週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

ルールを目的にしない創造的な日本へ――シンガーソングライター 大森靖子

2013年11月07日 11時25分更新

ルールを変えようキャンペーン

 シンガーソングライターの大森靖子さんに「大切にしている自分ルール」や「ルールについての考え方」をお聞きしました。

ルールを目的にしない創造的な日本へ──シンガーソングライター 大森靖子

 「ルールを変えよう」と強い意思を持ったことはありません。ただ私には「垣根」というものへの意識が欠如していました。
 ルールは、無限に存在するそれぞれの集団、界隈ごとに細かく決められたり、または自然発生的に生まれたりするものですが、私は弾き語りというプレイスタイルや事務所無所属の期間が長かった都合上、どこかの団体に帰属してルールを背負わなければいけない状態になったことがこれまであまりありませんでした。

 例えば今年の夏には、一度もアイドルを自称したことなどないのに『Tokyo Idol Festival 2013』に出演させていただいたり、インディーズで活動しているだけの歌手なのに週刊誌フライデーでエッセイの連載をさせていただいたり……。私を面白がって無茶振りでボーナスステージの門を目の前に用意してくださる大人がたくさんいて、私はその門を挨拶もなくくぐって、づかづかとそこでの戦い方やルールもろくに周到せずにやってしまっている、というのが現在の状況です。

 売れない、メジャーのレーベルに見つけてもらえない、という点を卑屈にばかり思って5年ほど活動した末、これからは絶対に好きなことだけやって生きてやろうとすべてのバイトをやめました。そしてそれをきっかけに、「売れるために自分は冷静に策を立てていたか? 良い曲を作る、良い歌をうたう、そんなのは当たり前で、歌手だから他の努力はしないなんていうのは怠慢ではないか?」と思うに至りました。自分の状況を冷静に見つめたとき、

1. ひとりで活動しているのでバンドに比べて予定の擦り合わせの手間がなく機動力が高い。

→ 出演ライブ、イベントを場所やギャラや面子で選定せずとにかく手当たり次第出演する。

2. スタッフがいない&幼少時代から何をやっても天下がとれず器用貧乏だと思っていた自分の性質

→ キュレーター気質な、つぎはぎのもの作りが認められるようになったいまの時代に向いているのではないか。「素人っぽい」はとりあえず気にせず、文章を書くことも、CDジャケのデザイン入稿も、フライヤーのデザインも、CDの発注書の処理も、とりあえず全部自分でやってみる。世界観を細部まで自分だけで創り上げることができて有効だと考え直す。

3. 大火傷しがちの感情的な性格

→ 隠さない。スルースキルを絶対に身につけない。笑顔ですべてかわすという、人として確実に不健康な風潮を認めない。ちゃんとしなきゃだめ、という誰かの決めた理想像、概念を一切受け入れない。

 というように、いままで弱点だと思っていたところをすべて活かせるように、考え直すことができました。

 「がんばりたいけど、がんばるって何をがんばればいいんだろう?」と、とても長い時間そればかり思っていたので、弱点の炙り出しだけで今後の活動指針が見えた気がして、自分でも間抜けなほどパッと明るくなりました。あとは、やるだけでした。

 私は美大出身なので大学時代は絵を描いていたのですが、作品を作るときも、課題によって道具やモチーフの縛りなど、おおよそのルールがありました。私はとても捻くれた性格なので、課題をどう拡大解釈して自分のやりたいことにはめることができるかばかりを考えていました。というか、みんなそうだったと思います。ちょっとルールをはみ出してしまいそうだなと思っても、「許可はとらずにとりあえず仕事を進めて、怒られたらあやまろう」とたかをくくっていました。
 これはきっと日本社会では通用しない部分もあるのだと思いますが、正直、子供や女の顔をして誤魔化せばどうにかなると思って26年間やってきました。頭には目的や完成イメージが常に先にあって、ルールは手段でしかありませんでした。有効な時だけ利用すればいいや、くらいの認識でしかなかったのです。

 ルールは先人の知恵や、歴史の結果だと思うので、その通りに生きるだけである程度ちゃんとした(?)人間になれるのではないでしょうか。でも実際に私が見てきたものや感じたことにもとづかない思想なんて、私にとっては屁理屈でしかありません。その代わり、ルール無視のこんな生き方をしていたら、私が無知だった場合、大きな恥とペナルティがのしかかることになります。
 みんな新しいものが大好きで大嫌いだから、叩かれることも多いです。特にヲタク気質な日本人は、すぐ前例にはめこみたがり、元ネタ探しに必死になります。既視感のないものを怖がり、認められないんです。

 「○○っぽい」としか人の音楽を評価できない人を、全力で馬鹿にしたかった。そんな失笑の気持ちを込めて、私は1stアルバム「魔法が使えないなら死にたい」のジャケットを、椎名○檎さんの2ndアルバム『勝訴ストリップ』のオマージュにしました。もちろん彼女のことをとても尊敬しているし、私自身ファンです。が、誰ひとり同じシンガーなんていないのに、ちょっとエモいだけで彼女の劣化コピーとうたわれ、レーベルにもそういう売り方をされ、もう100人以上のシンガーが10年以上同じことの繰り返しで潰されてきたように私には思えます。これはCDの売り上げが減ってることにも関係するくらい、音楽業界のとんでもないミスリードです。
 「こういう系が売れたから、またこういう系の子に同じことをやらせよう」って、そんなんで誤魔化せるのは短期間です。それでは、特にある程度最初から音感が良く顔もいい若い女子なんかは、普遍的なものを身につける前に賞味期限切れの烙印を押されてしまいます。女子は結婚して引退できるし、いい時期をおいしくいただいて何が悪いの? と思われてるのかもしれないけど、そんなのあんまりです。

 とにかく私は日本が、もっともっと創造的な国になるといいなと思っています。だからとりあえず、くだらないルールに縛られないよう、その最たるものは“お金”だと思うのですが、それに固執して骨を折ったり人材が潰されたりしないような社会を望んでいます。怒られたらあやまればだいたいのことはどうにかなる、くらいに景気がよくなって欲しいなーと思います。

 

大森靖子(おおもりせいこ)

愛媛県松山市出身のシンガーソングライター。音楽関係者からの支持も大きく、口コミでファンが広がっている。2013年1stフルアルバム『魔法が使えないなら死にたい』を発売。リリースツアーファイナルを5月13日に渋谷クワトロで開催し、レーベル無所属のままソールドアウトさせた。週刊誌フライデーにてエッセイ連載『ファイナルカミングアウト』を執筆中。2013年12月11日には、ライブでも好評だった『ミッドナイト清純異性交遊』を含む2ndフルアルバム『絶対少女』(税込2,500円)を発売する予定だ。

■関連サイト

大森靖子公式ページ

Twitter@oomoriseiko

角川EPUB選書 創刊記念 ルールを変えよう!キャンペーン 特設サイト

ルールを変えようキャンペーン

関連記事

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります