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KDDIの新戦略“au WALLET”の狙いを読み解く

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■“au WALLET”とは何か?

 KDDIは3M戦略(“マルチユース”、“マルチネットワーク”、“マルチデバイス”)に基づいて、2012年に“スマートパスポート”構想を、2013年に“スマートリレーションズ”構想を発表した。

 およそ1年おきの新構想発表だが、今回発表されたのが“au WALLET”だ。

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↑“au WALLET”のボードで新サービスをアピールするKDDI代表取締役社長の田中孝司氏。

 “スマートパスポート”は、固定回線とのセット割引が提供される『スマートバリュー』、映像や音楽、アプリといったコンテンツを月額料金固定で提供する『スマートパスポート』、そしてアクセス認証の統一IDである『au ID』などで、「ユーザーに極力auを利用してもらう」、「もっとサービスを活用してもらう」、「付加価値収入を付ける」ことが狙いだった。

 “スマートリレーションズ”ではスマートバリューの強化やスマートサポートの追加など、さらにメニューが拡充されているほか、最大のポイントとして『スマートパス』を通してクーポン配信を行ない、実店舗とネットでの活動を結びつけたことが挙げられる。

 第3弾の“au WALLET”は実店舗とネットの融合をさらに推し進めたもの。従来のau IDを改良し、「リアルでの消費行動が携帯料金や端末購入の割引特典につながる」といったことを狙いとしている。

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↑3M戦略の中で今回の注目は『au ID』。これにヒモ付ける形でポイントプログラムと電子マネー機能を付与するのが“au WALLET”だ。

 オンラインでの活動をリアル店舗への誘導と消費行動へと結びつける仕組みはO2O(Online to Offline)などと呼ばれるが、これをau IDを用いて実装しようとするものが“au WALLET”だ。

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↑O2Oでリアル店舗への顧客誘導が戦略の柱。ユーザーに提供される決済手段はWebMoneyとMasterCardの電子マネーカードの2つ。


 具体的にどうするのか? au IDを通じて決済可能な電子マネーカードを新たに発行し、発生した支払いはKDDIへの携帯通話料金の枠の中で決済できる。

 リアル店舗での買い物はこの電子マネーカードを使って行ない、そこで発生したポイントはネットショッピングだけでなく携帯料金の支払いにも利用できる。ポイント分携帯料金が割り引かれるのは大きなメリットだ。

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↑ふつうの磁気カードなのでクレジットカードが使える店舗であればどこでも利用可能。カードへのチャージは連携アプリを使ってオンラインで行なえる。


 注目点は2つあり、ひとつは『WebMoney』と『MasterCard』の2つの決済システムをひとつのau IDで利用できること。ネットショッピングにはWebMoneyを、リアル店舗での買い物では電子マネーカードとして発行されたプラスチック製の磁気カードを使い分けることが可能だ。

 2つめは「ビッグデータ分析による提携店舗への誘導」と「統一的なポイントプログラム」を採用したこと。これが加盟店へのアピールと同時に、ユーザーがサービスを利用するモチベーションへとつながっている。

 特に後者については店舗ごとに異なるポイントプログラムを採用しており、「店舗ごとのポイントカードを財布に入れて持ち歩いている」というケースが多いが、これをひとつのau WALLETポイントプログラムでまとめられるのが利点。

 KDDI代表取締役社長の田中孝司氏は「携帯料金支払いでもポイントがたまり、さらにネットを対象にした電子マネーとリアル店舗での買い物も可能な電子マネーカードを同時にサポートするウォレット(WALLET)サービスは世界初ではないか」と語る。

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↑さまざまな店舗での決済がそのままau WALLETへのポイント獲得につながる。携帯料金でのポイント付与や、逆にポイントでの携帯料金支払いが行えるのも特徴。


 簡単にau WALLETの概要からいくつか沸いてくる疑問を整理する。

■ユーザーのメリット

 「ネットでもリアルでも決済はauの料金支払いの中で行なえる」、「ネットでもリアルでも携帯料金支払いでもポイントが発生し、ポイントは該当小売店やチェーン以外の支払いにも利用できる」という点だ。

 詳細は5月に改めて発表されるが、WebMoneyとMasterCardの電子マネーカードともにプリペイド方式で、適時必要額を事前にチャージ。この範囲内での買い物が可能というわけだ。

 基本的には「携帯回線さえもっていればWebMoneyに加えてMasterCardのクレジットカード(プリペイド方式)が利用可能」になる。また残高照会やチャージは適時オンラインでできるため利便性も高い。

 ポイントに関しては、リアル店舗での買い物、au通信料金、さらにauショップの来店ポイントなどが加算対象になっており、特約店での買い物であれば2倍のポイント加算になる。このように比較的ポイントが貯まりやすい構造になっているほか、各種ショッピングでのポイント消費だけでなく、au通信料金の支払いも可能。田中氏のいうように「携帯料金支払いもサポートするポイントプログラム」は他の小売りチェーン系のポイントプログラムではみられない。

 MasterCardの電子マネーカードについて補足すると、これはau ID契約者の中でも希望者に対して配布が行われるという。ICチップ等を搭載しない一般的な磁気ストライプのクレジットカード方式になっており、MasterCard契約店であればどこでも利用できる。

 これは日本国内だけでなく海外でも同様だ。カードには16桁のカード番号と名前が付与されているため、WebMoneyの使えないサイトでもMasterCardを使っての決済が可能。電子マネーへのチャージは数千円や1万円単位で行ない、アカウントによってはチャージ可能な金額に制限をかけることも検討している。

 実際にサービスがスタートするまでは断言できないものの、このau WALLETを使ってMasterCardの電子マネーカードを入手するのが、学生等がクレジットカード(とはいっても“クレジット”ではなくて“プリペイド”だが)を手にする近道になるかもしれない。

■小売店舗のメリット

 KDDIによれば、こうしたリアルとネットをau WALLETで結びつけて循環型経済システムを構築することで2016年度までに流通規模1兆円程度の市場をつくり出すという。

 もともとのau個人契約者数3400万、au ID契約数1700万という契約ベースを維持しつつ、さらにau IDやスマートパス、ならびにau WALLET利用者を拡大していくことで、単なる通信量収入にとどまらない付加価値を生み出すのが目的だ。

 au ID契約者のうち、au WALLETの電子マネーやポイントサービスを利用のが半分程度としても1000万弱規模の潜在的なユーザーが存在する。この数字は、小売店の目にはどう映るのだろうか?

 既存のポイントサービスをもつ事業者の場合、ポイントはau WALLET側に蓄積されるため、顧客のロイヤリティーが相対的に低くなることが考えられる。ポイントサービスの前提として、ポイントを付与して次回以降の買い物に利用してもらうことで来店機会を増やすことにつながる。クーポン配布やスタンプカードなども、こうした顧客のリテンション率(保持率)を高めることが狙いだ。

 au WALLETの特約店(加盟店)になる場合、現時点で加盟料や何らかの中間手数料が発生することはないという。また、それを利用して各店舗独自のポイントプログラムとau WALLETの2つに対し、ひとつの決済で同時にポイントを付与することも可能だという。

 「顧客にとってはどちらもお得」というわけだが、各店舗の特徴がau WALLETの影に隠れてしまい、「au WALLET加盟の特約店」というくくりで見られることは前述のリテンション率の低下につながる可能性がある。

 ゆえに、各社ともポイントプログラムや電子マネーの仕組みを工夫して集客効果を高めようと努めている。筆者も小売店各社や電子マネー関連の関係者の取材を続けているが、やはり顧客の利用率促進は「Rewards」と呼ばれる収益還元プログラムが重要だと一様に指摘する。

 KDDIはこうした小売店の思惑を越えて今夏の正式サービスインまでに特約店の数を増やして、au WALLETのメリットをアピールしなければならない。スマートパスに関連した戦略の中でのクーポン配信でリアル店舗への誘導がある程度成功した実績をもとに、前述のau ID利用者数と合わせて説得材料に用いると考えられる。

 最初の顧客導線に苦労する店舗も多く、そのとっかかりとしてau WALLETが活用できるかもしれない。未知数ではあるが、KDDIがサービス利用者の動向を収集して個々のユーザーに合わせてオススメ店舗に誘導する「ビッグデータ」系のサービスも構想に入っており、一部大手の参加は見込めなくても、中堅店舗を中心に積極的にKDDIと組もうとする動きは十分考えられる。

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↑オススメ機能によるコンテンツやリアル店舗の誘導と、そこで発生する購入行動でポイントをためて、さらに購入行動へと向かわせる循環型経済システム“をau WALLET”で構築するのが狙い。


■電子マネーなのにおサイフケータイやNFCではない理由

 質疑応答で最初に指摘されたのがこの点だ。前述のようにリアル店舗での買い物やポイント付与は、すべてMasterCardの磁気カードを通して行ない、おサイフケータイのFeliCaや、NFCのType A/Bといった非接触通信によるセキュリティー技術は用いていない。

 この点について田中氏は「顧客の要望を聞いたら、必要なのは実際に使える決済手段で、カード需要の高さがわかった」と語る。つまり、現状でも利用できる場所の限られている(あるいは偏っている)非接触通信での決済よりも、磁気カードのほうが現実解だというのだ。

 おサイフケータイやNFCの将来的な採用は否定しないが、磁気カードを支払いに使った時点でMasterCardの決済ネットワークを通して引き落とし処理やポイント付与が自動的に行なわれるため、店舗には一般的なクレジットカード読み取り端末があればいい。磁気カードのほうが店舗側の追加機器導入負担が少ないのだ。

 MasterCardやVisaといった会社がPayPass/payWaveの非接触通信による決済サービスを提供し始めたのも、「(ICチップを内蔵したカードの場合)PINコード入力なしで手軽にキャッシュレスの決済ができる」ことを特徴に、よりクレジットカード利用を促進するためだ。

 少額決済であってもクレジットカードが利用できるのであれば、au WALLETの電子マネーカードでもその役割を果たせるが、日本ではまだ現金払いのみというケースも多く、このあたりは多少課題として残るだろう。

 『Square』や『PayPal Here』などのサービスが日本に次々と進出しているのも、特に中小小売店を中心にカード利用があまり進んでいない現状にビジネスチャンスを見出しているためだ。一方で、コンビニ等を中心にチェーン系ではカード対応が広がっており、以前と比較すれば非常にバリエーション豊かな決済手段に対応しつつある。

 また田中氏は「店頭に設置された端末に携帯のおサイフケータイ機能でタッチしてチェックインするサービスもあるが、どの程度の効果が期待できるかわからない」という趣旨の発言もしており、現状のおサイフケータイを使ったポイントプログラムやクーポンサービスに対して疑問視している印象がある。技術的な先進性よりも「まず実用性」というのがKDDIの見解だ。

■au WALLETは世界初のサービスなのか?

 携帯キャリアが広く柔軟な形で支払いからポイントプログラムまで一律にカバーしているという意味では、かなり進んだものといえる。ただし、モバイルウォレットと呼ばれる電子マネーとRewardsと呼ばれるクーポン系のサービスを組み合わせた仕組みは世界的な導入が進んでおり、例えば米国のIsisやシンガポールのStarHubなどがすでにサービスを開始している。

 どちらもともに携帯キャリア系のサービス事業者であり、その点ではau WALLETに酷似している。ただ、IsisやStarHubがNFCベースでサービスを構築しているのに対し、au WALLETは従来技術を用いている点で異なる。このほか、ウォルマートなど米大手小売店らが集まってつくった“MCX”という業界団体(外部サイト)があるが、ここではポイントプログラムや電子マネー導入、そしてシステム共通化など、中小小売店支援を目的のひとつに、au WALLETが目的とする循環型システムを、小売店自らが推進していくことを目指している。

 日本のおサイフケータイは、本来はこうした仕組みを実現すべく提唱されたものだったと考えているが、実際にはそこまで利用が広がっておらず、KDDIにいたってはau WALLETでの採用そのものを見送っている。

 おサイフケータイは部分的な導入では成功したものの、社会全体に広く浸透させるには至らなかったというのが筆者の認識だ。NTTドコモはおサイフケータイによる決済システムとして『iD』を提唱し、DCMXというクレジットカードサービスを提供しているが、つい最近になりDCMXユーザー向けに磁気カードの配布を開始。事実上iDとしての利用がほとんど広がっていないことを証明している。

 今年2月に入ってからはiD/PayPassの連携サービスの正式提供開始を発表。主に海外での使い勝手が大幅に向上している。これは、iD対応リーダーに端末のかざすとiDとして認識され、海外のType A/B対応リーダーに端末をかざすとPayPassとして認識され、iDを使っての一括決済が可能になる。

 海外ではすでにPayPass/payWave対応非接触リーダーが多数設置され始めており、iD+DCMXが俄然便利となりつつある。英ロンドンの地下鉄/バスで利用されているOysterカードの代わりにiD/PayPass対応端末をかざすと、そのまま交通決済が可能なサービスも間もなく提供されるようだ。

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↑海外ではすでに大手小売店を中心に非接触決済が可能なPOS端末が多数設置されており、電子マネーの使い勝手が良い。写真は英M&S(Marks&Spencer)の例。また、NTTドコモのiD/PayPass連携サービスは、将来的に写真のOysterカードの使えるロンドン地下鉄やバスでの決済にも利用できる。

 筆者の雑感だが、既成の“使える”技術を集めたことで素早いサービス展開が可能となり、小売店側のサービス対応のハードルも大幅に低くなっている。非常に実用的であり、今後数年先は技術の陳腐化もなく利用され続けるだろう。だが、3~4年先には別の革新的技術やサービスがトレンドとなっているかもしれない。今後の3M戦略発表の中で、au WALLETの適時アップデートに注目したい。

●関連サイト
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