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最高峰イヤホンUltimate Earsラボ潜入!オーダーメイドIEMはこう作られる

2013年09月06日 12時30分更新

UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
UE Irvineラボの責任者、フィリップ・デパレンス氏。UEのIEMづくりの根底は、顧客や開発スタッフとの情報交換、試行錯誤にあるとのこと。「他のIEMメーカーにはないUEならではの強みは?」との質問には、15年の歴史のなかで数々のアーティストと意見交換し製品を高めて来たこと、それ自体がブランドの力だ、と自信たっぷりに答えていた。

 プロクオリティの高品質な耳栓型イヤホン、いわゆるインイヤーモニターの老舗メーカー“Ultimate Ears”(アルティメットイヤーズ、以下UE)がプレス向けに、北米ロサンゼルス近郊の街・アーバインに位置するUE Irvineラボを国内初公開。同社の開発フィロソフィーや、実際のインイヤーモニター製作現場を間近に見ることができました。早速レポートしていきましょう。

 ご存知ない方もいるかもしれませんが、UEは2008年に周辺機器メーカー・ロジクールに買収され、以降ロジクール傘下のブランドになっています。今回のラボ公開は9月7日(土)から日本国内での取り扱いが始まる、“カスタムインイヤーモニター”の開発・製作現場を公開し、どのような行程でつくられ、どういった点にこだわりをもって製品づくりをしているのか、改めて知ってもらおうというのが趣旨。

 今回の主役である“カスタムインイヤーモニター”とは、粘土状のシリコンなどでその人自身の耳型を型どりして、完璧なフィット感・遮音性・リスニング体験が得られる、完全オーダーメイドのイヤホンです。
 その高音質と遮音性の高さから音楽関係者やアーティストに愛用者は多いわけですが、それを一般の音楽ファンも手に入れやすくなるというのが今回のポイント。国内受注はUEの正規代理店『e☆イヤホン』が行ないます。(取り扱い製品ラインナップはコチラ

 今回、UEラボを案内してくれたのは、バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーでラボの統括責任者でもあるフィリップ・デパレンス氏。
 デパレンス氏によれば、UEがインイヤーモニターに取り組みはじめたのは18年前の1995年。ロックバンド『ヴァン・ヘイレン』のドラマー アレックスが、ライブパフォーマンス中の会場騒音の中から、モニター音を正確に聞き分ける技術を切望しており、それに協力したことがきっかけだそう。その後、多数のミュージシャンのIEMを手がけるようになり、カスタムIEMの世界では非常に有名な存在となります。

 その後、EMI Musicの伝説的なレコーディングスタジオ、Capitol Studios(キャピトルスタジオ)との共同開発で、レコーディングのミキシング・マスタリング使用を想定した新機軸のインイヤー型“リファレンスモニター”を2010年に発売。以降、ライブパフォーマンス用とは異なる、音質チェックの基準としても使える極めてフラットな出音のモニターイヤホンとしてラインナップに加わりました。

UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
製品ラインナップその1。こちらはフラットな出音重視のリファレンス系ではなく、音楽的な表現を追求したモデル。最上位の『UE 18 Pro』($1349)には、片耳あたり6つ(!)のユニットを搭載。
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
製品ラインナップその2。左上の最上位$1999の『パーソナルリファレンスモニター』は、その名のとおり、自分の耳の感度特性に合わせて音自体を作り込むことができるものです。なお、外から見えるフェイスプレート部分にリアルウッドを使えるのはこのモデルだけです。

 興味深かったのは、ライブ現場でのカスタムインイヤーモニターの3つのメリットについて、デパレンス氏が語ったくだりです。
  デパレンス氏いわく、オーダーメイドでつくることのメリットは、

1)カスタムによるパーフェクトな装着・リスニング体験
2)汎用品のインイヤーモニターでは得られない、極めて高い遮音性
3)ワイヤレスレシーバーにつなぐことで自由にステージを歩けるモバイル性

 これって、3つの要素すべてがスマートフォンやポータブルプレーヤーでの“モバイルミュージック”にも当てはまることなんですよね。
 特に2)については、汎用品のUE製品でさえ素晴らしくシャープでクリアな音質で、遮音性も高いわけですから、これがカスタムとなるとどこまでの没入感が味わえるのか……というのは想像すらできません。

■世界に1つだけの自分仕様のオーダーメイドIEMはどうやって生まれるのか

 カスタムインイヤーモニターは、略してカスタムIEM(In Ear Monitorの略)と呼ばれます。UEのモノづくりの姿勢は実に実直で、実際に製作現場を見て、極めてハンドメイド性が高いことに驚かされました。

 ラボ見学前の想像では、まずベースになる“IEMボディ”のようなものがあって、そこに型どりした耳型(←結構グロテスクです)をはめ込んで微調整して出荷、みたいな製造工程をイメージしてました。
 ところが実際には、型どりされた耳型をベースにしたケース(外殻)の成形からBAドライバーの出音の微調整まで、すべてが1つ1つエンジニアによる職人作業。確かに、これは高価にならざるを得ないだろうことがわかります。

 特に大事なのがBAドライバーの出音調整です。製品ごとにボディー内部の形状が変わってしまうため、ただ機械的にユニットを内蔵しただけでは、音響特性がAさんとBさんとで変わってしまいます。これを、エンジニアが職人技で調整し、UEが製品個別に設定した波形に合わせて行く……というところが、プロクオリティの保障につながっているわけですね。

 それでは本邦初公開! 製造工程を写真で見て行きましょう。

(1)耳型の型どり

 まずは耳型をとります。細かな行程や型どりの素材などは店舗によって違うかもしれませんが、流れはだいたい同じとのこと。
 スタッフが耳のすごく奥まで綿をつめ(痛みはありません)、その後、2液性のシリコンのようなもの耳の中に流し込んで行きます。このときの感覚は非常に独特で、両耳を完全に塞いでしまうと、無響音室に入ったような静寂の世界です。ほとんど何も聴こえません。
 作業時間は極めて早く、耳のチェックから型どり完了まで、およそ5〜10分程度でした。

UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
両耳が塞がった状態で撮ってもらいました。本人はほぼ何も聴こえていません。
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
こんな風に耳に2液性の型どり材を流し込んで行きます。UEでは、口を少し開いて型どりすることを推奨しています。こうすることで、閉じているときに比べて耳の形が少し変わるのだとか。
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取った耳型の比較。右と左は別人の耳型ですが、形状がまったく異なることがわかります。細かったり、深かったり、曲がっていたり、人それぞれ。

(2)“シェルラボ”での具現化作業——オーダーメイドのボディーはココでつくられる

 そして、型をベースにボディー外殻をつくっていきます。1枚目の写真はファクトリーの入り口付近のもの。彼らが“シェルラボ”と呼んでいる、型から外殻をつくる場所は、別部屋になっていました。

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ファクトリーの入り口。工場というよりは、スイスの時計メーカーの作業場に似た印象です。
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シェルラボ内。こんな風に壁一面に所狭しと袋に分けられた耳型が吊ってある。ここから次々に抜き型を起こして、外殻をつくっていく。
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実際に送られて来たサンプルを見せてくれた。人によってまったく形状が違う。
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ズラリと並んだ耳型。ここにシリコンを流し込みます。色の違いは、型どりした場所が違うからでしょうか?
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
送られて来た耳型の原型にシリコンを流し込んで、このような型をつくる。触らせてもらいましたが、ぷにぷにでした。
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これが固化させるための紫外線照射装置。素材の色ごとに固めるための照射時間が異なるとのこと。
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
手に持っている青いものは紫外線避けのフタ。フタをして紫外線を照射することで、半透明シリコン型内の曲面部分だけが薄く硬化する。
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フタをして紫外線照射しているため、内部までは固まっていない。で、固まっていない液体は大胆に流し出してしまう。このあと“フタを外して”紫外線を再び照射すると、薄くて滑らかな外殻の出来上がり。
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
そして肝心の紫外線照射時間のレシピは、こんな風にすべて容器に書いてある。十数秒といった短いものから、分単位のものまでさまざまだ。
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型から離型された“ホヤホヤ”の外殻。つるつるしているけれど、バリも出ている。バリ部分はこのあと、手作業で削り落として行く。
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外殻のフタも手作業で製作。1つ1つ形が違うシェルをぴったり塞ぐフタをつくるって、意外と大変な作業。
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
シェルラボにはこんなサンプルも。手前の七色の外殻は、紫外線硬化樹脂を少しずつ色を変えて何度も硬めてつくったもの。またラメを含ませれば奥のようなド派手な仕様もつくれるそうだ。

(3)BAドライバーユニットを装着して、出音を1つずつチューニング

 ここからはシェルラボを出て、最初のファクトリー部分での作業。エンジニアがそれぞれ形の違うIEMの外殻に、BAドライバーユニット、各ドライバー用の音域信号を送るクロスオーバーの回路を組み込んで、1つ1つキャリブレーションしていきます。冒頭に書いた、もっとも重要な行程がココです。

 ちなみに、人によって外殻の形が変わってしまうということは、最高峰の6ドライバータイプなどの内蔵ユニットが入りきらないこともありそうです。そういった経験はあるか?との質問には、「非常に稀なケースとして、入りきらなかった例は存在はする」とのこと。その場合、ユニット数がより少ないモデルをオファーして対応したのだとか。

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心臓部となるBAドライバーユニット群。「イメージとしては、一般的なスピーカーを小型化したもの。だから、低音用のユニットは大きく、高音用のユニットになるほど小さくなります」
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赤枠で囲んだ機械にイヤホンを装着して波形を見て音響特性を調整していく。フェイスカバー部分のフタを締める前の状態でまず実施し、ユニットからのびる管の長さの調整などをして求められる波形に収めた後、再度フタを閉じてからも確認するという念の入れよう。エンジニアの熟練度によって作業速度に差がでる部分で、熟練した人だと2倍近くの生産性の差があるそう。
UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
フタを閉じて音響的には完成した製品。半透明タイプだと内部構造がすべて見える。

(4)フェイスプレート装着、オリジナルアートワークをプリントして完成

 ここから先は音には直接かかわらず、外観のカスタムの行程。UEのカスタムIEMでは、外殻自体の色(半透明タイプなど様々)の指定のほか、装着時に外から見えるフェイスプレートも指定したり、自分自身で描いた絵などをプリントすることができます。e☆イヤホンの担当者の方に確認したところ、日本でもオリジナルアートワークの受付は可能だとのこと。

UltimateEars カスタムインイヤーモニター ラボ取材
透明仕様でつくったもの。右左がわかるように、レーザー刻印の文字色が異なります。「赤色(Red)が右(Right)だよ。頭の発音が同じだから」(デパレンス氏)
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UEが用意しているカスタム用フェイスプレートの一部。上側の透明プレートに載ったものは、全世界の受注トップ20のカラーだそうです。
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フェイスプレートへの刻印やペイントはこの機械で行う。「インクジェットプリンターのようなものだと思ってください。家庭用と違うのは、白色がプリントできること、それと価格がとても高いこと(笑)」

 以上、このあと高級感高い専用ケースと化粧箱に入れられ、出荷を待ちます。
 納期については、全世界から受注された耳型がいったんこのラボに集められ、およそ5日〜10日間で製造完了、各国へ出荷されていきます(短期間で出荷する有料の特急料金プランもあります)。
 なお、初投入となる日本向け製品については、5日間での製造完了を目指しているとのこと。

 ここまで見て来てわかるとおり、いわゆるロボットなどによるオートメーション化された作業工程はどこにもありません。その点では、ここで作業しているエンジニアたちが、UEの大きな財産ということになります。音質調整をするエンジニアは2008年の買収当初、たった1人しかいなかったそうですが、今では生産体制強化のため、ある程度ローテーションして複数の作業を1人が担当できるようにスキル育成もするようになったと言います。

 今回、ラボでとった自分の耳型のカスタムIEMは2週間程度で手元に届くとのこと。
 5万円クラスの比較的高音質なイヤーモニターはいくつか聴いたことはありますが、自分仕様のカスタムIEMというのは完全に未体験。その遮音性、装着感、音楽への没入感がいかほどのものかは、カスタムIEM到着後の記事にて。

●関連サイト
Ultimate Earsカスタムインイヤモニター

e☆イヤホン(UEカスタムIME販売ページ)
 

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