先週、10月1日から6日まで幕張メッセで開催された『CEATEC JAPAN 2013』。CEATECといえば、最新のデジタルガジェットの展示が注目を集め、週アスPLUSでも多数のレポートをお届けした。そうした華々しい展示の一方で、一見地味ながら、実はこれまた非常に“熱い”最先端のエレクトロニクス関連展示が多数出品されていたのだ。
実際に会場を見てまわると、およそ3分の1は、単体で動作する製品ではない、技術発表やセンサーやパーツ類が占めるほど。本レポートでは、その中でも、我々にとって身近なスマホやPCなどのデジタルデバイスとは切っても切れない、“電源”まわりの展示にスポットを当てる。会場で見かけた太陽電池や燃料電池、無接点充電など、実用化間近な驚きのテクノロジーをまとめてみよう。
スマホの外装を太陽電池にできる!
有機薄膜太陽電池の進化がスゴイ
ここ数年で進化が著しく進んでいるのが、“有機薄膜太陽電池”だ。太陽電池をつくる材料はいくつかあり、結晶シリコンやアモルファスシリコンを使用する方式が比較的多く使われている。これに対して有機材料を使ってつくるのが有機薄膜太陽電池だ。ほかの材料に比べて太陽電池のパネルを薄型にでき、かつコストも安く曲面などにも塗布してつくれるのが特徴だ。
従来はほかの材料に比べて光から電気をつくる変換効率が低かったが、ここ数年の研究で変換効率は急激に向上。すでに12%前後を達成している。半導体や電子部品を手がけるロームのブースでは、有機薄膜太陽電池が展示されており、結晶シリコンやアモルファスシリコンよりも高い変換効率をアピールするデモが行なわれていた。
また、有機薄膜太陽電池は、太陽電池のパネル自体に色を付けることも可能となる。ブースでは、やや赤みを帯びたパネルの試作品が展示されていた。
有機薄膜太陽電池の“曲面に薄く塗布できる”特性を使えば、太陽電池をスマホ本体の背面やスマホケース自体のデザイン性やカラーバリエーションを損なわずにパネル化できる可能性がある。また、変換効率が高まることで、スマホを蛍光灯の下に置いておくだけで、充電器をつながずに充電できる(さすがに“急速”ではないだろうが)……という未来も実現できそうだ。 会場のスタッフによると、すでに実用化段階にはなっているらしく、あとは製品化するパートナー次第とのことだった。
実用試験開始!
高出力で安全性の高い固体水素源型燃料電池
水素燃料電池とは、電気化学反応によって電力を取り出す装置のことだ。ちょうど、理科の実験でやった水を電気分解して、水素と酸素を取り出す実験の逆だと思えばいい。原理はそれほど難しくないのだが、水素をどう扱うかが問題で、なかなか実用化が進まない分野のひとつでもある。
水素は軽い気体で引火性もあるため、気体のまま燃料にしようとすると、大容量のボンベが必要になり、また、気密性と危険性が問題になる。かといって液体での運用は、タンクが長期使用に耐えられず、しかも水素をつくるために膨大な電力が必要になるため、電力を取り出すという目的からは本末転倒になってしまう。
そこで注目を浴びているのが“固体水素源型燃料電池”だ。ロームとアクアフェリー、京都大学が共同研究している固体水素源型燃料電池では、水素化カルシウムを固形のシート状にし、必要に応じてシートに水を掛けることで水素を取り出せる仕組みを開発した。
具体的には、わずか3ccの容量のシートから約4.5リットルの水素が取り出せ、5ワットの電力が発電できる。つまり、ガム1枚ほどのシートでiPhone5sが8割前後充電できる容量をもつことになる。しかも、水素を取り出した使用済みのシートは、水酸化カルシウム、つまり消石灰になるため、一般廃棄物として捨てられるという特徴をもつ。
この固体水素源型燃料電池は、2012年のCEATECでも展示されたが、今年はついに製品化と実証実験にまでコマを進めたことになる。
今回展示されたのは、固体水素源型燃料電池と一般的なバッテリーを搭載したハイブリットタイプ。バッテリーは一時的に大きな起電力を必要とする機器用に補助として搭載している。本体は190×340×290ミリと小型のデスクトップPC用キューブケースといった印象だ。コンセント用の100Vと5VのUSB給電ポートを2つ備え、カセットコンロ用ボンベと同じぐらいの大きさの“固体水素源缶”ひとつで200ワットの出力が可能という。
これは32インチの液晶テレビが3時間前後視聴できる発電容量に相当する。なお、この固体水素源缶は約20年の長期保存が可能であり、災害対策用の電源としても期待される。実際に2013年度からは京都府や三重県などの自治体で、災害用の非常用電源として実証実験が始まる見込みだ。
また、会場で展示されていて気になったのが、ガムのような固体水素源のサンプルだ。これはまさに前述のガム1枚の容量でスマホが充電できるサンプル。すでにパッケージの状態になっており、今すぐコンビニで売っていそうな状態にまで完成されている。会場のスタッフの方によると、こちらも技術的にはほぼ実用段階まで来ており、あとはパートナー次第とのことだ。
燃料電池といえば、2003年に東芝が燃料電池で動作するPCを発表。その後、2009年には同社がメタノール方式の燃料電池『Dynario』を発売したが、2010年には販売終了となっており、デジタルガジェット業界における燃料電池の活用は下火になっていた。
そのメタノール方式が2ワット程度だったのに比べて、固体水素源はボンベ1本で200ワット、ガム1枚の容量で5ワットと出力が大きく、燃料の扱いも容易なため、再び脚光を浴びる可能性が出てきた。むろん、繰り返し使えるバッテリーのほうが基本的には経済性が高いため、現在のバッテリーの代替となる存在ではないが、電池の代わりや補助電力供給システムとして利用シーンの幅は広い。
たとえば、電池ボックスを搭載するために大型化せざる得ない製品を小型化できる可能性がある。また、キャンプや登山など、バッテリーが充電できない場所に行く際に、フル充電のバッテリーを5つ持っていくよりも、固体水素源用の充電器とガム5枚ほどの固体水素源燃料を持っていくほうが同じ容量が充電できてかつ荷物が軽くなる。
あるいは、スマホのバッテリーが少なくなって、あわてて電池やバッテリーをコンビニで買ったという経験のある人は多いと思うが、買って充電した後、使った電池は特殊なゴミとして捨てる必要がある。使用後に家電店で回収してもらうか、持って帰って自治体のルールに従って捨てなければならないわけだ。しかし、固体水素源燃料ならば、充電後は普通ゴミとして捨てられる。普通にコンビニや駅のゴミ箱などに捨てても大丈夫なのだ。
とはいえ、普及のポイントとなるのは、価格と入手性だ。会場のスタッフの方によると、量産性が高まれば価格も安くなるとのこと。ガム式の固体水素源がコンビニで数百円で買える時代が来れば、もうバッテリー不足に悩まされることはない時代が来るかもしれない。
部屋中どこでもノートPCがワイヤレス給電できる!?
“磁界共鳴方式”の無接点充電
スマホなどを置くだけで充電できる無接点充電は“Qi”という名前で国際規格として策定されており、パナソニックなどがすでに製品化している。これは2つの隣接するコイルの片方に電気を流すと、もう片方に電力が発生する電磁誘導の原理を活用したもの。たとえば、パナソニックのQi充電パッドの上にQi対応デバイスを置くと、コイルが移動するのが見える。逆にいうと、電磁誘導方式では、2つのコイルが隣接していなければならないのである。
この弱点を克服したのが“磁界共鳴方式”だ。CEATECでのQiブースやアルプス電気のブースでは、本方式を利用した製品が展示されていた。なお、ソニーなども本方式をすでに実用の段階まで研究を進めている。
磁界共鳴方式とは、磁場を振動させ給電側と受電側で共振現象を起こすことで、電気を伝えるもの。物理の実験で音叉を鳴らすと、少し離れた音叉が空気の振動で共振して鳴り出すという実験があるが、それと同じ原理だ。磁界共鳴方式は、電磁誘導方式に比べて伝送時の電気の損失が起こるため、伝送効率は6~7割前後とあまりよくないのが弱点。しかし、それでもアルプス電気では15ワットの電送、ソニーは60ワットもの電送に成功している。
とはいえ、電送する距離に損失率は比例するため、いかに長く損失を少なく電送するのが今後の課題となるという。アルプス電気のスタッフによると、2014年前後には製品が世の中に発売できるだろうとのこと。たとえば60ワットの電送ができれば、ノートPCも余裕で動くため、コンセントに送電ユニットを接続しておけば、部屋中どこでもワイヤレスでバッテリーを充電しながらノートPCやタブレットが使えるという未来が来るだろう。無線LANとの組み合わせで、ようやくデバイスの完全ワイヤレス化が実現できそうだ。さらに、Qiのように国際規格として推進されれば、もはやノートPCの付属ACアダプターは過去のものになるかもしれない。
ちなみに、原理的にはより大きな電圧の送電も可能だという。これを応用すれば、たとえば駐車場に磁界共鳴方式の給電ユニットを設置しておき、そこに受電ユニットを搭載した電気自動車を駐車すれば、それだけで充電するといったことも可能だ。
スマホを急速充電できる
Qiの大容量規格
磁界共鳴方式とQiは原理が異なるため、互換性はない。磁界共鳴方式の普及が進むことで、Qiが廃れていくかというとそうではない。電磁誘導方式は枯れている技術のため、より大電流を薄型な装置で電送できる規格へと進化する。ソニーがQiブースで展示していたのが、Qiの10ワット化ソリューションだ。1ミリ以下の薄型受電コイルを使用しつつも、10ワットまで給電量を増大させることで、現在のQiに比べて充電時間を半分にできるという。
ブースのデモでは、5ボルト2アンペア、つまり有線の急速充電器を使用したのと同じレベルの給電が行なわれてた。スタッフによると、デバイス側さえ対応すればさらに大きな電力にも対応できるとのこと。
また、同じくQiブースでは、スマホを置くだけで充電はもちろん、NFCとBluetoothでの接続を行ない、料金の決済やハンズフリー通話ができるユニットも展示していた。
新機軸電池の利用を促進する
半導体の低電圧作動
ここまでさまざまな電池や充電方式を見てきたが、そもそもデジタルデバイス自体をより低電圧で動かせるようになれば、より駆動時間を延ばせたり、より少ないバッテリーで動作でき、デバイスの小型化が図れる。また、現在は出力が足りないとされる、太陽電池だけでのデバイス駆動も可能になるだろう。そんな技術が、NEDOのブースで展示されていた『半導体の低電圧動作の限界に挑む!新材料・新構造デバイスの開発』プロジェクトだ。
これはわずか0.4ボルトで動作するデバイスに使用する技術をさまざまな企業と大学が共同で開発しようというもの。ルネサス エレクトロニクス、NEC、富士通、日立、東芝など、主要電気メーカーが参加している。内容としては、0.4ボルトで動作する電力効率10倍のCMOSやストレージ向けの不揮発メモリー、微細幅 低抵抗配線技術などがある。これらが実用化され、サーバやルーター、テレビ、PCなどに搭載されれば、2020年には241億キロワットもの電力(火力発電所1個ぶん)が削減できるという。このプロジェクトはすでにウエハーなどの試作段階にきており、実用化は目前となっているとのこと。
以上、電源まわりに関する新技術の紹介をしてきた。やや飛躍しすぎた想像かもしれないが、これらの技術がすべて盛り込まれれば、いつの日にかバッテリー状態をまったく気にしなくていい、ただ持っているだけで何かしらの給電を受けて駆動するスマホやノートPCを実現できる日が来るかもしれない。そのときには、今のようなバッテリーメーターを目にすることはなくなるだろう。これらの技術が製品に搭載される日が楽しみだ。
おまけ
ライター シバタの気になるデバイス
電池や充電とは全然関係ないが、筆者が会場で見かけた気になるデバイスをひとつ紹介する。ファーウェイのブースに何気なく置いてあったのがコレ。
SDIOの3G通信カード『3G SD(仮称)』だ。一見すると普通のSDカードだが、れっきとしたHSPA+の通信モジュールで、nano SIMが装着できてしまう。もちろん、アンテナだって内蔵している。通信はシングルバンド2.1GHzだ。日本国内での販売や価格等は一切未定の試作品。CEATECの日にギリギリ間に合ったそうだ。これを使えば、デジタル一眼レフなどのカメラやゲーム機などに3G通信の機能が搭載できる。すでにWiFiを搭載したSDカードは『Eye-Fi』などがあるが、それから一歩進んだファーウェイならではの製品だ。もちろん、デバイス側のファームウェアの対応が必要だが、デジタル一眼レフで撮った高画質な写真を、どこにいてもFacebookにガンガン上げていく、なんてこともできそうだ。
■関連サイト
CEATEC
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります