祭は突然やって来た。
11月22日夕方、アップルストアがSIMロックフリーのiPhoneを販売し始めたのだった。ツイッター上は狂喜乱舞。夢にまで見たSIMロックフリーiPhoneが簡単に買える時代がついにやってきた。「こんな日が来るなんて!」。ティム・クックCEOは日本市場を見捨ててはいなかったのだ。
振り返ってみれば、本当に長い戦いだった。
SIMロック解除の議論が盛り上がったのがいまから3年前の2010年頃。総務省がSIMロック解除を進め、NTTドコモが積極的にSIMロック解除に応じたものの、その流れに立ちはだかったのがソフトバンクモバイル・孫社長だ。“我々の武器”としていたiPhoneのSIMロック解除に対して全力で拒んできた。一部のZTE端末でSIMロック解除に応じて、お茶を濁し「SIMロック解除の需要はない」と一刀両断。さらにユーザーが求めるSIMロック解除の声を無視し続けたのだった。
当時、強いニーズとしてあったのが「iPhoneをNTTドコモのネットワークで使いたい」というものだった。そのころ、いまに比べて決してネットワーク品質が良くなかったソフトバンク網でiPhoneを使うのには不満があったユーザーたちが、SIMロックフリーiPhoneを欲しがっていたのだ。
そこで、流行りだしたのが、海外で売られているSIMロックフリーiPhoneを入手して、ドコモのSIMカードで使うやり方だ。日本通信などのMVNOもSIMカードを提供してくれたことにより、SIMロックフリーiPhoneでドコモネットワークを使うという環境が整備された。
しかし、これらの使い方にはどこか後ろめたいものを感じざるを得なかった。なぜなら、“技適マーク”というお墨付きの有無で、大手を振って使っていいものかの判断を迫られたからだ。当時、海外SIMフリーiPhoneは闇米ならぬ“闇iPhone”的な存在として、一部のマニアの間で嗜好品のように扱われるようになった。
しかし、次第にその状況は変化しはじめる。
2010年4月の総務省令改正により、技適マークのソフトウェア表示が認められた。これにより、海外で売られているiPhoneも日本国内で堂々と使える環境が整備された。
さらに2011年にはKDDIからiPhone4Sが登場。“iPhoneを使うならソフトバンク”という限られた状況から、2つのキャリアから選べるようになった。そして、2013年9月、NTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始。大手3キャリアでiPhoneを売るようになり、ついにアップルは日本でもSIMロックフリー端末を販売する決断をしたようだ。
SIMロックフリーiPhoneの登場で、縁の下の力持ちとして忘れてはいけないのが、iPhone5s/5cのネットワーク対応力だ。LTEの対応バンドを見ても、Band1(2100MHz)、3(1800MHz)、8(900MHz)、18(800MHz)、19(800MHz)、26(800MHz)が使えるという点が大きい。もちろん、CDMAとUMTSを両方サポートし、1モデルでNTTドコモ、ソフトバンクモバイルだけなく、KDDIの3キャリアで使えてしまうというスペックだからこそ、SIMロックフリーの恩恵を余すところなく受けられると言う点が大きい。一昔前には、KDDIは「うちは通信方式が他社とは違うので、SIMロックフリー対応する意味がありません」と言い訳していたが、いまのiPhoneによって、そんな言い訳は、猪瀬都知事の会見と同じくらい説得力がなくなってしまった。
これまでSIMロックフリーは、どうしても対応端末が限られるなど、本当に一部のマニア的なものでしかなかったが、本命中の本命であるiPhoneが対応してくれ、アップルストアで手軽に買えることで、今後は盛り上がってくる可能性が出てきた。
ただし、当然のことながら、SIMロックフリーiPhoneは初期費用が相当に高い。iPhone5cで16GBは6万800円、iPhone5sは16GBで7万1800円とかなり値が張る。キャリアで購入すれば分割も可能で、しかも毎月割引が適用されることを考えると、一般的なユーザーからするとなかなかSIMロックフリーiPhoneを買おうという気にはならないだろう。
今回、SIMロックフリーiPhoneが発売されたことをソフトバンクモバイルやKDDI関係者に聞いたところ「NTTドコモがiPhoneを扱い始めたころから想定していた。毎月の割引やキャンペーンも適用されないので、キャリアにとってあまり影響はなさそうだ」と冷ややかだ。
かつては「NTTドコモ契約でiPhoneを使いたい」というニーズを叶えたSIMロックフリーであったが、いまではNTTドコモでもiPhoneが買えるようになった。かつてに比べるとSIMロックフリーiPhoneへのニーズは冷めているようにも見える。
一方、最高潮の盛り上がりを見せているのが、MVNO陣営だ。SIMフリーiPhoneの発売を受け、あるMVNO関係者は「ようやく待ち望んでいた時代がやってきた」と千載一遇のチャンスを生かそうとしているようだ。
今後、日本の市場でSIMロックフリーiPhoneが定着するかどうかは、高価な初期費用を帳消しにできるような、MVNOの料金プランが出てくることが不可欠だ。いまでも充分にMVNO各社は頑張っているが、せっかくSIMロックフリーiPhoneが出てきたこともあり、さらなる努力に期待しておきたい。
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