週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。
マウスの中にはコロコロ本能を満たすボール
マインスィーパーをマウス以外でやるってあるんだろうか? マルチタッチがもてはやされるいまマウスの真価を訴えたい。
私が使っていたマイクロソフトマウス(上=PC-9801で使っていたバスマウス)とアップルIIcで使っていた1ボタンマウス(左下=色がMacintosh用と違いますよね)。エンゲルバートのマウスは、シリコンバレーのコンピューター歴史博物館にレプリカが展示されている。木製でボールではなく直交する2つの車を回すようにして使うようになっている(右下)。エンゲルバートの功績の中でマウスはごく一部だが、いままでのどんな装置にも似ていないところがマウスの凄さだろう(形こそネズミだが)。もっとも、“プラニメーター”(面積計)から連想したと言われると最初のマウスのメカニズムも含めて納得ではあるのだが。
マウスの生みの親ダグラス・エンゲルバートが亡くなったというニュースの2日後、関西のテレビ局から質問があった。“マウスの語源”について聞きたいという。「こういう古い話はエンドウ」と週刊アスキー編集部から回ってきたのだが、実はこの質問、私のところへは3~4年に1回のペースでやってくる。このタイミングでマウスの話をするのもいいと思って答えさせてもらうことにした。
ところが、よく聞いてみると「マウスを動かす距離の単位を“ミッキー”というそうですが」というえらいマニアックな質問なのだった。日本人のITリテラシーも上がったんですね。ちなみに、マウスの語源は、エンゲルバートが1963年に発明した最初のマウスのときに、すでに関係者の間でそう呼ばれていたそうだ。
私がはじめてマウスに触れたのは、プログラマー時代に勤めていた会社にあった富士ゼロックスの『J-Star』である。ゼロックス Alto直系のワークステーションの日本版で、LisaやMacがやってくる前だから、銀座のショールームなんかでこれを見たらえらく驚きそうなものである。しかし、私の記憶ではなぜかあまり新鮮さはなかった。画面に、ドロア(書類キャビネット)が並んでいて、フォルダーが入っていて、文書やレコードファイルが入っている。プリンターやよく机の上にある書類トレーなんかも並んでいて、なんとなく、ゲーム画面のような気がしたからだ。
J-Starのマウスもそうだが、その後長らくマウスの中には直径2センチほどのボールが入っていて、それをコロコロ転がして使うようになっていた(いま我々が使っているのはボールを使わない“光学式マウス”がほとんどだが)。このボールの回転を直交する2つの車に伝えることで、X軸・Y軸の移動量をカウントしていた。その細かさを示すのがミッキー値(Mickey Count)と呼ぶのでしたよね。
これを誰が、いつ頃考えたのかというと、最初のマイクロソフトマウスのドライバーを書いたクリス・ピーターズ(Chris Peters)という人物だという話がある。マイクロソフトマウスは、同社の副社長でもあったアスキーの西社長が企画・間をとりもって、日本のアルプス電気製。発売されたのは1983年のことである。
ところで、ミッキー値の名づけ親のクリス・ピーターズ氏、その後、ワードやオフィスの開発チームを率いることになるが、大のボウリング好きとして有名(なんとなく世代がわかる話)。そこで、全米プロボウリング協会(PBA=Professional Bowlers Association)に登録しようとするが果たせず、そこで仲間と一緒に協会自体を買って代表におさまってしまったそうな。ボールの直径はだいぶ違うけどいまだにコロコロやっている。なお、ミッキー値だが、当初はマウスの物理的な移動量の最小単位を意味していたが、いまはいろんな説明がされているけどきちんとした定義のある単位ではないので念のため。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
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・Facebook:遠藤諭
(2013年7月24日19時26分追記)記事初出時、PC-9801用マウスについて誤った記載がありました。お詫びして訂正いたします。
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