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ルールとは「変わるもの」だ! [前編]―ドワンゴ代表取締役会長 川上量生

2013年10月10日 11時25分更新

 「ルールを変えよう」キャンペーンによせて、角川EPUB選書『ルールを変える思考法』の著者・川上量生氏に、前・後編の2回に分けて「ルール変えることがなぜ重要なのか」を聞いた。今回のテーマは「そもそもルールってなんだ?」

ルールとは「変わるもの」だ!―ドワンゴ代表取締役会長 川上量生

 ライオンは、仲間とじゃれること、つまり「遊び」を通じて狩りを覚えるといいます。同じように、人間にとって「ゲームをすること」は、何かビジネスや人生で役立つのでしょうか?
 少なくとも、ゲームの中でもボードゲームなどの「アナログゲーム」は、実生活の役に立つ可能性が高いと思います。なぜかというと、「ルールを自分で決められるから」です。

 

■アナログゲームでは「ルールメイキング」が重要

 アナログゲームを遊ぶときは、たいていまずルールブックや説明書を読むことから始まります。とくに昔の海外製のボードゲームなどでは、日本語の説明書がついていなかったりするので、英語の説明を読む必要が出てきます。
 その場合、単にルールブックを読み間違えるときもありますが、中には恣意的に、ルールを自分の都合のいいように変えたり、こうじゃないか、こうあってほしいという「願望」をルールにしたりする人もいます。たとえば、「このルールはつまんない。絶対こう変えたほうが面白いよ!」なんて言ったりして。そうやってルールを自分に有利なように変えるところから、ゲームはすでに始まっているのです。

 だから、アナログゲームで遊んだ経験のある人は、「ルールメイキング」というものが、実はゲームを楽しむ上で非常に重要なポイントだということを実感しているんです。
 一方でコンピューターゲームは、コンピューターがルールを司っていて、そこはもう変えられない。なので、こうしたゲームばかり遊んでいると、「ルールとは、あらかじめ与えられるものだ」と解釈するようになってしまいます。そこからは「ルールを変える」という発想は出てきません。

 もちろん、最近のコンピューターゲームについては、プレイヤーがセッティングやキャラクターのカスタマイズを行える部分も増えてきました。こうした機能があるゲームでは、みんな思い思いにいろんなカスタマイズをします。これもルールメイキングに近いといえるかもしれません。でも、これはあくまで「あるルールの中でルールをつくっている」という状態です。アナログゲームであれば、ルールそのものから自分で決められる。そこは大きな違いです。

ルールとは「変わるもの」だ!―ドワンゴ代表取締役会長 川上量生

 

■状況が変われば、最適なルールもまた変わる

 では、現実の世界ではどうか? たとえばビジネスで考えても、ルールとは常に「変わるもの」です。

 ルールには、それぞれ「なぜそう決まったのか」という理由があります。それなら、状況が変われば、最適なルールもまた変わっていくはず。実際、個別のルールについて検証していくと、「これは変えたほうがいい」というものはかなり多く出てきます。
 だからこそ、「ルールは変えられるもの」ととらえ、いま当たり前にあるルールを「本当にそれで正しいのか?」と疑うことが、非常に重要なんじゃないかと思います。

 ひとつ例を挙げましょう。
 大学生の就職活動について、いわゆる新卒一括採用は問題だという話を耳にすることがあります。ここで就職できないと、その後正社員になるのが難しく、若い人がうまく仕事に就くことができないというのです。しかし個人的にはまったくそうは思いません。日本の失業率が低いのは、新卒一括採用のおかげだとも考えています。

 ただ、いまのルールのなかで変えたほうがいいと思うのは、例えば企業が採用活動を開始する「解禁日」の制限ですね。あんなものはなくてもいいんじゃないでしょうか。できればもっと前から採用をしたい。
 具体的にどれくらい前がいいかというと、その人が大学に入ったときからです。そして、採用が決まったら、大学を辞めてもかまわない。そんな世の中になってほしいと思います。

 実際、いまは大学に4年間行くことの意義が薄くなっています。これは、IT業界でよくいわれる、「技術の移り変わりが激しいから、積み上げ型の知識はどうせムダになる」といった意味ではなく、単に「大学に入っても、真剣に勉強する人があんまりいない」という意味です。ですからこれは、理系と文系の違いや業種・職種によらず、全体的にいえることだと思います。

 もちろん遊びたければ遊んでもいいんですが、大学に4年間いるのを「義務化」する必要はないだろうと。「4年間、大学で過ごすこと」が重要で、そうしないと卒業証書がもらえない。卒業証書がもらえないような人間は社会人としても失格だ、というのはちょっと違うと思います。
 確かに、なかにはきちんと勉強する人もいます。でも、そうした人はやはり少数派でしょう。そんな一部の人に、大部分の人たちが合わせることに意味はありません。

 ドワンゴの採用は、いまはだいぶ普通になりましたが、会社ができたばかりのときは、大学に籍がある状態のスタッフを正社員にしていました。アルバイトじゃなく、いきなり正社員にするわけです。
 しばらくすると、たいてい忙しくなり、大学と会社の掛け持ちが大変になってきます。また、「学生のバイト」のくくりで見ると給料もいいから、生活水準も上がってきて、気がついたら授業に行かなくなり、大学を辞めて、ねじれが解消すると(笑)
 でも、これって、多くの場合、お互いにとってハッピーなことなんです。

ルールとは「変わるもの」だ!―ドワンゴ代表取締役会長 川上量生

 

■ルールとは、言い方を変えると「固定観念」

 場合にもよりますが、ルールって、言い方を変えると「固定観念」だったりもするんです。この固定観念の原因になっているのは、常識の場合もあれば、自分のプライドや欲望の場合もあります。そうしたものにこだわると、多くの場合は結果的に不幸になる。プライドが自分にとっての「原動力」や「バネ」になっていればいいんですが、「判断基準」にすると、破綻することが多いんです。

 僕は会社をつくって、現状、ドワンゴはそこそこうまくいっているとは思います。でも、合理的に考えて、会社をつくってうまくいったのは「運」です。優秀さなんて関係ない。本当にそう思っています。実際に、僕よりも優秀な人が起業して、残念ながらうまくいかなかったという例をこれまでいくつも見てきた経験からいって、そう考えざるを得ない。
 こう言うと、まわりの人は「謙遜」だととらえます。起業したいと思っている人にも、僕は心底「悪いこといわないから、やめたほうがいいよ」と話すんですが、そういう人って、「起業ありき」なんですよね。ほかのロジックもすべてそこから組み立てられる。でも、「ありき」になっている人って、失敗することが多いんです。
 もちろん、そうしたところから成功例が出ることもあるでしょうが、感覚的には100人に1人くらいじゃないでしょうか。ただ、実際に人が目にするのは、ほとんど成功した事例だけなので、それを「100分の1」の成功例だとは思わないわけです。

 起業したい人というのは、まわりに触発されることが多いんです。例えば自分と僕を比べて「川上が成功するんだから、自分だったらもっと成功できる」と考える。
 でも、先ほどもお話ししたように、起業というのは基本的に運です。つまりこれは、「あいつが宝くじに当たったんだから、俺も当たる」っていうのと同じロジックなんですよ。やはり「ありき」が軸にあって、知らず知らずのうちに、自分の「願望」に合ったルールを選んでしまっているということです。
 こうした固定観念=ルールに縛られるのは、危険なことだと思っています。

(後編に続く)

写真:西村康(SOLTEC)

ルールとは「変わるもの」だ!―ドワンゴ代表取締役会長 川上量生

川上量生

株式会社ドワンゴ代表取締役会長、株式会社角川アスキー総合研究所主席研究員。
1968年生まれ。京都大学工学部卒業。97年にドワンゴを設立、同社を東証1部上場企業に育てる。06年には子会社のニワンゴで「ニコニコ動画」を開始。その後も「ニコニコ超会議」「ブロマガ」など、数々のイベントやサービスを生み出している。

■関連サイト

株式会社ドワンゴ

角川EPUB選書 創刊記念 ルールを変えよう!キャンペーン 特設サイト

 

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