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3Dプリンターが災害対策に活躍した 国土地理院の立体地図データ活用レポート

2014年06月08日 19時25分更新

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 毎年6月3日は『測量の日』と制定されているのはご存じだろうか? これは1949年6月3日に測量に関する法律が公布されたのにともなって制定されたものだ。茨城県つくば市に本拠地を置く国土交通省 国土地理院では、毎年この測量の日に合わせて毎年イベントを行なっており、今年は3Dプリンターを活用した立体地図が展示された。

 なお、測量の日は6月3日だが、今年のイベントが行なわれたのは日曜日に合わせた6月1日となった。また、6月6日(金)には東京・大手町で『地理院地図3D展』も開催された。

■3Dプリンターで好きな場所の立体地図が安価にできる!

 現在、国土地理院で公開しているWeb版の地図では、高さデータを付加した立体地図を閲覧できる。しかも、この立体地図の閲覧サービスは見るだけでなく、日本中の好きな場所の地形を3Dプリンター用のデータとしてダウンロードできる。また、データは個人ユースの熱溶解積層型3Dプリンターで標準データ形式となっている“STLファイル”のほか、地図データをテクスチャーとして貼り付けてあるVRML形式のデータもダウンロードが可能だ。これを使えば、石膏型のフルカラー3Dプリンターならば立体の地形に地図や航空写真がプリントされた模型を造型できる。イメージがつきにくい人は、中学校の社会科資料室などに置いてあった、ゴツゴツした山脈などが立体となった地理模型を思い出してほしい。ほぼアレと同じものが3Dプリンターで手軽に作れてしまうのだ。

 今回の展示では、その造型したさまざまなサンプルを見ることができた。
 

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 国土地理院では、個人用の熱溶解積層型をはじめ、石膏型や光造型、紙造型などさまざまな材料と方式の3Dプリンターで立体地図の作成を検証しており、造型したサンプルが展示されていた。ちなみに熱溶解積層型は、週刊アスキーや週アスPLUSで何度か紹介しているXYZプリンティングの『ダヴィンチ1.0』を実際に購入して使用している。この『ダヴィンチ1.0』で造型した立体地図に、シール紙に印刷した地図を貼り付けた自作のフルカラー立体地図模型が展示されていた。担当者に聞いたところ、購入した3Dプリンターの機種選定のポイントは、購入コストと使い勝手の良さとのこと。選定時には筆者が執筆した記事も参考にしていただけたそうで、まことにうれしい限り。なお、立体地図データの提供は今のところ日本国内の地図だけだが、将来的には各国の国土地理院と連携して全世界の立体地図が作れるようになるという。
 

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↑3Dプリンター『ダヴィンチ1.0』で作られた、つくば市中心部の4万6千分の1の立体地図。13センチ四方の造型した地形にシールに印刷した地図を貼り付けたもの。縮尺どおりの地図では地形がわかりにくいので、高さを10倍に強調している。従来の社会課資料室にあるような立体模型は1個20万円前後もするのに対し、本模型は200〜300円で作れてしまう。触って地図のどこに高低差があるか実感できるので、地理好きにはたまらない逸品だ。
 

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↑フルカラー石膏3Dプリンター 3Dシステムズ『ProJet x60シリーズ』で作られた芦ノ湖。フルカラータイプなら、地図を貼り付けなくても造型した表面にそのまま地図がプリントされて作られる。表面は、石膏ならではのザラザラとした質感だ。地図の文字はややにじみがち。

 

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↑コピー用紙にインクジェットで着色しならがら積層して立体を作るフルカラー3Dプリンター『mcor iris』で作った筑波山。インクジェットプリンターと同じ要領で表面の地図をプリントするので、地図のフォントは石膏よりも鮮明だ。材質は紙だが硬化インクを使っているため、表面は堅くツヤがある。
 

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↑凸版印刷に依頼して作成した光造形3Dプリンターで作った富士山。高精度な光造形ならではの微妙な地形がシャープに表現されている。
 

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↑ワールドカップ間近ということで、テレビ番組の要請で作成というブラジル近辺の立体地図。『ダヴィンチ1.0』で造型した13センチ四方の立体地図を4枚つなげて作っている。高さを100倍まで強調してあるため、アンデス山脈がやたらと高い。なお、立体地図の作成は、現在のところ日本だけだが、各国の国土地理院と連携して全世界の立体地図を作れるように準備が進められているとのこと。

 表面のテクスチャーは、地図データさえあれば、地図や航空写真だけではなく、地質を色分けした地質図、高さを色で示した“色別標高図”などさまざまなデータを造型した立体模型の表面にプリントできる。実際に東京の“色別標高図”を見てみると、江東区の周辺はほぼ海面と同じ高さの土地が広がり、千代田区付近から丘が広がっているのがリアルに実感できた。
 

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↑火山活動で今も島の面積が拡大している“西之島”の航空写真をテクスチャーとして貼り付け、フルカラーの石膏型と紙積層型の出力をしたサンプル。航空写真だけでは起伏がわかりにくいが、立体にすることで、実物の様子とその形がリアルに把握できる。
 

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↑同じく西之島の拡大の記録を『ダヴィンチ1.0』で作ったもの。このように立体の情報にさらに時間情報も付加すると、変化の過程がよりわかりやすくなる。
 

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↑東京駅を中心として、高さを色で示した“色別標高図”。立体模型で作ると、高さの違いがよりリアルに実感できる。
 

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↑鹿児島県にある桜島の地質図。火山の形や地質の違がよくわかる。

■実際に自分でも立体地図を作ってみよう

 ここまで見てきたような立体模型は、実は自分でも作れる。自分で3Dプリンターを使って造型し、後から印刷した画像を貼ってもいいし、フルカラー3Dプリントサービスを行っているDMMやオフィス24STUDIOに造型依頼することもできる。自分の住んでいる場所を作ってみたり、おもしろい地形をコレクションして眺めてみたりと楽しみ方はさまざまだ。続いて、地理院地図からの3Dプリント用データの作り方を紹介する。

1 ブラウザーで地理院地図をひらく

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↑地理院地図(関連サイト)をブラウザーでひらいて作りたい場所を表示する。

2 地図上で右クリックして“地理院地図3Dで開く”を選択

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↑地図上の任意の場所で右クリックして“地理院地図3Dで開く”を選択する。

3 高さ調整をする

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↑地図が実物の比率に正確な状態で3Dで表示される。しかし、山岳部はいいが都市部など起伏が低いところでは地形がわかりにくい。そこで、下部にある“高さ方向の倍率”のスライドバーを動かして高さ強調を行なう。東京の場合は5~10倍にすると、地形がよりわかりやすくなる。
 

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↑高さ調整1倍では平たい状態だが、10倍にすると、地形の起伏がしっかりと出てくる。都市部ではこの状態を造型するほうが触って地形がわかりやすい。

4 3Dデータをダウンロードする

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↑高さの調整が終わったら下部にあるボタン“3Dデータのダウンロード”を押せばダウンロード画面が出てくる。形状データのみの単色用STLデータや地図がテクスチャーとして乗るフルカラーのVRMLデータ、ブラウザー閲覧用のWebGLのデータがダウンロードできる。

5 3Dデータを造型してできあがり

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↑ダウンロードした3Dデータを3Dプリンターのプリントソフトに読み込ませれば造型できる。造型を依頼する場合には、ダウンロードしたデータを3Dプリントサービス業者に送れば問題なく造型できる。
 

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↑地図の縮尺を変えて3D表示すれば、関東一円や日本列島なども作れる。
 

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↑地理院地図には航空写真のテクスチャーも収録されているので、左にあるウインドーの“写真”フォルダーから“最新”の項目にチェックを入れると表示される。なお、航空写真はどこでもあるわけではなく、都市部の2万5000分の1の地図から表示される。


■立体地図を災害対策に活用する

 一見すると、この立体地図のデータは、地形の把握や学習といった目的で使われそうだが、実は提供が開始されるきっかけとなったのはあの東日本大震災だ。

 震災による津波で大きな被害を受けた宮城県女川町では、住民の高台への移住計画が進んでいる。それにともない、住民がどこに移住するのか決めるため国土地理院の担当者が平面の地図を届けたところ、平面の地図ではそこが安全なのか、どれぐらいの高さにあるのかわかりにくいという意見が出た。そこで立体的でわかりやすい、地域の防災計画に使えるものを作ろうということになった。

 しかし、従来の立体の地形模型を地域ごとに作るにはあまりに予算と時間がかかりすぎるため、目をつけたのが3Dプリンターだった。3Dプリンターを使えば造型の費用が安く、時間も短縮でき、自治体ごとに必要に応じて範囲や縮尺を変えて立体地図を作れるという利点がある。こうして始まったのが今回の立体地図のデータ提供だ。

 国土地理院では、造型した地形の模型にプロジェクターでプロジェクションマッピングをするシステムも試作しており、必要に応じて白い地形の模型に情報を投影することで、浸水や土砂崩れの場所を図示できるものとなっている。実際に展示では、女川町の浸水の範囲や伊豆大島の土砂災害の被害地域を図示する展示が行われていた。

 将来的には、災害が発生した際に対策本部にこの模型を設置し、情報を的確に把握できるようにするツールとして役立てたいとしている。ただし、現状では3Dプリンターの造型の遅さがネックになっている。現行の3Dプリンターでこの模型を作る場合、最低でも7、8時間前後は必要となる。だが、災害対策本部が立ち上がる1時間以内に造型できればツールとしての利用は難しい。今後の3Dプリンターのスピードアップがカギを握るようだ。

 また、熱溶解積層型の3Dプリンターは、1色のみから、2色同時造型できるデュアルヘッド製品が増えつつあるが、こうした災害対応用の立体地図を作る際に、白い地形に黒や赤で道路や被害地域をプロットできると便利だと担当者は語っていた。デュアルヘッド製品のひとつの利用法として着目したいところだ。
 

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↑国土地理院で試作した立体地図にプロジェクションマッピングする装置。USBメモリーからスライドショーができる市販のDLPプロジェクターをマイクスタンドに取りつけたシンプル構成だが、『ダヴィンチ1.0』で造型した伊豆大島の立体地図に国土地理院の地図がズレなくピッタリと重ね合わせて表示できていた。実用性はかなり高そうだ。
 

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↑平成25年の台風26号により発生した土砂災害の発生地域をマッピングしたもの。被害の全容とどんな地形で発生したのかがひと目でわかる。
 

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↑立体地図を提供するきっかけとなった、女川町の東日本大震災での浸水状況をプロジェクションマッピングしたもの。各地域ではハザードマップの作成が進んでいるが、このように立体模型することでよりわかりやすいハザードマップを作れる。

■つくばの国土地理院で見られる珍しいモノたち

 つくば市の国土地理院の敷地には、国土地理院ならではの珍しいモノが見られる。なお、敷地内には地図や測量に関する歴史や仕組みを解説する施設『地図と測量の科学館』があり、こちらは一般の人でも入ることができるため、以下に紹介するものを見ることができる。

●宇宙からの電波を受信する超巨大アンテナ

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 つくばの国土地理院の敷地に近づくと、まず目につくのがこの巨大なアンテナ。このアンテナは“VLBI”というもので、クエーサーという地球からはるか数十億光年の位置にある恒星のような天体から出る電波を受信するためのもの。このアンテナは世界で複数あり、それぞれで電波を受信した時刻の差からアンテナどうしの距離を数ミリの誤差で計測することができる。

 国内では、つくばのほか、北海道の新十津川や鹿児島県の姶良、父島と4ヵ所がある。この4ヵ所で観測することで、日本列島が地球上のどの位置にあるのか正確に測定することができる重要な施設である。また、この観測データは、下記の電子基準点の精度を監視したり、地震のメカニズムと関連が深い地殻変動を検知するのにも使われる。

●日本の測量の基準点がここに『筑波基準点』

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 さらに敷地内に見える謎の塔は『測地観測塔』というもの。高さは約45メートルあり、塔の真下にある金属の標識が“筑波基準点”と呼ばれる日本の測量の原点となる場所だ。この原点と、これを元に作られた日本全国の測量の基準となる三角点と呼ばれる標識があるからこそ、精密な地図を作ったり、鉄道や道路などのインフラ整備や大きな建築物などを正確に作ることができる。いわば近代の日本を支えている基礎とも言える場所だ。塔の最上階には観測台があり、周辺の三角点の距離観測を行なっている。

●測量用の飛行機もある

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 地図の元となる航空写真の撮影と磁気測定用の航空機を独自にもっており、敷地内には初代の観測機『くにかぜ』が展示されている。これはビーチクラフト社製B-65Pの下部に撮影用のカメラと尾部に磁気センサーを搭載し、昭和58年まで運用されていた。ふだん機内は公開されていないが、『測量の日』のイベントでは機内を見ることができた。
 

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 この初代『くにかぜ』では、機内が与圧されておらず、高度5000メートルで酸素マスクをつけながら撮影していたとのこと。なお、現在は第3世代目のセスナ208B『くにかぜ3』が運用されており、さまざまな現場で活躍している。

●ラジコンヘリでの空撮も

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 近年では航空写真の撮影に無人ヘリや無人航空機が使われるようになっており、普通の飛行機やヘリが飛べないような場所で運用されている。無人ヘリのほうが比較的低い高度から写真を撮れるため、より鮮明で地図を作りやすい写真が撮れるとのこと。なお、西之島の航空写真の撮影には、『くにかぜ3』と航続距離の長い無人航空機を投入して島の様子を観測しているとのこと。

●本当に正確な日本の形がわかる日本地図

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 国土地理院の庭には、“日本列島球体模型”という地球儀の一部を切り取ったような丘がある。実はこれ、地球の丸さを考慮した20万分の1の本当に正確な日本地図。国土地理院で測量した日本の正確な地図データがこの丘のこの地図に結実している。

 ほかにも『地図と測量の科学館』の館内には興味深い展示が数多くあり、地図や地形に興味のない人でも地図作りのスゴさを実感できる。都心からはやや時間が掛かるが、1日かけても訪れてみる価値のあるとこだ。

■関連サイト
国土地理院
地理院地図
地図と測量の科学館

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