最近、本のタイトルの付け方について、よく相談を受けます。相手は著者や編集者などさまざまなのですが、みんな悩んでいます。時間をかけてつくった本が、タイトルに失敗して売れなかったということはいくらでもあります。だからみんな慎重に考えるのですが、いい機会なのでこのあたりの考え方をまとめておこうと思います。
■編集者はどんなふうにタイトルを考えているのか
あたりまえですが、本のタイトルは、非常に重要です。読者は、中身を読む前にタイトルを見ます。つまらないタイトルなら、読んでもらえません。内容がどんなによくても、手にとってもらわなくては始まりません。これは、本だけでなく、ブログやメールなどでも同様です。タイトルは、中身を読んでもらうためにちゃんと考える必要があるのです。
今回は、編集者がタイトルを考えるときにどんなふうに考えているのかをご紹介します。本のタイトルだけでなく、ブログやメール、仕事の文章などにも応用できる考え方だと思います。
ぼくはよく以下の7つを考えています。
順番に見ていきましょう。
(1)内容をまとめる
基本はこれです。書いてある内容を、できるだけわかりやすく、短く、まとめます。タイトルは中身の単なる要約でははないので、「要するに、これはなんのための文章なのか?」という問いを自分にぶつけて考えるといいでしょう。仕事の書類やメールのように、短い文章のタイトルはほとんどこれでいけます。
注意点としては、まとめというのは抽象度の高い行為なので、油断すると難しい言葉やぼんやりした表現になりがちなこと。なるべく具体的でやさしい言葉を使うことを意識しましょう。ぼくはそういうとき、「オカンに説明するならなんて言う?」「中学生のころの自分に説明するならなんて言う?」ということもあわせて考えるようにしています。
この手法は、王道ではあるのですが、インパクトが出しにくいという欠点があります。「まとめ」の宿命ですが、文章の内容が充実していればいるほど、中庸な言葉になってしまいがちです。ひとは、本当に大事なことを、そのままいわれてもあまりピンときません。「人にやさしく」「異性にもてたい」「お金がほしい」とだけ言われても、「そりゃそうだろ」でおしまいですよね。
(2)具体例を出す
まとめると凡庸になってしまうのを避けるために、具体例は有効です。たとえば、ぼくが編集した『スタバではグランデを買え!』(関連サイト:Amazon)という本があります。この本では、「映画のDVDの値段が徐々に下がる理由」「100円ショップの値段の秘密」などのいろんな事例から、経済学の考え方をわかりやすく伝えています。
この本は、内容が多岐にわたるので、まとめると「価格と生活の経済学」というようなタイトルになってしまいます。でも、これではインパクトがありません。だから、本の中のひとつの事例である「スターバックスではグランデを買うのが意外にトクである」という具体例を取り出してタイトルにしています。しかも「買え!」というふうに著者の主張よりもすこし強めて、違和感を出すことをねらっています。
この手法を使うのは、すこしだけ勇気が必要です。内容に対して、断定しすぎだったり、言い足りなかったりすることになるからです。でも、それでいいのです。タイトルだけでぜんぶ説明するのは、そもそも不可能(それができたら1冊の本を書く必要はありません)ですし、いちばん大事なのは人に興味を持ってもらって、読んでもらうことだからです。
(3)ギャップ萌え
普通は組み合わせないものを組み合わせてインパクトを出す手法です。たとえば『菊とバット』や『セーラー服と機関銃』などが代表的な例です。人類の発展の歴史をまとめた名著『銃、病原菌、鉄』もそうですね。「銃」と「病原菌」と「鉄」は、通常はなかなか組み合わせないキーワードなので、インパクトがあります。この3つは(1)「内容のまとめ」にもなっているので、一石二鳥の効果があります。
他には、マンガ『宇宙兄弟』もこれです。「宇宙」と「兄弟」は、それまで誰も組み合わせなかったペアだから、インパクトがでます。また、『スタバではグランデを買え!』にも、実はこの要素がはいっています。スタバで注文するコーヒーのサイズは、ショートやトールが一般的だと思うのですが、あえてグランデという大きなサイズを指定することで、人目を引く効果をねらっているのです。
(4)常識の逆をつく
一般的に言われていることに反したしたタイトルは、人目を引きます。たとえば『英語は絶対勉強するな!』や『巻くだけダイエット』はまさにこれですね。内容が常識の逆をいくものの場合、すなおにつけるといいでしょう。ブロガーの小飼弾さんもブログの記事のタイトルにこの手法をよく使っていますね。
ぼくが編集した本だと『英語耳』という本がありますが、サブタイトルの「発音ができるとリスニングができる」というところで、この手法を使っています。発音とリスニングの関係性はいまでは一般的になってきましたが、このころはまだあまり言われていなかったので、そういう効果が出ました。
(5)読者に問いかける
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』のように、疑問文をそのままタイトルにしてしまうという手法です。読者に立ち止まって考えてもらうことで、目を引くことをねらっています。問いを見たら、答えが気になるから本を手に取ってしまうのです。
クイズ番組やミステリー小説の人気からも分かるように、人はそもそも、謎が好きなのです。人間の好奇心を刺激することで、手に取らせてしまうというわけです。岡田斗司夫さんの『オタクの息子に悩んでます』も、問いかけの形ではないですが、中身を気にならせて手に取らせるうまいタイトルです。
(6)長いもの
最近、長いタイトルの本が増えましたよね。長いタイトルは、本の中身や雰囲気をしっかり伝えるのに優れています。ぼくが担当した『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(もしドラ)は、ほとんど中身が書いてあるくらいの長さです。
ただ、原則論としては、タイトルは短いほうが優れています。同じ内容なら、短いほうがすぐにわかってもらうことができるからです。多くの本が並ぶ書店の店頭では、一瞬で識別してもらえる短いタイトルが有利なはずです。でも、こういうものは相対的なものなので、短いタイトルの本が並ぶ中に、長いタイトルの本があると、とても目立ちます。
(7)ポジティブなもの
これは個人的な考え方なのですが、ぼくは基本的にポジティブなタイトルをつけようと思っています。本は広く伝えることと、人間の幸福に役立つことが大事だと考えているからです。
『~してはいけない』などの否定形を用いたタイトルは、人間のネガティブな感情や恐怖心を刺激することで一定の訴求力を持ちます。でも、そういうビジネスはぼくは個人的に好きではありません。また、そういうものは、そもそも不快なものなので、小当りはできても、爆発的なヒットは望めないと考えています。本当に多くの人が、自分のお金を出して買うのは、楽しくて幸福につながるものだと思います。
実際に本をつくるときは、これにサブタイトルを付け加えたり、オビのコピーで補ったり、デザインを工夫したり、合わせ技で考えています。商品にした際は、パッケージの勝負になるからです。でも、いちばん大事なのは、メインのタイトルです。
人に見てもらうためには、考えるべきことがたくさんあることがわかっていただけたと思います。次回は、これを使って、実際にどうやって考えていくのかということを、見て行きたいと思います。
というわけで、今回はこのへんで。
【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。新年ですね。今年もよろしくお願いします。
■関連サイト
・cakes(ケイクス) クリエイターと読者をつなぐサイト
・cakes公式ツイッター:@cakes_PR
・株式会社ピースオブケイク公式Facebookページ
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