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ハフィントンポストの“秘密”は高度なアクセス解析ができる編集者CMSにある

2013年05月08日 15時00分更新

月間6300万ユーザーの総合ニュースサイト
『ハフィントンポスト
、その強さの秘密

ウェブメディアの必勝請負人を起用

『ザ・ハフィントン・ポスト』(以下ハフポスト)は米国で最も勢いがあるとされるニュースサイトだ。フェイスブックやツイッターといったSNSの流行によって時代遅れになったと見られていた従来型のニュースサイトに、ソーシャルの仕組みを組み込んで、月間6300万人ものユニークユーザーを集める巨大ソーシャルニュースサイトに成長させた。

 そのハフポストの日本語版サービスが、5月7日から開始された。ジミー・メイマンCEOは、「3年間で日本のオンラインニュース大手の5位までに食い込みたい。大手の一角に入るため、月間800万~1000万人の獲得を狙いたい」と述べている(日経新聞 ウェブ面'13年2月21日)。

 日本版の編集長に抜擢された松浦茂樹氏は、人工衛星のSEからウェブの世界に飛び込み、ライブドアニュースやブロゴス、ワイアード・jp、GREEニュースなどを次々と成功に導いた、いわばウェブメディアの必勝請負人というべき人物。メディアの編集長としては異色の経歴である。

ハフィントンポスト

ザ・ハフィントン・ポスト日本版 編集長
松浦 茂樹氏
(MATSUURA SHIGEKI)

PROFILE
1974年生まれ。東京理科大学工学部卒。人工衛星のSEから転身し'04年にライブドア入社。ライブドアニュース、ブログメディア『BLOGOS』などを手がける。その後『ワイアード』日本版のウェブ担当を経て、'12年からはグリーで『GREEニュース』などに携わる。2013年より現職。


 ハフポストは、ジャーナリストで元共和党上院議員の妻だったアリアナ・ハフィントンが、民主党に鞍替えした後、リベラルな主張を掲載するための政治フォーラムとして始まった。現在では、政治経済や社会問題だけでなく、ビジネス、エンタメ、テクノロジー、国際問題、スポーツやゴシップ、生活情報や地域情報など、50を超えるサブジャンルを扱う総合ニュースサイトとなっている。

 ハフポストには各ジャンル合わせて500人を超える記者・編集者がいて、日々オリジナルのニュースを配信している。さらに約3万人のブロガーが独自の記事を執筆している。ブロガー陣にはシリコンバレーとも縁が深いアル・ゴア元副大統領などがいて、現大統領のバラク・オバマが選挙戦中にゲスト・ブロガーとして登場したこともある。'13年にはついに、ブログメディアとして初めてピューリッツァー賞を受賞した。

ザ・ハフィントン・ポストとは?

 '05年にアリアナ・ハフィントンにより創設。アリアナ以外の創設メンバーは当時30歳台前半と若かった。従来のニュースメディアとは異なる“ソーシャルニュース“を標榜する。ジミー・メイマンCEOによれば、利用者の3分の1は35歳以下の若い世代。収益は広告モデル。

<<DATA>>
創設者:アリアナ・ハフィントン(62歳)、ケネス・レーラー(41歳)、ジョナ・ペレッティ(39歳、BuzzFeed社創業者)、アンドリュー・ブライトバート(2012年故、享年43)
ヘッドクオーター:ニューヨーク
編集主幹:アリアナ・ハフィントン
月間利用者数:6300万人(米国)
月間コメント数:約800万件
寄稿ブロガー数:3万人以上
記者・編集者:500人以上
1日あたりの記事投下数:1600本以上
アワード:ピューリッツァー賞(2012年)、タイム誌ベストブログ25 2位(2009年)ほか


ザ・ハフィントン・ポスト(米国版)
ハフィントンポスト
ザ・ハフィントン・ポストのトップページ。『政治ニュースサイト』からはじまってはいるが、記事ジャンルには“ウェディング”から“ゲイ”といったものまであり、非常に幅広いカバー範囲を持っている。“LIVE”セクションではリアルタイム配信のニュース映像も見られる。

ユーザー評価で記事の価値が決まる

 ハフポストの最大の特徴は高度にシステム化された記事掲載システムにある。松浦氏によれば、ウェブのユーザー向けサービスを成功に導くために必要なことは、ターゲットユーザーを詳細に把握することと、ユーザーの反応を素早くとらえて、サービスやコンテンツを細かく更新し続けることにあるという。

 たとえばウェブサービスでは、新しい機能をリリースした後に予測値よりも反応が悪ければ、パラメーターやUIを即修正していく。そのスパンは1日では遅すぎるくらいだという。

 ハフポストでは、このウェブメディアに必須のシステマチックなPDCA(Plan:計画→ Do:実行→ Check:評価→ Act:改善)のサイクルを、上層部の判断を仰ぐことなく、記事の担当者だけで回せるようになっている。
 それを支援するのが、ハフポストの編集者向けCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)だ。これによって、編集者は自分の記事がどれだけアクセスを稼いでいるか視覚的に判断することができる。

 これによって、担当者はどんどん記事をアップデートして最新情報を提供するだけでなく、評判が思ったほど上がらない場合は、すぐさま記事の書き方を変えてみることもできる。

 ハフポストでは、記事の価値を判断するのは、定量化しにくい編集者の勘ではなく、ユーザーの評価に集約されるのだ。
 編集者は単に記事を作成するだけでなく、アクセス数という数字を稼ぐ責任を負っている。それを支えるCMSの完成度と編集者の意識の高さは、日本のウェブメディアの一歩も二歩も先を行っているという。

強力なCMSは当然日本版にも
ハフィントンポスト
自慢のCMSは本国と同じものを日本語化して使うという。

システムと人が作り出す、“読者重視”のシステム

 ハフポストでは、ニュース記事にユーザーがコメントで意見表明や交流をすることができる。1つの記事に5000件以上のコメントが付くこともあり、月間コメント数は1000万件近くになる。このコメントの中には質の高いものも低いものもある。そこでハフポストでは、「JuLiA(Just a Linguistic Algorithm)」という人工知能による解析システムを使って、自動的に不適切なコメントをふるい落としたり、人気のコメントを読まれやすいように目立たせる、といった処理をしている。

 また、トップページにどの記事を掲載するかの判断も、アルゴリズムによって決められている。記事を訪れるトラフィックやエンゲージメント(ユーザーの記事に対する関わり度)、コメント数など30以上の項目をもとに判断しているという。

 ハフポスト日本版ブロガーの起用については、「人気ブロガーを単に連れてきても効果は薄い」「無名でも文章の上手い人を起用して、読者と長期的な関係を築いていきたい」と語った。ユーザーに長く支持されるメディアを作るには、単に話題性だけでなく、信頼を得られるコンテンツをそろえることが重要だという認識なのだ。

ハフィントンポスト日本版
↑左から松浦編集長、アリアナ・ハフィントン氏、ジミー・メイマンCEO。5/7のローンチ発表会にて。

生年月日:1950年7月15日
出身大学:ケンブリッジ大学ガートンカレッジ
アワード:フォーブス誌『メディア界で最も影響力のある女性』12位(2009年)、ガーディアン誌『メディア界トップ100人』42位(2009年)ほか

『TED 2010』のスピーチでは、成功の秘訣として「睡眠をとること」と述べた。’08年に過労で意識を失った際にケガをしたエピソードを半分茶化したものだが、精力的な活動は今なお変わりない。TED2010でのスピーチは下記をチェック。

ザ・ハフィントン・ポスト年表
ハフィントンポスト

●日本版編集長・松浦茂樹氏に訊いた「ハフィントン・ポストの内部事情」はこちらもチェック!

日本版の編集長が語る「売れるWebメディア」の作り方

 日本版編集長、松浦茂樹氏が語る、ニューヨークのハフポスト本社で見た内部事情と、ニュースメディア必勝の法則。ウェブとメディアに興味のある人は必読の電子書籍。想定読了時間:43分。Kindle価格230円。

●関連サイト
ミニッツブック公式サイト
ザ・ハフィントン・ポスト日本版
The Huffington Post(英語版)

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