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iPhone5sではなく5cが、2013年の主力機かもしれない by 本田雅一

2013年09月19日 20時00分更新

iPhone5cが日本市場で果たす役割 そして5cと5sのどちらを買うべきか? by 本田雅一

 日本における価格や販売戦略が発表されたら、発表直後のものに続いてあと一本、何か記事を……とお願いされていたのだけど、心の中では「う~ん」と悩んでいた。新型iPhoneに関する1本目の記事は、「世界」、「日本」、「中国」をそれぞれモチーフに書いたオムニバスのコラム。今回はこのうち「日本」を中心に掘り下げ、実際にハンズオンで触れた端末の印象を含め、明日から販売される端末の流通状況について、関係者からの情報を交えつつ書き添えることにしたい。

●日本市場でiPhone5cが果たすだろう役割

 前回のコラムにおいて、iPhone5cが日本市場におけるiPhoneを巡る販売環境を変えるきっかけになるかもしれないと書いた。このところよく取り上げられているように、日本におけるiPhone販売の状況はかなり特殊だ。他国では高級機として位置付けられていたiPhone5が、MNP転入+2年契約をセットにすれば、一括ゼロ円+月々の割引きまで受けられた。こんな国は他を探しても存在しなかった。

 この結果、iPhoneの販売ラインナップも他国とは異なるものになっていた。ここでは米国と比較してみよう。

 アップルのお膝元である米国の場合、新型iPhoneのローエンドモデル(もっとも低容量なモデル)は、2年契約付きで199ドル(SIMフリーの端末買い取りでなら749ドル)が設定されてきた。しかしアップルはユーザー層を広げるため、iPhone3GS発売時以降、下位モデルを設定する代わりに、旧モデルを100ドル引きで販売するようになった。

 さらにiPhone5発売時には、さらに下位のモデルとしてiPhone4もラインナップに残され、これが2つ下のラインナップとして200ドル引きに。実質ゼロドル端末としてiPhone4が残された。国によって若干、事情は異なるが、iPhoneのラインナップは新旧モデルを並べた3ラインナップが本来の形だ。

 ところが、日本では販売競争の激しさもあって、iPhone5が“もっとも安価な端末のひとつ”になってしまった。旧モデルを用意し、低価格製品として販売する手法も、ごく初期には成功していたこともあった(iPhone3GS時代に3Gが実質無料販売された)が、まもなく旧モデルをラインナップに並べる意味が、日本では失われたのである。

 iPhone5cはアップルが言うように“安普請に作った”iPhoneではなく、モデムやカメラセンサーは最新に置き換えられ、デザインコンセプトも新たにしたiPhoneかもしれない。しかし価格だけで言えば「従来のiPhoneよりも同容量なら100ドル安いiPhoneの新モデル」であり、従来で言うところの「旧モデル」の置きかえだ。

 米国市場での販売価格を見ると、iPhone5cは同容量でiPhone5sより100ドル安く、下位モデルとして2世代古くなるiPhone4Sよりも100ドル高い。この事からもその位置付けがわかる。

 では日本では、この位置(低価格iPhoneという位置付け)がどうなるのか。もし、前ラインナップ上における旧製品と同じ位置付けなら、上位モデルの価格が下がってしまい、iPhone5cの存在はあまり意味をなさないことになる。しかし、iPhone5cは旧製品ではなく新製品だ。

 前回のコラムで「iPhone5cが上位モデルの廉売競争の歯止めとなる」と書いたのは、このためである。本コラム読者の中には、あるいは上位モデルが廉売される方がうれしいと考える人もいるだろう。たしかに、一時的に得をした人はそう思うかもしれないが、本当に価値あるものがタダになることはないものだ。

 また、iPhone5cには「旧モデルを値下げして下位モデルとして位置付けた」製品とは異なる面がいくつかある。

●勝ちパターンを変えてきたアップルの意図

 iPhone5cの実物を見て触って感じたのは、この製品が当初より“廉価版”あるいは“実質無料販売”を強く意識して作られたものではない、ということだ。5cは5sの別バージョンであり、従来からのiPhoneに対する期待(質感や触感を含めた演出)に応えられるよう、配慮していることだ。

 その世代ごとにベストなデザインと高級素材を用い、機能や性能だけでなく、質感やデザイン面でも新たなトレンドを作ってきたiPhoneはモデル数を大胆に削ることで、他社にはできない高級感のある製品を提供してきた。製品数を少なくすることはアップルの勝ちパターンであることは、今さらここで説明するまでもないだろう。

 しかし、それ故に市場の広がりから来る多様なニーズへの対応に苦慮していたのも、また事実だ。孤高の存在であった初代iPhoneから普及への道をひた走り、それでもひとつのシャシー設計だけでユーザーニーズに応えてきたiPhoneだが、そろそろ1機種だけではカバーできなくなってきている。

 これまで廉価版iPhoneを置く代わりに旧モデルを販売してきた背景には、iPhoneのブランド力を維持する目的があったと推察される。“iPhone”というブランドに期待されるモノとしての価値を提供できなければ、いくら価格が違うと言ってもブランド戦略には影響する。

 しかし、旧モデルと言えども、iPhone4/4Sはステンレス部品やガラスを多用した美しいハイエンド機種らしい触感、質感を備えた製品だった。価格は100ドル(あるいは200ドル)安く設定されていても、“モノ”としての質感がそれまでよりも下がるわけではない。

 安普請になった製品にiPhoneのブランドを使い、それが幅広く拡がっていくよりは、旧製品を売った方がブランド戦略としてはマシと考えたのではないだろうか。とはいえ、今年というタイミングにおいては、この手法は採用しにくい。

 昨年よりiPhoneは高速通信技術のLTEに対応したが、LTEは各国ごとの割り当て周波数が3Gの時のように統一されておらず、利用周波数帯がとても多い。その上、国によっては復信方式にFDDではなくTDDを用いるTD-LTEを採用(あるいは予定)している国もある。モデム仕様のアップデートは不可欠で、iPhone5をそのまま下位モデルで販売したくとも、同時ラインナップするiPhone5sの対応周波数仕様と合わなくなる、などの不都合も出てくる。

 日本向けのモデルも、NTTドコモとKDDIが使う800MHz帯への対応が行われた他、3G対応部を含めて3キャリア共通ハードウェアとなるなど、かなり大きな変更が施されている。

 つまり、昨年と同じようなラインナップを作ろうとした場合、200ドル安価に設定する二世代前のモデルは3G対応のみで乗り切れたとしても、100ドル安のミドルクラス製品には最新のLTEネットワーク環境にフィットした製品が必要になる。1年前と状況が大きく変化する中では、モデム仕様を変える必要もあった。

 アップルがこれまでのパターンを変えてきた理由のひとつはコレだろう。

 また、ちまたで多くの記事で書かれているように、ハードウェアの外観やメカニカルな構造だけでなく、新たにiOSのユーザーインターフェイスデザインも担当するようになったジョナサン・アイブ氏が、より幅広いユーザー層に向けて、廉価版ではなく従来とは異なるテイストのカラフルでポップなiPhoneを……という面も、実際にハンズオンで製品を触っていると伝わってくる。

 似たような感想は、あちらこちらから漏れているはずだ。発売時期に同じようなトレンドのコラムが出てくるのは、アップルが特定の影響力があるジャーナリストを選定し、製品に込めたメッセージや新機能の開発意図などを細かくコミュニケーションしているからだ(念のため申し添えておくが、ステルスマーケティングのようなアンフェアな方法ではなく、不確実な情報伝達、漏洩を可能な限り抑える一方で、正しく伝えたい情報をハンドリングできる範囲内で伝える、アップルが10年以上やり続けているPR手法である)。そうしたメッセージを直接もらっていない筆者が、まったく同じ感想を持ったのは、アップル自身の意図がきちんと製品に反映されているからだと思う。

 着色されたポリカーボネートをマシニングセンターで削り出し、表面コーティング(おそらく紫外線硬化樹脂だろう)を施したとされるiPhone5cは、少なくとも新品のボディを見る限り、焼き付け塗装を施したかのような高級感がある。

 もっとも、この仕上げはiPhone3G/3GSに近いもので、当時のポリカーボネートがそうだったように、傷が付いてくればそれなりに印象も変わるかもしれない。一方でアルミ削り出し素材では、こうしたカラフルでポップなデザインは実現できないのも確かだ。

 デザイナーであるアイブ氏は、どうしても最上位製品とは異なる味付けの“別バージョンiPhone”を作りたかったのではないだろうか。昨年モデルを単純にミドルクラスに置くシンプルなラインナップ構成では、ネットワーク環境の変化についていけない今年に、5cという別の切り口から作られる製品を投入するには、ぴったりのタイミングだったのだ。

●入手困難が続くと予想される5s

 もっとも、週アスPLUSの読者層が、かなり濃いスマホマニア層だと想定するなら、やはり狙いは5cではなく5sなのだろう。5sは新色ゴールドの追加や指紋認証センサーの追加によるボタンまわりのデザイン変化などを除けば、パッと見はほとんど同じで、カバーも同じものが流用できる。

 プロセッサ速度やGPUパフォーマンスが2倍になることは、もちろんそれで魅力なのだが、iOS7をiPhone5で使っていても、特にパフォーマンス不足を感じることはない。ハンズオンで利用していても、5cと5sの違いを大きく感じる場面は、現時点ではほとんどない。

 もし違いを感じるとするなら、無料化が発表されたiOS版のiWork、あるいは以前からのiOS版iLifeといった、PCに近い処理が求められるアプリケーションだろうか。クラウドのフロントエンドとして、薄皮一枚をiOS上に実装しているようなアプリで、パフォーマンスの違いを感じることはあまりない。

 むしろ、画素ピッチの拡大やレンズのアップグレードなどが発表されているカメラ機能、バッテリ持続時間の延長、それに指紋センサーといったあたりが5sを選ぶ上でのポイントになってくる。

 「そうは言っても、これから2年使うことを考えれば“s”モデルの方がいい」というのがこれまでの定説だった。アップルはこれまで、iOSに機能を少しずつ追加してメモリや処理能力の面で古い製品の体感速度は発売後2年ぐらいで少しだけ不満が出始める……といったところにパフォーマンスと機能のバランスを落ち着かせてきた。

 しかし今回、各キャリアからは5sの割り当てが事前の想定より桁が違うほど少なく、一方で5cは潤沢にあるとの情報が一様に聞こえてきている。すでにご存知の方も多いように、5sの品不足(指紋センサーの歩留まりの悪さと噂されている)はかなり深刻だ。5sの予約は発表時には受付を開始できず、ドコモが一部プレミアム顧客向けのみの予約、KDDIとソフトバンクモバイルも発売日からのウェブ予約のみと、店頭に回すだけの在庫余力がない状態である。

 これは日本だけの話ではなく、海外でも同様に品不足の声が聞こえてくることを考えると、入手難はかなり長期間にわたることになりそうだ。特に白とゴールドの入荷が極端に少ないようなので、どうしても早く入手したい方は、グレーを狙うのが良いと思う。

 さて、このような状況で今期、消費者の手元に届くiPhoneは、その多くがパフォーマンス的にiPhone5同等になる。その前、1年間もiPhone5を販売し続けてきたわけで、稼働台数としては圧倒的に多い状況が、今後2年ぐらい(あるいはもっと長期に渡って)続くことになるだろう。

 もちろん、今後も新機能追加はあるだろうし、高機能アプリのリリースはあるかもしれない。しかし、顧客満足度を維持するためにも、この“大きな群れ”で快適に使えない、動作が重いiOSを作るとは考えにくい、というのが筆者の予想だ。

 これから新たにiPhoneを購入するならば、とちらのモデルを選んでも問題はないだろう。ソフトバンク版iPhoneユーザーは、4S以前ならばどちらを買っても満足できるはずだ(5ユーザーは買い換える利点が少ない)。KDDI版iPhoneユーザーは、LTEのモデム仕様にKDDIの周波数が追加されたため、4Sはもちろん5ユーザーも購入検討したいところだろう。先日、800MHzの4G LTEで本州中部を鉄道で一周してきたが、ほとんどの場所でLTEが使えるようになっていた。

 とはいえ来年はフルモデルチェンジのタイミング。上位モデル入手難の今年は、少しリラックスして“5cこそが今年の主力機”とみなして買い換えの判断をするといいのではないだろうか。

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