『モンスターズ・インク』から11年。前日譚を描いた『モンスターズ・ユニバーシティ』が公開。ダン・スキャンロン監督にお話を伺いました。
ダン・スキャンロン
『モンスターズ・ユニバーシティ』監督・脚本
PROFILE
『カーズ』(06)の脚本、ストーリー・アーティスト、『トイ・ストーリー3』(10)のストーリー・アーティスト、短編『メーターと恐怖の火の玉』(06)の共同監督を担当。本作で長編アニメーション映画監督デビュー。
―前作『モンスターズ・インク』は、パステルカラーと光がとても美しい作品でした。今回もそれは踏襲されていますが、10年たって大きく変ったことはありますか?
「『モンスターズ・インク』は演劇的なライティングだったのですが、今回はより自然光に近い照明設計でいこうということに落ち着きました。結果的にとてもナチュラルな臨場感のある、観客の方が、まるでそこにいるかのように感じられる色彩設計、照明設計をすることにしました」
―日本人アーティストの堤大介さんもアートディレクターとして参加されていますね。
「堤さんのペインティング・スタイルも自然光的な色合いで、自分ももともとそういうスタイルが好きです。堤さんはチームの中でも重要な存在で、ルックスのイメージを作るにあたって、自然光の使い方はもちろんのこと、影と光の使い方など、いろいろなアイデアを出してくれました」
―『モンスターズ・インク』のときには、サリーの毛は表現するのがとても大変だったと伺いました。10年たってレンダリングはだいぶ楽になったと思ったのですが、実際には『モンスターズ・インク』の15倍時間がかかったとか?
「“グローバル・イルミネーション”という照明システムを採用したので、レンダリングにはより時間がかかっています。サリーの毛は前作で2万本、今回は5万本くらいですが、それ気がつく人はいないでしょうね(笑)。
体毛自体は以前に比べて描写するのがずっと楽になりました。今回の作品ではより体毛のあるキャラクターが登場しています。ちょっとうまくいかないデザインがあると『毛皮で包んでおけよ』というのがジョークになったくらいです」
―毛皮やライティングにしても、すでに確立された楽な方法ではなく、ピクサーはいつでもあえて新しい技術にチャレンジしている気がしますが?
「意図的じゃないと思うんですが(笑)。ピクサーではストーリーが求めるものにあわせて技術を開発しています。なぜか、つねに新しい技術が求められるストーリーを作ってしまっているということなのかもしれません。でも、そういう挑戦する姿勢があるからこそ、みなさんが何度もピクサーの次の作品も見たいと足を運んでくださるんだと思っています。もちろん現場としてはまた登らなければいけない山があるって感じなのですが、登ることによって学ぶことも多いわけです」
―『モンスターズ・インク』では、お調子者のマイクが、学生時代は努力家で、まじめなサリーが意外に嫌なやつだったり、前作とはだいぶ性格が異なりますね。
「今回はストーリーにあわせて全然違う性格が求められたのですが、18、19歳のときと大人の自分では結構変っているわけで、マイクとサリーがお互い影響しあってどう成長したのかを描きたかったのです。成長するということは、スタート地点が全然違わないとおもしろくないということが意図としてありました。
『モンスターズ・インク』のサリーは、まじめでとても優しいいいやつなんだけど、逆にひっくり返してみて、18歳のときにちょっと傲慢で生意気で、そんな彼がどうやって素敵な大人になれたのかというのを描いたらおもしろいんじゃないかと。
僕の願いとしては『モンスターズ・ユニバーシティ』を見た人が、『モンスターズ・インク』をもう一度見たとき、なるほどねー、マイクがいたから、サリーはいいやつになれたんだって、新たに楽しんでくれればと思っているんです」
―のちにライバルとなるランドールが初めは親友だったのも意外でした。
「それもやっぱり見ている方の期待をいい意味で裏切りたいという意図があるわけなんです。また人生でいかに人というのは大きく変わることがあるのかというのも見せたかった。ランディーは今回のマイクの鏡写しのキャラクターなんですね。マイクもランディーも、みんなに認められたいという気持ちがある。ただ、マイクと違ってランディーは間違った選択をいっぱいしてしまう。いかに自分が選んだことが、その後の自分に響いてくるかということも描きたかったのです」
―日本の大学とはだいぶ違いますが、クラブに優劣があったり、広いキャンバスなど、大学の雰囲気がよくわかりますね。マサチューセッツ工科大学やカリフォルニア大学バークレー校などをリサーチされたと聞きましたが。
「今、名前があがった大学だけでなく、いろんな大学をリサーチしました。学内の雰囲気を含めて、特定の大学を描いたわけではないんですね。ねらったのはオリジナルでありながら、親しみがある、どこかで見たことのあるような大学にすることでした。
バークレーなんかはキャンパスがすごく広いんです。角を曲がると何かあるんじゃないかという気がする。学生時代は角を曲がれば何かあるんじゃないかという可能性を感じる時期でもあるので、今回の設計には丘陵を入れたり、建物もあちこちにちらばっているイメージにしました」
―夢を一生懸命追いかけるマイクの姿はすばらしいですね。
「マイクは大きな夢をもっているんだけど、『モンスターズ・インク』を見た人は結果を知っている。もし何か壁にぶつかっても、もう一回立ち上がって進むためのインスピレーションをこの作品がもたらしてくれれば嬉しいと思います」
『モンスターズ・ユニバーシティ』
●公式サイト
ディズニー/ピクサー最新作。マイクとサリーが“モンスターズ・インク(株式会社)”に入社する前、初めて出会う学生時代を描く。
(C)2013 DISNEY / PIXAR.
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