3月13日に約1年半ぶりにニューアルバム『sakanaction』を発表するサカナクション。ボーカルの山口一郎氏にアルバムについてたっぷりお話を伺いました。なお、週刊アスキー3月26日号(3月12日発売)には“眠りたいときに聴きたい曲”をテーマにプレイリストなども掲載中。併せてチェックしてください。
進化したと思います
――約1年半ぶりのアルバム。できあがっていかがでしょうか?
山口 僕たちがどういうバンドなのかがはっきりわかったアルバムになりました。ドラマの主題歌やCM曲、楽曲提供など外に向かって挑戦することが多かったぶん、自分たちの音楽はどういうものかを確認する時間があまりなかったんです。制作を通じて、自分もメンバーもその確認ができたと思います。
――確認の意図するところは?
山口 そもそも僕らは、ポップに抵抗がある人たちが集まったバンドなんです。それが最近は「こうすれば聴き手に受け入れられる」、「サビにこの音を足せば盛り上がる」だとか、方法論で音楽をつくることが多くなっていたんです。しかも無意識に。このままでは同じように繰り返して、摩耗していった過去のバンドのようになってしまうと思いました。本当にきつかったんです。見失いかけていましたから。人に聴かれることを前提に音楽をつくることにあまり慣れていなかったんですね。表に向けてつくる機会が増え、新しい感覚が付加されたぶん、今までと違うことを歌い、自分たちは変わるべきなのかと思ったり。ずっと僕らが言い続けている“変わらないまま変わる”という感覚のバランスを崩していたんです。
――アルバムをつくり終えたことでそのバランスは元に?
山口 戻ったというよりも進化したと思います。タイアップをやることが表としたら、裏はなんだろうと。それが今回のアルバム制作で発見しなくてはいけないことだったし、見つけたことだと思います。自分たちが本当に好きな音楽を考えられたし、それを見つけることができたんです。“表裏一体”、自分たちのなかにある、表と裏の感覚をこのアルバムに込めました。姿勢も、言葉も、メロディーも。だからこそアルバムは、バンド名の『sakanaction』なんです。今このタイミングでしか付けられないアルバムタイトルだと思います。
2つの世界を行き来する
――軽やかにまるで踊るように表と裏を行き来する印象のアルバムです。
山口 今回はグルーヴ。サカナクションはこういうテンポ感で構成されているバンドなんだよと、そしてこれが今の僕らの味なんだということを表現したかったんです。インストも2曲ありますが、全体のグルーヴが完成されているからこそ入れられたと思いますね。
――歌詞に変化を感じたのですが。
山口 今回、歌詞を書くのがとても難しくて、その理由が全然わからなかったんです。書き終えて、思ったのは、僕は今まで、“切なさ”や“悲しさ”、“モラトリアム”などを音楽や歌にしたかった。けれど、今回は“未来”を歌いたかったんです。それで今まで使ってきた言葉だけでは書けなかったんだなって。無意識に“未来”を連想するキーワードを探していた気がします。
――今までは魚として海中を泳ぐイメージでしたが、今回は“船”などを始め、海上を意識した言葉も多いですね。
山口 僕らはずっと言い続けていますが「マジョリティーのなかのマイノリティー」になりたいという感覚があるんです。たくさんの人に届けるためにも、僕らのいるバンドというお山から、マジョリティーの海に、乗り込んでいく、攻め込んでいくという思いは常にもっているから、“船”というキーワードを使うのかもしれないし、いちばん合うのかもしれません。
――そのようななかで、『朝の歌』の歌詞に出てくる“飛び魚”という言葉はバンドの未来であり、目指している形だなとも思ったんです。
山口 “飛び魚”はアルバムのひとつのテーマでした。異なる、でもつながった2つの世界を行き来し、どちらの世界も知っているから。それに“鳥”や“魚”という言葉もかなり歌詞に出てきますね。
――“鳥”と“魚”、そして“空”と“海”。
山口 これも“表裏一体”。どちらが表か裏かはわからないけれど、魚からみれば海が表で、鳥や、人間から見れば、空が表で海が裏だったり。音楽も同じで、外に向けてつくっているつもりでも、裏だと思う人もいるわけで、その逆もありうる。つくり終えて、だんだんわかってきたところがありますよ。『kikUUiki』のときは“混ざり合わないものが混ざり合ったときのよい違和感がサカナクション”と言っていたし、『DocumentaLy』のときは“日常が音楽になっていくのがサカナクション”だと話していました。今、全部総括して考えると“表と裏”なんです。自分たちが目指すもの、そしてその反対側はなにかを探し続けていくのが僕らの旅。それがわかったのはとても大きいですね。
――すべてが今作につながっていたと。さまざまな気づきとともに更に前進するサカナクションの未来は?
山口 僕らは世の中的にも、そして音楽シーンでも今が旬。でもそれがずっと続くとは思ってはいないし、でもそれを受け入れて、「これがファーストアルバム」という気持ちでつくったのはよかったし、大事なことだと感じました。新作は本当に“表裏一体”、そして“本能と学習”。つくりたい気持ちと、それをどう届ければいいのか、それがサカナクション。僕らはここからまた脱皮して、進化していきますよ。
【ニューアルバム】
サカナクション ニューアルバム
『sakanaction』
大海原を跳び、進む魚の姿
“表裏一体”を軸に表と裏、海と空、2つの世界を軽やかに行き来する新作。風を味方に、さらに前進するバンドの未来が見える。
初回盤(CD+ブルーレイ)3990円、初回盤(CD+DVD)3780円、通常盤3000円 ●3月13日発売 ●ビクターエンタテインメント
【プロフィール】
2005年結成のロックバンド。メンバーは山口一郎(Vo.&Gtr.)、岩寺基晴(Gtr.)、草刈愛美(Ba.)、岡崎英美(Key.)、江島啓一(Dr.)。3月27日より全国ツアー“SAKANAQUARIUM 2013 sakanaction”を開催。5月には幕張メッセ国際展示場にて2DAYS公演を行なう。
● 関連ページ サカナクション公式HP
iTunes Storeでのニューアルバム『sakanaction』のチェックはこちらから↓
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