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ソーシャルツールの活用で個人的な小さなことを集めて「力」に変える

2013年06月25日 13時30分更新

疑問に思ったら、とりあえず社会に問いかけてみる

 2012年夏、ロンドンオリンピックで日本人に勇気と感動を与えてくれた日本女子サッカーチーム「なでしこジャパン」。オリンピック開催中、彼女たちの移動手段をめぐるニュースが世界中のメディアで話題になりました。

「男子の代表はビジネスクラスなのに、なんで女子はエコノミークラスなの? おかしいじゃない!」

 この不平等を知った日本人女性2人が、世界的な署名プラットフォーム「Change.org(関連サイト)」を使い、2週間で2万人もの署名を集め、日本サッカー協会宛に提出。海外のメディアからも注目されるなど大きな反響を呼び、その結果、日本サッカー協会(JFA)は女子代表の帰りの便をビジネスクラスに変更しました。

「なでしこジャパンのロンドン五輪からの帰国時は男女平等に対応して頂きたい!」(関連サイト

ソーシャルツールの活用で個人的な小さなことを集めて「力」に変える
Change.orgにアップされた「なでしこ」署名キャンペーン

 このように、テレビやニュースを見て憤慨したり、身近で困っていることをなんとかしたい、と感じることはよくあることです。しかし、実際に解決するために行動するのは、多大な労力と時間、時には資金を必要とするため、なかなか難しいことでした。

 しかし今は、IT、特にソーシャルツールの力を借りることで、一般的な個人であっても、コストをかけず(場合によりますが)、世間や社会、あるいは大きな企業や政治機構に意見を述べることが可能になりました。

社会の課題を「他人ごと」ではなく「自分ごと」にする

 このような個人の社会参加について考える場として、今注目のソーシャル活動を率いる3人の実践者によるトークと、社会課題解決の方法を参加者自身が考えるワークショップから成るイベント「身の周りの気づきをアクションに変える ?ソーシャルムーブメントの実践者と学ぶパブリックシフト(関連サイト)」(主催:Open CU)が、2013年6月21日、渋谷 loftwork Labで開催されました。

 この日、スピーカとして登壇した実践者は3人。この夏のネット選挙解禁の原動力の1つとなった運動One voice campaign(関連サイト)の中心メンバーである江口晋太朗氏。「なでしこ」の事例で取り上げたChange.org(関連サイト)の日本代表・ハリス鈴木絵美氏。そして、ソーシャル時代の市民参加型のメディアとして注目される「ハフィントン・ポスト(関連サイト)」日本語版編集長の松浦茂樹氏。

ソーシャルツールの活用で個人的な小さなことを集めて「力」に変える
それぞれの活動内容を解説する3人のスピーカー

 江口氏は、ネット選挙解禁だけで急激に政治が変わるわけではないが、それをきっかけに、従来の政治家が一方的に政策を考え実行するトップダウン型から、市民の側から要望を発信し、それを政治家が受け取り実行するボトムアップ型の社会への変化に期待していると解説。さらには、公(おおやけ/パブリック)なことを政治家や公共機関にゆだねるのではなく、自分たちでできることは自分たちで行うDIY(Do IT Yourself)な社会にシフトしていくと言う。
 詳しくは、2013年6月28日に発売された江口氏の電子書籍『パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治』(関連サイト)をご一読ください。

 鈴木氏は、Change.orgを使った署名キャンペーンの成功事例を元に、キャンペーンを行う際のポイントを分かりやすく解説。1つ目は、人々が危機感(あるいは課題感)を持っているときこそ、変えるチャンスがあるということ。2つ目は、目標はできるだけ具体的で、手をつけやすいところから提案し、段階的に挙げていくこと。3つ目は、変えるための戦略に説得力を持たせること(例えば前例と比較するなど)。「100の変化を1つやるより、1の変化を100やるというのが今の世の中に合っている。それをソーシャルメディアが加速している」という発言にもあるとおり、何かを変えるには、具体的で小さなことから始めることの大切さをうったえました。

 松浦氏はハフィントン・ポスト(HP)の役割について、最大の特徴は一般の人の声が多く集まるメディアであると説明します。記者が書いた記事を一方的に配信するだけでなく、記事に対するコメント欄をオープンにすることで、コメントも含めた全体を1つのコンテンツとしています。さらに、HP自体が、記者と読者間、および読者同士の新たなコミュニケーションの場所(プラットフォーム)になりつつあると話し、その場所がみんなにとって有効な場所として機能するために、コメントを含めたサイト空間全体を編集することが自分たち運営側の役割であると話しました。

 これら3つの活動に共通することは、従来はリーダー的な存在(政治家、活動家、メディアなど)にゆだねられていた社会的な機能の中に、ごく普通の人たちの意見や知見を、ソーシャルなツールを通じて取り入れていこうとしていることが挙げられます。
 そうした中で、リーダーの役割も変わってくるのかもしれません。これまでは、リーダー自身が考え、発信し、行動してきたものから、今後は、みんなの声を聞いて、とりまとめ、何らかの形にしていくという役割になっていくのかもしれません。

 このような役割を江口氏は「ファシリテーター(促進する人)」という言葉で表現しています。先に紹介した『パブリックシフト』の中で、「政治家主導の世の中から、市民主導の世の中へ。政治家はファシリテーターとして市民の声を集め、吸い上げた意見を集約・再編集し、それらを執行していく担い手へと変化するのです。」と社会的な役割の変化を指摘しています。

 3人のトークの後は、参加者による社会的な課題解決ワークショップ。最初に参加者から課題を募集。壁一面に貼られた課題に対し、それぞれ関心の有る無しを投票。関心が多く集まったものをテーマに議論するかと思いきや、「関心が集まらなかったもの」を取り上げるという主催者からの提案に、参加者からはどよめきが。チーム毎に分かれた議論では、「普段自分が関心を持たない課題」を考えることで、結果的には、柔軟な、時には突飛すぎると思えるほどのユニークな解決策が披露されるなど、盛り上がりを見せました。

 スピーカーの3人や主催者は課題解決の議論には直接参加せず、意見を整理するためのツールとしてワークシートを提供したり、時々、会話をのぞきこみつつ、一歩引いたところから議論を見守りました。そして、各チームの発表を聞いた後で、改めて自身の見解やアドバイスを述べるなど、まさにファシリテーター的な役割を担っていました。

ソーシャルツールの活用で個人的な小さなことを集めて「力」に変える
それぞれが提出した社会的課題に関心のあるなしを投票する参加者

 一個人にできることなどたかが知れている、というのは良く聞く台詞です。確かにそうかもしれません。しかし、その個人が1万人集まったら何ができるでしょう。もし100万人集まったら……。もちろん集まるだけでは力にはなりません。それをとりまとめる人が必要です。今回のスピーカーを始め、ITの利点を知り尽くし、様々な経験を積んだファシリテータがこれからもたくさん登場することでしょう。
 既存の社会システムの中にも有効なツールはたくさんあります。それらを活かし、今よりほんの少しだけ個人が自分の意見を発信することで、これまでとは違った「私たち」の社会が生まれるのかもしれません。

 ■参考書籍

ソーシャルツールの活用で個人的な小さなことを集めて「力」に変える

パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治
著:江口晋太朗

ミニッツブック公式サイトでチェック(関連サイト

Kindleストア:パブリックシフト ネット選挙から始まる「私たち」の政治 (カドカワ・ミニッツブック)

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