世に迷信の類は多いが、こと商売に関する謎の法則も枚挙に暇がない。伝説のコナミのMSXゲームですらその“神の見えざる手”からは逃れられなかったようで、かつて“パピプペポの法則”というものがあったという。これは“パピプペポ”がゲームの名前に入っているとヒットしないというジンクスで、いにしえの『コナミマガジン』(無料配布されていたコナミ情報誌)にも当時の方のコメントとして出ていました。が、MSXAでは数字的裏付けはまったくとっていませんのであしからず。さて、今回はそんなゲームをパピプペポっと特集してみましょう!
■ピポルス(1985年発売)
“パピプペポのゲーム”といえばまずはコレ。なにしろ2文字も入っている。歴代コナミMSX作品のなかでも特異なシステムをもつこの1本、あえて言うなら縦スクロールのシューティングゲームである。
しかし実際にはアミダくじのようなマップを持ち、左右は決められた場所しか移動できない、また上下に弾を撃てるが左右には撃てないなど、この作品独特のルールが多数存在する。ピポルスはMSXオリジナル作品であり、アーケードにもファミコンにも出ていない。MSXは他部門に比べ市場規模が小さかったから野心的なオリジナル企画が通りやすかったのだろうか?
お話は人々が大切にしていた“光”を闇の妖精が奪い取ってしまい、1日中暗やみの中で暮らさなくてはならなくなった世界。勇敢な少年ピポルスが“光”を取り戻すべく、幻の水晶玉“HOLY GEM”を取り戻すため花の国メリーランドへ出発した……というもの。
↑中央の少年が主人公。お花畑と蝶々で“ピポルス”という言葉の響き通りの画面デザインだ。 |
基本的には襲ってくる敵を“ハート攻撃”なるショットで打ち倒して、ひたすら進めばよい。スクロールはゆっくりながらも強制的に進む。さりげなくMSX1では難しい縦方向のスムーズスクロールを実現しており、時期的にみても本作品の滑らかスクロールは優秀だ。しかし先にも書いたように左右に避ける際の制限が多いのでその点には注意する……のだが、これがなかなか難しい。動きに不自然な点はないものの、似たようなシステムを持つゲームを見かけないため、ついつい移動の感覚を間違えて敵に激突してしまうのだ。“よくあるゲーム”にならぬよう個性的であろうとすることは、逆に取っ付きにくさにもつながる表裏なものなのだ。ゲームを作るときの悩みどころでもある。
↑“ハート攻撃”で幽霊をやっつけよう。強制スクロールはゆっくりに見えるが実際にはかなり忙しいぞ。 |
で、ぼちぼちと慣れつつそれらこれらを乗り越えてマップの最後まで行くと、左右のどちらかに分岐する。この行く方向によって次の面が決まり、クリアするにはそれなりの試行錯誤が必要となる。
後述する『コナミのピンポン』とは違って展開の面でもボリューム面でも十分なのだが、普通のシューティングゲームともアクションゲームとも違うところがユーザーに通じにくかったのか、レアというほどでもないけれど、微妙に見かけないソフトである。
面と面の繋がりが複雑すぎて、場合によっては先に進むどころか戻ってしまうこともあるため、いくらやってもクリアにたどり着かない……ということもあったようだ。箱の裏の「痛快でちょっとシンキングな」というコピーはその現われだろう。あるいはパッケージイラストが日本人受けしなかったかなどと想像してみるも確たる答えは見つからない。何がヒットして何がヒットしないのかは、いつの世も分からないものである。
■モピレンジャー(1985年発売)
マニアックなゲームが多いコナミの“パピプペポ系ゲーム”の中でも最もマイナーな1本。ストーリーは“ほのぼの怪獣モピラの国にラゾンが侵入。さらわれたコモピラたちを救うため、ゆけ正義のモピレンジャー!”。これだけだとなんだか分からないが、説明書によると“ラゾン”とは“宇宙のキッドネイパー”とあるから、誘拐が職業かと思われる。が、身代金交渉など一切せずに力技で救出に向かうモピレンジャー。これもヒーロー名的な個人名なのか職業名なのか全く分からない。謎が謎を呼ぶモピランドである。
ゲームは迷路状のステージでコモピラのところを全て回って救助すればクリアとなる。しかし50ステージからなる“魔の水宮”(お宮なのか屋敷なのか、城かなんかの堀なのか、特に説明はない)には目で見て分かる水流があり、流れに乗るか逆らうかでモピレンジャーの移動スピードは大きく変わる。敵ラゾンはモピレンジャーの持つ“ストーン・ビーマー”で石に変えられるが、石は1つずつ押すことしかできないために戦略を誤ると変なところで固まってしまい、コモピラを救出できなくなってしまうのだ。
↑石は押せるが引っ張れない。だからL字のまがり角で敵を石にしてしまうと、動かなくなってしまうぞ。角まで押してしまった場合も同じだ。たまに“ビッグラゾン”が食ってくれることもあるが。 |
このゲームは完全なMSXオリジナル作品で、固定画面のアクションパズルゲーム。ゲーム自体はコナミクオリティでよくできていると思うのだが、モピレンジャーという謎キャラクターを配置したせいなのか、当時の子供の心を掴むに至らなかったようだ。そんなわけで今日ではいまいち知名度が低い。
↑ボーナス面。敵はいないので、落ち着いてコモピラのところへ行こう。当然パーフェクトになるのでボーナス10000点だ。 |
説明書ではコナミMSXゲームで唯一“遊び方”と“操作方法”がマンガで説明されている。この点からも作者のモピレンジャーというキャラクターへの愛着が強かったことを伺わせるが、正直ほかのMSX作品と比べると微妙な感じがより深まってしまっている。そして30年経ってもサッパリ分からないのが説明書の“隠し操作”で、「はっきり言ってあります。ありますが、公表すると『隠し』になりませんので秘密にしておきます。」と、挑発してきたものの、シマリスの如くもはや何をどこに隠したのかすら分からないMSXユーザーたちの現状なのであった。ということで誰かこれが何なのか教えてくれませんか。
■コナミのピンポン(1985年発売)
アーケード版が存在することから、コナミMSXチームの誇る名移植作……なのは確かなのだが、この作品もイマイチ売れなかったらしい。“パピプペポのつくゲームは売れない”伝説に貢献してしまった1本であるが、それなら『コナミの卓球』というゲーム名なら売れたのかと言われれば、「えへへへ」としか言いようがない。
画面には卓球のコートと満員御礼の観客席、そこはいい。空中にはラケットを持った手だけがプカリ浮いているというシュールなビジュアルが有名である。人体の描写を省略することで醸し出されるリアリティ、やってみれば絶対に分かるが、この独特のUIと画面構成が今見てもまさに“卓球”としか言いようのない緊迫感溢れるシステムを生み出した。「人類史上、この“コナミのピンポン”を超える卓球ゲームはまだ存在しない!」と言い切っている者もいる。
↑手前の黄色が自分。ネットに引っかかるとボテボテになったり、いろいろと動きは面白い。本物に似ている気はしないが、不思議な現実感がある。ホントに慣れるとハマるぞ。 |
キー操作は、変則的な3方向+スペースキーの構成である。キーの上はスマッシュ、左右がドライブとカット。スペースキーはフォアハンドとバックハンドの切り替えを行なう。このゲームの特徴として、飛んできた球にラケットが当たるタイミングで飛ぶ方向が大きく変わる点にある。これにより今の目で見ても、かなり緻密なプレイを実現している。当てるタイミングが早すぎても遅すぎてもあらぬ方向に飛んでしまい、簡単にアウトとなってしまうのだ。基本的にラケットの移動は球の動きに対して自動追尾するので、プレイヤーはひたすら叩くタイミングと、それによって飛んでいく角度がどうなるかだけを気にすればよい。
ゲームのデモではなかなかカッコよくラリーを繰り返した後にスマッシュを決めるところが見られる。自動追尾なので遊ぶ前は簡単にこれができそうな気がするが、実はここまでラリーを続けられるようになるには、結構な鍛錬が必要となることにすぐ気がつくだろう。タイミングを見極めて、敵にスキができるまで打ち合い、チャンスボールを見逃さずスマッシュ! これが大変な快感である。最初のうちはラリーすらおぼつかないかもしれないが、やがては敵のスマッシュすらも返せるようになるだろう。レベル3、レベル4あたりからはラリーも超高速になってきて、他人が見ていたら「スゲー!」と言われるくらいの迫力だ。そしてレベル5で勝利できるようになると、「俺にも“世界”が見えてきた……」ような錯覚する覚えるようになる。まあ、レベル5で終わりであり世界も何も無いのだが。とにかくそれくらいリアルなその“感触”は、今も全く色褪せてなどいない。卓球ゲームはその後全くないわけではないが、いきなりこの完成度で出現したのは驚くべきことだろう。
↑良く見ると右上にあの“ぺんぎん”が! 2P対戦モードもあるのだが、奥になると不利だ。「白線の上でサーブすると球が見えにくい」という卑怯技で友達を失いつつ勝利の美酒に酔うのだ。 |
とはいえ売れなかった理由もなんとなく想像がつき、画面が卓球台の画面しかないことに尽きる。同時期のコナミMSXゲームは設定やストーリーも本格的になってきつつあり、“この先を見る楽しみ”が色々と用意されていたのだが、『コナミのピンポン』はひたすらストイックに球を叩き合い、勝利の大きな快感だけが純粋に手元に残る……という、良くも悪くもスポーツらしさを体現した1本だったのだ。乏しいお小遣いでお子様が買うにはいささかビジュアル面が弱かったかもしれない。だが、あえて言おう。「絵じゃないぞ!」と。大人になった今こそ、その凄さをぜひ見て貰いたい1本である。
(C)Konami Digital Entertainment
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ツイおた(ツイッターのつぶやきをおたよりとして紹介します)
Takashi Kobayashi @nf_banさん
今思えば「なめ猫」で頭角を現した80年代ヤンキー文化圏(現キラキラネーム)の流れを受け継いでいる。魂斗羅・餓流禍…あっこれもコナミだわ。
――サラマンダを漢字で沙羅曼蛇……たしかに夜露死苦みたいなノリではありますね。でも、なんかちょっとカッコいいんですよねー。
つかさん @spread_bombさん
ファミコンユーザーだったので、スプライトが単色とか言いながら、コナミタイトルの豊富さとカセット複数差しの仕様がうらやましかったのです
――複数差しがうらやましかったという人も。まぁ、ファミコンはカートリッジスロットが1個しかないのでMSXならではの面白い使い方と言えるかもしれませんが、普通そんな使い方しねぇよ、という。
でわでわ~。
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