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ハイテンション農業アニメ『のうりん』監督に岐阜出身編集者がインタビュー

2014年03月03日 10時00分更新

文● 加藤兄 撮影●山田勉(平賀スクエア)

 たぶん、今期(2014年1月-3月)一番おバカ(ホメ言葉)な方向に振り切ってるアニメと言えば『のうりん』でしょう。『のうりん』は白鳥士郎さん原作(GA文庫)のライトノベルで、岐阜県美濃加茂市(劇中では美濃田茂市)に実在する農林高校(劇中では田茂農林高校)が舞台のモデルとなっている、農業がテーマの物語です。っていうと普通なんですが、バカでエッチ(エロというよりエッチ)でパロディー満載で、たとえば親や恋人といっしょに見るのははばかられるような作品とも言えます。

のうりんインタビュー
↑校内にある畑の真ん中でなぜか服を脱ぎだすヒロイン。こんな感じの農業アニメです。農業アニメです!

 んで、週刊アスキー的にはなんの関係もないのですが、私(加藤兄)が岐阜県美濃加茂市の出身でして、地元がアニメの舞台になるといううれしさから「ひょっとして岐阜、来てる!?」とちょっと勘違いし、勢いで大沼心監督にインタビューをしてきちゃいました!

 あ、その前に、みなさん、岐阜県ってどこにあるかご存じ? 編集部で聞くと、たいてい関東の人は「関西?」とか言うんですよ。違います。岐阜県はここ↓です!

のうりんインタビュー
↑だいたいニューヨークの西側あたりですね。※地図は世界地図SEKAICHIZU(関連サイト)より。


■登場人物もスタッフも全力です:大沼監督インタビュー

のうりんインタビュー
↑監督の大沼心(おおぬましん)さん。好きな果物はアボカド、好きな肉の部位はホルモン、好きなキノコはエリンギとのこと。


――ライトノベルの原作がある作品ですが、アニメではどのようにしようとお考えになりましたか?

大沼 原作を読んだときに、農業はもちろん、勉強、遊び、人間関係とどの場面もみんな全力で体当たりしていっている印象をもちましたので、そこを重点的に描いていきたいと思いました。

のうりんインタビュー
↑登場人物たち。これだけ見ると、まるで農業アニメみたいですね。あ、いや、農業アニメで正しいんだった。『のうりん』は農業アニメです。


――ロケハンで美濃加茂市へ行かれたとのことですが、印象はどうでしたか?

大沼 思ったより、東京のほうと変わらないんだなというのが正直な感想でした。“いなか”っていうと田園風景がものすごい広がっていて、何百メートル離れて1軒あって、という感じを思い浮かべていたんですけど、駅周辺など非常に整備されていますし、学校までの道も宅地という感じで。ただその中にもところどころで田んぼがあったり、空気の匂いが「あ、全然違うんだ」というのを感じて、そういう空気感だったりニュアンスというのを作品にも込められればうれしいなって思いました。キャラクターデザイナーや美術監督のかたもいっしょに回っていただいたのですが、そういうところで生活してるっていう空気をメインスタッフに肌で感じてもらうのが一番現場に生かせる形だろうなと思っています。

――ネット上でも検証画像がいくつもあがっていますが、背景は現実に忠実に描いてますよね。アニメに登場する場面ってすべて現実に存在する場所になるんでしょうか。

大沼 すべてではないですね。たとえば5話の空中庭園などは原作の中にも記述があるんですよ。学校の中に空中庭園があるっていう。でも実際(モデルとなった加茂農林高校)にはないんです。そこは原作を最優先にして作っていますね。ただ、茶室などは、実際に学校にある建物を取材させていただいて、そのニュアンスをちゃんと混ぜ込んでたりします。

のうりんインタビュー
↑アニメオープニングより。これは実際の美濃加茂市の風景にほぼ忠実。わが故郷ながら美しい。


――加茂農林高校の生徒さんには会われたのでしょうか。

大沼 会いました、というより授業中の生徒さんが熱心に勉強されているなか、写真を撮らせていただきました。こちらもロケハンをしないと“ジャムをつくる”とか“梨の剪定”とか実際には何をするのかわからなかったので、白鳥先生と教頭先生に実際にジャムを作られたりしている工程など、説明を受けつつ案内していただきました。

――生徒さんの印象はどうでしたか

大沼 非常にフレンドリーというか、白鳥先生が何回も学校に行かれているらしく、まわりにみんな集まってきてサインしたあげたりと、ああ、非常に仲いいんだなーって見てました。みなさん生き生きとしていて楽しそうに感じました。

――ヒロインのひとり農(みのり)が岐阜弁(正確には中濃~東濃地方の方言。以下岐阜弁と書きます)を話しますが、岐阜弁の印象はいかがですか? たぶん生徒さんはみんな話されてたと思うんですが。

大沼 生徒さんから、そこまで方言は感じなかったですね。ひとことふたことは聞こえていたんですけど、非常に聞き取りやすいと言うか、そこまでクセがあるというようには感じなかったです。

のうりんインタビュー
↑主人公・耕作の幼なじみ、農(みのり)。岐阜弁を話すことが特徴のキャラ。アニメで岐阜弁がこんなに聞ける日がくるなんて。ここで、ちょっと軽い岐阜弁講座。農がよく「〜〜やら」と言っているのは「〜〜でしょ」とか「〜〜だろ」という意味です。たとえば、第1話の冒頭で「あんたのせいで怒られてまったやら!」と言っているのは「あんたのせいで怒られちゃったでしょ!」という意味になります。もし「やら、やら!」と言っていたら、それは「でしょ、でしょ!」ってことです。


――いまどきの高校生くらいだとあまり方言が出ないのでしょうか。

大沼 そうかもしれません。

――では農が話しているのはちょっと誇張されている感じなんでしょうか。

大沼 それはありますね。キャラクター性として多少味付けさせていただいている部分はあります。

――私自身はアニメを見させていただいて、とても自然な岐阜弁のように感じました。ほかに岐阜弁について何か気を付けたことはありますか?

大沼 逆に視聴者の立場としてわからなくなり過ぎないように気を付けました。伝わらないと意味がないので、「じゃあここまでで」というのはありました。

――話は変わりますが、原作では農業に関してちょっと重いテーマも出てきます。アニメでどのように描こうとお考えになりましたか?

大沼 コメディとシリアスのふり幅が大きい作品だと思います。シリアスは絶対にやらなければいけないというのは最初から確信していたんですけど、ハンドリングが急になってしまうと視聴者のみなさんも非常に見づらくなってしまうので、うまくゆるやかに楽しくつなげていけるように心掛けていました。ただ、シリアス部分が“授業”になっちゃだめだと思うんです。そこを気を付けて、耕作たち魅力のあるキャラクターといっしょに体験してもらえるよう考えていました。

――原作はパロディーを大量に取り入れていることが特徴のひとつですが、アニメではどのように処理されていますか?

大沼 パロディーってやはり伝わることが重要だと思うんです。パロディーを入れるにしても幅広く入れていこうと意識していました。若いかたが見ても少し年のいかれたかたが見ても、自分にわかるネタがあるっていうのがうれしいと思うんです。

のうりんインタビュー
↑大沼監督ご自身も好きだと言う、第2話に登場した某歴史マンガのパロ。私は読んだことないのでわかりませんでしたけど。


――つまり、わからないパロディーもあるかもしれないけど、わかるものも必ずあるというバランスなんですね。原作にないパロディーも入ってますよね。

大沼 そうですね。基本的には原作に準じていますけど、ちょこちょことは入ってます。白鳥先生からも言われたのですが、パロディーのためのパロディーをやるのではなくて、しっかりとハマるようなシチュエーションに当てはめていくことが重要だと思います。だから、無理に入れてひずみをきたすようなパロディーは入れないように心掛けてはいますね。

――せっかくですので、週刊アスキーっぽい話題もお聞きできればと思います。最近はアニメ制作もデジタル化が進んでいると聞きますが、のうりんではどの程度デジタル化されているのでしょうか?

大沼 一番根底にある、人物などの絵の部分は鉛筆などアナログですね。そこから先はほぼオールデジタル化されてるとお考えいただいていいです。鉛筆画をスキャニングして、ペイントして、それを連番として書き出すというところまで編集も含めてオールデジタルです。

のうりんインタビュー


――機材は専用のものが使用されるのですか? それとも市販のパソコンと市販のソフトで作られるのでしょうか? 

大沼 昔は自分も専用のソフトを使って――ん百万もするような――すごい大変なことやってるんだろうなと思っていたんです。ですが、実際に使うのはフォトショップとか、アフターエフェクトが中心です。フォトショップ上で1枚ずつ絵を加工していって、それを連続して流せばアニメーションって実はできちゃうんです。
 ハードウェアも、ほぼ民生品ですね。作業人数が多いと台数が必要になってくるので。

――道具としては素人さんでもプロの方でもほぼ同じものを使われていると。それは歓迎されることですか?

大沼 業界にとってはいい刺激にになるのかな、とは思っています。あと、YouTubeであったりニコニコ動画であったりと発表の場も増えてますよね。すそ野が広るのは業界的にはいいことのかなと。中にはプロの業界でやってみたいというかたもいらっしゃいますので、ぜひがんばってもらいたいです。こちらとしてはもちろん、それには負けないように最先端を突っ走ります。

――最後に週アスPLUSの読者にメッセージをお願いします。

大沼 最初に全力という話を出したんですけど、現場のスタッフ、キャストさんともども全力でこの作品をつくっているので、全力で見てくれとは言いませんが、ちょっとでも農業に目を向けていただき、最後までお付き合いいただけるとうれしいです。

 大沼監督には“最終話の制作中”というお忙しいなかでお話を聞かせていただきました。本当にありがとうございました。
 アニメに現実の風景が登場するという話がありましたが、第6話では“天狗山”とか“たこ公園”とかが一瞬ですが登場していました(地元民にしかわからない話)。個人的には、次は自分の故郷のどこが出てくるのかとても楽しみです。


■お芝居でかわいい雰囲気が出るといいな:田村ゆかりさんインタビュー

 先述の農(みのり)は主人公の幼なじみで、世話焼きで我が強くていかにも岐阜の女性って感じのキャラですが、物語にはもうひとりヒロインが登場します。それが、東京からやってきた、おとなしくて可憐なワケあり美少女・木下林檎(りんご)です。なんと、林檎役の田村ゆかりさんにもお話をお聞きすることができました。

のうりんインタビュー
↑林檎役の田村ゆかりさん。
のうりんインタビュー
↑林檎は、ちょっと陰のあるキャラですが、意外と天然な面も。


――アニメのオファーがあったときにどういう印象をもたれましたか?

田村 最初はアニメじゃなくてドラマCDだったんですけど、キャラクターが自分と似てるところが多かったので不思議な気持ちでした。パロディーが結構入っていて、私のパロディーみたいなのも入ってたので不思議な感じだなぁと。

――第1話の冒頭からコンサートシーンがありますが、田村さん自身が草壁ゆか(林檎)に共感できる部分などはありますでしょうか?

田村 あまりゆかたんとしては出てこないのですが、歌っているシーンを見たときに、いろいろおもしろいなと思いました。

――具体的には?

田村 以前に私のライブを監督とスタッフさんとで見に来てくださって、わりとオマージュ的な感じで、「そこを描かなくていいのにな」と思うところをいっぱい描いていただいて……。飲むお水が置いてある台とかがすごく忠実に描かれていたりとか、要所要所ですごい研究して描いてくださったんだなという感じがしておもしろかったです。

のうりんインタビュー
↑実は、林檎はアイドルの草壁ゆかだった。なぜ引退して岐阜県の農業高校などへ転校してきたのかは第7話で描かれていました。


――へぇ、アニメ見直してみます。ところで、のうりんは農業がテーマのアニメなんですけど、田村さんはこういう野菜を作ってみたいとか果物を作ってみたいとかはありますか?

田村 やさいよりはやっぱり果物のほうがいいかなぁ。作るんだったら。

――ちなみに好きな果物はなんですか。

田村 私マンゴーが好きなんですけど、南国に行かないと作れないんですよね? 沖縄から取り寄せたりするくらい好きなんですけど。

――アニメの舞台である岐阜県には行かれたことありますか?

田村 行ったことないんです。いつか行ってみたいなぁとは思います。

――まぁ岐阜って地味な県ですもんね。アニメでは花澤香菜さんが演じている農(みのり)が岐阜弁をしゃべっているんですけど、岐阜弁の印象はどうですか?

田村 名古屋の言葉にちょっと似てるなぁって思います。身近に岐阜弁をしゃべるかたがいらっしゃらないので、あの言葉は農ちゃんの言葉っていう感じです。なぜか農ちゃんだけが方言なんで、“農弁”みたいなイメージですね。

――『のうりん』は原作もかなりハイテンションなライトノベルなんですけど、収録時、ほかの演者のみなさんのテンションも高めな感じなんでしょうか?

田村 そうですね。みなさんテンション高いですね。で、私の役があまりしゃべらないので、収録が終わったときにもみんな「すごくカロリー消費したー」とか言うんですけど、「ごめんね、私は今日も8キロカロリーくらいしか消費していないと思う」って。で、今カロリーの消費の単位が“林檎”になってて、「じゃぁオレは50林檎くらい消費したかな」みたいな(笑)、そういう使われ方をしてます。

――ちなみに誰が一番テンション高いんですか?

田村 浅沼さんかなー。でも意外と井上麻里奈ちゃんとかもテンション高かったり、あと出てくると斎藤千和ちゃん、ベッキー先生がやっぱりダントツですね。

――ベッキー先生出ないこともありますもんね。

田村 なんか全部持ってっちゃうから、出したくても出せないときとかがやっぱりあるみたいで……。

スタッフ まさにその通りです

のうりんインタビュー
↑斉藤千和さん演じるベッキー先生。こんなにかわいいけど、アラフォーなんです。


――林檎はどちらかというと静かなキャラですが、役作りの上でなにか気にかけていることはあったりしますか?

田村 表情があまり変わらずぼそぼそしゃべるキャラクターの子ではあるんですけど、すぐほかの人に嫉妬したりとか、かわいい部分もすごくある女の子らしい子なので、お芝居でかわいい雰囲気が出るといいなと思って演じています。

―― 最後に週アスPLUSの読者にひとことメッセージをいただけますでしょうか。

田村 農業をあまりやらない農業アニメなんですけど、たまに農業もやります。ギャグがすごく多くて、とても楽しい作品ではあるんですけど、ハートウォーミングなシーンもたくさんでてきて、いいお話もたくさん入っているので、いや、たくさんはウソですね(笑)。4話に1回くらいはいい話が入っているので、ぜひぜひ見ていただけるといいなと思います。よろしくお願いいたします。

―― ありがとうございました!

 と、いうわけで、『のうりん』の放送もあと1ヵ月ほどになってしまいましたが、ぜひご覧になって楽しんでください! 途中から見ても、きっと笑える要素いっぱいの作品です。最初のほうを見逃してしまったかたは4月9日に発売となるBD/DVDをどうぞ。
 この週アスPLUSの読者にも岐阜県出身のかたが少なくとも3人はいると思うのですが、これからは堂々と岐阜出身をアピールしていこうではありませんか。岐阜の時代が来てるやら! 岐阜県人よ、いまこそ立ち上がれ! そして、礼! 着席!


(c)2014 白鳥士郎・SBクリエイティブ/のうりんプロジェクト

関連サイト
TVアニメ『のうりん』公式サイト
 

のうりん
 TOKYO MX 毎週金曜日25:00から放送中
 dアニメストア 毎週日曜日12:00から配信
 そのほかの放送局放送日、配信サイトは公式ページをご覧ください
 http://www.no-rin.tv/onair/

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