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想いをつなぐ編集力

ミリオンセラーをつくる5つの法則――爆発した時の最大値を広げる企画の考え方

2013年02月18日 16時30分更新

 この連載の初回で、編集者の仕事は「影響力を最大化すること」だと書きました。作家やクリエイターの持っているメッセージを、できるだけ多くの人に届けるのがぼくらの仕事です。そのためにいちばん効果があるのは、当たり前のことですが、「たくさん売る」ということです。「儲ける」ために売るのではなく、「届ける」ために売るのです。


ミリオンセラーの5つの秘訣

 ぼくは以前、ミリオンセラーにはつくりかたがあるのではないかと考え、過去数十年間のベストセラーランキング調べたことがあります。そうしたら、ミリオンセラーになる本は以下の5つテーマを含んでいるものが多いことがわかりました。

(1)青春
(2)恋愛
(3)家族
(4)健康
(5)お金

 これらの共通点はなんでしょうか?

 ぼくの仮説は「1億人が興味あること」です(※)。この5つのテーマ、考えてみると、ほとんどだれでも興味があることなのではないでしょうか。

 「青春」は、今まっただ中なひとはもちろん興味があるでしょうし、過ぎさってしまったひとも、過去には必ず体験しています。「恋愛」も、関わっている時期や量には差があるかもしれませんが、ほとんどのひとは関心のあるテーマです。

 「家族」も強いテーマです。どんなひとも必ず、親から生まれています。また、若い人にはぴんときにくいのですが「健康」も重要なテーマです。「お金」については、説明の必要はないですよね。古今東西、ひとはみんな、お金やお金の話が大好きです。

 ミリオンセラーになった本には、この5つのうち、最低1つ、もしくは複数のテーマが入っていることが多いのです。たとえば『世界の中心で愛を叫ぶ』には、(1)と(2)と(4)が入っていますし、『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』には(1)(2)(3)が入っています。

ミリオンセラーをつくる5つの法則 ――爆発した時の最大値を広げる企画の考え方

 もちろん、これらのテーマが入っていれば、かならず売れるというものではありません。こういう本は、中身が面白かったり、マーケティングがすばらしかったり、いろんな要因があって売れたわけですが、そういう本が取り扱っているテーマが、結果としてこの5つだったということです。

 なお、270万部を売った『もしドラ』には、(1)青春と、ミリオンに届くテーマではありませんが「マネジメント」というテーマがくっついています(このようにメジャーなテーマとマイナーなテーマをくっつけるのは、ひとつの手段なのですが、これについてはまたこんど書きます)。


■最大で、何人に受け入れられうるのか?

 仕事で企画を考えるとき、いちばん大事な問いのひとつに「これは何人に受けいれられうるのか?」というものがあります。これはおそらく、本以外の商品やサービスの企画でも同じでしょう。商売ですから、なるべくたくさんのひとに求められるものを考えなくてはいけません。

 上記の5つのテーマだと、この問いが「1億人」になるわけです。逆に、1億人に受け入れられうるテーマで本をつくると最大で100万部売れるのではないかという仮説も成り立ちます(外部リンク)。こういう、母集団とそこからの歩留まりを意識した考え方は、企画を考える上では大事だと思います。


■個人的なテーマを社会にコネクトする

 なお、企画の成立前のアイデアの段階では、母集団について考える必要はありません。たとえば「銭湯の本がつくりたいな」というアイデアには、母集団の発想はないでしょう。アイデアのスタート地点は、身の回りのできごとや、自分の好きなことからはじまるものです。このときは、人数なんて考える必要はなく、むしろ個人的で内発的な、強い動機づけのほうが大事だと思います。

 人数を考えるのはむしろその後です。個人的なアイデアや発想を、どうやって社会に広く届けるのか、ということを考えます。さきほどの銭湯の例で言うと、もっと大きなテーマである「旅行」と絡める手もあるでしょうし、「建築」と組み合わせる手もあります。「江戸文化」と絡めてもいいですし、流行りの「テルマエ・ロマエ」と絡めてもいいかもしれませんし、ジャニーズのタレントと絡める手だってあるかもしれません。

 上のそれぞれの場合で、母集団の人数が変わってくるのがわかりますよね。それによってターゲットとなる読者像がかわりますし、考えるべきタイトルやデザインの方向性、制作スタッフも変わってきます。こうやって、そもそものアイデアの方向性を大事にした上で、なるべく多くのひとたちに届けるように企画を設計するわけです。

 そろそろまとめましょう。

 今回は、ヒット商品をつくるには母集団の大きさが重要なこと、アイデアは個人的で内発的なところからはじまること、そのふたつを結びつけるのが企画という作業であるということを説明しました。ヒットの秘訣をよく考えて、再現性のあるものづくりができるようになりたいものですね。

 ではでは、今週はこのへんで。


(※)日本人以外でも同じですが、日本語の本を作る上では日本人の数をベースに考えたほうが予測しやすいので「1億」という数字を出しています。

【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。iPad miniのセルラー版を買ってはまっています。これまでiPadはぜんぶ買ってきてるけど、これは抜群にいいです!

■関連サイト
cakes(ケイクス) クリエイターと読者をつなぐサイト
cakes公式ツイッター:@cakes_PR
株式会社ピースオブケイク公式Facebookページ

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