このスペシャルイベントが開かれたのは2011年10月4日。同年8月にはスティーブ・ジョブズはCEOを退任することを発表しており、後任としてティム・クックを指名していた。本講演は、クックが新CEOとして初めてホスト役を務めたイベントだ。新体制となったAppleの門出を見届けることが最後の使命だったかのように、ジョブズはこの翌日、生涯を閉じている。
■ホスト役は新CEOのティム・クック
Appleのイベントは、スクリーンにKeynoteのスライドやビデオを表示し、それを見ながら進められる。だがこの日クックは、ステージ登壇してから3分弱、画面には何も投影せずに観衆に語りかけた。自分がAppleという企業を愛していること。そしてそのCEOという役目を任されたことをとても名誉に思う、と。ゆっくりと確かな口調で所信を表明する姿は、ジョブズのようなカリスマ性こそ感じさせないものの、誠実な能吏という印象を与えた。
ひと通りあいさつを済ませるとスライドが投影され、いつもの業績報告が始まった。まずは、直営のリテールストアの展開が引き続き順調で、11カ国357店舗に増えたことを報告。クックは以前はセールス&オペレーション担当であり、リテールストアも彼の専門分野だ。
続いて、7月にリリースしたOS X Lionの状況。発売から2カ月強でダウンロード数が600万件を突破し、驚異的なペースで導入が進んでいること語った。また、米国におけるPC市場のシェアも順調に拡大しつつあり、23%に達したことを報告。
■Appleがナンバーワン企業であることを強調
本講演で繰り返し強調されたのは、Appleがハード、ソフト、サービスの各分野でナンバーワンの企業へと成長したことだ。「#1」(ナンバーワン)というスライドが繰り返し表示され、各分野での実績が語られた。
いわく、米国で最も売れているのはMacであり、iPodシリーズは世界で最も売れているミュージックプレーヤー、iTunes Storeは音楽販売サービスのトップであり、iPhoneはスマートフォン市場のトップ、iPadはタブレット市場におけるトップであり、かつ顧客満足度でもトップである……と。
■2番手の登壇者はフォーストール
クックに変わって登壇したのは、iOS担当上級副社長のスコット・フォーストール。iOS関連の業績報告ではApp Storeを例に出し、やはりナンバーワンのアプリ販売プラットフォームであると豪語した。
新製品としては「Cards」というアプリを発表。これは当時もあまり注目されなかったアプリだが、iOSアプリからバースデーカードなどの紙製のカードを作成して送付できるもの。世界各地に送ることが可能で、日本からも利用可能だ。
続いてはiOS5の新機能だが、これは過去の講演で語られた内容と同じであり、ダイジェスト的な紹介に留まった。当時のフォーストールとしては珍しく、5分程度でステージを下りている。
■3番手はエディー・キュー
フォーストールに代わって登壇したのはエディー・キュー。この約1年後にフォーストールはAppleを追放され、その後任となるのがエディー・キューであるというのは、何とも皮肉だ。
キューが担当したのはiCloudに関する発表。iCloudは先のWWDCでジョブズがプレゼンした分野であり、Apple内でのキューのプレゼンスが拡大していることが感じられた。ただし、目新しい発表としては「友達を探す」機能のみで、それ以外はWWDCのダイジェスト的なものに留まった。
■メインを張ったのは4番手のフィル・シラー
本講演の一番「おいしいところ」を持っていったのは、キューに続いて登壇したフィル・シラー。Appleの基調講演ではおなじみのプレゼンターだ。スピーチも堂に入っており、独特の柔らかい雰囲気は観衆を和ませる。ポスト・ジョブズ後初の講演のメインにシラーを据えたのは、優れたキャスティングといえよう。
シラーはまず、毎年この時期にアップデートしているiPodの新シリーズを発表。いずれのモデルとも大きな変化はなく、プライスパフォーマンスの向上がメインのマイナーアップデートといった内容。もちろん、今回観客が期待していたのはiPodではない。iPhoneのニューバージョンだ。
この発表では、ジョブズの基調講演の伝統ともいえる「焦らしテク」が最大限に駆使された。シラーの口からiPhone4Sが発表されたのは、イベントが始まって50分以上も過ぎてからだ。しかし、iPhone4Sは外観上は前バージョンのiPhone4と同じなのでインパクトに欠ける。それを補うべく、シラーのプレゼン力がいかんなく発揮された。
新世代の「Apple A5」プロセッサーを搭載しており、処理速度が向上。それにもかかわらず、バッテリー持続時間は以前と同等以上を確保。そしてCDMA版が追加され、より広い地域で提供可能になったこと。日本でauが取り扱いを開始したのも4Sからだ。
とりわけシラーが強調したのは、カメラ機能の強化だ。8メガピクセルの裏面照射型センサーを採用し、レンズの数も5枚に増えた。撮影速度、明るさ、色再現性が向上し、カメラとしてのグレードが大幅に上がったことを力説した。写真共有サービスのFlickrにおいて、iPhoneで撮影した写真の比率が飛躍的に増加していることに触れ、カメラとしての高い性能も求められていると説明した。フルHDの動画撮影もサポートしたこと、AirPlayをサポートしたことも付け加えた。
■Siriの発表〜クックによる締め
もうひとつの大きなトピックとして、音声アシスタント機能の「Siri」も発表。デモはフォーストールが担当した。お約束の宣伝ビデオも上映されたが、いつもと違ってジョナサン・アイブは登場しなかった。ビデオに登場した幹部は、グレッグ・ジョズウィアックやボブ・マンスフィールド、フォーストールらだ。
こうして今回の主要な発表は終わり、最後は再びクックが登壇。発表内容を振り返ったあと、少し間をおいてから観衆に語りかけた。Appleだけが、こうした素晴らしいハード、ソフト、サービスを一括して提供できる。私はこの会社とスタッフ達をこの上なく誇りに思う、と。ステージ映えするような華はない半面、人々の襟を正させるような真摯な眼差しで訴えかけるこの人物が、Appleの新しいリーダーなのだ、と納得させられる瞬間だった。
MacPeopleはNewsstandでも配信中
1ヵ月の定期購読なら最新号が600円!
-
680円
-
9,927円
-
1,980円
-
800円
-
800円
-
1,680円
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります