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Apple製品をデザイン面で支えたハルトムット・エスリンガーが、創造の原点と未来を語る|Mac

2014年07月01日 16時00分更新

 1980年代後半のApple製品をデザイン面で支えたフロッグデザインの創設者ハルトムット・エスリンガーが、著書「形態は感情にしたがう」(ボーンデジタル刊)の出版記念イベントで来日。デザインの極意を熱く語った。

エスリンガー

 エスリンガーの講演は、幼少時代のエピソードから始まった。1944年にドイツで生まれた彼は、子供を型にはめようとする同国の教育の在り方に反発を覚えたが、唯一の救いは、誰からも束縛されず自由な表現を追求できる音楽の世界だったという。そして、ただひとり彼の独自性を認め、妥協しないことの大切さを教えてくれた音楽の教師に現在も感謝しているという。今回の本を書いた動機のひとつも、創造性を伸ばす教育の重要性を広く認識してもらうためであると語った。

エスリンガー

 一方で彼は、昨今の「デザイン・シンキング」(優秀なデザイナーや経営者の思考法を真似て、新しい発想を生み出そうとするイノベーション手法)には疑問を感じており、真の改革を起こすために必要なのは脳レベルでの創造への強い希求だと説く。つまり、特に意識しなくともクリエイティブへと向かう指向性がなくては、優れたデザインは生まれ得ないという考え方である。彼自身がいくら音楽好きでもローリングストーンズにはなれない、という例を出して、自らの才能を見定めることも重要であるとした。

 「形態は感情にしたがう」という講演テーマとの関連では、コーヒーを取り巻くデザインを例に挙げた。「コーヒー=カフェイン」と見てしまえばそれ以上の発展はないが、「コーヒー=楽しみ」「コーヒー=渇きを癒すもの」というように受け手の感情に踏み込んで考えることで、新たなデザインの可能性が広がると述べた。

エスリンガー

 彼は近年、デザイナーの社会的地位向上にも熱心に取り組んでいるが、その背景には、コストを重視してデザインをないがしろにする頭の固い経営者たちへの反発がある。彼の実質的なデザイナーデビュー作にあたるドイツ連邦デザイン賞受賞のラジオの操作パネルのラベルは、あとから見るとドイツ語と英語の入り交じったいい加減なものだったという。それをティーンエージャーの娘にあきれられたという失敗談も語られた。それでも、ドイツのヴェガや、のちに同社を吸収したソニー㈱、最初の黄金期にあった'80年代のAppleは果敢に彼にデザインを依頼。デザインを戦略的に用いたこれらの企業のお陰で、エスリンガー自身も才能を存分に発揮できた。そうした環境を、若い世代にも与えたいと考えているのだ。

エスリンガー

デザイナーにはクリエイティブな脳が必要

エスリンガー
エスリンガー

創造的な人の脳は、ただのレンガを見ても名刺やテーブルなど別の用途に使えないかと活性化するが(右)、そうでない人の脳は無反応に近い(左)。デザイナーには訓練だけではなれないと説く

デザインへの投資の重要性を強調

エスリンガー

フロッグデザインがAppleとの仕事を始めた30年前の米ヒューレット・パッカード社は、ジョブズも憧れる一流企業だった。そのビジネスがいまや縮小の一途をたどっているのは、デザインへの投資に消極的だったためと指摘

 講演の最後にエスリンガーは、「経験とは背中に背負ったランタンのようなもの。常に背後を照らすのみで、これからの歩みの役には立たない」という孔子の教えを紹介し、「馬鹿であれ」という言葉とともにジャンプするカエルのイメージで締めくくった。故スティーブ・ジョブズや、サイクロン掃除機の発明で知られるジェームズ・ダイソンによる、若者やデザイナーの卵たちへの人生訓にも通じるメッセージには、実際にそのような人生を実践してきたからこその重みがあった。

ジョブズとの打ち合わせノート

エスリンガー

スティーブ・ジョブズとの40年前の打ち合わせメモには、「シンプルにすべき」「小さいほうがいい」「フレンドリーさを重視」「ベストなものを作る」など、ジョブズが理想とした製品デザインのエッセンスが記されている


 本記事は、MacPeople8月号(6月28日発売号)の「NewsNAVI」コーナーに掲載したものを転載いたしました。そのほかに「NewsNAVI」では、AppleのBeats買収やドコモ版iPad等について掲載しています。

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