタログを読み取って通販サイトにつなげるアプリ)の場合、アプリケーションからの流入が目に見えて増えています。
――アプリの製作期間はどのくらいなのか?
鈴木氏
今は2、3ヵ月です。マーカーにするための画像の登録も必要になりますが、それは1日で終わります。
――AR機能を組み込んだアプリの需要はどのくらいあるのか?
鈴木氏
ここ数年で、一気に立ち上がってきています。スマホの初期のころだと端末の性能が追いついていませんでしたが、それもなくなりました。また、クアルコムさんのVuforiaの性能も日々進化しています。
――ウェアラブルでARを生かしたアプリを作る計画は?
鈴木氏
次として、グラス(メガネ)やウェアラブルには興味を持って取り組んでいます。ただ、Google Glassでもまだ一般には普及はしていません。最初はまずビジネス向けのものがくるのではないでしょうか。たとえば、工場の中での作業、現実に作業しているところに指示が出てくるといった使い方でしょうか。
――Vuforiaのスマートグラス対応はどう見ている?
鈴木氏
非常に期待しています。
たとえば、エプソンさんのMOVERIOだと、画面がちょうど視線の先、中央に出てきますから、その範囲で出せるシンプルな情報が向いていると思います。ARでオブジェクトを重ねるというよりも、作業をしながら情報を出せるのがメリットです。
一方で、サムスンの『Gear VR』は没入型なので、仮想的な(オブジェクトを表示するような)使い方だといちばんいいと思います。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります