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想いをつなぐ編集力

ドラクエやサザエさんは、なぜこんなにも強いのか?

2013年03月11日 16時30分更新

 みなさん、ドラクエ7やってますか? もちろん、ぼくもせっせとやっております。

 ぼくらアラフォーは、脳みそがドラクエ脳なので、ドラクエが発売されたらとりあえずクリアまではやらざるをえません。「ドラクエ7雑感:スマホ脳になったことを思い知らされる」なんて記事(外部リンク)にもかなり共感したのですが、それでもなお、電車に乗ると自動的に3DSを取り出しております。

 また別件ですが、先日、フジテレビに行ったら、番組別の視聴率が貼り出してありました。その中でもダントツ一位が『サザエさん』でした。いろんな新番組があるのに、サザエさんのこの強さは異常です。ドラクエとかサザエさんのような、こういう定番ものが強いのは、どうしてなのでしょうか?

 もちろん、最高のスタッフが作っているからというのは、ひとつの答えなのでしょう。でもそれだけではなく、定番ものの強さには別の理由があるはずです。


■定番作品がどんどん強くなっていく理由

 結論から言うと、定番作品が強いのは、コンテクスト(文脈)が共有できているから、というのが大きな理由です。

 たとえばドラクエの場合、まず主人公がいます。最初は弱いふつうの人なのですが、最後には勇者となって世界を救うことになります。ぼくらは、ゲームをプレイする前からそうなることを知っています。主人公には、力を貸してくれる王様、村人、神父さん、そして仲間がいます。もちろん相手となる敵や、その組織の構成員もいます。

 やることもだいたいいつも同じです。敵と戦えばレベルアップし、お金が貯まれば武器を買い、ゲームが進んだら教会でセーブします。こういった状況や、キャラクターの造形は、シリーズを通してある程度決まっています。だから、ドラクエを買うと、バージョンを問わずにすぐ楽しむことができるのです。

 コンテクストとは、そういうことです。ここでは「状況」と「キャラクター」がそれにあたります。

ドラクエやサザエさんは、なぜこんなにも強いのか?

 有名シリーズが強い理由は、ここにあります。このような作品では、消費者が作品のコンテクストを最初から共有しているので、話の中でそのための説明をはぶくことができるのです。物語の最初にある、設定やキャラクターをわかってもらうための説明というのは、基本的にかったるいものです。その部分が省けるのは、それだけでむちゃくちゃ有利なのです。

 有名シリーズは、その上で、新しくて楽しい要素だけを積み重ねていくことができます。これによって、ただでさえ強いものが、どんどん強くなっていくのです。


■では、新作が対抗するすべはないものか?

 つまり、まったくの新作は、読者に対してコンテクストをいちから提示して、共有しなくてはいけないので、面倒で、不利なのです。新しい作品をつくって大ヒットを飛ばしたい人というのは、知名度もないのに後方からのスタートになるという大変な状況なのです。

 とはいえ、困っているだけでもしかたがないので、どうしたら有名シリーズに対抗できるのかを考えていきたいと思います。

 いちばんの王道は、まったく新しいコンテクストを考えるということです。だれも見たことがない、すごい設定とキャラクターを考えて、作品を作ればいいのです。でも、そんなに簡単なことではありませんよね。

 ……もっと簡単で、効率のいいやりかたはないでしょうか?

 あります。「既存のコンテクストを活用する」という手です。ゼロからコンテクストをつくるのではなく、すでに社会に存在するコンテクストを使ってしまいます。要するにリサイクルですね。いくつかのやり方があるので、順番に見ていきましょう。
 

1. 時事問題を使う

 時事問題というのは、みんなが現在、ホットに共有しているコンテクストです。たとえば最近はニートを題材にしたマンガがたくさんありますが、こういう作品では、みんなが持っているニートへの共通認識の上に乗かって、作品が展開されていきます。だから余計な説明が省けるのです。


2. 定番フォーマットを使う

 たとえば「学園もの」のような定番の型を使うという手もあります。荒れた学校、熱血の先生、ヤンキー、ヒロイン、しらけた生徒など、状況もキャラクターも、たくさんのコンテクストが豊富に存在します。余計な説明を省いて、ほかには「家族」というのもみんなが共有しやすいテーマです。


3. 特定の強いコンテクストを使う

 定番フォーマットまではいかないが、すでにある、大きくて強めのコンテクストを借用するという手です。たとえば『もしドラ』では「ドラッカー」や「高校野球」という、既存の「権威」を題材としました。『スタバではグランデを買え!』という本では、「スタバ」というコンテクストを借用しています。スタバやグランデと聞いただけで、あのおしゃれな店舗や飲み物のサイズが浮かび上がります。


 そろそろ、まとめましょう。名作が強いのは、長年の積み重ねでコンテクストをみんなが共有しているためです。だから新作は、既存のコンテクストを活用して、名作に対抗したらいい、というお話でした。

 そしてじつは、新作が勝負をするために有力な方法は、もうひとつあります。みんなよく知っていて、大好きな手法です。次回はそこを見ていきましょう。

【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。ドラクエ7はメルビンが加入したあたりです。先は長いです。

■関連サイト
cakes(ケイクス) クリエイターと読者をつなぐサイト
cakes公式ツイッター:@cakes_PR
株式会社ピースオブケイク公式Facebookページ

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