基調講演レポートの後編は、OSXについてまとめる。OSXは昨年のMountain Lionのデビュー時に、いくつかiOSやスマートデバイスの美点をデスクトップOSの世界に持ち込む機能移植とでも言うべきことが起こった。通知をまとめて表示するNotification Centerや、スリープ中にもデータ送受信することで常に情報を最新に保つPowerNap、ソーシャル共有機能Sharingなどがそれだ。
今年デビューした新OS Xは、これまでの猫科シリーズのコードネームを廃し、新たに地域の名前をコードネームにしていくようだ。Mavericksは、サンフランシスコ市内から約40キロほどの場所に位置するハーフムーン湾にある海岸地域の名称からとった。壁紙が波をイメージしたものになっているのはこのためだ。
壇上で次期OSXを発表するOS X開発責任者のクレイグ・フェデリギ氏。次の猫科は何か?
次期OS名は「シーライオン!」というジョークで会場は笑いに包まれる。実際には、猫科をやめてMavericksになることを公表。
今回のOS Xの最大のニュースは、一般的にいえば“製品名が猫科でなくなったこと”かもしれない。ただし、地味ながら今後のデスクトップOSに必要なブラッシュアップは端々にあり、さらにiOS7同様のフラット化への布石も、わずかだが見えている。そのあたりについて触れて行こう。
Mavericksの新機能については既報のASCII.jpの記事(関連リンク)や公式サイト(関連リンク)でまとまっているのでそちらをご参照いただくとして、個人的に注目しているのは、以下の5つだ。
(1)Haswellと相性の良さそうな省電力制御
(2)AirPlayが生きるマルチディスプレー機能
(3)引き続きNotifications
(4)OS XでのiBooks対応
(5)カレンダーとMapアプリに見るOS Xのフラットデザイン
その理由についてまとめてみよう。
(1)Haswell版と相性の良さそうな省電力制御
米アップルの解説ページより抜粋。
基調講演では、最初のデモのあとに紹介されたいくつかのテクノロジーフィーチャーの中に“Timer Coalescing”というものがある。OSが統合的にCPUのアクティビティを最適化することでCPUがアイドル状態になる時間を増やす仕組みだ。その効果は、最大で72%ものアクティビティ低減になるという。
さらにこの仕組み、WWDC2013で“Buy Now”で発表されたMacBook Airに採用されるHaswellプラットフォームと非常に相性がいい。Haswellは一般に、高性能なだけではなく、それ以前のIvyBridgeに比べてアイドル付近の消費電力が20分の1になると言われている。つまり、Timer Coalescingでアクティビティを低減=アイドルやそれに近い時間を増やすことは、Haswell環境の消費電力低減にダイレクトに効いてくるテクノロジーなわけだ。
基調講演では、こうした一連のフィーチャーをOS X開発担当責任者のクレイグ・フェデリギ氏が解説したあとで、ワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏が登場、新MacBook Airが11インチでも最大9時間と発表した。この時点では、Mavericks前提の駆動時間なのかわからなかったが、実際のAirのスペックシートではMountain Lionのままで9時間ということになっている。ということは、MavericksをインストールしたAirではバッテリー駆動時間がさらに向上する可能性が出てきた。
2枚のウィンドーの下側がブラウザー(Safari)。この状態では画面右側の負荷メーターが動いているが、完全にiTunesのウインドーで隠すとCPU負荷はほぼゼロになる、というデモ。
Mavericksにはほかにも、アプリのウィンドウが別アプリで隠れた際にアプリのCPU負荷を急減させる“App Nap”という機能も備わった。デモでは実際にアニメーション演算でCPUをバリバリ使っているブラウザーを別アプリで隠すとCPU負荷がほぼ0になる様子を見せていた。
多かれ少なかれ持ち運ぶことの多いノートブックにとって、消費電力をそれと気づかせずに着実に削減していく機能は快適性を損なわずバッテリーライフをのばす意味で効果的だ。特に、OSとハードを垂直統合で開発できるアップルだからこその省電力チューニングという特色も出てくる。モバイルを意識したOSとして磨きがかかった印象がある。
(2)AirPlayが生きるマルチディスプレー機能
気になっているのはAirPlayを使った無線ディスプレイ機能。AirPlayで表示するディスプレイをフル機能のディスプレイとして使えるようになるため、テレビ画面への映像出力でできることが拡大する。家庭内でも、アップルTV非対応の動画配信サービスを、MacBook Airなどから送出して気軽にテレビで見る、といったことができるようになる。
ちなみに、非常に地味な機能改善としては、マルチディスプレー環境でのフルスクリーンアプリなどの挙動がマトモになった、というのもある。デベロッパーたちはコアなMacユーザーなので、フルスクリーンアプリを2枚の液晶でそれぞれ使うとか、タスク切り替え機能”MissionControl”を画面ごとに使いたいとか(これは僕もそう思う)、ちゃんと最初からそうしといてよ、というツッコミ込みで拍手がわき起こっていた。この辺は基調講演の動画アーカイブでも確認できる。
(3)引き続きNotifications
左はiMessageの通知。そこから直接返信できる。右はスリープ復帰時のログイン画面。ここにも、iOSのロック画面のように通知を出せるようになる。
これは、昨年同様の流れで、通知系がより一層、スマートデバイスの美点を取り込んだOSになった。Mavericksの通知系は、
・右上に表示される通知バー上でメールなどに直接返信
・ウェブページの更新通知を通知バーで受け取る
・スリープ画面にも各種未読通知を表示する
といったことをサポートする。見てわかるように、スマートデバイスではいまや一般的なものだ。スマートフォンの延長線上にあるタブレットには通知機能があるのに、用途が競合すると言われるモバイルノート(この場合はAir)に同じ機能がない、というのはある種の逆転現象を生んでしまう。
元々はスマホ特有の“アプリは全画面が基本”、”なるべくバッテリー消費を減らす”という制限から生まれた通知機能。その利便性が非常に高いとわかれば、デスクトップOSにどんどん取り入れていくというのは正しい流れだ。
(4)OS XでのiBooks対応はNewsstandへの布石?
知らない人にとっては「まだだったの?」、知ってる人にとっては「やっと?」という印象を持つ、OS XのiBooks対応。これに注目するのは、OS X版Newsstand開始の布石じゃないか、と感じているからだ。
アップルの電子書籍サービスにおいて、おそらく日本で活発なのはiBooksよりNewsstandだ。iBooksはKindleという強力な競合があるが、Newsstandには、サブスクリプション型購読サービスの完全競合は基本的に存在しないからだ。
ただし、Newsstandは個別アプリになっているので、配信元の側でアプリの対応が必要。その意味では、本当に始まるにしても多少の時間が要るかもしれない。もし実現すれば、持ち歩きにはiPadやiPhoneで、資料としてじっくり読む/見開きで奇麗に読むときにはOSX版のiBooksで、というような使い分けが可能になる。
(5)カレンダーとMapアプリに見るOS Xのフラットデザイン
左がカレンダーアプリ、右がMapアプリ。MapはiOSと同じアップル純正。OS Xへの採用は今回が初めて。
機能アップもさることながら、カレンダーとMapだけは、見たところiOS7と同じフラットデザインに変わり始めている。カレンダーはiOS7ほどではないにせよ基本デザインがフラット的だし、Mapについても右下のコンパスアイコンを見ると、フラットデザインを意識したアイコンになっていることがわかる。
Marvericks世代でいきなりフラット化することはないと思うが、アプリのUIデザインなどの反響を見ながら、デスクトップOSのフラット化シフトを進めていくというシナリオを描いているんじゃないだろうか。
その意味で、デザインスタディー的な意味でこの2つのアプリはちょっと気にかけておきたい。
次期OS X“Maverick”の登場は今秋。iOS7の登場も同時期ということで、今年後半はアップル周辺が盛り上がることになりそうだ。
【番外編】ウェブアプリ版iWorkのPublic BetaはWindowsユーザーこそ注目
iWork担当バイスプレジデント ロジャー・ロスナー氏。
左は『Pages』。画像をドラッグして文章に載せると、ネイティブアプリさながらに画像の周囲に文字が回り込んで行く様子を見せた。右は表計算アプリ『Numbers』だ。
OSとは関係ないので5つに含めなかったが、最後に1つ。iWork for iCloudだ。iWorkとは、アップル版のOfficeのようなもので、MS OfficeのWord、Excel、PowerPointにあたるものが『Pages』『Numbers』『Keynote』とそれぞれあり、一応MS Officeのファイルも読み込める。一番有名なのは、アップルの各種カンファレンスのプレゼンで使われている『Keynote』だ。
WWDC2013基調講演では、iWorkに時間を割いて、iWork for iCloudというサービスも紹介した。中身は端的に言えばブラウザ版のiWorkだ。登壇したiWork担当バイスプレジデント ロジャー・ロスナー氏はウェブアプリながらネイティブアプリ版と同様の操作感を実現していることをアピールしていた。
このiCloud版iWorkで注目なのは、対応ブラウザにIEが含まれていることだ。肝心の利用料金体系が不明なのが残念だが、たとえばiCloudユーザーなら無料で使えるとか、容量1GBまでは無料などのフリーミアムに近い形をとるなら、Windowsユーザーにとっては無料Officeを使うくらいならこっち、ということにもなり得る。
パブリックベータは今年後半の予定。次に「iWork for iCloud」と聞いたときは、まず試してみることを思い出してみよう。
●関連リンク
WWDC2013基調講演アーカイブ(英語)
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