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ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

2013年10月09日 11時25分更新

ルールを変えようキャンペーン

 9月には「世界で最も影響力のある50人」にも選ばれた甘利明・内閣府特命担当大臣。経済再生、社会保障改革、TPP交渉……いままさに「ルールを変える」べく奔走するキーパーソンに話を聞いた。

ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

 

■「110%の仕事」を続けていれば、ヘタレでもなんとかなる

――アベノミクスの陣頭指揮やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉を担当されており、この9月には「世界で最も影響力のある50人」(2013年版 米金融情報大手ブルームバーグ発表)に選出されたとのこと。本当におめでとうございます!

 ありがとうございます。これはあまり人には話していないことですが、日本経済再生の舵取りをする立場になって以来、実を言うと私自身は「世の中の自信がない人に勇気を与えている」というつもりなんですよ。

 というのは、基本的に私は「ヘタレ人間」ですから。正直なところ、「こんなヘタレがよくこんな大きな仕事をやっているな」という思いがいつも自分のなかにはあるんです(笑)。
 だからこそ、みなさんにも「あいつにできるんだから、オレだってがんばろう!」と勇気を持っていただきたいなと。

 

――いきなり意外なお言葉、ありがとうございます。本日は、そんな甘利大臣に「ルールを変える」というテーマでお話をお聞きしていきたいと思います。まず、お仕事をする上で大切にされている「ルール」がありましたら教えてください。

 一つだけ大切にしていること、自分に課しているルールがありますね。それは「自分のキャパ(度量)を少し超える仕事にチャレンジする」ということ。

 自分のキャパなり能力なりが100だとしたとき、150の仕事をやろうとしても、自分の未熟さを思い知らされて挫折するだけです。ですが、ほんの少しだけ上の仕事、たとえば110くらいのことは、臆せずに必ず引き受けるべきです。
 多くの人は、110の依頼が来たときに「それはちょっとできません」と答えてしまう。ですが、100以内の仕事ばかりしていたら、自分のキャパは大きくなりませんよ。150の難しさだったら、めげてしまうかもしれない。でも110の仕事は、苦労はするけれど頑張ればなんとかなるはずです。

 しかも、それを乗り越えたあとには、自分のキャパが110になっていることに気づくと思います。ということは、10%容量オーバーの仕事につねに挑戦し続けていれば、自分のキャパを200%、300%にまで広げていくことって、実はそんなに難しいことじゃない。あるとき振り返ってみて、「以前は死ぬような思いでやっていた仕事でも、いまは軽々とやってのけられるな」と実感するタイミングがやってきます。

 そうやって「ちょっとだけ無理に思える仕事」を自分に課し続けていれば、私みたいなヘタレだってなんとかなるものですよと(笑)。

 

ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

■キャパを超える仕事をどう進めているか? 

――第2次安倍内閣で、甘利大臣は超重要課題をいくつも担当されています。これは誰にとっても200%とか300%以上の仕事に思えますが……。

 安倍総理から、「次の内閣で日本経済再生の指揮を取ってもらう」と言われたときには、さすがに「これは大変なことになったな……」と思いました。言われたのは組閣よりもかなり前だったので、かなり早い段階で安倍内閣の大臣候補になっていたようです。

 そこで推進組織の設計を進めていたところ、総理から「税と社会保障の一体改革もやってもらいます」と言われました。さらに両職の奮闘中に、今度は「TPPもお願いね」と、そんな具合でした。

 さすがにこれはキャパオーバーかなと思いましたけど、それでもなんとかなっていますね。

 

――これだけの量の仕事を進められるにあたって、甘利大臣はいったいどうやって膨大な情報を処理されているのでしょうか? そういう場合の「ルール」があれば、ぜひお聞かせください。

 一つは、「情報を仕入れたら、その場で整理して、その場で覚える」というルールです。大臣というのはとにかく時間がありませんから、役人の説明を受けるにしても、「どれだけその場で覚えられるか」が重要になります。

 「あとでまた勉強すればいいや…」と思っていい加減に聞いていると、絶対に仕事が追いつきません。とにかくその場で整理して、最低限の知識を頭に叩き込む。そのために、話を聞くときは目をつむるようにしています。まわりからは「うちの大臣、寝ているんじゃないか…」なんて思われているかもしれませんが(笑)。

 もう一つのルールは、当たり前ですが「復習すること」ですね。その場で覚えようとしても、どうしても頭がこんがらがることはあるので、書類を持って帰って、夜にはひととおり目を通すようにしています。

 そうやって知識を自分のものにしていくわけですが、実のところ、これって閣僚なら誰でもやっていることです。
この内閣で私が最も驚いたのは、新人の閣僚たちがものすごく「安定」していること。少なくとも私が大臣1年生だったときよりもずっと優秀ですね。
 19時くらいまでは公務で勉強時間が取れませんから、夜の会合を一切入れないようにして、遅くまで大臣室でレクチャーを受けている大臣もいました。特定分野の専門知識を持った野党議員から質問を受けても、彼らはそれを越えていくような知識量と説得力で答弁できています。

 組閣から10カ月経って支持率が65~70%という内閣は、自民党史上でも初めてです。あの小泉内閣ですらここまで安定していなかった。だからこそ、安倍総理も内閣改造をやらない。

 「極力安定した内閣の下で、かつて誰もできなかったことをやる責任が自分にはある」――そういう想いが総理にあるのだと思いますね。

 

ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

■日本から「世界のルール」を変えていこう

――今度は、これから日本がよくなっていくために「変えていくべきルール」についてもお聞かせください。

 まずやるべきは、日本が持っているルールをしっかり価値評価することだと思います。日本に優れたルールがあるなら、それは積極的に「世界のルール」へと広げていけばいい。逆に、日本が世界標準に合わせたほうがいいところは、勇気を持って改革していくということです。

 大切なのは、世界標準とかグローバルスタンダードがすべて正しいわけではないということ。日本人は割と真面目なので、何でも世界標準に合わせないといけないと思ってしまいがちですが、グローバルスタンダードというのは、特定のローカルな基準を元にしているケースがほとんどです。
 アメリカは自国の標準をグローバルスタンダードにしていくべきだという意識がもともと強いですし、ヨーロッパのISO(国際標準化機構)発の規格なんかも、結局はEUに都合のいいようにできている。ですから、われわれにも「日本の優れたルールは、世界のルールにしていこう」というくらいの意識が必要だと思いますね。

 

――日本が世界に広げていくべきルールとは、たとえばどんなものでしょうか?

 例として、投資の世界に目を向けてみますと、いま、世界の投資家たちは短期的な資本のやりとりに集中しています。その結果、企業に対して「1年で結果を出せ」「1カ月で結果を出せ」「今日中に結果を出せ」という雰囲気が広がってしまっている。
 そして企業は、投資家にリターンを出すために、従業員のクビを切ったり工場を売ったりして固定費を減らし、見せかけの利益を計上するようなことをしている。

 これでは企業のイノベーションは起きません。イノベーションは世の中を幸せにするためには欠かせませんから、非常にまずいことが起きているわけです。イノベーションのためには、どうしても忍耐ある中長期的な投資が必要になる。

 その点、日本には行く末を見守る忍耐力のある投資家が割と多い。こういうところを価値評価した上で、中長期の投資家が損をしないようなルールをきちんとつくり、国際標準にしていくべきです。もちろん短期の投資をなくすべきだということではありません。短期の投資と、イノベーションを起こす中長期の投資、その両方がバランスよく存在するような環境を日本発で提案していくべきだと思いますね。

 

ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

■変えるべきは「決められない日本」

――逆に、グローバルスタンダードに学ぶべき日本のルール、変えていくべきルールとしては、どんなことをお考えですか?

 日本でいちばん問題なのは、意思決定に時間がかかりすぎることです。ある問題について、多くの人が「こうしたほうがいい」と思っているのに、それを実現するまでに、とてもたくさんの手続きや時間が要る。この現状は変えていくべきです。

 そのカギになるのが、いわゆる「ワンストップサービス」の視点ですね。先日、国家戦略特区の参考のため、オランダとデンマークを視察してきました。オランダの農産物輸出額を世界2位にまで押し上げた「フードバレー」と、デンマークにある世界屈指の医薬品開発・輸出拠点「メディコンバレー」です。

 この2つの拠点に共通していた重要なポイントの一つが、「ワンストップサービス」です。ある産業を展開するとき、あるいは、ある政策目的を実現していくときに、それぞれの拠点は、参加者たちが困ったときの「窓口」になっているんです。もちろんそこで全部処理するというわけではなく、問題を解決できるセクションに「つなぐ」機能を担っているわけです。
 困ったときにどこに駆け込めばいいかがはっきりしているから、問題解決までのスピードが非常に早いのです。これに対して日本は、その窓口が曖昧だから、問題解決までのステップが多くなる傾向がある。

 企業だろうと国家だろうと、競争力を決めるのは、意思決定までのスピードです。この点はなんとしても変えていくべきでしょうね。

 

ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

■TPP交渉に参加しないと、勝手にルールを変えられる!?

――最後に、甘利大臣が参加されている各国とのTPP交渉についてもお聞かせください。これはまさに世界の貿易投資の「ルールを変える」という動きですね。

 まずTPP交渉の現場に参加して痛感するのは、日本人が見ているTPPはとても一面的だということです。つまり、物品関税の部分が強調され、重要5品目を守れるかどうかといったことばかりが報じられている。

 しかし、交渉の現場で実感するのは、物品関税に限らず、「貿易投資全般」に関わる新たな国際ルールづくりにこそ、各国の関心はあるということです。議題に上がるのも、国内資本、外国資本に関係なく投資条件を同じにしていくとか、国営企業と他の民間企業との公平性とか、政府調達の案件に内外無差別で企業を参加させるにはどうするべきか、といったことです。

 あと、重大なテーマとしては知的財産ですね。日本は知財を生み出す側の国ですから、いちばん悩ましいのは模倣品・海賊版の問題です。ある知財の模倣品・海賊版の市場は、その真正品市場の3倍に達すると言われています。
 たとえば、世界的に大ヒットした日本のキャラクターであるポケモンは、今日までの経済効果が3兆円あると言われていますから、模倣品・海賊版はその3倍売れているということになります。

 私は以前から模倣品・海賊版を駆逐していくための世界協定として、ACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)を提案してきました。日米欧のあいだでは基本合意ができていますから、TPP参加後、これに基づいてきちんと模倣品・海賊版を取り締まっていければ、これは莫大な経済効果です。まがいものを駆逐していけば、真正品がより多く売れていくことになりますからね。

 

――TPPが変えていく「ルール」を、物品関税だけでなく、もう少し広い視点で見ていく必要があるということですね。

 そのとおりです。TPPが決めようとしているのは、その種のあらゆる貿易投資に関わる国際ルールです。

 現状でTPPには世界の経済圏の約40%が参加しています。これがアジア太平洋ワイドに広がっていき、FTAAP(エフタープ:アジア太平洋自由貿易圏)となると、世界の貿易量の60%くらいになります。

 それを見て焦ったEUが、日EUの経済連携を動かし始めました。アメリカも米EUの経済連携を始めている。ということは、いま進められているのは、世界貿易全体につながっていくルールづくりだというわけです。

 TPPをどうハンドリングしていくかは、日本の将来にとっても本当に重要な事柄です。あのまま日本が交渉にすら参加していなければ、日本不在のまま世界のルールをつくられてしまう危険性があった。少なくとも交渉参加すれば、日本の発言で世界のルールを変えていける可能性が出てきますよね。

 

――なるほど。そういう各国の思惑のなかで交渉を進めていく際、国・地域ごとに「ルール」というものに対する考え方の違いを感じたりすることはありますか?

 「ルールを変えるときには、国際機関を通じて発信していきましょう」というのがヨーロッパ流のやり方。一方、アメリカは「シェアが大きいところで通じているルール、いわゆるデファクトスタンダードを国際標準にしましょう」という傾向がありますね。

 そしていま、アメリカに倣おうとしているのが中国です。「中国は既存の国際標準を受け入れない。中国スタンダードが国際スタンダードだ。なぜなら中国は世界一の市場だからだ」という論法をとりつつあります。市場規模という意味では、日本はデファクトスタンダードをつくることはできない。日本という市場はそこそこの規模だけど、世界標準を決するアメリカや中国のような大市場ではありませんからね。

 そして、その中国もこれからデファクト路線で進んでいくとなると、日本はそれをオーバーライドしていくような仕組みをつくっていかないと大変なんですよ。つまり、TPP、ひいてはFTAAPといった「新しいルール」をしっかりとつくっていけるかどうかは、日本にとっての死活問題になってきます。TPPの問題を語るときに、そこまで見通せている人は、まだごくわずかではないかと感じますね。

(聞き手:KADOKAWA/中経出版編集部)

ヘタレでも世界のルールは変えられる!―内閣府特命担当大臣 甘利明

甘利明(あまりあきら)

1949年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。衆議院議員(自民党所属)。第2次安倍内閣において、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)としてアベノミクスの舵取りを担いつつ、経済再生担当、社会保障・税一体改革担当、TPP担当の国務大臣を務める。武田信玄の親戚にして重臣の甘利虎泰(あまりとらやす)を先祖に持つ。

■関連サイト

衆議院議員 甘利明 公式サイト

角川EPUB選書 創刊記念 ルールを変えよう!キャンペーン 特設サイト

ルールを変えようキャンペーン

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