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理想のウェブ編集者像とは? 『ハフポスト』日本版・松浦氏×『cakes』加藤氏対談

2013年05月08日 10時00分更新

 4月30日に東京・五反田のゲンロンカフェにて、全米ナンバーワンのウェブメディア『ザ・ハフィントン・ポスト(ハフポスト)』日本版編集長・松浦茂樹氏と、デジタルコンテンツ配信プラットフォーム、『cakes』を運営するピースオブケイクのCEO・加藤貞顕氏による対談イベントが開催された。これまでウェブメディアばかりを10年近く渡り歩いてきた松浦氏に対し、加藤氏はアスキーやダイヤモンド社で編集者として勤務したのちに、ウェブメディアへと移った人物だ。バックグラウンドの異なる2人が“ウェブメディアのあり方、そこで求められる編集者像”をテーマに議論を交わした。

■『ザ・ハフィントン・ポスト』日本版編集長・松浦茂樹氏

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↑ライブドアで『BLOGOS』の立ち上げなどに関わり、『WIRED.jp』や『GREEニュース』にも携わったのち、今年3月より現職。社会人のスタートは人工衛星のシステムエンジニアという異色の経歴の持ち主。

■ピースオブケイクCEO・加藤貞顕氏

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↑書籍編集者時代には『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』などのヒット書籍を多数手がけた加藤氏。本サイトの連載(関連記事)でもおなじみ。


■数字と勘を頼りに読者のニーズを探る

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 編集者の仕事を非常にザックリまとめると、“読者が求めているコンテンツを探し出し、それをもっとも適切なかたちで読者に提供すること”となります。雑誌でも書籍でもウェブメディアでも、誰かになんらかの情報を上手に伝えようとすれば、そこでは編集的な作業がかならず生まれていると言えます。今回の対談中には、「2ちゃんねるのまとめサイトにおける“中の人”も優秀な編集者だ」ということで2人の意見が一致する一幕もありました。

 そのうえで、ウェブメディアの編集者には“読者の反応を把握する”という仕事も追加されます。ウェブメディアのコンテンツの場合、読者の反応が明確な“数字”となって現われます。そこが紙メディアとの違いであり、それによりコンテンツのつくり方も変わってくるというのが2人の共通意見でした。松浦氏は「単に数字を読むのが得意なだけではダメで、それを次につなげるのがいちばん大事なこと」と強調し、加藤氏は数字の重要性を十分に認めつつ「読者のニーズに対する嗅覚、これは売れそうという“勘”もやはり重要」だと語りました。

■書き手の発掘・育成も編集者の役割

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 対談では、“メディアは書き手を育てる場でもある”というトピックが挙がりました。加藤氏は、出版界の現状として若い世代に優秀なエッセイストがいないことを指摘し、その原因を「出版社の経営状況が苦しくなってきたことで、エッセイストをじっくりと育てる余裕が失われている」と分析。これからは、その役割をウェブメディアが担っていくべきだと語りました。

 また松浦氏は「少数のアルファブロガーが脚光を浴びて以降、有力なブロガーが育っていない」とウェブ界の現状を挙げ、「そのアルファブロガーの人たちはおもしろい文章が書けるだけでなく、自己プロデュースもできてしまう“編集者不要”の人たちだった」と指摘。まだ才能が埋もれたままのブロガーに対して、編集者がキュレーションやプロデュースの部分で貢献することで、影響力の大きいブロガーが増えていくことを目指しているとのことでした。

■ウェブ媒体と紙媒体は対立する存在ではない
 
メディアをめぐる状況はめまぐるしく変化していて、現在は“過渡期”とも言える状況。そんななか「ウェブメディアと紙メディアの距離が急速に近づいている」というのが両氏に共通する認識です。たしかに、数年前にはネットを毛嫌いしているかのようだった出版社や新聞社も、現在では歩み寄りを見せています。

 ハフポスト日本版でも、朝日新聞社がパートナーとして選ばれていて、編集部には記者経験者が数名在籍しているそうです。松浦氏は「正直に言って、ウェブメディアと新聞では仕事の“流儀”にかなりの違いがある」としながらも、「僕は新聞社がもつ経験の蓄積やシステムに敬意を抱いているし、お互いに認め合うことはできていると思う」と発言。加藤氏も「紙メディアで培われた経験や素養は、ウェブメディアでも間違いなく役立つ」と同調し、人材の交流により紙メディアのよい部分がウェブメディアにもたらされることへの期待感を示しました。

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↑会場は満員の盛況。今回の記事では割愛しましたが、ウェブメディアの収益システムやテクノロジーの話題なども出て、約2時間のイベントはあっという間に終了しました。


 5月7日にはハフポスト日本版がついにローンチしました。ニュース速報やブログ記事にコミュニティーサイトの要素もミックスしたウェブメディアとして、欧米ではすでに大きな影響力を誇るハフポスト。日本版ではどのような展開を見せるのか、注目していきたいところです。

■関連サイト
『ザ・ハフィントン・ポスト』日本版
cakes

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