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ルールをつくらない――慶應義塾大学大学院特別招聘教授 夏野剛

2013年10月21日 11時25分更新

ルールを変えようキャンペーン

 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛さんに、「大切にしている自分ルール」や「ルールについての考え方」をお聞きしました。

ルールをつくらない――慶應儀義塾大学大学院特別招聘教授 夏野剛

■「ルールをつくらない」のが私のルール

 私はルールが大嫌いなんです。だから、「ルールをつくらない」のが、私のルールです(笑)。
 なぜならば、過去の成功は、新しいチャレンジの答えにはならないから。これまでと同じやり方をしても、うまくいくかどうかわかりません。時代は刻々と変化していくので、私は過去にはまったくこだわりません。「ルールにとらわれない」ことが、ルールといえばルールでしょうね。
 成功したやり方に固執しません。そのときに一番いいと思うことを、イチから考えるようにしています。状況は常に変化します。一見同じに思える事象が起きても背景はすべて異なっているので、行動や思考をパターン化しない、ルール化しないように心がけています。
 そう考えるようになったのは、大失敗をしてから。会社をひとつ潰してからですね。いい意味で、臨機応変で臨みます。その都度その都度、ベストな方法を探すようにしています。
 ルールがあると、楽なんです。「ルールなので」といえるし、みんながなんとなくまとまるから。でも、ルールをつくったときには「正解」かもしれませんが、時がたてばベストではない可能性は高い。
 その状況で最適な解をひねり出すためには、ルールが邪魔になります。ルール化すると、ほとんどのことは陳腐化していくものです。マンネリに陥ってしまう。

 

■いつもゼロから考える

 だから、私はいつも、ゼロから考えるようにしています。そういうと「難しそう」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。ゼロから考えることは、楽しい。しきたりとか過去の成功事例とかを一切忘れて、考えます。ユーザーにとって一番いいことは何か? 取引先にとって最良の方法は何か? それらを頭に入れて。過去にとらわれないと、本当に楽しいですよ。
 出版であれば、読者が何を望んでいるのか? 映画であれば、映画を見る人のことを、ゼロから考えるべきでしょう。対価を払う人のことを、その都度その都度、徹底的に考える。対価を払う人はコンテンツの価値に見合うお金を払うのだから、「これまでと同じ」ではうまくいかないのは当たり前ですよね。

 

■好きなことに打ち込む人が一番強い

 私がルールを変えたほうがいいと思うのは、日本の教育です。
 教育指導要領に基づいてすべての教育は行われています。多様性の時代になったのだから、それは取り払ってもいいのではないでしょうか。
 これまでは「みんなが同じ」になることを目指していましたが、これからはひとりひとりが「一番好きなこと」や「本当に学びたいこと」と出合える場をつくるのが教育じゃないかと思います。求められているのは、多様性の教育。だから、私はゆとり教育賛成派です。
 スポーツの世界を見ると、世界に通用する20代前半の選手がたくさん出ていますよね。ゴルフの石川遼選手、松山英樹選手、フィギュアスケートの浅田真央選手、卓球の福原愛選手、テニスの錦織圭選手、サッカーの香川真司選手。こんな時代がやってくるなんて、20年前には考えられませんでしたから。好きなことに打ち込むことが、天才への近道です。
 調べれば何でも手に入るインターネットの時代だからこそ、「好きなことをやる」ことが大事なんです。好きなことだったら、いくらでも時間を使えますよね。個人と組織で、情報収集能力に違いはありません。調べれば個人でも知りたいことが手に入るから、好きかどうかが大事なのです。
 好きなことに打ち込む人、好きなものを追求する人が一番強い。

 

■大事なのは、多様性に対する理解

 会社のあり方も考え直す必要があると思います。
 たとえば、年功序列、組織の枠組み、新卒一括採用など。
 特に新卒一括採用は、いち早くやめるべきだと思います。20年も前に採用した人が、20年後に会社が求める能力を持っているかどうかはわかりません。むしろ、持っていない可能性のほうが高い。その時々に必要な人材を採用するほうが理にかなっています。働き場所のない人がほかに移るのは当たり前です。我慢してひとつの会社にいる時代ではありません。
 会社だって、10年間同じ形で維持するのは難しい時代です。業態を変えたり、合併したり、縮小したり、「いままで通り」では10年ももちません。10年前とはユーザーが変化しているのだから、企業も変わっていかないといけませんよね。
 そう考えると、10代、20代の若い世代は、多様性に対する寛容性、許容度が極めて高い。彼らは多様性の時代に生きています。
 ゲームをやっている横でキャッチボールをしたり、歌ったりするのは当たり前。違和感はないんですね。「みんなで一緒に」とは思わない。
 グローバル人材にとって最も必要なのは、多様性に対する理解。違いを受け入れる力です。
「みんなが一緒」の会社はやっぱり弱い。ひとりひとりの適性や能力を見極めて、適材適所に配置できる会社が、強い会社だと思います。

 

ルールをつくらない――慶應儀義塾大学大学院特別招聘教授 夏野剛

夏野剛(なつのたけし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授。
1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。95年ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートンスクール)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモへ入社。99年に「iモード」、その後「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。2005年執行役員、08年にドコモ退社。
現在は慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授のほか、ドワンゴ、セガサミーホールディングス、ぴあ、トランスコスモス、グリー、トレンダーズなど複数の取締役を兼任。
特別招聘教授を務める慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科では「ネットワーク産業論」をテーマに講義する。
2001年ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選ばれる。
著書「ケータイの未来」「夏野流 脱ガラパゴスの思考法」「iPhone vs.アンドロイド」「なぜ大企業が突然つぶれるのか」「ビジョンがあればプランはいらない」等多数。

■関連サイト

ドワンゴトップメッセージ

角川EPUB選書 創刊記念 ルールを変えよう!キャンペーン 特設サイト

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