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号泣元議員の声、初音ミクに取り入れる!? (クリプトン佐々木氏×電通菅野氏講演)

 2014年9月18日、デジタル広告カンファレンス「ad:tech tokyo 2014」に、クリプトン・フューチャー・メディアで「初音ミク」企画制作を担当した佐々木渉氏、ホンダの往年の名車のエンジン音をデジタルで再現する「サウンド・オブ・ホンダ」プロジェクトを手がけた電通CDC局クリエーティブ・ディレクター/クリエーティブ・テクノロジスト菅野 薫氏がセッション「デジタルアートによるストーリテリングの探求」に登壇。博報堂で「ミクシィ年賀状」などを手がけるクリエイティブディレクター須田和博氏をモデレーターに、「データと感情」について、対談した(以下敬称略)。

サウンドオブホンダ

初音ミクとサウンド・オブ・ホンダに共通するテーマは”余白”

菅野「そもそも両方ともサンプリング。シンセと同じで、大量にサンプリングされて妥当なところに配置される。サウンド・オブ・ホンダはあえて音と光だけにして、その場にはいないセナを感じてもらうという”余白”を作った。初音ミクも同じではないか」

佐々木「サンプリングは過去の音を切り貼りする。因果関係を理解している人間がサンプリング・アウトできる。こういうふうに変形させたら、お客さんはこういうふうにとらえるだろう、という想像力が必要になる。初音ミクもシステム的に機械に人の声を入れるのではなく、少し耳障りな声を入れようと考えていたところがあった。それが直接”余白”になっているんだろうなと」

 ライゾマティクスの真鍋大度氏がPerfumeのダンスモーションデータをウェブで公開した「Perfume "Global Site Project"」を例に、サンプリングとは逆にデジタル化・抽象化することでアイデンティティが確立していく例もあると菅野氏。

 佐々木氏は応じて、「映像でハリウッド映画を観るより原作を読んだほうがシーンや状況をバイオリズムにあわせて想像できる」といい、初音ミクのようなUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)にも共通項があると話した。

デジタルアートによるストーリーテリングの探求

■号泣元議員の声、初音ミクに取り入れたい
佐々木「UGCとは何か、たまに考える。サブカルが発展し、パロディやスピンアウトがたくさんある中、柱になるストーリーが分岐するのを楽しんでいる。読者はいろんなマンガやイラストを見て、めちゃくちゃ詳しい。様々なイラストから、初音ミクに合うようなシチュエーションを自分の記憶から参照し、初音ミクにあてこんでいる。音楽も同じで、ポップスなんかもパターンは出尽くしていると言われるが『ニコニコでこういう曲がウケている』ということを知って、自分が聞いてきた音楽から近いものを持ってきて、学生生活の憤りを閉塞感ある形で表現したり。記憶をフィードバックしているようなところがある」

 そして自身の音楽にまつわる記憶として、佐々木氏は「ノイズ」を挙げる。

 実験的なサウンドアートを例に「鳥の鳴き声を変調させ、どんどん音量を大きくしながら鳥に聞かせる。すると鳥がだんだん発狂していって、狂った声を出していく」(佐々木氏)。データがデジタルとアナログの間を往復することで、人間の想像を超える意外な音楽的要素が生まれてくるというのだ。

 そこで佐々木氏が参照したのが、記者会見で号泣していた元議員だった。

佐々木「(元議員が)感極まりすぎてものすごい面白い音を出してらっしゃって、こういうのをサンプリングして初音ミクに取り入れたいなと思った」

 会場から苦笑が漏れると、菅野氏も応じた。

菅野「元議員は異常値だが、不思議だなと思うのは、初音ミクでは息継ぎが人間では出来ないという歌がある。だが逆に、そういうふうに歌おうとする人が出てくる」

佐々木「人間はマネをしたくなる生き物。たとえばドラムンベースというジャンルがある。ジャズドラムをサンプリングし、ピッチを上げて高速のドラムを鳴らすというジャンルがイギリスで流行ったことがあったが、日本のドラマーが『俺たちに出来ないわけがない』とマネしたことがあった(人力ドラムンベース)」

デジタルアートによるストーリーテリングの探求

 ニコニコやYouTubeのようなUGCの世界では、あらゆる音楽や音素材が想像可能な”余白”を持ち、サンプリング元として使われている。

 データベースの中、音楽は素材を含めて常にデータ化されて、次のデータを作るための分析・参照対象となっていく音楽の世界。産業総合研究所の「songrium」(ソングリウム)のように、大量のデータを見えるようにすることで、今までの音楽ではできなかった意外性を見つけられるのではないかと佐々木氏は話した。

佐々木「自分自身も音が好きでいろんな音を聞いてきたが、初音ミクはいちばん勘違いされた音。壮大にイメージが広がって、『初音ミクのことを思うと泣けます』と言ってくれるファンがいれば、『バンドやってるけど普通にやっても盛り上がらないので仕方なく初音ミクを使ってます』とか言う人もいる。そうしたデータがあるので、それを生かして何かをしていきたいと思っている」

(2014/09/25 15:00追記)登壇者の肩書きなどを一部修正しました。

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